第一の試練合格と新たなタスク
俺はアメリアたちと一緒に迎賓館の大ホールに用意された席に着き、リーンハルトやパトリック、それにウォーレンやドミニクたちといった、迎賓館に宿泊してもらった皆と朝食をともにしようとしていた。
だが、ちょうどその時、突然頭の中にとあるメロディが鳴り響いたのだ。
「あ、えっ!?」
突然のことに驚いてしまい、思わず声に出てしまったのだが、席が近いリーンハルトとパトリックが何かあったのかと俺のほうに顔を向けた。
「ハルト、どうしたのだ?」
「何かありましたか、ハルト殿」
リーンハルトとパトリックが少し心配そうに話し掛けてくれたのだが、そうしている間も頭の中にはあの着信音がずっと鳴り響いているせいで気がそぞろになり、二人にまともに対応することができない。
これって、確か世界神からの着信音!? とはいえ、急にこの場で話すわけにもいかないし……。
「リーンハルト様、パトリック様、失礼致しました。皆様、誠に申し訳ございませんが、急用を思い出しましたので、少し席を外させて頂きます。どうか、先にお食事を始めて下さい……」
俺が突然そのようなことをリーンハルトたちの前で話したせいで、ラルフをはじめとした使用人やアメリア、カミラ、それにヘルミーナも少し驚きというか戸惑うような表情をしていたが、彼らに対してもそれほど気を配る余裕が今の俺にはなかった。後でフォローする必要があるかもしれない。
取り急ぎ、大変申し訳ないが席を外す旨をリーンハルトたちに改めて伝えると、皆も頷いて了承してくれた。この世界では、皆で食事をする際には、その席に招いた者(つまり、今回だと俺になるのだが)が食事の始まりを告げるらしいのだが、流石に世界神を無視するわけにもいかないので、大変申し訳ないのだが、リーンハルトにその役目を押し付けた。
リーンハルトは一つ頷いて快くその役目を引き受けてくれた。それを見届けた後、俺は急ぎ大ホールから出て、更に迎賓館の外に出ると人気のない中庭で、ようやく世界神からの着信に応えることができた。
『もしもし、お待たせ致しました。世界神様、何かありましたか?』
着信を受けて応えると、世界神から何とも情けない声が聞こえてきた。
『うぅ、ハルト様ぁ……。出るのが遅いですよぅ……!』
『申し訳ありません。ちょうど来客と朝食を取ろうとしていたところでしたので。それで、何があったんですか? 世界神様から連絡を頂くなんて滅多にないことなので、ちょっとドキドキしているんですけれど……』
そう伝えると、世界神からの声が弾む様子が伝わってきた。どうやら、吉報のようだ。
『うふふ、実はですね。ハルト様のおかげで、試練神からの第一の試練に合格することができましたぁ! ハルト様、ありがとうございますっ!』
「えぇっ!?」
世界神から想像もしていなかったことを聞かされたせいか、思わず驚いて声が出てしまう。
世界神の話をもう一度思い出す。確か、世界神は『試練神からの第一の試練に合格した』と言ったはずだ。試練神による第一の試練? 以前試練について世界神に聞いた際にはまだ数年は余裕があるというようなことを聞いていたのだが、どうやら既に試練神はこの世界に試練を与えていたらしい。
だが、一体どんな試練を与えていたのだろうか。それに、先ほど世界神からは俺のおかげで合格できたと聞かされた。ということは、俺が何かやったのか? 全く覚えがないことに正直戸惑っていたのだが、そのことについて世界神が応えてくれた。
『ハルト様が戸惑うのも仕方がありません。私も驚いておりましたので……。どうも、マギシュエルデにハルト様が転生されたことで私にも眷族ができたと試練神側にも伝わったようでして、それを受けて試練の開始時期が早まったらしいのです……。その結果、マギシュエルデにおいて今後は次々と試練が起こることになる予定だったそうなのですが、先日試練が告知される前にハルト様がその根源となるはずだった魔物を討伐されてしまったとのことで、試練神が所轄する人事部の方から苦情と、同時に第一の試練の合格通知があったのです! 何か、心当たりはありませんか?』
世界神の話を聞いて、ここ最近の出来事を思い出していたのだが、何か試練神側がいう『第一の試練』といえそうな出来事については何も思い出すことができなかった。
王都に着いてからは何かと忙しくはしていたが、どちらかというとそれらの出来事は全て俺がこの世界で生活するために必要なことをやっていただけであって、この世界自体に何かが起こる、といった大袈裟な出来事など自分の周囲に起こったことはなかった。
『うーん。世界神様、私の記憶の限りでは、何か試練と思えるような出来事には出くわしていないのですが……。本当に、試練神というか人事部? の方からそのように言われたのですか?』
『はい、正式な書面が人事部からありましたので間違いありません。試練神がマギシュエルデに遣わした『試練神の使者』を討伐したその成果を認めて、ここに第一の試練の合格を認める、とそのように書かれていましたので、間違いはないかと思います』
『ふむ、『試練神の使者』ですか……? 今のところ王国の住人以外と接触していないですし、そもそも、転生してから今まで人との戦闘は行っていないので、やはり何かの間違いではないかと思うのですが……』
『いえ、ハルト様。この場合の使者というのは別に人の姿であるとは限らないのです。試練神がマギシュエルデなどのような世界に使者を遣わす場合、その姿は人に限らず、動物や植物、または道具、それこそ自然界にあるような岩や土、水や風といった有形無形様々な姿で現れるそうです』
ふむ。ということは、俺の知らない間に、その『試練神の使者』と出会って、そして討伐してしまっている可能性があるということか……。
そうなると、いつどこで討伐したのかなんて分からないな。そう思って諦めようとしたとき、一つだけ、最近の出来事で思い出したことがあった。いや、あのときは念のため鑑定したんだが、文字化けしていて詳細がいまいち分からなかった。それにとんでもなく美味かったこともあって、今の今までそのことを忘れていたのだ。
『あの、世界神様。その『試練神の使者』は魔物の姿で現れるということもあるのでしょうか……?』
『はい! 世界に与える試練の象徴として、魔物の姿だと分かり易いですから。十分にその可能性は考えられますが……。ハルト様、何か心当たりでも?』
なるほど、十分にあり得るのか……。
となると、やはりあの時の魔物が『試練神の使者』だった可能性が高い。つまり、セラフィが討伐した、八つの首、八つの翼、八つの尾を持つ、うちの屋敷ほどの大きさの化け物。文字化け箇所は読み取れなかったが、詳細には『マギシュエルデに遣わされた』という記載があったし、恐らく間違いないだろう。
『あー、あのー世界神様。確かにそれっぽい魔物を討伐したかも知れません……。ただ、鑑定しても文字化けしていたので断定はできないのですが』
『そうですか。でも、心当たりがあるのでしたら問題ないと思います。それよりも! 今回、第一の試練に合格したことで、ハルト様の扱える能力が一つ増えることになりました!』
『本当ですか!?』
『もちろん、本当です! 今回新たに『空間操作』という能力が解放されました。簡単に説明すると、アイテムボックスのような機能を自在に操ることができる能力ですね』
おぉ、『空間操作』。何かと使い勝手が良さそうな能力じゃないか。
アイテムボックスの機能をバッグなどに付与できるのなら、即席のアイテムバッグを作ることもできそうだ。そんなことを考えていると、最後に世界神が最も重要なことを話し始めた。
『それと、輪廻神から連絡がありまして、申請していた出張所の件ですが、ようやくお祖父様の許可が下りました! 近々そちらにお伺い致しますので、よろしくお願い致しますね、ハルト様』
「へっ!?」
世界神の言葉に思わず変な声が出てしまった。
ついに、マギシュエルデに世界神たちが降臨する。そんな事を聞かされて驚かないわけがないだろう。
ゴットフリートたちを屋敷に招待するというタスクを消化したと思ったら、一度保留にしていた『世界神たちの降臨』が最優先タスクとして追加されたのだった。
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