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お風呂と仲間と

 食欲を満たしたら、次は性欲。


 なんてことを聞いたことがあるけど、今の俺はただの十歳の子供で、しかもエルフ族というたぶん成長の遅い種族に生まれ変わった。


 だから、アメリアとカミラの二人がお風呂に誘ってきたことも、中身がアラフォーのおっさんとしては正直にいうと内心ドキドキしてはいたものの、そんなに問題ないだろうと高を括っていた。


 いやぁまぁ、多少は浮かれていたかもしれない。


 若い女性からお風呂に誘われるなんて、前世ではあり得ないスペシャルイベントなわけだし、浮かれない理由がない。


 だが、俺も生前は三十七歳のナイスミドル。


 年齢が一回り近く年下の女性を、何となくそういう対象には見ることができず、今は親戚の子供を相手にするような感覚でしか彼女らとは接することができない。


 すでに風呂場からは湯船に浸かる二人を想像するには申し分ないほどに、湯船を打つ水面の波音と二人の黄色い声がキャッキャウフフと脱衣所まで響いてくる。


 男の俺には聖域といってもいい空間に、はたして足を踏み入れても良いんだろうか? 俺の中の良心が未だに俺を脱衣所に閉じ込めているが……。


 そんな中、身動きとれない俺に聖域から声が掛かる。


「ハ~ルト~、まだか~?」


「早くする~」


 そう急かすように言葉を掛ける二人に、俺も男として覚悟を決めた!


 焦りながらも着ている服を急ぎ脱ぐ。だが、そのタイミングで、自分の身に起こっているとんでもないことに気付き、思わず声が出た。


「えええっ!?」


 おいっ!?


 おいおいっ!?!?


 いやいやいやっ!?!?!?


 待て待て待て待て待てぇっ!?!?!?!?


 どういうことだ!? 十歳児が持っていてはいけないほどの、凶悪なエクスカリバーが股間からぶらりとぶら下がっている様子を見た俺からは、先ほどまでの浮かれた気分がどこか彼方へと消し飛んでしまった。


「ど、どうなってんの……!?」


 こんなことは世界神から聞いてないんだけど!?


 まさか、生前の俺でも絶対引くようなエクスカリバーを、何故、俺がぶら下げているのか? まさか、エルフは皆エクスカリバーを持っているというわけでもないだろう。明日絶対世界神に問い詰めてやる!


 それはともかく、これ以上彼女らを待たせるわけにもいかない……。


 とはいえ、こんなエクスカリバーをうら若き二人に見せるわけにもいかないので、俺は仕方なくまだ鞘から抜かれていないエクスカリバーを太腿で挟み隠すことで、内股になりながら意を決して風呂場に足を踏み入れることにした。もちろん、股間は布をあてて隠している。


「し、失礼します……」


 風呂場に足を踏み入れて湯煙の中から現れたのは、白く大きな双子の山。その谷の間にツツツーと弾かれた汗とも水滴ともつかない一滴が白い斜面の上を伝いながら湯船へと消える。


 さらにその向かいには、先ほどよりも控えめだが、美しく天を貫くように聳える二つの小山の頂きが湯船から見え隠れする。


 おお、ここが天国か……!?


「やっときたな、ハルトぉ」


「待ちくたびれたァ」


 既に逆上せ気味の二人のニマニマとした笑みに迎えられた。


 彼女らの視線が鋭くある一点に向いているのを知り、俺はより一層内腿に力を入れた。すると、二人ともニンマリとした表情で俺の股間に視線を注ぐ。耐えろ! 耐えるんだ、エクスカリバー!


「ハ〜ルトくん、何を隠しているのかなぁ?」


「うぅっ」


 何だかアメリアの目がちょっと怖いんだけど……。


 助けを求めてカミラの方を見ると何故かサムズアップしていい笑顔を俺に向けてくれた。ナンナンダヨ……。


 とりあえず、いつまでもこの状態では風邪を引いてしまいかねないので、さっさとお湯を浴びようと桶に手を掛けようとした途端。アメリアにその腕を引っ張られて体勢を崩してしまう。


「うわぁっ!?」


「なぁにを気にしてるんのさ!」


「一緒にお風呂に入る!」


「うあっ!(ヤバッ!)」


 そう思った瞬間、太腿に収まっていた俺のエクスカリバーが勢いよくその姿を、現わさなかった。


 せ、セーフ!


 布は取り払われたが、何とか内股の姿勢をキープ! エクスカリバーを隠し通せたことにホッとした瞬間、体勢を崩した俺は足を滑らせてその場に仰向けで転んでしまったのだった。


 俺のエクスカリバーはといえば、残念なことに自制心を無くした姿で勢いよく天を貫いていた。もちろん、抜き身の状態であった。


「「「……」」」


 先ほどまで賑やかだった風呂場に突如沈黙が訪れる。


 だが、その直後、アメリアが口笛を吹き出し、カミラは顔を真っ赤にして湯船に顔を沈めながらも凝視されるという事態に至った。はぁ、俺もこのまま風呂場に何時までも寝転んでいる場合ではない。顔に火が付きそうなほど羞恥心に襲われたが、今更だ。


 そう思って立ち上がろうとした瞬間。アメリアとカミラに捕まり湯船に入れられた。


「ハルトってなかなか凄いモノを持ってるんだなぁ!」


「本当に凄すぎる! エルフはみんなそうなの?」


「すっ、すみませんっ! その、よくわかりません……」



 その後、アメリアからは『弟よりも大きい』とかカミラには『流石はエルフ!』などとからかわれながら、身体の汚れを洗い落とされて、三人で狭い湯船にしっかり浸かってから部屋に戻った。


 湯あたりのせいか、それ以外のせいか分からないが、少し頭がふわふわする。


 アメリアとカミラの二人はベッドに入り、俺は毛布が掛けられたソファーに潜り込んだ。途中、二人が俺も一緒にベッドで寝るよう誘ってきたが、お風呂でのこともあって流石に自重した。


 目を瞑ると、この数時間に起きた出来事が頭を過る。


 本当に、あまりにもいろんなことが起こったせいで頭が追いついていない。俺はソファーから起き上がって窓辺に立った。既に主だった街の灯りは消えており、空に輝く星空だけが美しさを競うように輝いている。


 まず、現世で俺が死んだということ。


 一体誰が俺にぶつかってきたのか。傍迷惑なやつではあるが、俺を転生できるように機会神にお願いしてくれたのだから、まぁ許してやってもいいかな。


 それから、機会神に輪廻神、それとこの世界の神様である世界神に出会って、何故か世界神の眷族としてこの世界『マギシュエルデ』に転生することになった。


 眷族ができることについて全くの説明不足だし、いきなり森の中に投げ出されるわ、お金は持たされてないわと、可愛いこととお胸がすごく大きいこと以外に世界神に対して今のところ良い印象がない。


 だが、この世界には少しだけ好意を持ち始めてる。恐らくそれは、この世界で出会った三人の冒険者のお陰だろう。


 何かと世話を焼いてくれるアメリアとカミラには凄く助けて貰ったし、この宿に泊めて貰えているのも二人の厚意によるものだ。


 アメリアは何だかんだで俺が不安に感じた時に前向きな意見を言って場を明るくしてくれるし、カミラは凄く親身になって俺の知らないことを教えてくれる。


 フリーダはステータスを見たときに王女だって知ったときは驚いたけど、面倒見の良いお姉さんのようで、俺だけでなく、カミラやアメリアのことにも気に掛けている様子だった。それに、向上心もあるみたいだし、次の依頼では今回のようなことは起こらないように対策を練るタイプだと思う。これは俺の前世の経験からそう思っただけだけど。


 それに、王都の門を守るハインツさんも真面目で優しそうな感じだったし、冒険者ギルドのエルザさんとも仲良くなれそうな気がする。


 この宿『金色の小麦亭』の女将さんのマルティナさんや、料理人のルッツさんも。


 この世界に転生して直ぐにこんなにいい人達と出会えるなんて、俺は凄くラッキーなのかもしれない。もしかすると、機会神が言っていた『不利益になりそうな者を近づけない』というのが働いているだけかもしれないが。とはいえ、こんなに俺に良くしてくれるこの世界の人達に今後試練が訪れるのかと思うと、少し胸が苦しい。


 だからこそ、俺がしっかりと世界神の眷族として働かないといけないのだ。


「まずは、四種族の仲間を集めないとな……」


「仲間を集めてどうする?」


「それはもちろん……って、カミラさんまだ起きてたんですか?」


 カミラはベッドの中から顔をこちらに向けて俺の独り言に応えた。


 部屋の中にアメリアの寝息だけが目立って聞こえる。俺はカミラの質問に対してどこまで答えて良いものかと少し悩んだけど、素直に話してみることにした。この二人には何でも相談できる気がしたからだ。


「カミラさん、神様って信じます?」


「神様? スルーズ神のこと?」


「スルーズ神って?」


「この世界を創ったという神様。ハルトは知らない?」


「いえ、はい。この世界の神様は知っています」


 この世界では世界神のことをスルーズ神と言う名前で呼んでいるようだ。明日神殿に行ったら世界神に聞いてみよう。


「その神様から言われたんです。もうすぐ、この世界に試練が訪れるから、世界中の人達と協力し合えるように、この世界にいる四種族の仲間を集めなさい、って」


「四種族?」


「はい。人間族、獣人族、魔人族、そして妖精族です」


「それは、凄く難しいと思う。魔人族は北の大陸にいるという噂を聞いたことがあるけど、滅多に人間族の前には姿を現さない。妖精族はそもそもどこに居るのか分からない。それに彼らは人数が比べ物にならないほど少ないと聞いた」


 うーむ。カミラの話が本当なら、世界神から与えられたミッションが思いの外ハードルが高いものに思えてきたぞ。


「そうなんですか……。あの、それぞれの種族が敵対してるとかはないんですか。その、人間族と獣人族が戦争をしているとか、獣人族が魔人族と戦争しているとか」


「ん、そんな話は聞いたことない」


「なるほど、そうなんですね……」


 各種族が争い合っていないのは朗報だ。とはいえ、事前に世界神から仕入れた情報を踏まえても、魔人族と妖精族を仲間にするのには一苦労しそうだな。少なくとも、魔人族を仲間にするには北の大陸まで行かなきゃならないみたいだし、妖精族なんて住んでる場所を探すところから始めないといけない……。


 あれ? そういえば、獣人族はどうなんだろうか。


 カミラに聞いてみると、なんと、この王国は獣人族の国とは国交を結んでいるそうで、互いの国への行き来は自由にできるらしく、貿易も盛んなんだとか。ということは、人間族と獣人族の仲間から探し始めるのがいいかも知れない。


「ハルト」


「何でしょうか?」


「私がハルトの仲間になる」


「え!?」


 カミラは俺に「仲間になる」と言って優しく微笑んでくれた。


 正直、凄くうれしい。この世界に転生して右も左も分からない俺を馬車に乗せてくれて、王都まで送ってくれただけでなく、この宿に泊めて貰えて。今日はカミラ達の優しさに助けられっぱなしだ。


 でも、本当にそこまでお世話になって良いのだろうか。だって俺の仲間になるということは、世界に齎される試練を一緒に乗り越えてもらうことになる。想像もできない苦難が待ち受けている、かもしれない。


 それに、突然『神様からこんなことを言われました!』と言って、すぐに『分かりました、仲間になります!』などと信じてもらえるものだろうか。俺なら、そんな簡単に仲間になるなんて言わないだろう。


「えっと、聞き間違いでなければ、私の仲間になって頂けると聞こえたのですが……?」


「そう言った」


「私が言うのも何ですが、胡散臭い話じゃないですか? だって、神様だの試練だの、普通は信じられない、いや分かりやすい嘘をついているとしか思えないと思いますが」


 うん、やっぱそうだよな。俺だったら友達からそんなことを言われても信用しないし、詐欺の類ではないかと疑ってしまう。それが普通だろう?


「でも、私は信じる」


「……どうしてですか?」


「ハルトの言動には嘘や偽りがなかったから」


「……嘘をついているかもしれませんよ?」


「大丈夫。私にはわかる」


 カミラの顔を見ると、真剣な、それでいて優しそうな目で俺を見つめていた。


「昔から妖精族、特にエルフ族は神様から神託を受けることがあると聞いたことがある。それに……」


 ほう、それは初耳ですな。というか、アレか。世界神からの第三の特典、神話通信だったか。その存在を知っているというのであれば、確かに『神様から言われた』という部分は信じてもらえるのかもしれない。


 それにしても、エルフ族ってそんなに神様から神託(?)を受けることができる種族だったのか? だったら、やっぱり第三の特典はあまり価値がなかったのかもしれないな。


「それに……?」


「それに、ハルトが困っているのを見過ごすことなんてできない! だから、私が仲間になる!」


「本当にいいんですか……?」


「ハルトは、私が仲間じゃ嫌?」


「そんなことありませんっ! むしろ、そう言って頂けるのは凄く嬉しいです!」


 正直、俺としてもこの世界で活動するにあたって、仲間になってくれる人がいると助かる。それに、この数時間の付き合いでしかなかったが、カミラは何となく、本当に何となくだが、信頼できる人物だと思えたのだ。もちろん、アメリアも。


「ふふ。お姉さんを頼るといい!」


「そういうことなら、私も仲間になるよ! それに世界に訪れる試練なんて……面白そうじゃないか!」


「アメリアさん!?」


「アメリアの言う通り、確かに人数は多い方が良い!」


「だろ?」


「えぇ!?」


 そう言ってアメリアもベッドから顔を出してこちらに話し掛けてきた。二人ともしっかりサムズアップを向けてくる。


「お二人とも……本当にありがとうございます」


「気にしないでいい」


「そうさ、子供を助けるってのが大人ってもんさ」


 すると、不思議なことに二人の手の甲に何やら輝きが現れた。どちらの輝きも緑色の柔らかな温かみのある輝きだった。これはひょっとして……!?


「な、なんだこれは!?」


「一体何!?」


 暫くすると、その輝きは次第に収まり、模様だけが残ることになった。二人とも同じようでいて、少し異なる模様の銀貨一枚程度の紋章が出来ていたのだ。


 そしてそれと同じ紋章が俺の手の甲にも現れていた。うん、これは間違いない。


「これは、私と真の仲間になった証です。心配されなくとも、私かご自身の意思で表示したり消したりできるそうですよ」


「「おぉっ!?」」


「こ、こんなことが起こるなんて、ハルトはただのエルフ族じゃないな!?」


「これだけでも、先ほどのハルトの言葉が真実だと良く分かる!」


 珍しいものを見たせいか、その後もアメリアとカミラは紋章を出したり消したりしていたが、結局は問題がない限り二人とも紋章を出したままにすることにしたらしい。


「こうしているほうがハルトの仲間だって分かりやすいだろう?」


「ハルトも紋章を出して。これでお揃い!」


「そう言われると嬉しいですね。私も出したままにしておきますよ」


 こうして、カミラの紋章は俺の左手の甲に、アメリアの紋章は俺の右手の甲に出ることとなった。カミラの言う通り、お揃いというのも何だか嬉しいような恥ずかしいような、そんな気分にさせてくれる。


 それにしても、この世界に転生してたった一日で人間族の仲間ができた。幸先良すぎるだろう。


 二人と相談して、明日は冒険者ギルドに行き、俺の身分証を作ることになった。まぁ、冒険者となったところで、どれだけ冒険するかは分からないが、それでもこの世界での身分証が手に入るのはありがたい。


 それから、神殿にも行かないとな。例のエクスカリバーの件、世界神に問い詰めなければならない。余裕があればこの王都にあるという図書館にも行ってみたい、どうやら明日は朝から忙しくなりそうだ。


 そんなことを考えている内に、いつの間にか俺は深い眠りに落ちていった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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[気になる点] 「ハルト様を心から信頼する者であり、同様にハルト様がその人物を心から信頼した場合においてのみ真の仲間となります。」ってあったけど、時間が経ってないこともあり、簡単に仲間になったように思…
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