〈フィールド〉チャレンジ精神
現在のステージ〈フィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地〉
・絵に描いたような、大自然。現在地は、丘の高台。他、魔力が含まれた青空の天井。流れ往く雲の群。眩しい太陽。天高く飛ぶ、鳥、モンスター、竜、そして……メカニックな飛行船。
・奥には、漠々たる山脈。所々に空洞。上から落ちてくる滝。崖際の巨大な城。浮遊する岩石を周囲に漂わせ、熱風、山の尖端に雷。
・丘の高台の下には、平原や森林。平原には、序盤のモンスターが徘徊している。森林は、深い緑で覆われている。又、竜が住んでいそうな、果てしない湖。おんぼろの館。魂のようなものが徘徊し、森から巨大生物が顔を出している。
「この電脳世界に降り立ってからというもの、落下しかしていないような気がするんだ」
ふと、そんなことを呟いてみた。
膝を抱えて座る主人公アレウス・ブレイヴァリー。
と、律儀にも正座で地面に座る、ナビゲーターのミント・ティー。主人公とナビゲーターは、一時的にもその冒険を中断し、向かい合いながらその場で座り込んでいた。
ミントは、「はぁ」と一言。続けて、
「しかし、二度におけるゲームオーバーは紛れも無い事実でございます。それら絶命の要因を、主人公様はご自覚なされているかと思います」と、慰めを微塵にも思わせない言葉を掛けられてしまう。
「まぁ、そうだけど――まぁそうだけどッ」
死んでしまう原因は分かっているんだよ……。でも、それを分かっていても……難しいんだよ……!! こういうゲームって、意外なところでシビアだから、やっぱりどうしても思わぬ所でゲームオーバーになってしまうことが多いんだよ……ッ!!
悲しみ。主人公アレウスは、はぁっ、とため息をつく。
その様子をミントに見守られた。
――よしっ。さっきまでの悲しみが、まるで嘘のようだ。
ふと巡ってきた、湧き上がってきた気持ちで立ち上がる。そして、次にも主人公アレウスは、目の前の景色を見遣った。
――俺の冒険は、今、始まったばかりだ……!!!
もはや、球形の妖精姿にも変身しないミント。崖へと歩いていく主人公アレウスを見つめ、律儀に佇んでいる。
主人公アレウスは、崖の手前で足を止めた。
――じーっ。崖の斜面と睨めっこを行い、その凸凹を、ただ、じっと、眺め続けていく。
「どうかなされましたか?」
ミントからの問い掛けに、主人公アレウスは「攻略法を探しているんだ」と答える。
「っ?」
ミントは、とても不思議そうに首を傾げた。……が、次の時にも、少女はギョッとして絶句することとなる。
――主人公アレウスは、その断崖を下り始めた。
ゆっくりと近付き、そして、体勢を崩すモーションを見せて、ずざざっ、ズザザッ、と斜面を滑り落ちていく。
勢いが強まって、一気にがらがらと下り始めた。それに焦りながらも、移動による微調整を行うことで、転落しないような位置取りを心掛けながら、そのまま地道に下り続けていく主人公アレウス。
凝りもせずに、自ら危険へと飛び込んでいく主人公アレウスは、
「まず、どこからがセーフで、どこからがアウトなのか。落ちた際にも、その高さからの落下でどのくらいのダメージを受けるのかを、今の内にでもこの目で確認しておいた方が良いと思うんだ!!」と言って、所々と落下を織り交ぜ始めた。
えぇ……。
ナビゲーターのミント・ティーは、形容し難い表情を見せた。
その場面こそは危険を顧みないものであったが、とても不思議なことに、今の主人公アレウスの姿は、これまでの冒険の中で一番、着実な前進を見せていたものだ。
「うぉっ!!」
ずるッ。足を滑らせて一気に下る。
そして、次の時にも、ドシャッ。もはや聞き慣れた鈍い音を響かせて、平原へと降り立った。
……点滅する全身。6/20と表示されたHP。
圧し掛かった大ダメージに、心臓が飛び跳ねる。だが、丘を下ることができたその歓喜のままに、主人公アレウスは、丘の上のミントへと振り向いて満面の笑みを見せた。
「おーい!! ミントー!! 無事に下り切ったぞーッ!! 最初はヒヤッとしたが、あの高さから落ちても案外と平気なもんなんだなー!!! これで一安心だな!! 落ちても大丈夫そうな高さが何となく分かったから、これで、これからはもっと気楽に飛び降りることができそうだー!!!」
「…………無事、に――?」
ナビゲーターのミント・ティーは、微妙な表情で暫しと主人公アレウスを見遣っていた。
ようやくと降り立つことができた平原を散策。
目の前には、メインクエストへの案内を示す赤い矢印が伸びていた。……が、それは別として、せっかくと降り立った平原を、主人公アレウスは自由に冒険していたものだ。
生える草木。そこで何やらエフェクトのかかる草を見つけると、主人公アレウスはそれに吸い寄せられるように近付いた。
平然と矢印から外れていく。それを受けて、勇敢なる魂から球形のミントが現れた。
主人公アレウスは、エフェクトのかかる草の前で屈んだ。それに手を伸ばして、サッ、と腕を動かす。
『薬草を入手した』。表示されたテキストに、心が躍った。
勇敢なる魂の水縹が光り出す。その輝きが胸から溢れると、メニューが展開。アイテムの欄へと移り、その虚しい空間に、ポツリと、『薬草』の文字が追加されているのを目の当たりにした。
手に入れた『薬草』は、二つ。一度の回収で、二つ手に入るんだ。それを知ると、一気に得をしたような気分になった。
早速と使用した。『薬草』を選択すると、勇敢なる魂の輝きと共に、この手に『薬草』が現れる。
それを、口にした。――キュインッ。身体に巡る回復の効果。エフェクトを纏い、HPが16/20となる。
10、の回復。
それを知る頃には、主人公アレウスは二つ目を頬張っていた。無意識だった。消費したHPを回復しなければ。その思いのままに二つ目の『薬草』を口にして、HPは満タンとなった。――余分に回復をしてしまう。これは、あるある、だと思う。
ミントが、人間の女の子の姿となって降り立った。隣で、律儀に佇んで、
「先にも主人公様は実行されましたが、この電脳世界には、エフェクトを纏う物体や箇所が存在いたします。そのエフェクトは、そこでアイテムを入手することができる、という合図であるため、既に主人公様が実行されたように、先のようなエフェクトを発見した際にも、ぜひとも確認なされると良いでしょう」
と言って、付近にあった木の棒へと目を向けた。
それを目で追うと、そこには、木の棒がエフェクトを纏っていた。
主人公アレウスは、それに飛び付く。それを手にすると、『木の棒を入手した』のテキスト。
メニューを開き、装備の欄を覗いた。そこには、『木の棒』の文字。
直ぐに装着をする。すると、手元には木の棒が現れたのだ。
「やった……! 念願の武器だ!!」
主人公アレウスは喜んだ。それを掲げて大いに喜びを示すものだが、次の時にも、その熱はフッ、と冷める。
……まぁ、あった方が良いに越したことは無いが。しかし……このひ弱そうな棒で、立派に戦い抜けるものなのだろうか……。
あからさまな表情を見せた主人公アレウス。それに対し、ミントは、
「贅沢は言っておられません。護身用として、念のために身に付けておく方がよろしいかと」と言って、説得された。
だよなぁ。
それに頷いて、主人公アレウスは初の武器となる『木の棒』を握り締めた。
これで、戦える。これで、先のようにゴブリンと出くわした際にも、選択肢は逃げの一手ではなくなったということだ。
――それを思うと、なんだか急に、このひ弱そうな『木の棒』が心強く思えてきたぞ。
武器を振ってみる。それは軽かったために、攻撃の出はとても速かった。メジャーな武器で例えるとなると、これはダガーのような部類として考えられるだろうか。
……あれっ。これ、もしかして相当強い武器なのでは……? 気付いてしまったそのことに、主人公アレウスの目が光り出す。
「ミント!! 俺――なんだか、負ける気がしないぞ!!!」
「そうでございますか……」取り敢えずと反応するミント。そんな少女の反応を待たずに、主人公アレウスは興味が向いたその光景へと注目していた。
生い茂る草木。そこには、アイテムの目印であるエフェクトなんてかかっていなかったが、次にも脳裏に過ぎった『薬草』……? という僅かながらの期待に背を押されるなり、その草木を目撃しては駆け寄って、主人公アレウスはただの草木を漁り出したのだ。
――そして、主人公アレウスは雑草を手に取り、口に含み始めた。
「っはむッ、っもしかしたらッ、もぐ、こういうのでも、はむっ案外、もぐッ回復、もぐっできるかも、しれな――ブっ、ゴッッ ホ、」
雑草を噴き出して、吐き出す。
…………しかし、それでも僅かながらの期待を込めてチャレンジを止めない主人公アレウス。そんな彼の姿を目にしたミントは、ただ、奇怪なモノを見るような目で、その主人公のチャレンジを眺め遣っていた――――
・メインクエスト:〈フィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地〉の〈花畑エリア〉へと向かい、とあるNPCと出会う。