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魔法社会における魔導具の存在

 さて、ラルフたちに彼らの住まう部屋の説明を行ったわけだけど、皆俺の説明をあまり聞いていなかったようで、あの後二階のリビングで質問攻めにされることになった。


 何というか、納得がいかないのは、恐らく、俺だけなんだろうなぁ……。そんな愚痴のようなことを頭の中に思い浮かべながら、二階のリビングにまでラルフたちを連れてきた。


「屋敷の門で『インターホン』という魔導具を見せて頂いてから何となくアサヒナ様の、いえ『旦那様』のお屋敷は凄い所なのだろうと感じてはいたのですが、流石にあれほどの魔導具が使用されている部屋に私たちが住まわせて頂くことになるとは思いもしておりませんでしたので……。それに見たこともないような魔導具ばかりで驚きましたよ」


 ラルフがこれまでの『アサヒナ様』から『旦那様』と呼び方を変えた。恐らく、これからアサヒナ男爵家の家令として仕えることを実感してか、呼び方を変えることにしたのだろう。それはさておき、ラルフの言葉にアルマやヴィルマたちまで皆揃って頷いる。どうやら、皆同じ意見だったようだ。


「まぁ、そこはこれから少しずつでも慣れていってもらえると助かります……。それでは、この二階を案内しましょう」


 二階については、リビングとキッチンと食堂、それから大浴場と洗濯機置きランドリールームを順番に回って説明することにした。


 早速、キッチンと食堂に皆を連れて向かう。


 当家の料理人としてやって来たザシャの職場でもあるのでキッチン内の機材の説明を進めると、彼女はそれぞれの器具の使い方をメモしながら意欲的に学んでくれた。


 特に、冷蔵庫や食器洗い乾燥機、それにオーブンレンジやフードプロセッサーといったキッチン家電について説明したときは目を輝かせて使い方を聞いてきたので、きっと使いこなしてくれるだろう。それに、こちらのキッチンはラルフたちの部屋のようにIHクッキングヒーターではなく、ガスコンロのように火を扱う魔導具なので、火の扱いに慣れているだろう彼女にはこちらのキッチンのほうが使いやすいはずだ。


 次は、うちの屋敷自慢の大浴場に案内する。


 別にこの大浴場も俺たちだけが利用するつもりはなく、ラルフたちにも利用するように伝えておいた。ただ、念のため、彼らが引っ越してくる前に男女別に分けるという工事を行っているので、以前よりは少し狭くなっている。今後、時間帯によって俺たちと使用人の入浴時間を分ければ皆気にせず利用できるのでは、などと考えているとリーザとリーゼの姉妹が大浴場に興味を示したようだ。


「とても広いわ、お姉様」


「そうね、とても広いわね。これならご主人様のお背中を流したり、あんなことやそんなことまでできるわね」


「そうね、あんなことやそんなことまでできてしまうわね、お姉様」


「「ご主人様、期待していてくださいね?」」


「う、うん。期待している、よ?(一体あんなことやそんなことってどんなことなんだ!?)」


 リーザとリーゼが少し妖艶な雰囲気でそんなことを言い出してきたのだが、一旦スルーしておくことにする。何故なら、俺の隣には怖いお姉様たちが並んでいたのだから……。


 えっと、気を取り直して洗濯機置き場についても簡単に説明したのだが、こちらはアルマやヴィルマが興味を示していた。特に洗濯機と乾燥機に随分感動している様子だった。


「この魔導具の中に衣類と、この洗剤を入れるだけで洗濯できるなんて、素晴らし過ぎます! 洗濯板を使った力仕事がないなんて、考えていませんでした!」


「それよ、それ! 本当に分かります! それに、この乾燥機という魔導具があれば雨の日でも衣類を乾かせるんですよね!? 本当に素晴らしいです!」


 まぁ、家事に携わる者ならば、そういう感想が出てくるのも不思議ではないか……。いや、待てよ。この世界には魔法がある。ならば、魔法で何とでもできるものだと思うのだが……。そう思って、彼女たちに聞いてみることにした。


「アルマさん、ヴィルマさん。喜んで頂けて私も嬉しく思うのですが、洗濯など魔法でどうにかできるものではないのですか?」


 そう聞くと、アルマとヴィルマは互いに顔を見合わせて困ったような表情を見せると、二人が事情を教えてくれた。


「そうですね、確かに生活魔法の中には、装備や衣類の汚れを取り除く『清潔化』という魔法があるのですが、私やヴィルマのように生活魔法の適性がない者もおりまして……」


「私たちのように生活魔法の適性がない者は、やはり洗濯板を使って手で洗うことが多いですね。もちろん、生活魔法が得意な人に手伝ってもらうこともあるのですが、そう毎回毎回お願いするわけにもいきませんし、そもそも下着などはあまり人に見られたくないものですし……」


 なるほどな。そう言われてみると、確かにアルマとヴィルマは特技に生活魔法を持っていなかった。


 まぁ、その理由は彼女達が元々使用人などではなく、騎士爵家の令嬢だったり騎士団に所属する騎士だからだろうけれど……。それにしても、生活魔法を持っているかどうかで生活様式がそれほどまでに変わるとは思いもしなかった。魔法を使える者とそうでない者、あまり気にしたことはなかったが、この世界には生前とは別種の格差があるのかもしれない。


 また、そういった者たちがいるからこそ、魔導具があり、発達していったのではと考えたのだが、どうやらそうでもなさそうだ。何故なら、魔導具は非常に高価であり、庶民が気軽に手を出せる物ではない。魔導具のほとんどは貴族や富豪だけが手にしている状況だ。


 そして、彼ら貴族や富豪にとっては、そのような生活用の魔導具をわざわざ高いお金を払って錬金術師に作らせるよりも、魔法を使える者を雇う。その方が遥かに安くつくからだ。その結果、魔導具は娯楽や戦闘向けの物がほとんどで、この世界の多くの人の生活には影響を及ぼしていないのが現状だった。


「一応、そういった魔法を売りにして商売している者もいるのですが、毎回頼むとお金も掛かりますしね……」


「そう言ったわけで、私たちにとってこの魔導具は本当に素晴らしいものなのです! このような素晴らしい魔導具をご用意頂きありがとうございます、ご主人様!」


「詳しく教えて下さってありがとうございます。お二人に喜んで頂けたなら良かったです」


 そう二人に伝えると、ついでに掃除機も用意した方が良いだろうと思い、所謂コードレス掃除機を四台ほどその場で創り出してアルマ、ヴィルマ、リーザとリーゼの四人に手渡した。皆思い思いに使ってみてはその吸引力を確かめているようだった。途中、ザシャからも欲しいと相談を受けたので、もう一台追加で創り出して渡しておいた。


 一通り、二階の案内が終わったので、俺たちは階段を上って三階の廊下に立っていた。


「さて、それでは次はこちらの三階です。三階は私たちの私室と書斎になりますので、普段はあまり皆さんが来られる機会はないかもしれませんが……」


「「そんなことはありません」」


 リーザとリーゼの二人から異議を唱えられた。


「ご主人様を毎朝起こしに来る必要があると思います。ねぇ、リーゼ」


「ご主人様のお着換えをお手伝いする必要があると思います。ねぇ、お姉様」


「「ですから、ご主人様のお部屋を教えてください」」


 そう言い切って俺の目の前まで詰め寄ってきた。


 う、うん。何か二人の熱い眼差しから強い意志という名の圧力を感じ、リーザとリーゼだけでなく皆に俺たちの部屋割りについて説明してから、最後に俺の部屋に皆を案内した。


 ちなみに、俺の部屋は階段左手の中庭側の部屋で、ここからは中庭から魔導具店、そして王都の街の様子がずっと広がるという絶景を望める。その景色を窓から見たハインツは思わず感嘆の声を上げた。


「ほぅ、これはまた絶景ですなぁ!」


「元々、この敷地が王都の中心に近い高台に位置していますし、この屋敷も三階建てですから。ほら、中庭のあそこがハインツさんたちのお家ですよ」


「おおっ!? ハルトの旦那は、随分大きな家を用意して下さったんですなぁ! しかも二階建てじゃないですか!」


 どうやら、ハインツは俺のことを『ハルトの旦那』と呼ぶことにしたようだ。


「ご家族三人で生活されると伺っていましたからね。あとでそちらもご案内致します」


「ありがとうございます!」


 ハインツは窓から見える自分たちの家を気に入ったようで、ザシャ、それに息子のヨハンも窓辺に呼んで三人仲良く外の様子を眺めていた。


 そんな中、ラルフは三階の間取りを確認し、アルマ、ヴィルマそしてリーザとリーゼの四人は何やら俺を毎朝起こしにくる係の当番を決めている様子だったのだが、そこにいつの間にかアメリアたちまでも参戦してやいのやいのと言っている。もう、一体何をやっているんだか……。


 そして、最後に皆を地下の錬金術の研究室と訓練場に案内した。研究室は基本的に俺とヘルミーナ、あとはカイくらいしか入れるつもりはないので入室禁止を伝えておく。何かあれば、ノックしてもらうことにした。必要ならインターホンを用意するだけだ。


 訓練場にはラルフ、ヴィルマ、それにハインツとヨハンの四人が興味を持ったようだ。ラルフとヴィルマは騎士として、ハインツとヨハンは警備兵としてそれぞれ訓練ができることを喜んでいるようだった。アメリアやカミラも時間があるときに訓練に付き合うと言っていたので、その際には俺も様子を見にこようと思う。


 こうして、ようやくラルフたちへの屋敷の案内が終わった。このあとは、各自持ってきた荷物をそれぞれの部屋に運び、引っ越しの続きを進めてもらう予定だ。


 そして、その間に俺たちはハインツ一家を連れて離れの一軒家に向かう。基本的には普通の一軒家なんだが、玄関の件を説明しなければならなかった。


 さてさて。窓から見た家の様子は気に入ってくれたようだったけど、家の中も気に入ってくれるといいんだけどな……。


 少し不安に思いながら、俺はハインツ一家と屋敷から外へと出ることにした。

いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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