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国王陛下の到着と晩餐会の始まり

「久しぶりだな、ハルトよ。そして、この度はよくぞ、我らを招いてくれた!」


 馬車を降りるなり、そう口を開いたのはこの国の国王陛下、つまりゴットフリートだった。


 その後ろから王妃のヴィクトーリアも姿を現した。


「この度は陛下の御戯れのせいで、アサヒナ殿にはご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ありません」


「国王陛下、王妃様。こちらこそ、一介の男爵が国王陛下並びに王妃様を屋敷に招くなどという、本来ならば不敬とされても仕方のない招待を快く受けて頂き、誠にありがとうございます」


 二人の前に俺が跪くと、俺の後ろに並んでいたアメリアとカミラ、それにヘルミーナとセラフィたちも一緒に跪いた。その更に後ろではラルフを筆頭に屋敷の使用人たちも一斉に跪き、アサヒナ男爵家総出で最敬礼をもってゴットフリートたちをお出迎えすることとなった。


 そう、今日はゴットフリートたちに招待状を出した件の『晩餐会』の当日だったのだ。


 ゴットフリートとヴィクトーリアが降りた馬車が移動すると、続いて二台目の馬車からはリーンハルトが、三台目の馬車からはパトリックがそれぞれ降りてきた。


「息災であったか、ハルトよ! 何故もっと王城へ来ないのだ? 寂し……。ではなくて、退屈ではないか!」


「今宵はお招き頂き、誠にありがとうございます! しかし、ハルト殿。兄上の仰る通り、もっと遊びに……。いえ、顔を出しにきても良いのではないですか!?」


 何だか二人ともテンションが普段より高いような気がするが、それはともかく。


 王城なんてそもそも特別な用事でもなければ基本的に行くことがないからなぁ……。というか、リーンハルトもパトリックも、二人とも一見真面目に聞こえるように言い直しているけれど、そんなに遊びに来て欲しかったのか? 王子というものも意外と暇なのかも知れない。


 続いて、更に後ろの馬車からフリーダが降りてきた。


 だが、その姿は冒険者の時とは様子が全く違い、豪華なドレスを身にまとっているだけでなく、更にはベールを着用しており、まるで他者からその顔がバレないようにしているのではないかと感じた。


 まぁ、確かに、冒険者が一国の王女だったと言うことがバレれば、それは貴族にとっても大事おおごとだが、平民にとっても驚愕する内容だろう。それに、フリーダ自身もそうなることを望んではいないはずだ。ただ、何故そんな危険を犯してまで、王女が冒険者などをやっているのか、少し聞いてみたいところではある。


「お初にお目にかかります、アサヒナ男爵。私はフリーダ・フォン・アルターヴァルトと申します。以後、お見知り置きを……」


「よろしくお願い致します、王女殿下。(それと、フードをお借りしっぱなしで、誠に申し訳ありません。今度王城に伺う際にお返し致しますので……)」


「っ!?……(承知致しました)」


 フリーダはそう言うと、スタスタとゴットフリートたちの元へ向かった。


 どうやら、フリーダも俺が、彼女が冒険者のフリーダであることを知っているということを理解したようだ。ただ、だからといって俺がそれをどうこうするようなことはない。ただ、ずっと借りっぱなしだったフードを返そうと、そう思っただけだった。


 そして、最後の馬車から宰相のウォーレンが降りてきた。


「アサヒナ殿、今宵は陛下の気紛れにより、大変ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございません。それにしても、あの陞爵の日からこれほど早くアサヒナ殿から御招待頂けるとは思いもしませんでした」


「いえいえ、ひとえにウォーレン様やビアホフ殿に、素晴らしい屋敷の使用人たちをご紹介頂けたおかげです! 本当にありがとうございます! 今宵はささやかではありますが、当家自慢の料理人が腕によりをかけて作った料理を出させて頂きますので、ご賞味頂ければ幸いです」


 そんなことを言いながら最後に登場したウォーレンをゴットフリートたちと合流させて、まずは迎賓館のほうに連れて行くことにした。うちの屋敷の中に入ってもらうには大人数だし、そこまでの客をもてなすようには作られていない。それに、いつまでも屋敷の玄関先で立ち話というわけにも行かないからな。


 そんなことを考えていると、頭の中を覗いていたかのようにリーンハルトがうちの屋敷ではなく、離れの迎賓館に向かうのは何故か、と聞いてきたので、仕方なく全て答えることにした。


「なるほどな。それで、我々はハルトの屋敷ではなく、この迎賓館に向かうことになったわけか……。ふむ、これは次回は一人でハルトの屋敷を訪問しなければならないな」


「な、何を仰るのですか、兄上!? そのような勝手は許されません! その際には必ず私も同行致します!」


 二人共仲が良いなぁ。俺は一人っ子だったから、兄弟がいるっていうのは羨ましいな。


「リーンハルト様も、パトリック様も。うちの屋敷は逃げませんから、いつでも御都合のよろしいときにお越し下さい」


「おお、ハルトよ! その言葉を待っておったのだ! もちろん、近い内にまたくると約束しよう!」


「あぁ、兄上ズルいです! ハルト殿、わ、私も! 私も、もちろん伺います! 絶対にお約束致します!」


「ありがとうございます、リーンハルト様、パトリック様。お待ちしておりますね」


 リーンハルトとパトリックの二人にそう伝えると偉く喜んでいるようだった。


 本当に子供というものは遊ぶことに対しての熱意が凄いなぁ。どうせなら皆で楽しめる遊びを考えても良いかもしれない。ボードゲームなんかどうだろうか。人◯ゲームやモ◯ポリーのようなゲームは盛り上がるかも知れない。いや、リーンハルトとパトリックなら、麻雀とかでも受け入れられるのではないだろうか……。そんなことを考えながら、ゴットフリートたちを迎賓館の応接室へと連れて行った。


 迎賓館の中に入ると、この世界の他の屋敷と違う所がすぐに分かる。


 それは即ち、照明だ。うちの敷地内にあるほとんどの建物の廊下には人感センサーを採用しており、特に何か操作をしなくても明かりが付くようになっている。因みに、使用人たちの部屋や魔導具店の従業員寮は手動になっているので、寝ようと思っているのに明かりが付く、というようなことは起こらない設計になっていた。


 さて、そのようなことを知らない者、即ち、うちの迎賓館に初めて足を踏み入れたゴットフリートやウォーレンたちは「「おぉ……」」と、唸りを上げていた。どうやら、違いが分かる者には分かるらしい。


 俺は応接室の扉を開けてゴットフリートたちをその中へと誘導する。晩餐会の準備にはもう少し時間が掛かるので、暫くは歓談の時間となった。


     ☆   ☆   ☆


 一方その頃、ハルトから晩餐会の準備が順調に進んでいるのか、確認してくるように頼まれたアメリアとカミラは屋敷のキッチンに向かっていた。


「それにしても、本当に国王陛下がうちの屋敷にくるなんてなぁ」


「うん。でも、それはハルトだから。ハルトでないとこんなことは起こらない」


「だよなぁ。全く、私たちの御主人様は王家の人たちに好かれ過ぎだよ」


「ふふふ、ハルトは王家の人たちだけじゃなくて、皆に好かれているから」


「そう言われれば、その通りだな!」


 そんな話をしているうちにキッチンに到着する。キッチンの中ではザシャが忙しそうに調理をしていた。調理が終わったものから順にリーザとリーゼがせっせと盛り付けを手伝っている。


「皆、お疲れさま。ザシャさん、料理のほうは?」


「えぇ、問題ないわよ。そういえば、もう国王陛下は到着なさったの?」


「あぁ、さっき到着されて、今はハルトが相手をしているよ」


「そう、それならこっちも早く用意を進めないと! リーザちゃんとリーゼちゃんも、気合いを入れていくわよ!」


「「えぇ、任せて」」


「では、アメリアさんとカミラさんも。そろそろ料理を運びますから、迎賓館に戻って旦那様にそのことをお伝えして下さいな。皆様を大ホールにお連れするようにと。すぐに前菜をお持ちしますっ!」


「あぁ、分かった! すぐに戻るから、後のことは頼んだよ、皆!」


「「「はいっ!」」」


 ザシャとリーザとリーゼの三人からそう言われたアメリアとカミラは迎賓館に戻ることにした。ザシャたちなら問題なく料理を用意できるだろう。


 迎賓館に戻るとハルトにザシャからの伝言を伝える。すると、ハルトはすぐに国王陛下たちを大ホールの方ほうへと連れて行く。その様子をアメリアとカミラは見届けていた。


「さて、これからが本番だなっ!」


「うん。でも、ザシャなら大丈夫だと思う!」


 こうして、ようやくアサヒナ男爵邸での晩餐会が始まるのだった。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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