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156 改めて考えると色々ぶっ飛んでますね、ドリルランスって



「へ? ドリルランスが!?」


 クロエの発言に気を取られたソラは、危うくビームに当たりそうになる。


「うわっちょ! あっぶない、ちょっと髪の毛焦げた!」


 スレスレで頭を逸らし、何とか直撃を回避。


「ソラ、この話は一旦あと!」

「そうです、さっさとやっつけますよ」

「そんなこと言っても、コイツ結構強いし!」


 胴体部分からせり上がった砲門から、絶え間なく発射されるエネルギー弾。

 その弾幕の厚さに、ソラは接近すらままならない。


「こうなったら、ブースターで……」

「温存してください。私が何とかしますから」


 ポーチからタイマーボムを取り出したセリム。

 スイッチを押して魔力を注ぎ込み、狙いを砲門に定める。


「いきます、絶対投擲インペカブル・シュートっ!」


 投げ放たれた爆弾は、生きているかのような軌道で弾幕を掻い潜り、砲門の中へと吸い込まれる。

 そして砲塔内部で大爆発。

 砲身は二つに割れ砕け、ビームの発射は封じられた。


「ソラさん、今ですよ」

「任せて! 闘気収束オーラチャージ!」


 煙を吹き出しながらよろめき、砲身から火花を散らすカラクリ兵。

 勝機を見出したソラは、白刃に闘気の刃を纏い、一気に肉薄する。

 鎌状の刃が付いた前脚で応戦する機兵だが、アダマンタイトの切れ味には歯が立たず、いとも容易く斬り払われた。


「喰らえっ、気鋭斬オーラエッジ!」


 横薙ぎに振るわれた一閃。

 カラクリ兵の胴体が横向きにずれ、火花を散らして機能を停止、大爆発を起こした。

 パーツは粉々に飛び散り、爆発と共に、機兵の内部に濃縮された魔素が四散する。


「ふぃーっ、楽勝楽勝」


 闘気を消して剣を納めたソラ。

 セリムに駆け寄りながら、ドヤ顔で一同を見回す。


「どうよ、あたしの実力!」

「セリムのアシストあってこそじゃない。そんな胸を張れる内容じゃないわよ」

「あ、あぁぁっ、貴重なサンプルが、粉々に爆散しちゃった……」

「ソラさん、危なっかしいですよ……。ちょっとハラハラしました」

「あ、あれ……?」


 冷たい視線を向けるリース。

 爆散した破片を涙目でかき集めるクロエ。

 心配で堪らなかった様子のセリム。

 それぞれの反応に、ソラはこんなはずじゃと首をかしげる。


「使えそうなパーツ、残ってないな……。ソラ、次に出たヤツは出来るだけ傷つけないようにやっつけて」

「無茶ぶり!」


 自分の扱いに納得いかないソラは、セリムに抱き付きながら詰め寄る。


「ねえねえ、みんなもっと褒めてくれてもいいじゃん! せめてセリムだけでも褒めてよぉ」

「そ、ソラさん、顔近いですから! 分かりました、もうちょっとだけ頑張ったらなでなでしてあげます」

「ホント!? じゃあさ、もっともっと頑張ったらちゅーしてくれる?」

「しますから! 分かりましたから! 顔近いですってばぁ……」

「やったー! やる気が湧いてきた!」


 セリムに抱き付いたままぴょんぴょん飛び跳ねるソラと、彼女の温もりや顔の近さや可愛らしさその他諸々によって顔を真っ赤にしたセリム。

 彼女たちを尻目に、クロエは必死に残骸を漁っていた。


「……うーん、これなら何とか使えそうかな」


 使いものにならないパーツの山の中から、クロエが見つけたのは丸いレンズ。

 なんの部品かは分からないが、破損していないものはこれだけのようだ。

 ヘルメルがクロエの手元を覗きこみながら、疑問を投げかける。


「クロエ様、さっきも仰っていましたが、このカラクリを存じていらっしゃるのですか?」

「おっ、それあたしも気になる!」


 先ほどのクロエの発言を思い出したソラは、セリムから体を離してクロエの下へ。

 ようやく解放されたセリムは、安堵したような、もっと抱きしめていて欲しかったような、複雑な思いを抱えていた。


「確か、ドリルランスの設計の元になったって言ってたわよね」

「んー、そんな大した話でもないんだけどね。ウチの——スミス親方の工房の倉庫にさ、このカラクリ兵の設計図があったんだ」

「親方さんのとこに!?」


 驚きの声を上げるソラに、クロエはコクリと頷く。


「親方に聞いてもよく分かんないらしくてさ。気になるんならくれてやるって言われて、暇を見ては研究してたんだ」


 昔懐かしい日々を思い出し、少々苦笑い。

 昼間は鍛冶、夜は設計図の解析。

 そしてたまの休暇は危険地帯で親方と猛特訓。

 地獄のような日々だったが、あの日々があってこそ今のクロエがある。


「で、長年の研究の末に自己流で造り上げたカラクリ兵装。それがこのドリルランスってわけ」


 背中に背負ったドリルランスを撫でながら、クロエは語り終えた。


「ほえー。色々とぶっ飛んでる武器だとは思ってたけど、そんな由来があったんだ」

「一から全部自分で造ったわけじゃなかったのね」

「あんな武器、私でも見たことありませんでしたからね。皆さん軽く流してましたが」


 今さらながらに異常極まりないドリルランス。

 そのルーツとなる兵器が、この迷宮には多数存在しているとなると。

 ヘルメルはふと、恐ろしい事実に思い当たった。


「怖い人をやっつけたあの凄いビーム。あれも、カラクリ兵由来なんですか?」

「エレメンタルバースト? あれは五属性の魔力をチャージして放つ、リースのブラスターから発想を得て造ったボクオリジナルのアイデアだよ」

「そうなんですか、良かっ——」

「でも基礎となるエネルギーの圧縮解放自体は設計図からの流用だから。単一属性で使われても、威力はひけを取らないだろうね」

「……良くなかったです」


 思わず顔を覆う。

 エレメンタルバーストの猛威を知らないセリムたち三人は首をかしげ、ヘルメルから説明を受けて青ざめる。


「……え? ねえ、セリム。あたしそんなんと戦うの? 喰らったら消し炭って……」

「それ以前に、この遺跡が崩れないかが心配よ……。そんな光線を地下空間で放つほど、バカじゃないわよね……」

「えっと……。相手は機械ですし、いざとなったら私も戦えますけど……。ソラさん、死なないように頑張ってください」

「ちょっと薄情じゃない!?」

「ソラさんが死ぬのは絶対嫌ですから。そこに関しては安心してください」


 クロエが残骸の一部を回収し終えると、一行は再び迷宮を進み始める。

 入り組んだ迷路のような通路を進み、三十分ほど経過した頃。

 ようやく彼女たちは、下り階段のある広間へと辿り着いた。


「……ふぅ。結構かかったね」

「第一階層、罠はありませんでしたが、広いですね」


 広間へと足を踏み入れると、中央に無残な姿となったカラクリ兵の残骸が散らばっている。


「あれって、やっぱりラティスの仕業かな……?」

「彼もこの迷宮に拒まれた存在ってことですね。カラクリ兵の排除対象になっているようです」

「さっき襲ってきたカラクリ兵があんなところにいたのは……」

「私たちを足止めさせるために、あえて一体残したんでしょう。彼の力なら、可能なはずです」


 セリムがソラと共に状況を分析し、悲しげな表情で残骸を見つめるクロエをリースが慰める。

 そしてヘルメルは、古文書を広げて情報を提供。


「この先、第二階層からは罠が仕掛けられています。用心していきましょう」


 この先に待ち受けるのは迷宮の罠と、更に強力になったカラクリ兵、そして魔素で凶悪化した魔物たち。

 地下百階まで続く大迷宮。

 果たして何が待ち受けているのか。

 不安を抱きながら、五人は階段を下っていく。




 ○○○




「ちょっと止まってください」


 セリムの第六感が警鐘を鳴らし、先頭を歩くソラを静止する。


「ど、どうしたのさ、セリム」

「……なんだか、妙なんです。あの壁」


 セリムが指さした先には、なんの変哲もない壁があった。


「……んん? おかしなとこなんてないじゃん」

「ヘルメルさん、この迷宮にはどんな罠があるんでしょうか」


 即死級の罠が仕掛けられていれば、取り返しのつかない事態になる。

 彼女の持ちこんだ古文書は、この迷宮探索における生命線といえた。


「ええと……。詳しくは書かれていませんね。ですが、大まかな位置は記されています。まさに現在地周辺に、罠が一つ設置されているみたいです。それ以外、第二階層に罠は見当たりませんね」

「迂回して通れる道は——」

「残念ながら。この通路を通らない限り、下へは行けません」

「そう、ですか……」


 ヘルメルの情報が正しければ、ラティスはこの場所を通ったはず。

 彼の死体が転がっていないならば、致命的な罠ではない。


「私、罠に引っかかってきますね」

「ちょっ!? セリム、危ないよ!」

「そうよ! 何もそんなに体を張らなくても!」

「どの程度のレベルの罠なのかだけ、確かめておきたいので」


 警戒心を張り巡らせながら、違和感を覚えた壁の前まで進む。

 刹那、壁に穴が開き、錆ついた鉄槍が猛然と突き出された。

 セリムは体を傾けて回避し、鋭い手刀を繰り出して穂先を断ち切る。

 穂先を失った槍が引っ込むところを、掴みかかったセリム。

 そのまま力任せに引っ張ると、バキバキッ、と何かが壊れる音と共に壁の中から槍が引きずり出された。


「……ふぅ。この程度ですか」


 力任せにトラップを処理したセリムの手際に、四人は言葉を失い呆然と立ち尽くす。


「さ、行きましょう。このフロアで用心すべきはもう、カラクリ兵だけですね」

「う、うん……。セリム、ほんと頼りになるね」

「この罠もそれなりのカラクリだよね……。調べたい……」

「さ、ヘルメルさん、私たちも……」

「え、ええ……」


 ドン引きする三人と、名残惜しそうに罠の残骸を見送るクロエ。

 その後もセリムは、立ちはだかるトラップを力で突破していくのだった。




 十五階層まで辿り着いたところで、一日目は終了。

 結局この日、ラティスに追いつくことは出来なかった。


「セリムー、今何時?」

「時計によると、夜十時過ぎですね」

「この迷宮の中、すっごい明るいからさ。時間感覚無くなっちゃうよね……」


 一日中迷宮を歩き回り、カラクリ兵を撃破してきたソラ。

 体には確実に疲労感が溜まっているが、やたらと明るい照明が体内時計を狂わせ、眠気を妨げている。


「この照明、どういうメカニズムなのか気になるな……。ねえ、ちょっと調べてみていいかい?」

「一人で離れるのは危険ですよ?」


 キャンプを張った場所の周囲には、燃やした夜煙草で魔物除けの簡易結界が張られている。

 その範囲を出ることは、たとえクロエでも危険過ぎた。


「すぐそこの壁を調べるだけだから平気だって」

「私も一緒に付き合ってあげるわ。気になってることを放置すると、きっとクロエ、夜も眠れないだろうし」

「まあ、リースさんが付いていてくださるなら。でも、離れないでくださいね」

「分かってる分かってる」


 返事をしながら、さっそくテント脇の壁を調べ始めたクロエ。

 どうやら本当に離れるつもりはなさそうで、セリムは一安心。

 リースが彼女を追いかけてセリムの側を離れたことで、


「わふっ」

「スターリィ……」


 時空のポーチからターちゃんが顔を出し、一目散にリースの元へと飛んで行った。


「セリム、あの子の正体って、ホントにタキオンドレイクの子供なのかな」

「分かりません……。憶測でしかありませんし……」


 リースにじゃれつきながら飛び回る姿は空飛ぶ子犬でしかなく、非常に微笑ましいのだが。


「ヘルメルさんは……、もう眠ってしまいましたね」

「普通の女の子にはハード過ぎだよ。ここまでの道のりも、この空気も」


 迷宮に充満する魔素が、重苦しい空気を放っている。

 その発生源が海邪神だとするならば、迷宮を進むごとに魔素は濃くなっていくはず。


「ヘルメルさん、体大丈夫かな……」

「体に問題はないでしょう。魔素を吸い込むことでの人体への悪影響は確認されていませんし、濃縮した魔素を取り込めばレベルアップだって出来ます。魔物を倒すと強くなるのも、魔素のおかげですし。ただ、気分が滅入るんですよね……」


 魔素に包まれた空間にいることによる、精神への負荷。

 セリム自身、危険地帯の境界を越える際の感覚を苦手としている。


「気持ちがやられてしまわないか、心配です」

「あたしはセリムの心も心配だよ」

「……ふふっ。いくらなんでも、このくらいで参ったりしませんよ」


 微笑むセリムを、ソラは強く抱きしめる。

 勿論、ソラもセリムが魔素の影響で心を病むとは思っていない。


「ひゃっ! ソラさん!?」


 戦いを苦手としているセリム。

 このまま誰かと戦い続ければ、彼女の心は壊れてしまうだろう。

 彼女を戦いから遠ざけるために、彼女よりも強くなりたい。

 世界最強の剣士になる夢を叶えた後にどうするか、その答え。


「あたし、頑張るからね」

「ソラさんは頑張ってますよ?」

「全然足りないもん。もっともっと頑張るから。セリムを守れるくらい、強くなるから」

「……はい。ただ、無理はしないでくださいね」



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