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魔導具店の繁盛と裏側

 ついに、アサヒナ魔導具店の開店を迎えた朝、ヘルミーナから衝撃的な話を聞く。


 それは、店の開店を前に、既に多くの客が店の前に集まっているということだった。正直、初日からそこまで人が集まるとは思っていなかったので驚いた。


 そして、俺は今、ヘルミーナとカイの三人で倉庫の中にいる。


 何故かって?


 もちろん、昨日用意した在庫がすぐに底をついたせいで、急ぎカードパックを創っているからだ。因みに、ヘルミーナとカイには箱詰めを手伝ってもらっている。


 今朝の開店と同時に多くの客が押し寄せたかと思うと、カードパックと初心者セットが瞬く間に無くなった。


 一人一人が買う数なんてたかが知れているだろうと高を括っていたのだが、意外と十や二十とまとめて買って行く者が多かった。


 どうも、リーンハルトとパトリックに『神の試練』を献上した際に、イザーク辺りから騎士団のほうに『戦略や戦術を試したり、俯瞰的に見ることができる』といった噂が流れたらしく、そんな噂が騎士団から貴族、貴族からその従者や子飼いの冒険者へと広まっていったらしい。そこに、アメリアとカミラの冒険者ギルドでの宣伝も相まって、購入者が多くなっているのが要因の一つ。


 そして、この商品が、中からどんなカードが出てくるか分からない、カードパックであったということだ。


 遊ぶ為には強力な種族カード、つまりレアなカードを持っているほうが断然楽しめる(もちろん弱いカードの組み合わせでも、命令カードの組み合わせの妙でパーティーを勝利に導くといった縛りプレイという楽しみもあるが)。


 更に、命令カードを自由に組み合わせるには、やはりカードパックを買って揃えて行く必要があり、これも一人当たりの購入数が伸びている要因だろう。


 ただ、恐らくこれは一過性のものだと思う。カードの所有者同士で不要なカードのトレードが始まる可能性は当然あるだろう。まぁ、運営側としてはその頃に第二弾カードパックを投入したり、男性向けに特別な限定カードパックを投入して定期的な購入を促したり、ルールや遊び方の追加をしたりと、まさにソーシャルゲームの運営と同じようなことをしていくことになるのだが、まだこれは秘密だ。


 さて、そんなわけで多くの人がカードパックを買っているのと同時に、意外と遊技マットの注文が多いようだ。これはやはり騎士団やそこそこ稼ぎの良い冒険者、それに貴族や富豪といった層が買っているらしい。


 また、ベンノたちから聞いた話では、商人たちから店に置いている遊技台についても購入できないかといった問い合わせがあったらしい。


 だけど、今の所は、遊技台についてはハーゲンの為にも、それほど多くの台数を市場(王都)に出すつもりはない。何故なら、ベンノたちアサヒナ魔導具店のスタッフを紹介してもらうためではあったものの、半額とはいえ既に百台もの遊技台を購入してもらっているハーゲンに対しては、彼の商売が上手く行くように多少の便宜を図ってあげたほうがこれからの付き合い上メリットが大きいと考えたからだ。


 それに、彼にはコメの輸入も依頼しているわけだし。


 また、商人たちがどれだけ興味を持ったといっても、ハーゲンほど纏まった発注をしようとする者はなく、遊技台を購入することで本当に儲けられるかどうか、様子を見ようと一、二台といった少数の購入希望者ばかりだったのだ。そのような商人たちとの商売よりは、ハーゲンとの繋がりをより強固にしたほうがメリットが大きいと俺は思う。


「遊技台は金貨五枚と利益率が高い商品ではあるけれど、暫くはハーゲンさんにだけ売ることにしよう。ハーゲンさんのボーナスタイムを用意したほうが今後遊技台を売る時に話題性が高まると思う」


 そんな打算的な考えもありながら、既に今日の時点で想定していた数以上の『神の試練』関連の商品を創り終えた俺は、次に注文を受けた各種回復薬の準備を進めていた。


 注文を受けた回復薬は、初級回復薬が二百五十二個、中級回復薬が八十七個、そして上級回復薬が十二個という、昨日想定していた数を大きく上回る受注が入ることとなった。


 この理由は、今朝ヘルミーナから指摘があった通り、以前屋敷を建てた翌日に配布した初級回復薬による口コミと、アメリアとカミラが魔導カード『神の試練』と同様に回復薬についても冒険者ギルドで宣伝してくれた結果だろう。


「うーん。それにしても、完全に見込み違いだったとはいえ、注文数がここまで多くなるとは思わなかったな。暫くは、俺が創らないと数を用意することが難しそうだけれど、ヘルミーナさんやカイにもできるだけ早く、同じ品質の回復薬を作れるようになってもらわないといけないか」


「アンタの作る回復薬って本当に一体何なの? あんなに早く効いて、それに効能も良い回復薬なんて見たことがないんだけど、どんな錬金術をやっているのよ!?」


 そんなことを聞いてきたヘルミーナだったが、その表情を見ると本当に納得できていない様子。ヘルミーナに同意するようにカイもブンブンと首を縦に振る。


 ふむ。そういえば、この世界に転生してから錬金術が使えることを知ってからというもの、何も考えずに回復薬を創ってきたが、俺の創った回復薬を鑑定したところ備考には常に上質とあった。だが、この世界で流通するほとんどの回復薬、つまりヘルミーナたちが作る回復薬にはそのような記載はなかったのだ。


 では、一体どんな理由で差が出ているのだろうか。ふむ、初めてハイレン草を鑑定した時のことを思い出す。


『名前:ハイレン草

 詳細:マギシュエルデに生息する多年生植物。

    光の精霊の力を宿すと信じられており、擂り潰したものは傷薬として使われる。

 効果:体力回復

 備考:錬金素材(ハイレン草×1:初級回復薬)』


 この鑑定結果を見た時に、『擂り潰したものは傷薬として使われる』とあったので、葉っぱの中に含まれる成分が傷薬としての効能を持っているのではないかと考えたのだ。


 ならば、どうやってその成分を抽出するのかだが、それこそが錬金術という特技のありがたいところで、素材とレシピさえあれば勝手に確定している結果を生み出すことができるのだ。


 正直、化学に疎い俺には抽出方法等の知識はなかったので助かったのだが、逆に言うと、この世界では化学や物理といった科学方面は発展することはないだろうし、実際してこなかったようだ。まぁ、特技(魔法も含めて)によって成り立った世界なので当然かもしれないが。おっと、話が逸れた。


 成分抽出自体は錬金術によって行っている。という点ではヘルミーナもカイも、この世界にいる錬金術師も同じだろう。では、他に何が違うのか、そう考えた時、一点だけ他の錬金術師たちと決定的に違う点を思い出した……。


 そう、俺の回復薬は最初から『小瓶に入っている』のだ。これはヘルミーナに指摘されて気づいたのだが、どうも中身の回復薬は錬金術で作られたようなのだが、外側の小瓶は俺の『創造』によって創られているらしい。


 となると、導き出される答えは、外気に触れさせないことが『上質』となる原因なのかもしれない。空気に触れたせいで酸化したりするのか、それとも魔力や何かの影響を受けて効果が弱まるのか……。この世界だと後者の可能性のほうが高いか。


「ふむ……。ヘルミーナさんとカイは、二種類の錬金術を同時に行うことはできますか?」


「二種類の錬金術を同時に? 試したことはないけれど、多分今の私にはできないわね……」


「私もやったことはありませんが、ヘルミーナ店長にできないのなら、私にもまだ無理かと思います」


「なるほど……。では、まずそこからですね」


「一体どういうことなの?」


「私の錬金術で作った回復薬ですが、恐らく皆さんが作られているものと基本的には同じ物であると推測しています。何故なら、作り方は皆さんと同じく、錬金術を使って作るだけですから」


 そう話しながら、俺はアイテムボックスからハイレン草を一つ取り出して初級回復薬を創り出した。


「確かにそうかもしれないけれど……。でも、現実として、ハルトが錬金術で作った初級回復薬は効果が違うんだから、何か違いがきっとあるはずよ」


「えぇ、その通りです。カイは私が創った初級回復薬を見て何か感じましたか?」


「うーん……。あ、あれ? そう言えば、最初から小瓶に入っている?」


「はい、正解です。そして、恐らくこれが答えだと思うんですよ」


「なるほど、錬金術で作った回復薬を、同じく錬金術で作った小瓶に入れて生み出す……。つまり、回復薬を外部の魔力影響下から隔離した上で小瓶に入れることさえできれば、ハルトと同じ品質の回復薬が作れる、というわけね……。って、二種類の錬金術を同時に行うことも難しいけれど、その結果を合成して一つのアイテムを生み出すなんて簡単にできるものじゃないわよ!」


「しかも、アサヒナ男爵様は小瓶の素材も無く小瓶に入った回復薬を作られていましたし、錬金術のレベルが違い過ぎます!」


 ふむ、結果の合成か。ヘルミーナに言われて気付いたけど、確かに二種類の錬金術ができても、それではただの回復薬と小瓶であって、小瓶の中に回復薬を入れることは難しいのか……。錬金術のレベルが高ければできるようになるのかな?


「まぁ、どちらにせよ練習あるのみですね!」


「うーん、何か納得できないんだけど、まぁハルトだし仕方ないか……。とはいえ、今のお店の状況だとハルトがいない状況では倉庫一杯に回復薬を置いていても、何日も持たないかもしれないわよ?」


「ヘルミーナ店長、ベンノさんが今日中に用意が間に合わない場合は注文だけ受け付けて、後日受け渡しをするというお話をされてましたが、それでは駄目なのでしょうか?」


 ヘルミーナにカイが質問する。なるほど。予約注文だけ受け付けて、後日受け渡しにするというのは間違っていない。だが、それは……。


「そうね、それが『神の試練』の関連商品ならまだ良いわ。でも、回復薬は駄目よ。回復薬は冒険者の命に関わる大切な商品。しかも、うちの回復薬はその効果が高いと噂が立つほどの物なのよ? それを品切れでいつ手に入るか分からないという状態が続くことになったら、せっかく回復薬の効果で冒険者たちから得られそうな信頼を瞬く間に失うことに繋がりかねないわ」


「なるほど、確かにヘルミーナ店長の仰る通りですね! しかし、そうなるとアサヒナ男爵様やヘルミーナ店長が不在の間、商品の補充はどうすれば良いのでしょうか……」


 そう呟いたカイの言葉を頭の中で繰り返している内に、商品の補充方法を早急に決めないといけないという優先度の高いタスクが、俺のやることリストに追加されたのだった。


いつもお読み頂き、ありがとうございます!

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