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姉と弟たちの力関係

 さて、フリーダとの話を終えた後、俺は泣き腫らした彼女の目元を光魔法で元に戻そうと、彼女を抱き寄せた。


 中庭にも光源はあったのだが、どちらかというと庭園を直接照らすというよりは間接照明といった感じのもので薄暗さは変わらなかった。はっきりと患部の状態を見えないままに光魔法を使うのもどうかと思って、より近くでフリーダの目元を確認しようとしたのだ。


 フリーダの腰に手を伸ばすと、彼女は少し震えたがそれよりも彼女の目元の確認を優先することにした。少し背伸びして彼女の顔を覗き込むと確かに目元が赤く腫れ上がっていた。


「フリーダ様、少しじっとしてて下さいね。光魔法『光治癒』」


「んんっ!?」


 指先に小さな光を集めると、フリーダの目元に翳す。


 すると、瞬く間に彼女の目元から赤みや腫れが引いていった。ふむ、光魔法『光治癒』成功である。


 光魔法による治癒は回復薬とは違って水分を含んでいないので使い勝手が非常に良い。例えば、今回のような目などの回復には回復薬を振り掛けるよりは光を翳すほうが向いている。俺だって目薬は苦手なほうだし。


 因みに、光魔法だけが治癒に向いているわけではなく、水魔法による回復、『水治癒』というのもある。だが、こちらは回復薬に近い性質があり、魔法で創り出した治癒効果のある水分で患部を覆って治癒するというものだが、この世界ではあまりメジャーな回復方法ではない。


 やはり、誰だって濡れるのは嫌だし、同じような効果のある回復薬が存在し、さらに光魔法による『光治癒』が存在するのだから、仕方がないといったところだろう。


「さぁ、これで目元も元に戻りました。そろそろ、中に戻りましょうか。国王陛下や女王陛下もお待ちでしょう」


「え、えぇ、そうですわね……。その、ありがとうございます、ハルト様」


 礼を言うフリーダの顔を見ると少し赤くなっているようだった。


 目元以外にも何か赤くなるようなことがあっただろうか。それにこのまま迎賓館に戻ると、フリーダに何かあったのではと疑われるかもしれない。これからどうしようかと赤らんだ表情を見せるフリーダの顔を見つめながら、俺は思案していた。


 すると、そのとき背後に微かな気配を感じて、思わず後ろを振り返った。


「あぁ、ハルトに見つかってしまったではないか!?」


「貴方がじっとしていないせいですわ! せっかく二人が良い雰囲気になっていましたのに」


「「ハルト(殿)、まさか姉上と……!?」」


 俺が振り返ったその先には、庭園の木々の合間からゴットフリートとヴィクトーリア、それにリーンハルトとパトリックの四人が現れた。いや、隠れていたというべきか。


 どうやら、フリーダと俺が中々戻ってこないことを不思議に思ったゴットフリートたちが中庭まで出て来たところ、俺がフリーダに光魔法を掛ける姿を見掛け、庭園の木々に隠れて様子を窺っていたらしい……。


 全く、この親子は一体何を考えているんだか……。


「これは、国王陛下に王妃殿下。それにリーンハルト様とパトリック様までお揃いで、いかがなされました?」


「うむ? うむ。いや、この庭園の木々が美しいと思ってな、散策させてもらっていたのだ。その時、本当に、偶然に、この噴水を見つけてな! いや、ハルトに作ってもらった王城の庭園にある噴水も素晴らしいが、こちらの噴水もなかなか見事だなぁ、と。そう思って見ておったのだ!」


「なるほど、そうでしたか。それでは、そのように木々の隙間から見なくとも、こちらにきてじっくり見て頂ければ良かったのですが……」


「い、いやっ、それは何というか、二人のキスシーンを邪魔するわけにもいk、って、痛いっ!? 何をするのだ、ヴィクトーリア!?」


「あら、どうしたのかしら貴方。突然悲鳴を上げるなんて。フリーダ、私は貴女を応援しているからね!」


「は、はい。お母様……?」


 うーん、まったくゴットフリートもヴィクトーリアも何を言っているんだか。


 雰囲気も何も、ただ魔法を使っただけなのに。さて、なるべく早くフードはフリーダに返すことにしよう。そう思い、フリーダたちの前に出ようとしたのだが、ビアホフが先にゴットフリートに耳打ちをすると、ゴットフリートも小さく頷いた。どうやら今夜はここまでらしい。


「ふむ。ハルトよ、今宵の晩餐会は誠に素晴らしかった! また、非常に有益な時間を過ごすことができたと思う。次は王城で魔物の検分となるだろうが、楽しみに待っておるぞ!」


「はっ! ありがとうございます。近い内に王城へお伺い致します」


「うむ、その時はハルトの従者としてセラフィも連れてくると良い。騎士団の連中にも会わせたい」


「はっ! 承知致しました」


 うむ、と頷いたゴットフリートは皆にこれより王城へと戻ることを高々と宣言し、ビアホフたち従者と近衛兵が一緒になっていそいそと帰り支度をしていた。このチャンスを逃す手はない。そう思い、改めてフリーダのもとへ向かう。


「フリーダ様、こちらをお返し致します。その節は本当に助かりました。ありがとうございました」


 そう伝えながらアイテムボックスから取り出したフードをフリーダに手早く渡すと、彼女もアイテムバッグにすっと仕舞い込んだ。


「ハルト様、『困ったときはお互い様』です。気になさらないで下さい」


「そう言って頂けると助かります。例の情報については、何か分かったことがあれば王城へお伺いしようかと思いますが、それでよろしいでしょうか?」


「いいえ、それですとハルト様にご迷惑をお掛けしてしまいます。私のほうから王城へお越し頂けないかと、連絡を一月に一度入れさせて頂きます」


 なるほど、確かにそうしてもらえると俺のほうに妙な噂が出る可能性が低くなるだろうし、助かるというものだ。フリーダもそのことに気付いての提案なのだろう。


「分かりました。それでは、フリーダ様からのご連絡をお待ちしております!」


「私も、ハルト様が来られるのをお待ちしておりますわ」


 二人でそんなことを話していると、いつの間にか近くにきていたゴットフリートとヴィクトーリアの二人がニヤニヤとした顔つきでこちらの様子を伺っていた。本当にもう。この二人については放置することに決めた。


「むう。姉上、ハルトは私とパトリックの御用錬金術師であり、私たちの親友なのです! ハルトを王城へ呼ぶのなら私たちにもご報告頂きたい! いや、ハルトのことは全て私を通して頂けないでしょうか!?」


「そうです、姉上! ハルト殿は私とリーンハルト兄上の御用錬金術師、私のブリュンヒルデと兄上のゲルヒルデの手入れや、魔導カードの手配でハルト殿は忙しいのです! ハルト殿のことは私と兄上を通して頂きたい!」


 突然現れたリーンハルトとパトリックが、良く分からない理由でフリーダに対して抗議しているようだった。


 全く、この二人も何を考えているんだか……。リーンハルトとパトリックよ、お前たちは俺のマネージャーか!? そんなツッコミを心の中で入れていたのだが、フリーダは二人に対してクスリと微笑った。いや、嘲笑った。


 あれ? 何だか、ちょっと急に寒気がしてきたような!?


「ふぅん、二人ともそんな口を利くようになったのね……。お姉様、何だか悲しくなってしまうわ。リーンハルトが小難しい理屈をこねて、使用人たちを困らせて、お父様に叱られていたのをかばってあげたのはどこの誰だったかしら? それから、パトリック。お父様への献上品だった人形を欲しがって皆を困らせていたから、私が持っていた人形を上げたことをもう忘れたのかしら?」


「うぅっ……」


「ぐぅっ!?」


 フリーダの言葉に精神的なダメージを負ったリーンハルトとパトリックの二人は声にならない声を上げると、フリーダには敵わないと悟ったのか、先ほどまでの勢いは鳴りを潜めたかのように黙り込んだ。


「あら、二人とも急に黙ったりして、先ほどまでの勢いは一体どうしたのかしら? あら!? そういえば、私も御用錬金術師をまだ決めていなかったのを思い出したわ! そういうことですから、ハルト様。私もハルト様を御用錬金術師に指名致します。よろしいですね?」


 フリーダもフリーダで、俺も驚く提案してきたのだが、どうにもさっきから感じる寒気はフリーダの言動から感じているような気がしたのと、今のフリーダからは何とも言いようのない、決して抗えない圧力のようなものを感じたため、俺は素直に応じることにした。


「も、もちろんですよ、フリーダ様!」


「では、決まりですわね! ハルト様、次回王城へ来られるまでに私の紋章も用意しておきますから、暫くお待ちくださいね!」


「は、はい、承知致しました」


「「そ、そんなぁ……」」


 項垂れるリーンハルトとパトリックをしり目に、俺は成り行きのままリーンハルトとパトリックだけでなく、何故かフリーダの御用錬金術師にもなることになった。


 そして、早速翌日には現時点までに冒険者ギルドや魔導具店で耳にした噂話を取りまとめ、フリーダのところへ参上することになったのだった。因みに、そのついでにリーンハルトやパトリックとも会うという約束をフリーダ同席のもとで取り決められた。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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