褒美の報告とパーティー
王城から屋敷に戻った俺たちはラルフたち使用人を集めて、早速王城での出来事を共有した。というか、主に、アメリアたちが勲章を授与したことと、俺が男爵から子爵に陞爵したことについて、であるが。
「そう、それで、アメリアさんとカミラさん、ヘルミーナさんは騎士勲章を、セラフィは剣聖勲章を頂くことになったんだけど」
「え……えええっ!? け、剣聖勲章ですか!? ほ、本当ですか!? それは、凄い……。凄いですね……。はぁ……。セラフィ殿が、なるほど……。それにしても、受章者なんて何十年、いや何百年ぶりだろうか……」
「アメリアさんたちが受章した騎士勲章も中々頂けるものではありませんが、セラフィさんの受章した剣聖勲章は勲章の中でも最高峰とされるものの一つですから! 騎士の中には、剣聖勲章を一生涯の目標とする者がいるほどで、まさに剣に携わる全ての者の頂点の証といっても良いものなんですよ!? セラフィ殿、おめでとうございます!」
ラルフとヴィルマの二人が真っ先に応えてくれたのだが、ラルフはともかくヴィルマは興奮し過ぎではないだろうか? そう思って「そこまで凄いことなの?」と、何気なく聞いたのが失敗だった。
それから小一時間ヴィルマから剣聖勲章がいかに素晴らしいもので、どれだけ受章することが難しいものか、といった話を聞かされ続けることになってしまった……。それを止めることもなく、ヴィルマの話に同意しつつ、ちょくちょく補足を入れてくるラルフよ、お前は主人を助けてくれよ……。
まぁ、ラルフとヴィルマは共に近衛騎士だし、それに兄妹だ。そういうところで気が合うのかもしれない。もちろん、二人を含めて他の皆もアメリアたちが騎士勲章を受章したことも祝福してくれたのだが、セラフィの剣聖勲章はやはり特別だったようだ。
さて、アメリアたちが勲章を受章したことは今伝えた通りなので、最後に俺のことも伝えておく。
「それで、私も国王陛下より褒美を頂きまして、この度男爵から子爵に陞爵となりました。ラルフさん、陞爵にあたって何かうちの方で必要な手続きとかはありますか?」
「「「「「「「「し、子爵に陞爵!?」」」」」」」」
「あ、はい。それで、何か必要な手続きとか無いかと確認したかったんですが……。何かありそうですか?」
皆して陞爵について反応したので、アサヒナ男爵家改め、アサヒナ子爵家として何か手続きが必要かとラルフたちに尋ねたのだが、何故か皆フリーズしているようで、反応が無かった。
「あの、突然のことで混乱しているかもしれないけれど。ラルフさん、うちの方で何か対応って必要なのかな?」
「だ、旦那様! し、子爵への陞爵、というのは本当ですか!?」
一人、いち早くフリーズから再起動したラルフが改めて確認したので俺はウォーレンから受け取った子爵章をラルフに見せた。
「えぇ。ほら、これが子爵章。こっちの男爵章と意匠がちょっと違うだけだけどね」
「おぉ、確かに! 旦那様、誠におめでとうございます!」
ふむ、効果は抜群だ。
爵位を証明するには爵位章に限る。ラルフも子爵章を確認すると、ようやく主人の陞爵を祝ってくれた。まぁ、何というか。個人的には今回の陞爵には何か納得がいかない。というか、心の中に引っ掛かりを覚えていたのだが、それでも祝ってくれる人がいると、それはそれで嬉しく感じるものだ。
「「「「「「「おめでとうございますっ!」」」」」」」
ラルフに続いてアルマを始め、屋敷の使用人たちが皆で祝ってくれた。うん、何だか照れくさい気分になるが、やはりそれ以上に俺も嬉しいのだろう。
「皆、ありがとうございます!」
皆の前で頭を下げると、ラルフがこれからするべきことを教えてくれた。やはり、陞爵したということでやらなければならないことがあるようだった。
「ふむ。旦那様が男爵位から子爵位に陞爵されたとなりますと、通常は仲の良い貴族や富豪を招いて、陞爵を祝うパーティーを行うものですが……」
なるほど。やはりそういった催しを行う必要があるのか。だが、俺にはそれほど親しい貴族も富豪もいないんだけど……。
「やはり、ここは旦那様と交流のある宰相のウォーレン様と、シュプリンガー伯爵様や、クルゼ侯爵様の嫡男であるランベルト様、それにイザーク様とドミニク様といった貴族の方々と、プライス様とシュナイダー様をご招待してはいかがでしょうか?」
なるほど、交流のある貴族や富豪とのパーティーか。
今、ラルフが口に出した面子は確かに俺が王族以外で付き合いのある貴族たちと、富豪、というかお世話になったことがある商人だった。
ウォーレンには何かと世話になっているし、ユリアンやランベルトとは最近リーンハルトやパトリックのこともあって会う機会も多い。
王城に行けばイザークには世話になりっ放しだし、その関係でドミニクにも何かと迷惑を掛けている、気がする……。
ハーゲンとは魔導具店の店員を紹介してもらった恩もあるし、魔導カード関連だけでなく、コメの輸入についても相談している。
クルトについては、最初は見本となる服が店で見つかれば良いかと思っていただけだったが、店でユリアンと出会い、付与魔法のことを話したことで、最近は生地に対して用途別にどのような付与魔法を行うべきか、などといった相談する機会が増えてきた(実は、アメリアたちには内緒で前世の知識を活かした下着や水着の試作を秘密裏に進めているのだ)。
それらのことを考えると、ラルフの言う人選でパーティーを開くことに異論は全く無かった。
「では、その方たちに招待状を出しましょう。他には何かありますか?」
「そうですね……。念のためではありますが、先日の晩餐会に来られた王家の皆様方にも招待状は出しておきましょう」
ふむ、ゴットフリートたちは先日会ったばかりだし、そもそも今回の陞爵はゴットフリートから賜ったもの。なので、何となくゴットフリートたちを陞爵を祝うパーティーに招待するのはマッチポンプのようにも感じたのでどうかと思ったのだが、ラルフが言うのであれば従っておこうと思う。
「では、国王陛下や王妃殿下、それにリーンハルト様とパトリック様に、フリーダ様にも招待状を出しましょうか」
「はい。その他の雑事は我々で対応致します」
「分かった、よろしく頼む」
こうして、俺が子爵となったことをラルフたちに伝えた後、魔導具店のベンノたちにも共有したのだが、やはりラルフたちと同じようにフリーズしていた。
その理由をそれとなく聞いたのだが、まぁ、何となく理解してはいた通り、やはり、こんなに短期間で陞爵するというのは異例であり、皆も想像してもいなかったことだったらしい。もちろん、俺もそうだけど。
ただ、ティニが言うには「そんなの、時間の問題だとは思っていたけどね」なんて言っていたが。何故そこまで言い切れたのか、改めて時間を取って聞いてみたいものだ。
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そんなこんなで、忙しなく日常を過ごしている間に、俺の陞爵を祝うパーティーの当日となった。基本的に招待状を出した面子からは出席の連絡を受けたのだが、やはり忙しいのかゴットフリートとヴィクトーリア、それにフリーダは欠席との返事をもらっていた。
それは仕方のないことだと思うのだが、三人の返事それぞれに参加できないことへの不満が溢れ出た手紙となっていた。一子爵のパーティーにそこまで参加したかったのだろうか。
そんな三人とは関係無いとでもいうかのように、リーンハルトとパトリックの二人は参加していたのだが、王子というのはやはり暇なのかもしれない。
さて、気付けば招待した客たちは既に迎賓館の大ホールに集まっており、パーティーの開始を待ちわびている様子だった。あまり待たせても悪いので、さっさと始めることにする。
「皆様、本日はお忙しい中、お集まり頂きまして誠にありがとうございます。この度、国王陛下より新たに子爵の爵位を賜りました。まだ王国貴族となって間も無い私には身に余る光栄ではございますが、より一層王国の発展と国民の幸せのために尽力して参ります。今宵は日頃よりお世話になっております皆様に、誠にささやかではありますが、当家の料理人が丹精込めてその腕を振るった逸品の数々を堪能頂ければと思います。それでは、乾杯!」
「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」」
俺の挨拶を皮切りにようやくパーティーが始まった。
因みに今回も俺やリーンハルト、パトリックはノンアルコール、つまり果実のミックスジュース的な飲み物で乾杯とした。まぁ、今回参加している招待客を含めて、俺たちだけが未成年なので仕方がないだろう。
今回のパーティーはコース料理ではなく、ビュッフェスタイルとした。前回よりも参加人数が多いことから、できる限り使用人たちの負荷を下げようと考えた結果辿り着いたのがビュッフェスタイルだったのだ。
そのおかげもあってか、前回ゴットフリートたちを招待した時よりも心の余裕があるように感じた。まぁ、気のせいかも知れないけど。
前の晩餐会よりはラルフたちにも余裕があるみたいだし、俺もザシャの料理の腕前を知っていることもあって気が楽だ。うん、今回は楽勝だな!
それにしても、いつの間にか王国の王子や宰相、それに伯爵や侯爵の嫡男といった人たちと顔をあわせることが普通になってきた気がする。こんなことは、魔物の森の中にポツンと一人転生したときには想像もしていなかったのに。
暫し、パーティーの様子を眺めながら感慨に浸っていたのだが、いつの間にかリーンハルトとパトリックに囲まれ、またそこにユリアンとランベルトが加わり、ウォーレンとドミニクにイザーク、それにハーゲンやクルトも集まってきた。流石に今夜の主役だからか、俺が一人になれるような暇はないらしい。
ふぅ。それにしても今夜のパーティーは祝いの席ということもあってか、賑やかだな。皆も楽しそうだし。でも、こういうのも悪くないな。
こうして、皆から祝福の言葉を幾度となく受けながら、心地良い時間が過ぎていった。
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