〈フィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地〉
現在のステージ〈フィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地〉
・絵に描いたような、大自然。現在地は、丘の高台。他、魔力が含まれた青空の天井。流れ往く雲の群。眩しい太陽。天高く飛ぶ、鳥、モンスター、竜、そして……メカニックな飛行船。
・奥には、漠々たる山脈。所々に空洞。上から落ちてくる滝。崖際の巨大な城。浮遊する岩石を周囲に漂わせ、熱風、山の尖端に雷。
・丘の高台の下には、平原や森林。平原には、序盤のモンスターが徘徊している。森林は、深い緑で覆われている。又、竜が住んでいそうな、果てしない湖。おんぼろの館。魂のようなものが徘徊し、森から巨大生物が顔を出している。
冒険が始まった。
早速と見遣った、その大自然の光景。
〈フィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地〉。左上に表示されたテキスト。
――自由だ。この景色に、最初に思い浮かべた言葉は『解放』だった。
何をするにしても、自由である。それは、オープンワールド系のゲームの、最大の売りでもある。
ただし、それを一口に自由と言えども、それも全てはれっきとした目的があってこその、自由。
こういうものには、ストーリーを進める最中の寄り道にこそ、神秘なる未知が秘められているというものだ。
主人公アレウス・ブレイヴァリーはメニューを開いた。
勇敢なる魂。この胸に宿る、主人公にのみ使用できる特殊な能力。
メニューを開くと、この胸から溢れ出した水縹の輝き。それがホログラムとなって、目の前に現れる。
表示されたメニューに目を通してみた。
まず目に入ったのは、この周辺を表すマップだった。なるほど、これで地形を確認することができるのか。
画面を切り替えた。
流れるホログラム。次に映ったのは、この大陸の全体マップ。自身の場所は開けているが、その他の領域には雲がもくもくとしていて確認できない。その領域に足を踏み入れることで、その地域のワールドマップが解放されるのだろう。
画面を切り替える。次に映ったのは、自身のステータスだった。
攻撃力。防御力。HP。機動力や会心率といった数値。だが、そこにはレベルという概念が存在していなかった。
あれ、と思い、
「ミント」と呼び出す。
「ご用件を、どうぞ」球形の妖精が現れた。
少女に、レベルを尋ね掛けてみる。それを聞くなり、ミントは、
「こちらのゲームには、主人公の実力を表すレベルが搭載されておりません。ステータスを上げるには、装備を着用する必要がございます。尚、敵にはレベルが設定されているため、その敵の強さを測る際の目安としてその数値に着目してみてください」
と言って、この勇敢なる魂の中へと戻っていった。
続いて、画面を切り替えた。
そこに映ったのは、所持アイテムの欄。空っぽで、もの寂しい空間が広がっていた。
続けて、装備の欄。これも、空っぽだった。……装備が、空っぽ……?
画面を切り替えると、クエスト、という欄に辿り着いた。
それを映すなり、直ちに飛び出してきたミント。球形の妖精姿から、瞬時にして人間の少女の姿へと変身する。
律儀に佇み、「メインクエストの確認ですね」
と言って、その画面へと移り変わった。
空っぽだった欄に、クエストが一気に追加される。
その一番上には、メインクエスト、の文字。この下には、サブクエスト、の文字がずらりと並んだ。
メインクエストを見る。そこには、『〈フィールド:ガトー・オ・フロマージュの豊かな地〉の〈花畑エリア〉で、とあるNPCと出会う。』と記されていた。
サブクエストを見る。そこには、サブクエストの数で圧倒された一覧が表示された。文字がずらりと並んでいて、それぞれを選択するとその発生場所までの案内が映し出されるのだ。
それじゃあ、まずはメインクエスト。とあるNPCと出会う、をこなすべくその欄を選択した。
赤い軌道が、今いる丘の下へと伸びる。
矢印だ。そのメインクエストの発生へと導く案内。それを確認して、それじゃあ冒険を始めようと主人公アレウス・ブレイヴァリーはとうとう動き始めていく。
メニューを閉じると、ミント・ティーも球形の妖精姿となってこの胸に戻る。
そして、再びと景色に向けたこの視点。今も展開される電脳世界ファンタジーの、その世界に蔓延る〈魔王〉の野望を食い止めるための冒険物語が今、開始されたのだ――
地平線の隅から隅まで凸凹と連なる山脈。魔力を帯びた青空と、そこで泳ぐようもくもくと流れ往く雲の群。
小ざっぱりとした平原を徘徊するモンスターの姿。内部がうかがえない、生い茂った深い森林。
今いる高台から眺めたその光景に、探求心が湧き上がる。
早速と、歩き出した。
このまましばらくと歩いていくと、そこには身の毛もよだつ断崖。
落ちたら、即死は確定か。その奥行きに危機感を覚えるが、しかし、この地に降り立つ時にも披露してくれたミントのバリアーが、とても心強くも思えた。
つまり、高い所から落下してしまっても、少女が助けてくれる。勇敢なる魂にはそういう能力もあるんだ。
特殊能力という言葉を心から信じていた。そして次の時にも、主人公アレウス・ブレイヴァリーはこの断崖から思い切りと飛び降りる。
――落下。それは、魂が引き剥がされるような感覚を覚える。
普通であれば即死の高度。そこから飛び降りたこの感覚は、実にスリリングで、とても愉快なものであった。
「このまま、一気に距離を稼ぐぞ!」
その意気込みのまま前進を続け、そして、そろそろと迫った着地に備えて、ミントへと指示を送った。
「ミント!! さっきのバリアーだ!!」
「そのような機能はございません」
「えっ」
――懐から現れる球形。
「先のバリアーでございましたら、あちらは進行したメインクエストをよりド派手にする演出に過ぎません」
「えっ」
「よって、先の落下ダメージ無効化のバリアーを使用することは、現時点では『不可能』でございます」
「えっ」
――ドシャッ。鈍い落下音が響くと、同時にして、ズンッと圧し掛かった大ダメージ。
両足で着地をすると、残りのHPが瞬時に消滅。カンストを超えたダメージを受けると、主人公アレウス・ブレイヴァリーは前のめりになって、その場に倒れ込んだ…………。
〈ゲームオーバー〉
〈リトライしますか? →はい〉