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170 常夏の楽園で、とても凄い変態を見ました




 波の上を、白いマストを広げた帆船が軽快に走る。

 視界の彼方に見えるのは、山頂から煙を吐き出す島影。

 船首から身を乗り出したクロエは、海風を体に浴びながら歓声を上げた。


「おぉ、ついに見えた! あれがベリエン島だよね、ジュリーさん!」

「そっスよー。キーラ火山、今日も元気に煙を上げてるッスねー」


 レムリウスのあるアストラス島から船で約一日の距離。

 出港翌日の昼頃、セリムたちを乗せた帆船はベリエン島を目前にしていた。


「あそこに魔石晶の鉱脈があるんだね……! どうしよう、どれだけ持っていっていいのかな……!」


 ソワソワと落ち着かない様子のクロエ。

 鉱石のことになると、彼女は目の色が変わってしまう。


「落ち着きなさい、遊びに行くんじゃないんだから」

「わふっ」


 テンションが上がり過ぎないすぎないよう、頭にターちゃんを乗せたリースがやんわりとたしなめる。

 しかしクロエは鼻息荒く、リースに顔を近付けて捲し立てた。


「落ち着いてらんないよ! だって未知の実験サンプルが山のように手に入るんだよ!?」

「わ、分かった、分かったから……。顔近い……」


 相も変わらずパーソナルスペースが近いクロエに、顔を赤らめて仰け反るリース。

 普段のセリムなら、ここで「わぁ、素敵です」とでも言いそうなものだが。


「……はぁ」


 彼女は船のへりに肘を乗せて、ため息混じりにぼんやりと海を眺めていた。


「セリム、大丈夫? 船酔いとかしてない?」

「平気です……、ありがとうございます、ソラさん」


 結局出港してからも、セリムの元気はないまま。

 恋人である自分にも事情を話してくれないセリムに、どうしたものかと頭を悩ませていると。


「うふふ、お困りのようですわね、ソラ様」

「うわ、出た」


 満面の笑みを浮かべたメイドが登場。

 その後ろには、なんだか死んだ目をした魔王様がおられる。


「セリム様に元気がない、恋人として何も出来ない。お辛いでしょう、分かりますわ。そんな時はおもいっきりイチャイチャするに尽きますわ」

「イチャイチャって言ってもね……。しようとしても、セリムが嫌だって言うんだよね。もうずっとそんな感じでさ」

「だったらまずは雰囲気作りから、ですわ。そこでソラ様、わたくし良いものをご用意させていただきました」


 一体なにを企んでいるのか。

 もの凄く怪しみながらも、ソラは船の中へと案内されて、船底近くまで連れて来られる。

 とある船室の前でメイドは止まり、優雅に、かつ下心にまみれた表情でお辞儀をした。


「さあ、どうぞこちらへ」


 嫌な予感しかしないが、言われるままに扉を開ける。

 すると。


「……うっわ、なにこれ」


 室内には、所せましと大量の水着が。


「うふふ。ジュリーの輸送してきた積み荷の中に水着を発見しまして、少しだけ使わせていただけないかと交渉させていただきました」

「で、あたしらがこれ使っていいって? よくこんなにオッケーもらえたね」

「リバイアスホエールの件をチラつかせたら、あっさりと了承して頂けましたわ」


 あー、このメイドならそんくらいするだろーな、と思うソラ。

 そこで気になるのは、先ほどから死んだ目をした魔王様。

 水着を着て泳ぐだけなら、メイドに視線で孕ませられそうにはなるだろうが、実害はいつも通りのセクハラだけなのでは。


「……ねえ、マリちゃん。さっきからどうしたのさ。セリム並に元気ないよ?」

「のぉ、ソラよ。マイクロビキニ、知っておるか」

「まいくろ……?」

「とてつもなく布面積の小さな水着のことだ……」


 あぁ、まさかそういうことなのか。

 うっきうきなメイドの様子も、死にそうなマリエールの様子も、全てに納得がいく。


「マリちゃん、嫌なものは嫌だって言おう? 裸同然の格好で泳がされる前に、せいいっぱい抵抗しよう?」

「……無い、のだ」

「え? 無いって何が?」

「アウスが譲ってもらった水着の中で、余が着られるサイズのもの。まともな物が、無いのだ」


 その時、ソラは初めてアウスの笑みに対し、心底からの恐怖を感じたという。


「と、言うか、余の着られるサイズの水着の中で、一番マシなのが、マイクロビキニだったのだ……」


 最初から、逃げ道は全て塞がれていた。

 抵抗する意味など、最初から存在しなかった。

 マリエールは、最初から詰んでいた。

 全ては無駄な足掻きでしかないのだ。


「戦う前から勝利を決めよ。古代より伝わる、戦の格言の一つですわ」


 優雅に微笑み、震えるソラの横をすり抜けて、室内へ。


「さあ、ソラ様。セリム様の分もお選びになって良いのですよ。おっぱいのサイズもお尻のサイズも、よぉくご存じでしょう? うふふふふふ……」


 勝てない。

 絶対的な強者を前に、ソラとマリエールは恐怖に慄くのみであった。




 ○○○




 ベリエン島。

 レムライアを構成する主要四島の一つで、人口は第三位。

 東側に都市部、西側には大自然と原生林、そして噴煙を上げ、海に溶岩を流し込む活火山、キーラ火山が存在する。

 船は街には向かわず、西側の自然の海岸に船を寄せ、錨を下ろした。


「さあ到着ッス! 上陸には小舟を使ってください!」


 船の脇に縛られていた、脱出用の小型ボートが海に下ろされる。


「ボクから行くね! あとリースも一緒に!」

「えっ、ちょっと、こら!」


 天井知らずのハイテンションのまま、リースをお姫様だっこで抱えてボートに飛び乗るクロエ。

 ターちゃんも一緒に、ぱたぱたと小さな羽を羽ばたかせて乗船。

 海の水は底まではっきり見えるほど透き通り、ボートがまるで宙に浮かんでいるように見える。


「もう、クロエったらはしゃぎすぎよ……」

「てへへ、ゴメンゴメン」


 至近距離で、お姫様だっこで見つめ合う二人。

 こんな光景を見せられても、


「はぁ……」


 セリムのテンションはずっとどん底のまま。


「ほら、セリム、あたしたちも行こうよ」

「……はい」

「セリムもお姫様だっこされたい?」

「さ、されたくありませんっ!!」


 やっと顔を真っ赤にして慌ててくれた。

 セリムは飛び下りて、ボートに軽やかに着地。

 ソラも続いて、最後に大荷物を背負ったアウスが死んだ目をしたマリエールの全身をまさぐりながら飛び下りる。


「ここからキーラ火山までは徒歩で数時間。危険地帯ってわけじゃないッスから、モンスターは出ません。それじゃあ、行ってらっしゃいッスー!!」


 ジュリーに見送られ、砂浜までボートを漕いであっという間に上陸。

 船を流されないよう、砂浜の奥まで移動させておく。


「よっしゃ、到着だよ! さっそく魔石晶、採りに行こう!!」

「そのことなのですが、クロエ様」


 やる気満々のクロエに、ニコニコ顔のメイドが近寄っていく。


「うん、なになに? アウスさんも楽しみだったりするのかな!」

「いえ、これは提案なのですが。どうでしょう、クロエ様とリース様、二人きりで採掘に行くというのは」

「……へっ!? リースと二人っきり!?」


 愛しの姫君に視線を送りつつ、分かりやすいほど顔を真っ赤にする。

 そんな鍛冶師の少女に、メイドは会心の笑みを浮かべた。


「二人っきりでの、あーんなハプニングや、こーんなイベントがあるかもしれませんよ? それに、二人っきりなら今より仲が深まるかも……。どうでしょう、悪い話ではないのでは?」

「うーん……。魅力的な提案だけど、アウスさんたちはどうするのさ」

「わたくしたちはお構いなく。こっちはこっちでお楽しみがありますから……。うふっ、うふふふふふふっ」

「わ、分かった、二人っきりで行ってくる……」


 なにやら悪魔の囁きに耳を貸してしまった気もするが、リースと二人きりになれるなら願ってもないことだ。

 セリムたちに話を通し、運搬用の時空のポーチを借りて、二人だけの魔石晶採掘が始まった。




 ○○○




 白い砂浜、照りつける日差し、透き通る海。

 絶好の海水浴日和の中、アウスはビーチパラソル、ビーチチェア、着替えるためのテントをテキパキと張っていく。


「……ソラさん。アウスさん、なにやってるんですか?」

「なにって、海水浴の準備だよ?」


 当たり前でしょ、と言わんばかりのソラに、セリムはきょとんとした表情。


「今から、ここで……ですか? 水着は?」

「全部用意されてるよ。ね、セリムも一緒に楽しもうよ!」


 両手をギュッと握られて、ソラの太陽のような笑顔を向けられて、胸のモヤモヤが和らいでいく。

 自然と、セリムの顔から笑みがこぼれた。


「……そうですね、せっかくですし楽しみましょう」

「あ、やっと笑ってくれた。にしし、笑ってるセリムが一番かわいいよ?」

「も、もう、恥ずかしいこと言わないでくださいよぉ……」

「んー、やっぱり照れてるセリムもかわいいかも」


 手を握り合ったまま、顔を真っ赤にするセリム。

 そんな彼女に対し、ひたすらかわいいを連呼するソラ。

 お熱い二人の様子を眺め、ルンルン気分で海水浴の準備を進めるメイドを見て、マリエールは深いため息をついた。


「はぁ……、お主らは良いな……。余の心に、もはや安息は訪れぬ……」


 これから恥ずかしい水着をつけて辱められる自分の運命を呪い、水平線を遠い目で見つめる魔王様。

 その直後、準備を終えたメイドにテントの中へ引きずり込まれた時、彼女は全てを諦めた虚無の表情を浮かべていた。




 水着に着替え終わったセリムが、テントからひょっこりと顔を出す。


「うぅ……、ソラさん、これ、すーすーします……。下着みたいで恥ずかしい……」

「下着じゃなくて水着だから平気だよ。ほらほら、出ておいで。あたしに見せてー」

「ひゃうっ!」


 恥ずかしがるセリムの手を引いて、むりやりテントから引っ張り出した。

 ソラが彼女に選んだ水着は、上下白のフリル付きビキニ。

 恥ずかしがって胸元を隠している分、すっかり育った胸の谷間が強調されている。


「すっごい似合ってる!! なんかもう可愛すぎるよ、セリム!!」

「だから、恥ずかしいこと、言わないで……」


 手を体の前で組んで、もじもじするセリム。

 褒められるのは嬉しいが、一つ気になることがあった。


「……あの、ちょっと聞いてもいいですか?」

「どしたの? サイズ合ってなかったとか?」

「いえ、むしろどうしてピッタリなのか、ってことです。ソラさんが選んでくれたもので、試着もしてないはずなのに……」

「簡単だよ。セリムの体のサイズなら、セリムよりも知ってるからね」


 思考停止。

 しばらくして意味を理解し、セリムの顔がボンっ、と真っ赤に染まった。


「あ、アホですか、ばかっ、へんたいっ、ソラさんのえっちっ!!」

「にしし、あたしも水着に着替えてくるねー」


 ニヤニヤしながらテントに逃げ込んだソラに頬を膨らませる。


「もう、もうっ! 信じられませんっ!」


 サイズまでぴったり当てられるほど、知られてしまっているのか。

 死にそうなくらいの恥ずかしさを紛らわすため、波打ち際で座っている、上下きわどい黒ビキニ姿のメイドのところへと向かう。


「アウスさん、隣いいですか?」

「ええ、どうぞ。一緒にこの絶景を楽しみましょう」


 メイドの視線の先には、頭だけを海面に出したまま、微動だにしないマリエールの姿。


「絶景、ですか……? 私にはマリエールさんの顔しか見えないんですけれど」

「海、透き通っているでしょう。きっとあなた様にも見えるはずですわ」


 言われるまま、視線を海の中へと向ける。

 ゆらめく海面の下、ぼんやり見えるマリエールの体は、ほぼ何もつけていなかった。

 かろうじて、胸の頂点と下半身が、小さな布で隠されている。


「うふふふふふふふふふふっ、うふふふふふふふふふ……。素晴らしい光景でございましょう?」

「ひっ……!」


 メイドが浮かべる邪悪極まりない笑み。

 心底からの恐怖に震えて、セリムはソラの着替えるテントへと駆け出した。


「おっしゃ、着替え完了!」

「ソラさん……っ、ソラさん……っ!」

「んにゃ? どったのセリム、そんな慌てて。セリムの脱いだ服にいたずらとか、別にしてないよ?」


 ソラの水着は、青と白のストライプ模様のワンピースタイプ。

 少し子供っぽいかな、とも思ったが、自分のファッションにはとことん無頓着なソラ様である。


「し、したんですか、いたずら!」

「し、してないってば! それよりどうしたの、顔真っ青だけど」

「アウスさんが、アウスさんが……っ」


 怯え、震えながらメイドの方を指さすセリムに、ソラは全てを理解する。


「あー……。よしよし、変態がいて怖かったんだね。もう大丈夫だよ、あっちの方に行こう?」

「はい……、はい……っ!」


 頭を撫でて慰めながら、出来るだけメイドと距離を取る二人。

 その頃アウスは海の中に潜り、様々な角度からマリエールのマイクロビキニ姿を堪能していた。




大変申し訳ありません、更新が間に合いそうにありません。

今後も多忙になることが予想されるため、完成し次第投稿の不定期更新とさせてください。

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