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150 スターリィの正体、それはきっと……

 アジトの中をしらみつぶしに捜索すること二時間半、海神の宝珠は一向に発見出来ず。

 棚を探っても、隠し通路を探っても、金庫のようなものを力任せに破壊しても、目的の宝珠は出てこなかった。

 クタクタになったセリムとソラは今、礼拝堂の椅子で寄り添って休んでいる。


「おかしいです……。ここが敵のアジトなら、無いはずがないのに。他の場所に隠してあるんでしょうか」

「それか、敵の誰かが持ってるとか? あの名簿、あと二人知らない名前が書いてあったし」


 アジトがここだけではない可能性。

 敵が持ち歩いている可能性。

 どちらも十分に考えられた。


「ともかく、ここには無さそうですね。証拠になりそうな目ぼしい資料は回収しましたし、帰りましょうか」

「だねー。あの後ヘルメルさんたちがどうなったかも心配だし。何より疲れたし」


 これ以上ここにいても仕方ない。

 見切りを付けたセリムとソラは、レムリウスの街に帰るため、礼拝堂の扉を開けて外に出た。

 礼拝堂の外は、広大な地下空間。

 地上へと続いているだろう小さな洞窟が、正面に見える。


「地下だったんだね、ここ」

「まぁ、アジトですからね。見つかりにくいように、ってとこでしょう」


 特に気にすることなく、二人は洞窟を進み、すぐに外の明かりが見えた。

 南国の眩しい日射しに目が眩みつつも洞窟を抜けだすと、セリムは呆気に取られる。


「……え?」

「おぉ、良い立地」


 目の前に広がる光景は、白い砂浜と青い海、そして対岸の大きな島。

 恐らくはあの島、レムリウスのあるアストラス島なのだろう。

 不安になったセリムは、天翔の腕輪で空へと駆け上がり、三十メートルほど登ったところで愕然とした。

 眼下には小さな島、四方は海。

 ここはレムライアに無数に点在する小島の一つ。

 船着き場らしき場所は無く、船も見当たらない。


「……どうしましょう」


 とりあえずソラのところに戻り、現状を報告するが、ソラはただテンションを上げるだけ。


「おぉ、それってつまり、この島にいるのはあたしとセリムだけ!? すっごいじゃん、プライベートビーチじゃん!」

「泳ぐ気分にはなれません。そもそも水着持ってませんし。そんなことより、どうやって帰りましょう」


 クロエの証言によれば、ここから命の泉までは二時間程度の距離らしい。

 向こう岸に渡れれば問題無いが、対岸のアストラス島までは、見たところ数キロは離れている。

 船も無しに海を渡る方法と言えば。


「セリムの天翔の腕輪なら、簡単に渡れるじゃん」

「……まぁ、そうなりますよね」


 魔力の量は問題ない。

 体力も問題なし、ソラを一人抱えて数キロ海を渡るなど、造作も無いことだ。

 ただ一つの問題を除いては。


「あの、海の上って風強いんですよ」

「だね」

「ソラさんをお姫様だっこするにしろ、おぶるにしろ、両手が塞がりますよね」

「あたしはお姫様だっこがいいな」

「すると、私のミニスカートがですね……」

「あぁ、ぱんつ全開になるね」


 いくら誰もいない海の上でも、他に方法が無かったとしても。

 セリムは絶対に、それだけは避けたかった。


「スパッツは?」

「……仕方ないですね。また履きますか」


 蒸れるし可愛くないし、二度と履かないと誓っていたが、他に手段も思い浮かばず。

 スパッツを取り出すため、時空のポーチに手を突っ込んだその時。

 セリムの手が、もふもふとした何かに触れた。


「……くあぁぁっ」

「ひゃっ! スターリィ!?」


 タイミング良くポーチから顔を出したターちゃんは、眠たそうにあくびをした後、周囲を見回す。


「……わふ?」

「スターリィ、私はここですよ。ほら、私の胸に飛び込んできてもいいんですよ」


 猫なで声のセリムを完全に無視して、ターちゃんは周囲を飛び回る。

 どうやら何かを探しているようだ。


「ス、スターリィ……、私は、ここに……っ」

「わふぅ……」


 目当てのものが見つからずにしょんぼりとするターちゃんと、構って貰えずにハートブレイクするセリム。


「もしかしてター子、お姫様を探してるのかな。ね、そうなんでしょ?」

「わふ、わふぅ!」


 ソラの問いかけに、ターちゃんは小さな羽をぱたぱたと動かし、全身を使って肯定する。


「どうして……、どうして私じゃダメなんですか……。何か酷いことしましたか、私……?」

「……ぷぃっ」

「——っ!!!」


 自分の胸に聞け、と言わんばかりにそっぽを向かれ、セリムは膝から崩れ落ちた。

 一方のターちゃんは、目を閉じて集中力を高め、その小さな体に膨大な魔力を漲らせる。


「……スターリィ、この魔力はあなたが?」

「魔力の無いあたしでも分かるよ、ター子にこんな力があったなんて……」


 周囲の空気すら震わせるほどの魔力を溜め込むと、一気に解放。

 平和な砂浜と青い海をバックに、異様なものが出現した。

 空間に開いた、うねうねと歪む次元の穴。


「これって……、セリムが龍星の腕輪で出す穴と、そっくりなんだけど……」

「と、言いますか、これはまるで……。スターリィ、まさかあなた——」

「わふぅっ♪」


 驚愕に染まる二人を置いて、ターちゃんは時空の歪みに飛び込んでいってしまう。

 術者を失った次元の穴は、ゆっくりと縮み始めた。


「ちょっ、ヤバい! 穴閉じちゃう! あたしたちも行かなきゃ!」

「そ、そうですね! 考えるのは後です!」


 このゲートがどこに続いているのか、大体の予想は付いている。

 次元の穴が閉じる前に、二人は急いで飛び込んだ。




 ○○○




「——という訳なの。オルダ様、私たちにも遺跡の警備に向かう許可を!」

「確かにアウス殿に加え、リース姫も加わってくれれば心強い。しかし……」


 オルダは頭を悩ませていた。

 少しでも戦力が欲しい現状、リースとクロエを援軍に向かわせるのは良策に思える。

 しかし、リースにもしものことがあれば、レムライアとアーカリアの国交回復など夢のまた夢。


「私の実力に不安があるのなら、大丈夫。もうあんな不覚は取らないから」

「むぅ、しかし私の一存では……。こんな時にラティス君がいてくれれば、良い案を出してくれただろうが……」


 会議の場を後にして以来、ラティスの姿はどこにも見えなかった。

 彼は三元老に選ばれる前から、度々オルダの相談に乗ってくれた、言わばブレーン。

 その才覚を深く信頼しているからこそ、オルダも彼を同じ三元老に推薦し、強く後押ししたのだ。


「……ではこうしましょう。オルダ様は私に、街を自由に出歩いても良い許可を出す。兵士は出払っていますから、護衛を付ける余裕もありませんものね。その後、私が勝手に街の外へと出て行こうが、オルダ様にはなんの責任も発生しない。許可を出したのは街の中だけですもの」

「そんな屁理屈は……、いや、いいでしょう。あなたはきっと、自分の意見を曲げない人だ」


 とうとう折れてくれたオルダは、無言で遺跡の場所を示した地図を手渡す。

 リースはクロエと顔を見合わせて微笑むと、深く一礼してその場を立ち去った。


「さすがだね、リース。あんな無理やり許可を取っちゃうなんて」

「なりふり構っていられないもの。ヘルメルさんは絶対に、私が助け出すんだから」


 二人は並んで歩きながら、評議塔の廊下を歩く。

 すると突然、目の前の空間に歪みが生じ、うねうねと歪む穴が開いた。


「うぇっ!?」

「な、何コレ……」


 驚き竦み上がる二人。

 呆然と眺めていると、穴の中からターちゃんが飛び出し、リースの胸に飛び込んだ。


「た、ターちゃん!? ここから出てきたの!?」

「えぇ、ホント何コレ……」


 困惑するクロエの前に、更に。


「にょわっ!」

「もう、頭から飛び込むからですよ?」


 ソラが穴から飛び出してヘッドスライディングを決め、セリムは軽やかに着地。

 時空の歪みは消滅し、穴が開いていた場所は元通りの何も無い空間に。


「やっぱり、リースさんのところに繋がってましたね。クロエさんも一緒でしたか」

「わふ、わふぅっ」

「ひゃっ、もう、ターちゃんったら。くすぐったいわよ」

「ボ、ボク、悪い夢を見てるのかな……」


 廊下に突っ伏すソラと、予測通りといった表情のセリム、そしてリースにじゃれつき顔をぺろぺろと舐めるターちゃん。

 クロエはとうとう思考停止に陥った。


「……セリム。聞きたいことは色々あるけどとりあえず、あの穴は何?」

「ターちゃんが開いたんです。魔法で」

「そ、そうなんだ。そう、なんだ……」


 当然のように返された異常な答え。

 もう何がなんだかわからない。


「じゃあ、もう穴の話はいいや。とりあえず、二人が居なくなった後にこちらで起きた出来事を話すから、セリムの方もよろしくね」

「はい、情報共有は大事ですからね」


 時空の歪みについてはもう何も考えず、クロエは二人がいなくなってから起きた出来事を細かく話した。

 彼女自身、その場にはいなかったために又聞きなのだが、それでもリースが舌を巻くほどの正確さ。

 リースの出番は、横から細かな補足をする程度だった。


「そんな……。ヘルメルさんが連れ拐われただなんて……」

「私のせいよ。でも、だからこそ、必ず私の手で連れ戻すから」

「リース、あんまり気負わないでね。ボクも手伝うからさ」


 クロエの言葉に、リースは自然な笑みを見せて頷く。

 二人の間に流れる空気が少しだけ変わったように、セリムは感じた

 続いてセリムも、襲撃者を追いかけてからの出来事を説明する。

 襲撃者の男が邪神像の前で奇怪な死を遂げたくだりだけは、震えるセリムの代わりにソラが話した。

 その後、マイルから入った通信についての話を終えた時。


「な、なにそれ! そんなテクノロジーが存在するの!? 技術的にはあり得ないはず、もしそんな技術があったなら、歴史が変わっちゃうよ。でも実際、魔法の類いではなくて道具による通信と見るべきだよね……。百聞は一見にしかず、実際にその道具を見ることが出来れば、何か分かるかも……」

「あ、あの、クロエさん。良く分からない道具のうちの一つ、なんですけど。持って来ました」

「何だって!!! 早く見せて!!!」

「は、はい……」


 見た事の無い剣幕で迫るクロエに仰け反りつつ、時空のポーチからラッパのような機器を取り出す。

 受け取ったクロエは、興味深そうに細部を眺め、色々な角度から見回し、様々な分析を試みる。


「なるほど、これは恐らく、音声を出力するための機巧……。それ以上はここじゃ分かんないな……」

「あ、あの、クロエ……? まさか、今からその道具を調べるとか言い出すんじゃないでしょうね……」

「それはもちろん——」


 もちろん調べる。

 ジト目を向けるリースを前に、口から出かかった言葉を何とか喉で押しとどめた。


「こほん、もちろんリースと一緒に行くよ!」

「そうよね、信じてたわ」


 若干顔が笑っていない気がする。


「そ、そんな訳でボクはこれから、リースと一緒に遺跡の警護に向かうから! その道具はプラテアのところに持ってって!」

「プラテアさん、どなたですか?」

「魔導アイテム研究所の所長さん。彼女、ボク以上に詳しいから。きっとその道具の詳細も掴めると思うよ」


 三日間もの間、腕輪を共に研究する中で、彼女の知識量と技術にはクロエも脱帽した。


「……ふーん。クロエさん、まったくもって隅に置けないですなぁ」

「な、何だよソラ。何が言いたいのさ」

「べっつにー。たださ、本命がいるのにそれは、あんまり良くないとソラ様思う訳で」

「ほら、ソラさん行きますよ」


 それはフラグを立て過ぎるクロエに対するソラなりの親切心だったのだが、残念ながらクロエを含む全員に伝わらなかった。

 クロエは困惑し、リースには冷たい目を向けられ、セリムに首根っこを引っ張られる。


「リースさん、用が済んだら私たちも向かった方がいいですか?」

「……いえ、レムリウス自体を狙ってくる可能性も否めないし、戦力を一極集中させるのは良くないわ。あなた達はここに残ってて」

「分かりました。さ、スターリィ。あなたも私と一緒に行きましょう」

「……わふ」


 リースの腕の中で優しく撫でられ、気持ちよさそうにしていたターちゃん。

 彼女も会話の内容は理解出来ているようで、渋々ながらもリースから離れる。

 しかしセリムの腕の中には行かず、そのまま時空のポーチの中へ。

 また落ち込むものかと思いきや、意外にも彼女は予想通りといった表情。


「ではリースさん、クロエさん。ヘルメルさんの方はお任せします」

「ええ、任せておきなさい。必ず連れ戻して来るわ」

「プラテアの研究所は、街外れにあるトルフィーン家の屋敷にあるから。それじゃリース、行こう」


 その場を後にするクロエとリース。

 二人の背中を見送ると、セリムは静かに口を開いた。


「……ソラさん、私分かったかもしれません。どうしてスターリィが私を避けるのか、なぜ私に懐かないのか、その理由が」

「へ? ホント? 可愛がり方が下手とか、強く抱き締めすぎて苦しいとか、そんな理由じゃないの?」

「違いますよ。といいますか、もう少し手心というものをですね……」


 容赦のないソラの物言いだが、その程度の理由で嫌われていたのならどんなに良かっただろうか。


「スターリィはきっと、分かるんだと思います。私がタキオンドレイクを殺してしまったことを」

「……ん? どゆこと?」

「スターリィの正体、それはきっと、次元龍タキオンドレイク。その子ども……だと思います」



次回更新は日曜日19時頃となります!

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