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王都到着、報酬の行方

 どうやら俺たちの馬車は王都の中に入るための門に着いたようだ。


 幌馬車から外を覗くと、十数メートルほどの高さがある白い石造りの城壁が聳え立っており、目の前には大きな金属製の門扉が解き放たれており、その前には入場を待つ人々が並ぶ列が見えた。


 その列の歩みが遅いことから、恐らく王都に良からぬ輩が入らないようにするための検問の様なものがあるのだと思う。


 だからこそ、この世界で何者であるかを示す身分証のようなものを何も持たない俺は不安に駆られたのだ。アメリアやカミラが言うには身分を示すものがなくてもお金を払えば王都の中には入れるということだった。とはいえ、誰の紹介もない場合はどこの誰なのかという聞き取り調査のようなものはあるらしい。


 そういう意味では、今回はアメリアやカミラの紹介ということもあってお金を払うだけで入れるだろうということだった。もちろん、紹介者に信頼があってこそのことだ。だからこそ、アメリアやカミラに迷惑を掛けるようなことがないように気をつけなければならない。


 特別意識しているつもりはなかったのだが、少しの不安と妙な緊張感が身体を強張らせる。そんな俺を心配したのか、カミラが俺の頭に手をポンと置いて撫でてくれた。


「心配要らない。アメリアが上手くやる」


 カミラがそう言って安心させようとしてくれる。


 もしも、俺がただの人間族の子供であればそこまで気にすることはなかったのだろうが、今の俺は妖精族のエルフ、この世界で最も数の少ない珍しい種族なのだ。見つかって騒ぎにでもなると彼女等にも迷惑を掛けてしまうかもしれない。


 俺は門番を務める衛兵に少しでも見つからないようにと馬車の隅で身を屈めることにした。できるだけ目立たないように身を潜めておこうというわけだ。


「ハルト様のお姿は目立ちそうですし、念のためこれを」


 身を屈めていた俺にフリーダが自身のアイテムバッグからフードの付いたマントのような物を取り出して俺の頭にふわりと被せた。


 きっと、このマントは普段フリーダが使っているものなのだろう。花柄の刺繍がされており、僅かに薔薇のような香水の様な香りがする。フリーダが付けている香水の香りだった。


 そんなことを考えている内に俺たちが乗る馬車が門番の検閲を受ける順番が回ってきたようだ。


「よう、アメリア。今戻りかい?」


「ただいま、ハインツさん。しっかり依頼は達成したぜ!」


「そりゃ何よりだ。カミラとフリーダは後ろか?」


「あぁ、フリーダがちょっとやられてな。今寝かせているんだ。カミラが看てくれている」


「そうか。それは大変だったな」


「あぁ。それと……子供を一人連れている。王都ここに向かう途中だったらしくてね、馬車に乗せてやったんだ」


「子供? まさか、一人だったのか? 全く親は何を教えてやがる! 王都の周辺は比較的安全とはいえ、街道沿いでも子供一人で出歩くのは危険だってのは常識だぞ! はぁ、お前らがその子供にしっかり教えてやれ。それに、最近はここいらでも魔物だけでなく盗賊に襲われたって類いの報告が増えてるんだからな。あぁ、それから新たに王都に入るなら、銀貨ニ枚だぞ」


 ハインツという門番の男がアメリアと話ながら馬車の中を覗き込んで俺の姿を確認したようだ。背後からハインツからの視線を感じる。


「問題ない、私が払う」


 カミラがそう言ってお金を取り出しハインツに手渡す。


「あいよ、確かに。アメリアたちが付いているなら心配ないと思うが、あんまり周りに心配を掛けるんじゃあねえぞ!」


 そう言ってハインツは俺の頭に手を置くとフードの上からワシャワシャと荒っぽく撫で回した。


「はい、気を付けます!」


「おう。では、通ってよしっ!」


 ようやく馬車が門を潜り抜け、王都の城下町へと入ることができた。それにしても、王都に入るのにお金が必要とは思いもよらなかった。


 一人できてたら確実に詰んでたな……。


 そんなことを考えながら、馬車から顔を出して王都の景色を眺める。


 流石に王都というだけのことはあって、通りには住民だけでなく、所謂冒険者や商人風の人たちが数多く行き交っており、なかなかに賑わっているように見える。


 それに、何といっても人間族だけでなく獣人族の姿が多く見られたことも、ここが異世界の街なのだと感じさせる大きな要因になったのかもしれない。


「ふぁぁぁ、耳がある! 尻尾もある!」


「あんまりジロジロと見てはダメ。獣人族の彼らにとってはそれが普通なのだから」


「そうですね、分かりました!」


 カミラからの注意を受けて一度視線を馬車の中に戻す。まぁ、確かに彼女の言う通り、あまり人の特徴をジロジロと見続けるのも失礼だ。生前の世界だってそうだったしな。


 とはいえ、異世界の町並みは、やはり気になる!


「おおお、これが異世界の街……。あっ、あれってお城ですよね?」


「そう、あれはこの国の王様が住む王城」


 この街は中心部が小高い丘になっており、その丘の頂上に大きな白亜の城が聳え立っていた。そのおかげもあって馬車からもよく見える。


 初めてきた異世界の街並みにテンションが上がる俺に、カミラが王都の説明をしてくれた。


 この国はアルターヴァルト王国といい、この王都はアルトヒューゲルというらしい。


 王城の周辺には大きな屋敷が目立ち、そこには王城を中心とした貴族の屋敷が立ち並んでいるそうだ。そして、それを囲むように壁が見える。この壁が貴族街との境界で、この王都へ入るときに潜ったときと同じように東西南北に門があり、貴族街に入るには門番の検閲を受けないといけないのだとか。


 さらに、その壁の周りにも幾つか大きな屋敷が見えるが、それらは所謂富裕層の屋敷であり、富豪や貴族に近い立場の者たちが住んでいるのだとか。


 そして、さらにその周囲に建物が建ち並ぶが、城から離れば離れるほど建物は小さくなり、少しずつ質素な家屋が目立つようになる。


 そして城壁の近くになればなるほど、簡易なテントのような小屋が多くなるが、恐らくこれらは頻繁に王都へ出入りする者向けの出店なのだろう。


 城壁の周辺は人の出入りも多いようだが、一部は明らかに寂れた一角もあった。なるほど、王都といえど、貧富の差はそれなりにあるようだ。


「すごく大きな街ですね。それに人通りも多いし活気に溢れている」


「王都は王国のなかでも最も大きな街だから当然」


「近隣の国からも隊商がやってきますからね。ですから、アルトヒューゲルは人も物も多く溢れる豊かな街なのですわ」


「なるほど」


 俺の言葉にカミラとフリーダがそう答えてくれた。


 街の奥へ暫く進むと大きな建物の前で馬車が止まり、アメリアが御者台から降りて馬車の後ろに回ると、中にいる俺たちに話し掛けた。


「さぁ、着いたぞ!」


「ここは?」


「ああ、ここは冒険者ギルドだ。今日受けた依頼の達成を報告しないとな。それに討伐した山猪も買い取ってもらわないと!」


 なるほど、ここが冒険者ギルドか。


 建物は石造りの三階建てで、入り口は西部劇に出てきそうな両開きのスイングドアとなっており、建物内の賑やかな喧騒が外まで漏れ伝わってくる。


 そんな扉を躊躇なくアメリアが開いて中に入り、カミラがフリーダを支えながらその後ろに続く。そして、さらにその後ろに俺が付いていく形でギルドの中に入った。


 ギルドの中に入ると、受付のようなカウンターにアメリアたちと向かう。どうやらここで依頼達成の報告をするらしい。


「エルザさん、今日受けた依頼、終ったから確認してほしいんだ」


 アメリアはアイテムバッグから依頼の掛かれた書類とハイレン草の束を取り出して、カウンターの上に置いてエルザという受付嬢に確認を促した。


「あら、お疲れ様。早かったわね。流石、『蒼紅の魔剣』といったところかしらね。……うん、特に問題ないわ。それじゃ報酬はこれね」


「あと、山猪の毛皮に角と牙、それに肉があるんだ。これも買い取って欲しいんだけど」


「そう。なら、奥の買取窓口に預けて頂戴ね」


「了解!」


 エルザから報酬を受け取ったアメリアは軽やかに買い取り窓口へと歩みを進める。


 窓口に着くと、手早くアイテムバックから山猪の毛皮と牙、そして大量の肉をカウンターに並べる。すると、担当者が即座に査定を始めた。担当者と話すアメリアの喜ぶ顔を見ると、どうやらそれなりの金額で買い取ってもらえるようだ。


 依頼の報酬についてカミラに聞くと、金貨三枚だったらしい。金貨、といわれてもその価値が良く分からないので詳しく話を聞いてみることにした。


 この世界の貨幣は銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、金板、白金貨、白金板という種類があり、皆が多く使うのは銅貨から金貨までで、大きな買い物をするときに金板や白金貨を使うらしい。


 白金板などは国家間や政商などが使うもので、基本的に個人が使うような機会はほとんどないんだとか。


 ちなみに、宿代は一泊大体銀貨五枚~十枚程度が相場だが、高級な宿だとその限りでもないらしい。また、昼食代としてはピンキリだが、多くの場合は大銅貨数枚~銀貨一枚程度までに抑えるのが普通とのことだ。


 ふむ、カミラの話を聞く分には、銀貨一枚あたり大体千円位のイメージでいればいいだろうか。


 また、銅貨十枚で大銅貨一枚、大銅貨十枚で銀貨一枚と、十枚ごとに別の貨幣に繰り上がるようだ。つまり、銀貨十枚で大銀貨一枚、大銀貨十枚で金貨一枚となる。ということは、金貨一枚って十万円ってことか。


 今回の素材採取依頼の報酬が金貨三枚だったってことは、三十万円の依頼だったってことになるが、命を掛けるような仕事が三十万円では割に合わないような気がしないでもない。だが、短期間で得られる報酬として考えれば十分なのかもしれないな。


「山猪の買取価格は全部で金貨一枚と大銀貨五枚になったよ。依頼の報酬と合わせて金貨四枚と大銀貨五枚。なかなか実入りのいい依頼になったな! さぁ、報酬を分けようぜ!」


「それなりに苦労したから当然! 報酬は山分け!」


 そうアメリアとカミラが言うと、フリーダが申し訳なさそうな顔で口を開いた。


「今回の依頼、正直私はお役に立てて居りませんので、報酬の受け取りは辞退させて頂きますわ」


「「そんなことない!」」


「フリーダは私たちが山猪との戦闘に入る前、補助魔法で支援してくれた!」


「それだけじゃない! 山猪の他にも魔物が近づく度に気配察知の魔法で助けてくれたじゃないか! むしろ、今回は私たちがフリーダを守れなかったほうが問題さ」


「それでも……今回は私の実力不足で皆さんを危険にさらしてしまいました。ハルト様とお会いできなければもっと深刻な事態になっていたと思います……。ですから、こ「「くどいっ!」」」


「今回フリーダが倒れたのは皆の責任だし、報酬が得られたのも皆の成果なんだ! だから報酬は皆で山分けっ! いいね!?」


 ぐじぐじするフリーダを置いてアメリアがそう啖呵を切った。


 凄く男らしいというか、気風がいいというか。アメリアの心意気に俺も賛同した。


「アメリアさんの仰る通りですよ。別に魔物を倒したかどうかだけが評価されるものではないと思います。そこに至るまでにフリーダさんが役に立ったというのでしたら、その分も評価されて然るべきではないでしょうか? 皆さん全員の頑張りが今回の成果に繋がった。それで良いんじゃないでしょうか、ね?」


 フリーダはアメリアとカミラの提案に戸惑っていたが、俺の言葉を聞いた後、二人の提案を受け入れて渋々ながら報酬を受け取ってくれたようだ。


 ちなみに、何故か何もしていない俺にも報酬をという話が出たが、それについては丁重に断った。そもそも今回の依頼を受けていたわけでもないし、王都まで連れてきてもらったというだけで、御礼は十分に頂いているからだ。


「今回のことは、本当に申し訳ありませんでした。次に御一緒させて頂くときには、必ずお役に立って見せますわ」


「ああ、またよろしくな!」


「またね」


 こうして冒険者ギルドを出た俺たちは、フリーダと別れてアメリアとカミラの二人が活動拠点としている宿屋に向かうことになった。

ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] 冒険者ギルドがあって錬金術もあるなら他には商業、錬金術、薬師、鍛冶ギルドがあるのかな
2019/11/21 02:19 退会済み
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