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フリーダの告白

 さて、そんなわけで随分リーンハルトとパトリックから釘を刺されていたので、忘れずにフリーダの元へと足を運ぶことにした。


 といっても、王城内をむやみに散策するというわけではなく、リーンハルトの部屋からフリーダの元へ遣いを出し、その回答を持ってきた使用人に付いていく形でフリーダの元へと向かうことになっていた。


 リーンハルトの部屋から少し離れたところにフリーダの部屋はあった。


 流石に、嫡男であるリーンハルトの部屋よりは幾分小さな造りとなっていたが、それは仕方がないのかもしれない。


 俺たちの来訪を使用人が告げると内側から扉が開いたのだが、扉を開けてくれたのは騎士鎧姿の女性だった。なるほど、王女を護衛する近衛騎士というのは女性の騎士なのか、などと勝手に感心してしまう。


 そういえば、うちの使用人のヴィルマも近衛騎士出身だったように思うが、もしかして知り合いだったりするのだろうか。そんなことを考えていると、女性の騎士がフリーダに俺の来訪を伝える。


「フリーダ様、アサヒナ子爵がお越し下さいました」


「ハルト様、お忙しいところお呼び立てしてしまい申し訳ございません」


「いえ、こちらこそお伺いするのが遅くなってしまい、誠に申し訳ございません」


 女性の騎士がフリーダに話し掛けると、すぐにフリーダが出迎えてくれた。


 というか、ついさっき子爵に陞爵されたばかりだというのに、もうそのことを把握しているとは。王城内の情報共有の速さには驚くべきものがある。


 さて、出迎えてくれたフリーダを見ると、先日うちの屋敷に来た時と同様に、その顔にはやはり認識阻害の魔法が付与されたベールで隠されていた。それにしても、王城内でもベールを被るとは……。何か意図があるのだろうか? あまり詮索しないほうが良いと考えて、ひとまずスルーすることにした。


 他愛ない挨拶を交わした後、フリーダに促されるままに、俺はローテーブルの前に置かれたソファへと腰を落とした。同時に、フリーダもローテーブルを挟んだ向かい側、つまり俺の正面のソファに座った。それを見て俺は今日の用件を聞き出すことにした。


「それで、リーンハルト様とパトリック様よりフリーダ様が私をお呼びであるとお伺いしたのですが、例の件でしょうか?」


「えぇ、それも是非お聞きしたいのですが、その前に、以前お話ししたこちらをお渡ししようかと思いまして……」


 そういって、フリーダが重厚感のある小箱を取り出してローテーブルの上に置いて蓋を開ける。すると、そこには以前どこかで見たような、豪華な紋章が刺繍された布が収まっていた。


「先日の晩餐会にご招待頂いた帰り際に、ハルト様を私の御用錬金術師にするとお伝えしていたでしょう?」


 そうだ、リーンハルトとパトリックから御用錬金術師に指名されたときも確か彼らの紋章が入った旗のような布をもらっていたのを思い出した。確か今はうちの魔導具店のカウンターの壁に掲げられていた、と思う。


 しかし、本当に俺がフリーダの御用錬金術師になっても良いのだろうか。


 以前リーンハルトたちのときにも確認した通り、御用錬金術師は基本的に生涯に一人しか指名することができない。恐らくフリーダが今まで指名してこなかったのもそんな理由があってのことだろう。それに、俺はあの時のフリーダは単純にリーンハルトとパトリックをからかっているだけなのだろうと思っていたのだ。だから、実際に御用錬金術師に指名する、なんて言われて正直驚いていた。


「あの、フリーダ様。本当によろしいのでしょうか? フリーダ様の御用錬金術師が私などで……?」


「あら、ハルト様はリーンハルトやパトリックの御用錬金術師は受けることができても、私の御用錬金術師は引き受けて頂けないのかしら?」


「滅相もございません! 謹んでお受け致します!」


「ふふ。ありがとうございます、ハルト様」


 フリーダに流し目でそんな風に言われると何故か断ることができず、二つ返事で受けることになってしまった……。まぁ、もう既に王子二人の御用錬金術師を引き受けているんだ、二人が三人になっても大差ない、のかな?


 ふと、後ろに控えていたヘルミーナの顔を覗くと額に手を当てて首を振っていたのだが……。うん。ここは見なかったことにしよう。


 取り急ぎ、重厚な木箱ごと紋章を預かった俺はアイテムボックスに収納した。まぁ、フリーダなら見られても特に問題ないだろう。


 さて、そろそろお暇しようかとフリーダに顔を向けると、ちょうどフリーダが女性の騎士と使用人に声を掛けるところだった。


「ユリアーナ、それにマリー。申し訳ないのですが、少し席を外して頂けますか?」


「っ!? フリーダ様、そのようなことはできません! 私はフリーダ様の護衛の任を国王陛下より賜っております! どうか、ご再考を!」


 ユリアーナと呼ばれた女性騎士は頭を下げてフリーダに思いとどまるように願い出た。マリーと呼ばれた使用人の女性はどうすれば良いのか分からないようで、おろおろとしながらフリーダとユリアーナのやり取りを見守っている。


 まぁ、フリーダは王女であり、ユリアーナも近衛騎士と、使用人とは比較にならないほど社会的地位が高い二人のやり取りの成り行きを見守るのは正解かもしれない。


 だが、どうやら、フリーダの意志は固かったようだ。


「……では、命令致します。ユリアーナ、マリー。今すぐこの部屋から退出なさい」


「ぐっ……。承知、致しました……」


 ユリアーナは渋々といった感じで部屋を出ようとしたのだが、扉のノブに手を掛けるとおもむろに振り返り、俺の顔を見てからフリーダに「……何かございましたら、すぐにお呼びください」と、そう言い放って退出して行った。どうやら、俺がフリーダに対して何かするかもしれないと、そう思われているのだろう。


 なんだか、身に覚えのない容疑でも掛けられているような気分になって、正直気分が悪いんだけど……。そんなことを考えてるとフリーダがフォローを入れる。


「申し訳ありません。ユリアーナは侯爵家の出身だからか、自分よりも身分の低い者にはきつく当たることが多いので……」


「いいえ、お気になさらず。私もそれほど気にしてはおりませんので」


 というか、ランベルトもそうだけど、侯爵家出身の人ってそういう人多いなぁ。


 大体、俺がフリーダに何かするなんてあり得ないことだ。だって、俺のすぐ後ろには怖いお姉様たち(三人と娘一人)が控えているのに、そんな馬鹿なことができるわけないじゃないか。


 いや、俺一人だったら何かするという意味ではないからね。因みに、マリーと呼ばれた使用人は真っ先に部屋から出て行った。まぁ、命令なら仕方がないだろう。


 しかし、一体どうしてこんな命令をフリーダは出したのだろうか。


 フリーダのほうに向き直ると、彼女はそれまで被っていたベールを外して、久々に素顔を俺達の前にさらけ出した。


「「フリーダ!?」」


「アメリアちゃん、カミラちゃん。ごめんなさい、お二人にはいつかお話ししないといけないと思っていたんだけれど、この前の依頼で怪我をしちゃったのがお父様とお母様にバレてしまって、外に出られなかったの」


「ど、どういうことだ!? フリーダは冒険者で、フリーダ様は王女様で……。えーっと?」


「ん。別人、ということではないみたい。ということは、冒険者のフリーダは、フリーダ王女だった……?」


「その通りです。私フリーダは、冒険者のフリーダでもあり、王女のフリーダでもあるのです。ただ、冒険者として活動しているときは基本的に素顔を出しているので、王女としてはこの通り、認識阻害の効果を持つこのベールを被っているのです」


 ふむ。王女という身分を隠して活動するのだから、冒険者の時に顔を隠すものだと思っていたのだが、フリーダはその逆に、王女としての普段の生活から顔を見せないようにし、冒険者の時に素顔を見せている。意外とそのほうが身バレしないのかもしれない。


 王城での生活では顔を見せなくてもそれを注意する者もいないだろうし、接する相手も貴族が中心だ。そして、貴族たちが冒険者と直接出会う機会は少ない。つまり、普段の生活に支障がないといってもいいだろう。


 逆に、冒険者として活動する際に顔を隠していると、冒険者としても目立つだろうし、依頼を出す一般市民からも不信に思われるだろう。それに、場合によっては心無い者によって素顔を晒されてしまう可能性がある。


 そう考えると、フリーダのやっている方法は効果が高いのかもしれない。現に、アメリアとカミラもフリーダに言われるまで気づかなかったわけだし。


「ねぇ、ハルト。私は冒険者としてのフリーダ様を存じ上げないんだけれど、ハルトは知ってたの?」


 ヘルミーナが小声でそんなことを聞いて来たので、小さく頷いて答えた。


「あ、はい。初めて会ったときに鑑定していましたから」


「はぁ、そういえばアンタは鑑定の魔眼持ちだったわねぇ……」


 ヘルミーナと話している間にも、フリーダはアメリアとカミラと旧交を温めている、というよりは、やはり前回フリーダがアメリアとカミラの三人で依頼を受けて魔物の森へ向かったときのことをを話しているようだった。


「それにしても、フリーダが王女だったなんて……。あの時、あの魔の森でっ! ハルトに会うことができなければ、本当に死んでしまうところだったんだぞ!? 本当に何を考えているんだ!」


「私たち『蒼紅の魔剣』はヒーラーがいないから、冒険者のフリーダがパーティーに入ってくれるのは、本当に助かる。でも、王女のフリーダに怪我をさせたり、死なせるわけにはいかない! 無茶はしないで!」


 アメリアとカミラが心配するのは良く分かる。


 俺だって、初めてフリーダと出会った時に瀕死の状態にあった冒険者がまさか王女だとは思わなかったし、そんな冒険者(というか、王女だったわけだが)を見殺しにすることなどできなかったのだ。


 そして、そんな危険を冒してまで『国が滅びる可能性きっかけ』について情報を集めていたフリーダだが、この前の話を聞く限りだと、まだまだ冒険者として活動を続けるつもりがあるのだろう。だが、今のままではまた前回と同じような危険な目に遭うかもしれない。


 ふむ。ならば、俺がフリーダにできることはやるべきだろう。


「フリーダ様。フリーダ様には私が王都アルトヒューゲルにきた時に大変お世話になりました。そんなフリーダ様に私はまだその御恩をお返しできておりません。ですから、ほんのささやかなものではありますが、御恩をお返ししたいと思います」


「ハルト様、それは一体どういうことでしょうか?」


「はい、私たちの服には幾つかの耐性を強化する魔法を付与しています。これをフリーダ様の装備にも付与することで物理攻撃や、魔法攻撃、それに状態異常などへの耐性を強化できるので冒険者として活動される際の生存確率を大幅に高めることができるでしょう。因みに、リーンハルト様やパトリック様がヴェスティア獣王国へ向かわれる際の旅の服にも同様の耐性強化魔法を付与しております」


「へぇ、あの子たちの服にもねぇ。それなら、私の装備にもお願いしようかしら?」


 そう言いながら、フリーダが部屋の奥へと消えると、以前魔物の森で出会った時に装備していた軽装の冒険者といった装備を持ち出してきたので、早速リーンハルトやパトリックの服に施したように、『物理無効』『魔法無効』『状態異常無効』『即死無効』『疲労耐性』『全属性耐性』『病気耐性』『腐食耐性』の耐性をサクッと付与して手渡した。


「ありがとうございます、ハルト様」


「いえ、お気になさらず。困ったときは?」


「お互い様、でしたわね」


「はい!」


 こうして、フリーダとの会談を終えることとなった。残念ながら、フリーダが調査している情報は、まだ貴族、冒険者、魔導具店の店主のどの経路にも引っ掛かっておらず、現時点では共有できることはなかった。今後何か気づいたことがあれば改めて登城する旨を伝えて、俺たちは王城を後にしたのだった。

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