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二代目魔王の俺が勇者と共謀して小麦からパンを作るようになった話

作者: 彩葉
掲載日:2018/12/06

初めて手を出すジャンルと文体です。

お手柔らかに、気軽にどうぞ。

 雷鳴轟き、毒沼が辺りを囲む魔王の城。

その最深部にて、魔王は息子と臣下に囲まれ、その生涯を終えんとしていた。


「我がせがれよ……お前には次期魔王として、サターンの名を授ける」

「悪いが親父、俺は魔王になる気はない」


「我がせがれ、サターンよ……魔族の未来はお前に委ねた……」

「だから親父、俺、魔王になりたくない」


「……せがれ、サターン……勇者を、倒せ……」

「聞けよ親父、俺魔王にならねぇって」


「せが、サターン……」

「親父ぃぃ!」


 こうして俺は、強制的に二代目魔王に君臨させられる事になった。

解せぬ。

大体俺はインドア派なんだ。

何でわざわざ人間と戦わなきゃならねぇんだ。


「もうやだ、平和に生きたい。パンとかケーキ焼いて生活したい。カタギになりたい」


 しかし俺の願望など、魔族を束ねる魔王として許されるはずもない。

毎日魔物達は「血祭りヒャッハー」と騒いでいる。

野蛮すぎるだろ、世紀末か。


 とうとう我慢できなくなった俺は、明け方、皆が寝入った頃を見計らって魔王の城を脱け出した。


「ふぉぉぉ! 自由だー!」


 瞬間移動魔法と空間転移魔法を気まぐれに使い分けながら、バンバン移動する。

目指すは……そうだな、ひと気が少なくて見晴らしが良い、自然豊かなオーシャンビューだ!


 と、調子に乗って移動している内にMP(マジカルパワー)が切れてしまった。

うっかりうっかり。

周りを見渡すと木々ばかりだ。

どこの森だろうか……ん?


「「あ」」


 いかにも「勇者です」って出で立ちの若い男と目が合った。

何その金の兜。

何その金の鎧。

何その伝説の大剣。


「「わああぁあぁぁぁ!?」」


 殺される! 早く逃げ、いやMP(マジカルパワー)切れてた! やばい逃げられない!


「「すいませんどうか命だけは!」」


何だ?

さっきから俺の声が誰かと被って……

……まさか、こいつ?

嘘だろ、おい。


「……あの、つかぬ事をお伺いしますが、あなたは勇者様、ですか?」

「アッハイ。勇者です……」

「アッハイ、そうですか」


 もう一度言う。嘘だろ、おい。


「あの、こちらもお聞きしたいんですが、もしかしてその出で立ちは、魔王様、ですか?」

「まぁ、一応……先日父が死んで、二代目として就任した魔王です」

「そ、それはお悔やみ申し上げます」

「あぁ、ご丁寧にどうも……」


 ナニコレ。

何で俺達森の中で頭下げ合ってんの。


「あの、僕の事を倒しに来たんじゃないんですか? 僕、まだ旅立って日が浅いんで、多分一撃で死ぬと思うんですけど……」


 あぁ、だからあんなにビビってたのか。

俺はビビってなかったけどな。

ビビってなかったけどな。


「いや、俺は魔王の城を家出してきたんだ。だからお前をどうこうする気はねぇよ」

「えぇ? 家出? 何でまた……」


 目を丸くする勇者に、何となく「こいつになら言っても良いかな」って気になる。

これが主人公補正って奴か。

俺は切り株に腰掛け、口を開いた。


「俺は、戦いとか興味ねぇんだ。夢もある。平和な所で、絵を描いたり、パンとかケーキ焼いて、労働の汗を流して堅実に生きたいんだ」

「素敵な夢じゃないですか」


「だが、魔王がそんな事言おうもんなら、下手すりゃ内乱どころか世界が滅ぶ。それで、何も言わずに逃げてきた……」

「そんな……」


 勇者はすっかり俺に同情している。

ははっ、ちょろいもんだ。

疑いもせず、簡単に俺の言う事を信じやがる。

なんて単純!

なんて世間知らず!

 

 そしてなんて良い奴なんだ!

決めた。

俺こいつと友達になろう。


「そういやお前は何で勇者になったんだ?」

「何でって……伝説の剣を抜いちゃったからですけど」


何それ、剣抜くだけで勇者になれるとか人間の採用基準て意味わかんね。


「僕は元々、農夫なんですよ。小麦とか、イモを作ってました」

「小麦……だと……?」

「結構質が良いって評判だったんですよ。……まぁ、勇者にはもう無縁な仕事ですが」


 肩を落とした勇者を見る限り、多分農夫の仕事に未練があるんだろうな。

あ、ちょっと待って、


「閃いた! 勇者よ、お前、早く魔王の城(俺ん家)行って魔物殲滅して来いよ。そしたら俺、降伏するから。速攻白旗上げるから!」

「むむむ、無理ですよ。僕まだレベル4なんで、下手すりゃスライムにやられますよ!」

「ごめん言わせて、弱すぎない?」


 俺の策は一瞬で砕け散った。

どうしたものか……


「……あの、だったら魔王様が魔物を屈服させて、言う事を聞かせたら良いのでは……」

「無理だよ。俺、インドア派だし、戦いとか、マジでムリムリホッカムリ」

「……魔王様のレベルは……?」


 あぁ、それ、聞いちゃう? この流れではあんま言いたくないんだけど……


「…………まぁ、うん。96、かな……」

「……じゃあ魔王様が魔物達を力でねじ伏せるって事で」

「それは嫌ぁー!」




 それから数日間、俺達は特訓に特訓を重ねた。


 準備が整った頃、俺は勇者を連れてこっそり魔王の城へ帰還。


 そして配下達の前で大立ち回りを演じ、俺は見事に地に倒れた。


 配下達の前で降伏を宣言し、逆らう奴は異空間転移魔法で旅立ってもらった。


 勇者は魔王軍を倒した英雄として、一時は持て囃されたものの、最近は大分落ち着いたようだ。


 そして現在──


「よっしゃあ、新作パン売り切れ御免! さすが俺!」

「おめでとうございます! 魔王様!」

「いやぁ勇者様ブランドの小麦粉のお陰だって、マジで」


 俺達は小麦畑とパン屋の共同経営をしている。

俺の手が空いた時は畑を手伝い、勇者の手が空いた時はパン屋の客寄せをしてもらうのだ。

人気は上々で、田舎にも関わらず、遠方から来る客も多い。


「それにしても、忙しいけど充実してますね! 魔王様!」

「労働の喜びって奴だな! 勇者様!」


 俺達は光る汗を拭いもせずに、小麦畑を赤く染める夕日を見上げた。


「目指すは店のローンの返済!」

「頑張りましょう!」


 俺達の戦いはこれからだ!




──魔王様へのご声援、ありがとうございました。

魔王様の次回作にご期待下さい。


 (尚、次回作は未定です)


割りとありがちな話なので、誰かとネタが被ってたらどうしよう病が発症しました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 企画より拝読いたしました。 先代魔王様の見た目がもう、柔道服を着ているあの人にしか…… 私は元々セガ派だったので、ぶっ刺さるネタでしたね^^ それはそれとして、オーソドックスなネタかも…
[気になる点] 新作パンとはなにパンですか? [一言] ケーキを作るために、酪農にも手を出すのですね。 こだわりのミルクで作られた生クリームたっぷりのショートケーキ。 ミルクから、チーズも作ればチーズ…
[一言] 流石彩葉さまのノリツッコミ。楽しく読ませていただきました。 魔王様と勇者様のパン屋さん、熱いですね!パンで世界征服が叶えば、魔王のお父様も浮かばれますね! 店のローン完済頑張って欲しいです。…
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