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パーティーとその後

 陞爵を祝うパーティーは盛況のうちに幕を閉じた。


 招待したウォーレンとドミニク、それにクルトといった既婚者はそれぞれ奥さんも参加してもらった。といっても、こちらから強制はしていなかったが、ラルフが気を利かせて、招待状には招待者の家族も同伴可能と記載していたのだ。


 ウォーレンの奥さんであるコルネリア、ドミニクの奥さんでイザークの母であるフロレンツィア、クルトの奥さんであるミアの三人とも挨拶をすることとなったのだ。


 こちらの世界の挨拶など事前にラルフたちに確認していなかったので、生前の日本的な、所謂『御主人にはいつもお世話になっております……』といったことしか言葉にできなかったのだが、思いの外御三方に好印象を与えたようだと、ラルフが言っていた。


 コルネリアはウォーレンに『こんな娘がいたら良かった』とか、フロレンツィアは『イザークの嫁には俺のような娘が良い』だの、ミアからは『新作のドレスを試着して欲しい』などなど……。これ本当に好印象だったんだろうか?


 それに、俺の陞爵だけでなく、アメリアとカミラ、ヘルミーナの三人の騎士勲章の受章について、ウォーレンとドミニク、それにイザークの三人が称賛していた。


 どうも、冒険者や一般市民の出身から勲章授与という栄誉を賜ることは滅多に無く、また、アメリアたちのような十代や二十代で、しかも女性が勲章を授与されることなど前例が無いといっても良いほどだったらしい。


 そのため、騎士団や貴族たちからも注目されているらしい。その話をアメリアたちと一緒に聞いていたのだが、彼女たちも初めて聞いたことらしく、非常に驚いていた。まぁ、一介の冒険者には勲章など一生縁のないものだから仕方がないだろう。


 そして、勲章授与の極めつけがセラフィだったりするのだが、こちらは少女が化け物の首を放り投げたり、ドミニクやイザークでも歯が立たなかった皮を容易く切り取ったりしたせいか、どうも彼らにとっては現実として受け入れられなかったようで、一部の者からは『アサヒナ子爵が認識阻害の魔法によって強力な冒険者を少女に見せ掛けた、という事もあり得るのでは?』などといった疑いを持たれているらしく、そんなことをウォーレンから聞かされた。


 一応、ウォーレンには事実無根であると伝えたが、笑いながらゴットフリートも含めて、王家に近い者はそのような話は信じていない、とのことだった。もう少し詳しく話を聞くと、どうやら一部の貴族たちが俺に対するやっかみで、そういう事を吹聴しているのだと言うのだが、そもそも、そんな噂を流すようなことは止めてもらいたい……。


 それから、ハーゲンやクルトとも少し話をしたのだが、その時に獣王国の話を聞くことができた。


 獣王国は王国より南方にあるそうで鉄や銅といった鉱物資源が豊富らしい。また、農業も盛んで王国も様々な物を獣王国から輸入しているそうだ。


 そういえば、ヘルホーネットの蜜も獣王国から輸入しているんだったっけ。ただ、獣人族はそのほとんどが魔力をあまり持っておらず魔法を使えないため、その産業のほとんどを文字通り人力マンパワーで成り立たせているそうな。


 強靭な肉体を持つ獣人族だからできることだろう。そういう事情もあり、魔導具の需要は高いらしい。


 この話を聞いて一つ気になったことがあった。それは、何故魔導具の需要があるのか、だ。というのも、魔導具は文字通り『魔力を導いて使う道具』だ。魔力を持たない獣人族には扱うことができないのでは、と疑問に思ったのだ。


 それについて話を聞くと、獣王国内の鉱山からは魔力を含んだ鉱石『魔鉱石』なる鉱物が採れるそうで、それを精錬すると『魔石』という魔力を発生させる性質を持った結晶を作ることができるそうで、それを使って魔導具を使用するらしい。


 ただし、魔鉱石自体が非常に貴重な鉱石らしく、それを精錬した魔石を用いた魔導具など、貴族や富豪でなければ手にすることは難しいらしい。


 そんな話を聞いて俺は内心冷や汗をかいていた。


 というのも、俺が創り王国に納めた、王国と獣王国の友好の証となる予定の『置き時計』を創ったときのことを思い出していたのだ。


 あの時は獣人族が魔力を持つ者が少ないことについて全く考えていなかったのだが、たまたまクォーツ式の時計を創ることにした結果、魔力ではなく電力で動作する時計を創った。そして、その電力は風魔法を付与して自家発電する仕組みにしていたのだ。偶然、魔力が不要な魔導具を創っていたわけだが、もしも他の魔導具を創造していたら、と考えると想像するだに恐ろしかった。


 最後に、リーンハルトとパトリックたちから迎賓館に泊まりたいという申し出があった。


 もちろん、迎賓館の二階、三階は宿泊も出来るように造られている。別に二人を宿泊させない理由はないのだが、そもそも王国の第一王子と第二王子を一介の子爵邸などに宿泊させても問題ないのだろうか。


 そう思ってユリアンとランベルト、それにウォーレンたちにも相談したのだが、皆の答えは『問題ない』とのことだった。そればかりか、ウォーレンたちやハーゲン、クルト夫妻まで今日はこの迎賓館に泊まると言い出した。


 流石にそれはどうかとも思ったが、一応この迎賓館は、二階に八部屋、三階に二部屋あったので十分宿泊させられる。ラルフたちにも確認して対応可能ということだったので、皆を迎賓館に宿泊させることになったのだ。


 もちろん、リーンハルトとパトリックを預かるのだから、王城にもその旨連絡を入れたり、その他皆の屋敷にも連絡を入れるなど相応に手間は掛かることになったのだが……。


 結局、リーンハルトとパトリック、それにウォーレンとコルネリアは三階の部屋に泊まることになり、ドニミクとフロレンツィア、イザーク、ユリアン、ランベルト、ハーゲン、クルトとミアは二階の部屋に泊まることとなった。


 就寝までの暫くの間、リーンハルトとパトリックの二人と三階の二人が泊まる部屋で子供同士で歓談となった。といっても、話す内容が王国の政治や経済についてだったりするので全く子供らしさはなかったのだが。


 そして夜も更けてきたので、そろそろ寝ようというときに、リーンハルトとパトリックから一緒に寝ようという提案を受けたのだが、何故か身の安全に不安を感じたので丁重にお断りした。二人は不満そうだったが、王子二人に何かあっては責任が持てない、という理由を述べて何とか納得してもらった。


 そして、朝を迎えて、俺はアメリアたちと共に迎賓館の大ホールに用意された席に着いていた。リーンハルトやパトリックといった、昨晩迎賓館に泊まった皆と一緒に朝食を取るためだ。


「皆さん、おはようございます。昨晩はゆっくりお休み頂けましたか?」


「おはよう、ハルト。あの部屋は素晴らしいな! 魔導具があれほど使われている部屋など見たことがなかったが、流石は私たちが御用錬金術師に指名しただけのことはあると、パトリックと二人で感心しておったのだ!」


「おはようございます、ハルト殿! 兄上の言う通り、本当に素晴らしい部屋でした! 涼しい空気が流れる魔導具や、明かりを調節できる魔導具、それにあの時を計る魔導具まで用意されているなんて驚きました。それに、あの部屋の中が夜空になる魔導具は一体何なんですか!? 是非、あれを譲って頂けないでしょうか!」


 リーンハルトとパトリックの二人から部屋の設備(魔導具)について称賛された。


 普通にエアコンと照明、それに時計といった生前の世界では日常的に使っていたものばかりなのだが、やはり魔導具は高価だからかそれほどの数を揃えている者は少ないようで、うちの屋敷のように日常生活で魔導具を使うというのは王城に住む二人にとっても新鮮だったようだ。


 また、パトリックが話しているのは、あの部屋にだけ取り付けている照明機能の一つで、家庭用プラネタリウムの魔導具だ。以前、雑貨店で見つけて気に入っていたのを思い出して用意してみたのだが、パトリックに気に入ってもらえたようだ


「そのご様子だと、ゆっくり休めたようですね。それと、夜空を映し出す魔導具『プラネタリウム』は今日のパーティーの記念にリーンハルト様とパトリック様にプレゼント致しますよ」


「ありがとう、ハルト!」


「ありがとうございます、ハルト殿!」


 二人の王子の喜ぶ顔を見て満足していたのだが、ウォーレンとコルネリアもプラネタリウムを欲しそうにしていたので、宰相一家にも一台プレゼントすることにした。ウォーレンよりもコルネリアが喜んでいるようだった。


 そんなやり取りをしているうちに、皆が大ホールに集まったので、そろそろ朝食を食べようとしていた、ちょうどそのとき。突然頭の中に聞き覚えのあるメロディが鳴り響いたのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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