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064 正真正銘、これが私の全力です

 四回目ともなれば、もう馴れたものだ。

 ギガントオーガとの三度の戦闘によって大きくレベルアップしたソラ。

 堅い防御は未だ貫けないが、上昇した身体能力と、とうに見切った攻撃パターン。

 大振りの一撃に当たる気はもはや微塵もしない。


「チャージ完了、いつでも撃てるわ!」

「らじゃっ、ドカンといっちゃって!」


 ソラは軽々と一分半の囮を務めきり、リースの魔力チャージは完了した。

 あとは今まで通り、前のめりに倒れた敵に、トドメの一撃を食らわせるだけだ。


「言われなくても……! フォトン……ブラスターッ!」


 巨人目がけて発射された極大の光の柱は見事背中に命中し——その体を貫通した。


「……あれ?」

「……あら」


 胸の中心を貫かれたギガントオーガは、ゆっくりと膝を付き、地響きと共に倒れる。

 度重なるレベルアップによって、リースのフォトンブラスターの威力は、とうとう敵の防御力を上回ったのだ。


「ちょ、あたしの出番は!?」

「あらあら、ごめんなさい。私一人でやっつけちゃったみたい」

「ぐぬぬ、一人じゃないし! ソラ様が囮を引き受けたおかげだし!」

「そうね、その通り。感謝するわ、お・と・り・さん」

「ぬむむむむむ……! あたしはまだ防御を抜けてないのに……!」


 レベルで下回るはずのリースに先を越されてしまった。

 ライバル意識も手伝ってか、ソラはもの凄く悔しがる。


「次、次のヤツ倒しにいこう! 今のレベルアップであたしも防御抜けるようになった気がする……ってか間違いなくそうなった! だから次はあたし一人でも——」

「アホっ子、ムキになってないで気配探ってみなさい」

「……気配?」


 言われるがまま、気配を探ってみる。

 すると、彼女の索敵可能範囲内にギガントオーガの気配はゼロ。

 レベルアップにより2キロ四方を探れるようになったが、それでも全く気配を感じない。


「これってもしかすると、全滅……?」

「そのようね。あの人もこちらに向かって来てるし」


 リースの言葉通り、ローザの気配がこちらに凄まじい速さで向かっている。

 彼女が来るという事は、やはりこの山麓のギガントオーガは全滅したのだろう。


「そんなぁ……、あたしの汚名挽回はどうすんのさ!」

「汚名挽回なら絶賛進行中よ、アホっ子」


 そうこうしている内に、二人の元にローザが到着する。

 広大な山麓を駆け回っていたにも関わらず、彼女は息一つ切らしていない。


「二人とも、無事で良かった。この戦いでも、また随分腕を上げたみたいだな」

「でしょでしょ、この調子ですぐにローザさんも追い抜いてみせるから」

「楽しみにしている。ところでリース姫、あれにはお気づきでしょうか」

「あれ、とは……」


 ローザが指さしたのは北、王都の方角。

 立ち上る煙が、ここからでもわずかに見て取れる。


「火の手……? それも王都の方向から……」

「私の懸念は、当たってしまったようだ。事は一刻を争います。ひとまずは境界外の拠点へ急ぎましょう、詳しくはそこで話します」

「わ、わかったわ……」


 ローザと共に、ソラとリースは拠点へと急行する。

 王都に何が起こったのか。

 モンスターの出現と何か関係が。

 逸る気持ちを抑えつつ、リースはローザの後に続いた。



 境界入り口に設けられた拠点は、傷を負った生還者で溢れ返っていた。

 リースが治癒魔法をかけて回る傍ら、ローザの仮説が一同に説明される。

 その内容に大きく心を乱されるが、目の前には苦しんでいる人たちがいる。

 取り乱さぬように自分を制しながら、リースは治療を続けた。


「なるほど、この場所への襲撃は私たちを王都から引き離すためのものだった、と」

「実に姑息。今すぐ取って返して、タイガの怒りを叩きつける」


 冷静に事態を把握するテンブと、義憤に駆られるタイガ。

 ルードは興味無さげに腕を組んでいる。


「よし、私達四人は今すぐ王都に戻る。全速力で飛ばしていくぞ!」

「待たれよ、我ら騎士団も共に行く」


 進み出たのはティアナ。

 白馬に跨り、二十人の精鋭を引き連れた姉の姿に、ソラは騎士団長の風格を見た。

 彼女が自分の姉だと知られると色々ややこしいので、この場では他人のふり。


「私を含め、救助に当たった人員はローザ殿らのおかげで無傷。何より我らが剣は王に捧げし、王を守る刃。今この時に戦わずして、何が騎士団か!」


 彼女の声に、付き従う騎士は意気を上げる。


「わかりました、共に行きましょう。参加者の諸君は消耗が激しい。この場に残っていてくれ」


 ローザの言葉にゴドムは悔しげな顔を浮かべ、ダグは心の底から安堵した。


「よし、では行くぞ!」

『応ッ!』


 ティアナの号令に合わせ、鞭が入る。

 彼女の駆る白馬が先頭に立ち、騎乗した騎士の一団が一路、王都へ駆け抜ける。

 全速力の馬と同等以上の速度で、ローザたち四人も続く。

 そして——。


「……姫殿下。何故残らなかったのです」


 ティアナの馬が走り出す直前、リースは彼女の後ろに飛び乗っていた。

 お転婆姫の思いきりの良すぎる行動はいつもの事だが、今回はどこか様子が違う。


「我が国の危急に、安全な場所で何もせず待っているなど、私には出来ないわ」

「そうですね、貴女様はそういうお方だ」

「私の愛するこの国は、私の手で守ってみせる。たとえこの命に代えても……」


 体に回したリースの腕に力がこもる。

 長らく平和が続いているこの時代に、このような事が起こるなど誰も予想だにしなかった。

 平常心でいられないのはティアナも同じだ。

 それでも、騎士として彼女の言葉は看過できない。


「命に代えてもなどと、軽々しく仰らないで頂きたい」


 静かな、しかし強い口調で諌める。


「貴女様は王族、アーカリア王国第三王女でしょう。戦いに出る、大いに結構。ただし自らの命をいたずらに投げ出す事だけはなりませぬ。貴女の抱く責任の重さ、どうかお忘れなきよう」

「……そうでしたわね。生まれ持った責任の重さから逃げ出さない、それが私の生き方ですのに。失言でしたわね」


 強張っていたリースの表情が、自信に満ちた勝気な顔に変わる。

 気負いが抜けて、普段の調子を取り戻した姫に、ティアナも笑みを浮かべる。


「共に戦いましょう。貴女様の命は、私がお守りします」

「ええ、頼みにしているわ。……ところで、あなた本当にあのアホっ子の姉なの?」

「……自慢の妹ですよ。あれでも」


 二人揃って後ろを振り返る。

 最後尾、ローザのそのまた後ろを全力疾走で必死に付いてくるソラ。

 あれでは王都に付く前に体力を使い果たしてしまうのでは、と心配になってしまう。

 ティアナとリースは彼女の様子に、顔を見合わせて苦笑いを浮かべる。

 戦い抜く覚悟は出来た、再び気を引き締め、リースは前を睨み据える。

 このような蛮行、許してはおけぬ。

 腰に差した剣を握り、煙を上げる王都を見据え、逸る気持ちを抑えつける。


 徐々に近づいてくる街並み。

 南区画から上がる火の手は、もうハッキリと見通せる。

 その上空で展開される圧倒的な戦い。

 恐るべき力を秘めた三匹の竜王を相手取り、天空を華麗に舞う少女の姿を、既にローザはその目で捉えていた。




 ○○○




 ポーチから取り出した赤い腕輪。

 次元龍素材から創り出したアイテムの中でも特に強力な力を秘めていたこれを、セリムは今まで一度しか使っていない。

 その一度で地形を変え、山を一つ消し飛ばし、危うく大惨事となりかけた。

 人里離れた場所だったため幸い死者は出なかったが、この強大過ぎる力は以降完全凍結。

 二度と使うまいと心に誓った、正真正銘セリムの全力だ。


「もう一度これを使う日が来るとは思いませんでした。名無しのドラゴンさんたち、誇っていいですよ」


 右手に光る腕輪の力は、下手をすれば王都を丸ごと焦土にしかねない危険物。

 もっとも、その威力は既に把握済み。

 周りに何も無い上空二百五十メートルのこの場所なら、存分に力を振るえる。

 セリムは足場を消し、重力に任せて落下を始めた。

 セリムの周囲を旋回していた一匹が、チャンスと見て真っ直ぐに突っ込んでくる。

 様子見をしていた二匹の竜も、同時に火炎弾を浴びせかけた。

 くるくると回りながら、火球を拳圧で掻き消すセリム。

 天翔の腕輪の力で直下に足場を生成し、軽やかに着地。

 ドラゴンはその大口を広げ、既に目前まで迫っている。


「わざわざ攻撃の届く場所まで来て下さって、ありがとうございます」


 清楚なお礼の言葉と共に、猛スピードで飛来した巨竜を真横に跳んで回避。

 同時に生成した縦向きの足場を蹴り、三角飛びでドラゴンの横っ面に突っ込むと、右の拳で殴り抜けた。


 ——ギギャアアァァァァッ!!!


 ドラゴンの悲鳴が響き渡る。

 だが、殺すつもりで打ってはいない。

 こんな巨体が街に落下したら、大きな被害が出てしまう。

 一瞬怯み、動きを止めた敵。

 その隙にセリムは更なる足場を作り、その足場を利用してサマーソルトキックを放った。

 顔面を蹴り上げられ、上空高く吹き飛ぶ巨竜。

 その間にも二匹の竜が火球を飛ばすが、ことごとく拳圧で撃墜。

 一回転して着地したセリムは、五十メートル上に吹き飛んだ竜の巨体に右手をかざし、魔力を解き放つ。


「さあ、派手に爆発しちゃってください!」


 赤い腕輪が輝き、セリムの前方の空間に、うねうねと歪む巨大な穴が開いた。

 セリムを苦しめた次元龍の能力の一つ、亜空間から物体を呼び出し、攻撃に転用する力。

 その力が宿った腕輪は、無限に広がる無数の時空間の中から、自身が深層心理で最も望む攻撃手段を持った物体を呼び出す。


  ————————————————


   龍星の腕輪


   レア度 ☆☆☆☆☆


   次元を旅する龍の魔力が

   込められた赤い腕輪。使

   用者が最も深く望む最強

   の攻撃手段を、亜空間か

   ら呼び出す。


   創造術クリエイト

   次元龍の心臓×玻璃珊瑚ハリサンゴ


  ————————————————


 セリムが開いた次元の穴から飛び出した物体、それは直径八十メートルはあろうかというゴツゴツした巨大な塊。

 黒ずんだ岩のようなその物体は、四十メートルの巨竜に猛スピードで激突し、その巨体と共に上空高く打ち上がる。

 空気を切り裂く轟音と共に瞬く間に雲の彼方、高度一万メートルまで到達。

 その遥か下、セリムは火球を薙ぎ払いながら見上げると、パチン、と指を鳴らす。


「流星爆弾、メテオボム。特別サービスの大玉です」


 巻き起こるのは、第二の太陽が現出したかのような未曾有の極大爆発。

 爆心地のヴェルム・ド・ロードは、塵一つ残さず一瞬で消滅。

 王都上空に立ち込めた分厚い雲は綺麗に吹き飛び、爆煙が晴れると雲ひとつない青空が出来上がる。

 高度一万メートルからの衝撃波(ソニックブーム)はわずかながら地表まで届き、逃げ惑っていた民衆は揃って天を仰いだ。


「あと二匹ですね。ちゃっちゃと片付けちゃいましょう」


 パンパン、と両手を払うと、遠巻きに見つめていた二匹のドラゴンに微笑むセリム。

 高い知能を持つ竜の王は、接近戦は絶対に駄目だと判断する。

 しかし、遠くから火球を撃っても掻き消されるだけ。

 逃げ出すという選択肢は、命令・・によって最初から存在しない。

 次の行動を揃って決めかねていると、


「来ないならこっちから行きますよ?」


 セリムは一足飛びでドラゴンの目前に飛び込む。

 半ば恐慌状態で飛び退く巨竜に向け、セリムは再び右手をかざす。

 命の危機を感じた竜は、土壇場で起死回生の一手を閃いた。


「あらあら、そんな手を使うんですか」


 二匹の竜はセリムの下に回り込むと、王都の街並みを背後に飛ぶ。

 これならばあの流星爆弾は使えない、とでも思っているのだろう。


「街を攻撃しないところをみると、敵の命令の強制力はかなりのものですね」


 火球を打ち消しながら足場を飛び渡りつつ、セリムは状況を分析する。

 名無しのドラゴンさんに下された敵の命令は、恐らく自分の足止め。

 街の破壊は命令に含まれていないため行わない——正確には行えない、そんなところか。


「何にせよ、そんなその場しのぎの手で今の私は止められません」


 眼下のドラゴン、その一体を見据え、セリムは右手を天高くかざした。

 その手の上に小さな次元の穴が開き、飛び出したのは無数の流星群。

 セリムの右手をわずかに掠める(・・・)と、流星は眼下の竜に向けて直進する。

 巨竜は大きく翼を広げ、回避を試みるが——。


「もう逃げられませんよ?」


 真横に飛んで逃走するドラゴンを、流星群はまるで意志を持っているかのように追いかける。

 絶対投擲インペカブル・シュート、その追尾性能を、セリムは右手に触れた一瞬で全ての流星に込めた。

 縦横無尽に飛び逃げるヴェルム・ド・ロードを、流星群は命中するまで追尾し続ける。

 竜の飛行速度よりも、流星の速度は上。

 前後左右、縦横無尽に飛び逃げる巨竜だったが、やがて追いつかれ、命中した流星は大爆発を起こす。

 タイマーボムの数十倍の威力を持つ爆発は、巨竜の黒鱗の防御性能をも貫く。

 爆発に捕まったが最後、次々とその巨体に流星群が突き刺さり、巨竜の全身は爆発の渦に呑まれる。

 爆発の連鎖が終わると、巨体を誇ったドラゴンは灰も残さず消滅していた。


「残り一匹。さて、あなたは……」


 視線を向けられ自棄やけになったヴェルム・ド・ロードは、遮二無二セリムに突進をかける。


「復興資金になってもらいましょうか」


 最後の一匹は爆殺禁止。

 その巨体は余さず資材になってもらおう。

 龍星の腕輪をポーチに納めると、突っ込んでくる敵にめがけて真っ直ぐ飛ぶ。

 まずは王都上空を出て行ってもらわなければ。

 手加減しつつの右ストレートを眉間に叩き込む。

 怯んだ敵の胴体めがけて飛び下り、一回転しての回し蹴り。

 絶大な衝撃に猛スピードで弾き飛ばされたドラゴンの背後へ一瞬で回り込むと、城郭の外、南方向へと狙いを付け、思いっきり蹴り飛ばした。

 背骨が折れ、虫の息となったドラゴンは、めでたく城郭の外へ。

 セリムも後を追い、吹き飛ぶ敵に当然のように追いつくと、眼下に広がる草原に誰もいないか確認。

 安全確保、叩き落としても問題無し。


「これで終わりです」


 正真正銘、手加減なしの右ストレート。

 巨大な頭蓋骨が陥没し、巨竜は絶命しつつ真っ逆さまに墜落。

 砂煙を巻き起こし、ぐったりと横たわった名無しのドラゴンさんを見て満足気に頷くと、セリムはすぐにアーカリア王とマリエールの気配を辿る。

 果たして無事に逃げおおせただろうのか。


「……まだ、王城には戻っていませんね。大体貴族街への門辺り——っ、この気配!」


 アーカリア王らの気配の間近に、あの赤目の黒フードの気配を感じ取る。


「まずいです、これはまずいですよ……!」


 今すぐ向かわねば、取り返しが付かないことになる。

 セリムは王都上空を飛び渡り、気配の方へと急行した——今の戦いが、数多くの人間に見られていた事に気付かぬまま。

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