高級食材を集めよう
さて、今日の俺は王都郊外にある魔物の森の深淵部にまでやってきた。久々に冒険者としての活動だ(といっても、別に依頼を受けてきているわけではないけれど)。
こういった活動ができるのも、屋敷や魔導具店の留守を任せられる者がいるからで、そういう意味でもラルフたちやベンノたちには本当に助けられている。つまり、皆に俺の作業の一部を割り振ることで自分の手が空き、新たなことに取り組むことができているというわけだ。
そんなわけで、魔物の森くんだりまでやってきたのだが、別に遊びできているわけではない。もちろん、回復薬の材料となるハイレン草の採取もついでに採取もしていたのだが、本命はそれではない。
今日の目的は『レッドドラゴン級の高級肉の確保』だ。
つまり、ゴットフリートたちとの晩餐会のメインディッシュとなる貴重な食材を探しにやってきたのだ。既に魔物は幾つか狩っており、以前この世界で最初に見掛けた山猪などもそれに含まれる。
「それにしても、こんなに魔物の森の深い所まで来たのは初めてだな!」
「うん、二人で冒険していた時にはここまで来たことがない!」
「お店のほうは大丈夫かしら? 今日も朝から開店待ちの客が居たみたいだし、少し心配ねぇ……」
「主様、あちらのほうから大きな魔力の気配を感じました! いや、大きな反応と小さな反応が二つ……!?」
そう、今日は俺だけではなく、アメリアとカミラにヘルミーナ、それにセラフィと一緒にきていたのだ。彼女たちが言うには、アサヒナ男爵家の当主を一人で魔物の森に行かせるなんてとんでもない、とのことだった。
そう言われると、確かにそうかも知れないけれど……。
せっかくなので、今日は皆にも手伝ってもらうべく、俺が魔物や素材を見つけては、セラフィには魔物の討伐を、アメリアとカミラには討伐部位の回収を、そして、ヘルミーナには採取を手伝ってもらうことにしたのだ。
以前、この魔物の森で精霊石を探知した空間魔法の一つ『空間探索』の応用で、魔力を持つ生物だけを見つけるために、光魔法『魔力感知』と組み合わせたオリジナル魔法『魔力探索』を使いながら、より魔力の反応が強い生物を探す。
この魔物の森の深淵で魔力の反応が強い生物とは、そのほとんどが魔物であるはずだ。
ほとんど、といったのは、俺たちと同じ冒険者である可能性がゼロではないからだが、その場合は少なくとも複数の魔力の集まりがあると思われる。何故なら、このような魔物の巣窟とも言える魔物の森の深淵部に単独でやってくる冒険者がいるなど考えられないからだ。
そんな状況の中、先ほどセラフィが魔力の反応を三つほど見つけたらしい。しかも、そのうち一つは大きな魔力を持っているという。俺のほうでも確認してみたが、確かに強い魔力の反応が感じられたので、その魔力の方向へと歩みを進める。
もしも、この魔力の反応が魔物や冒険者のものではなく、魔法が得意で、高い魔力を持つ魔人族や、妖精族であったとしたら、是非とも仲良くなりたいところなのだが、そんな偶然はないだろうな。残念ながら、俺たちが暮らすアルターヴァルト王国、それも王都であるアルトヒューゲルの近くに魔人族や妖精族を見かけたという話は聞いたことがない。
だから、そのような奇跡的な確率による出会いなど期待せずに、引き続き魔力探索に引っ掛かった反応をもとに、魔物を見つけては討伐するという行為をセラフィと一緒に繰り返しながら、より強い魔力の反応のもとへと移動する。
オリジナル魔法『魔力探索』の効果は覿面で、山猪の他にも角兎や闇狼といった獣系の魔物や、それら以上に巨大だが、草食で動きも遅い人畜無害の王陸亀のような中型の魔物は幾匹も主にセラフィが一撃で仕留めていた。
因みに、王陸亀は個体数が少なく、その甲羅が非常に硬いことから武器や防具の貴重な素材となるそうで、素材の買取額もそこそこ高いことから、中堅どころの冒険者たちには人気の魔物となっているらしい。
アメリアとカミラはそれら魔物の死体から討伐証明となる部位と素材の採取を行うと、残りを俺のアイテムボックスの中に保存する、といったことを繰り返していた。
暫く進んだところで、改めてセラフィの言っていた魔力反応を確認してみる。
確かに、今日一番の魔力反応を確認した。
ふむ、俺の確認できる範囲では、この辺りで最も大きな魔力反応だ。他の魔力反応よりもケタが違う。さらに、そのすぐ近くに小さな魔力反応を二つほど感じたのだが、こちらは徐々に魔力反応が弱ってきている。もしかすると、この大きな魔力反応の相手から攻撃を受けている可能性がある。
これはもしかするとドラゴン、いやそれ以上の魔物かも知れないが、そんな魔物が他の魔物を捕食しようとしている、という状況なのかな?
俺の魔力探索ではそこまで詳しくは判断できなかったので、とりあえず俺とセラフィの二人で先行して現場に向かうことにした。
セラフィならばこの世界で負ける相手などいるはずがない。もしいるとすれば、世界神たち、神界に住まう者たちぐらいだろう。だが、まだうちの敷地が神域となったわけでもないので、そんな存在がいるはずがない。ということは、特に問題はないはずだ。
「セラフィの言う通り、確かに何かいるね。しかも、今日一番の大きな魔力反応だ。もしかすると、ドラゴンだったりして」
「主様、早速そのドラゴンを屠りに参りましょう!」
「そうだね」
捕らぬ狸の皮算用、とならなければ良いんだけれど……。まぁ、良いや。
「はい、ドラゴン退治です!」
そんな、簡単にことが進むとは思えないが、あえて気楽に行くことにした。
俺とセラフィは二人して『ドラゴン見つけ隊』を結成し、「ドラゴン♪ ドラゴン♪ 貴重なお肉〜♪」などと適当に歌いながら森の中を更に進む。
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すると、そこには、確かにドラゴンがいた。
いや、正確にはその魔物の顔は確かにドラゴンらしく表面は巨大な鱗に覆われており、また頭上に二本、鼻先に一本の角が生えていたので、俺もドラゴンじゃないかと判断しただけなんだけど。
それは俺が想像していたような、所謂ファンタジーな世界のドラゴン、つまり二本足で立ち、鉤爪を持った腕と背中に蝙蝠の様な翼を一対持つ様なドラゴンではなかった。
その姿は、うちの屋敷ほどもある巨大な金色の胴体から、首が八つ、尾も八つ、翼も八つ生えた、まさに化け物というべき存在だった。
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