表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

120/542

肉の秘密とセラフィの紹介

 ゴットフリートたちをもてなしていた迎賓館の大ホールは静けさに包まれていた。


 というのも、俺たちが用意した化け物肉を使ってシャリアピン・ステーキをザシャに作ってもらったのだが、それを口にしたゴットフリートが突然フリーズしたかと思えば、このステーキは大問題だ、なんてことを言い出すし、ヴィクトーリアやリーンハルトたちすら無言で只々肉を切り分けては口に運ぶという、まるで単純作業のようにも見える動作を繰り返していた。


 暫くして、ゴットフリートがカランと鉄板の上にナイフとフォークを置くと、一口目を口にした時と同じように身体を弛緩させて虚ろに宙空へと視線を向けた。そういうと、ただ呆然としているだけのように聞こえるのだが、実際には少々トリップでもしているのではないかと思えるほど、その表情は悦楽の深淵にまで足を踏み入れたかのようだった。


 そして、ヴィクトーリアを始めとした今宵の賓客たちも皆ゴットフリートと同様に視線を虚ろに漂わせながらも、料理の余韻に浸っているようだった。


「皆様、今宵のもう一つのメインディッシュ、シャリアピン・ステーキはいかがでしたでしょうか?」


 俺はゴットフリートたちにそう問い掛けたのだが、何故か誰も答えてくれなかった……。


 どうやら、皆まだ口の中に残ったシャリアピン・ステーキの余韻に浸っているようだった。とはいえ、このまま放置しておくわけにもいかないので、リーザとリーゼに皆の皿を下げさせると、ようやくゴットフリートがこっちの世界に戻ってきた。


「……先ほどのステーキ、シャリアピン・ステーキだったか……。あの肉はただの肉ではあるまい。先ほども話したように、私は以前ドラゴンの肉を食したことがある。強大な力を持つドラゴンの肉はそれは美味であったが、此度ハルトが用意した肉はそれを随分と上回る美味さであった。ということは、だ。つまり、この肉はドラゴンをも上回る強大な力を持った魔物の肉、ということではないかと考えたのだが……。どうだ、ハルトよ?」


 ふむ、なるほど。確かに、以前金色の小麦亭の料理人であるルッツが話していたこととも合致する。『強い魔物ほど美味い』というのは冒険者や料理人だけの知識かと思っていたが、結構この世界では常識なのかもしれない。


 だが、今回用意した肉、つまりセラフィが討伐した化け物の肉になるわけだが、あの化け物が他のドラゴンよりも強い魔物だったのかどうかは、まだドラゴンと出会ったことも戦ったこともない俺には分からなかった。


 ただ、これは推測になるが、普通のドラゴンは首が八つだったり、翼が八つだったり、尻尾が八つだったりはしないだろう、と思う。というか、もしあれがこの世界の標準的なドラゴンの形だとすると、ちょっと世界神に苦言、いやデザイン的な意見の申し入れをしたくなるところだ。さて、思考が横道に逸れてしまった。


「流石は国王陛下……。確かに今回ご用意させて頂いた肉は私の仲間、従者が討伐した魔物の肉でございます。ただ、私はまだドラゴンを見たことも、ドラゴンと戦ったこともありませんので、討伐した魔物がドラゴンより強いのかどうかは私には判断ができないのですが……」


「ほう、ハルトの従者か。そこにおるアメリアとカミラという冒険者かな?」


「いえ、彼女たちにも手伝ってはもらいましたが、直接討伐したのは……」


 そこまで言って一つ思い出した。


 そういえば、ゴットフリートたちにセラフィを紹介していなかった。リーンハルトやパトリックと会うときでさえ、基本的には俺のアイテムボックスの中で待機しているのだ。因みに、今日もアイテムボックスの中にいる。だが、今後のことを考えると彼らにもセラフィを紹介しておいたほうが良いだろう。


「そういえば、国王陛下やリーンハルト様、パトリック様にもご紹介ができておりませんでした……。セラフィ出てきてもらえるかな?」


「はい、主様!」


 そう声を掛けると、アイテムボックスから颯爽とセラフィが現れた。


 とはいえ、俺のアイテムボックスについてはゴットフリートたちに特に説明をしていなかったので、突然何もないところから現れたように感じたのかもしれない。


 大ホールで警備にあたっていたイザークたち近衛騎士は、突然現れたセラフィに対してすかさず腰元の長剣に手を掛けたが、ゴットフリートがそれを手で制した。


「失礼致しました。この者は私の従者の一人でして、名をセラフィと申します。今回、皆様にご賞味頂いたシャリアピン・ステーキの材料となった魔物を討伐した者でございます」


「セラフィと申します。私は主様の、む、娘です。以後お見知り置きを!」


 セラフィはその場で跪いてゴットフリートたちに最敬礼で名乗った。


 うむ、礼儀作法も完璧だし、どこに出しても恥ずかしくない自慢の娘だ! だが、嫁には出さないぞ。そんな親馬鹿的なことを考えていたのだが、ゴットフリートたちが驚いたように声を上げた。


「ま、真か!? ハルトに娘だと?」


「まぁ、アサヒナ殿にこのような大きな子供が? ということは、既に結婚もされているのかしら?」


「「そ、そんなぁっ!? ハルト(殿)!?」」


「普通はあり得ないと思うけど、エルフだとあり得るのかしら?」


「皆様、落ち着いてください。ささ、アサヒナ殿ご説明頂けますかな?」


 いや、皆驚き過ぎではないだろうか? というか、普通に考えて十歳の子供にこんなに大きな子供は出来ないでしょ……。まぁ、創っちゃったのは事実なんだけど。しかし、仮に俺が結婚していたとして何故リーンハルトとパトリックがショックを受けているのか、全く理解が出来ないのだが……。とりあえず、ウォーレンが落ち着いてくれていて良かった。


「失礼致しました。このセラフィは娘のような存在ではありますが、私が婚姻関係を持った者との間に生まれた娘、ということではありません」


「まぁ、私は最初からそうだと思っていたが……」


「「私も」」


「「ホッ……」」


 ゴットフリートはあからさまに誤魔化しているが、絶対に俺の娘と疑ってたクチだな。それに乗っかるヴィクトーリアとフリーダ。親子揃って同じ反応とは……。そして、何故リーンハルトとパトリックがホッとしているのか全く理解できないので、無視することにした。


「誤解が解けたようで何よりです。しかし、そちらのセラフィ殿が倒された魔物というものが気になりますな。一体どの様ような魔物だったのでしょうか?」


 ただ一人、俺の発言を気にしていなかったウォーレンがそんなことを聞いてきた。


「はい、先日魔物の森の最深部へと行ったのですが、その際にこの屋敷ほどの大きさで、首が八つ、翼が八つ、尾が八つあり、それぞれの顔がドラゴンのような魔物と出会いまして。珍しい魔物かと思い、セラフィに討伐させたのですよ」


「「「「「首が八つ、翼が八つ、尾が八つ!?」」」」」


 ゴットフリートたちは俺の伝えた魔物像に驚いている。まぁ、普通そんなことを聞いても冗談だとしか思われないから、当然の反応かもしれない。


 だが、ウォーレンは驚きはしているものの、冷静さを失っておらず、更に詳しい話を求められた。


「ほ、ほう。それは、とんでもない魔物、いや化け物ですな……。それほどの魔物をセラフィ殿がお一人で討伐されたのですか?」


「えぇ、まぁ。確かに、面倒な相手ではありました。胴体から生えている八つの首からそれぞれ異なる属性のブレスを吐いてくるし、光属性のブレスを吐く首は、切り落とした他の首すら回復してきました。それに、空を飛んだり、尻尾で連続攻撃するなど、とにかく面倒臭い相手だったなぁ、と。それをセラフィがまず最初に回復役の首を切り落として、その後一息に残りの首を切り落として……。セラフィが上手く対応してくれて本当に助かりました」


「いえ、主様。私など主様の足元にも及びません! それに、あのような図体が大きいだけの魔物など、私の敵ではありません!」


「うんうん、流石は俺のセラフィだよ!」


 そう伝えると、ウォーレンは一人唸る。


 何かおかしなことを言っただろうか? 一応、ここまで包み隠さずすべてをありのままに伝えているつもりなのだが……。


 ウォーレンの隣ではゴットフリートとリーンハルト、それにパトリックが化け物について話し合い、ヴィクトーリアとフリーダはセラフィの強さについて話し合い、それぞれ盛り上がっていた。そして、そこに呼ばれたセラフィやアメリアとカミラにヘルミーナ、そして俺が話に加わり更に会話が盛り上がっていったのだが……。


 まぁ、別に良いんだけれど、皆一つ忘れていないか。そう。今はまだ、晩餐会の途中だということを。


 まぁ、晩餐会もあと少しで終わりだし、次の料理は少し待ってから出してもらおうかな。


 そんなことを思い、俺は近くに控えていたラルフに指示を出した。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ツギクルバナー cont_access.php?citi_cont_id=535839502&size=200
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ