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013 そこまで怖がられると、さすがに傷つきます

 頭を抱えるソラに対し、魔王様は不思議そうに首を傾げられる。


如何いかにした。質問に答えてやっておるのに、一体何が不服なのだ。忌憚きたん無く申してみるが良い」

「不服っていうか……。ねえセリム、ずっとこの調子なんだし、もしかしたら本当なんじゃないの?」

「そうですね、もし、仮に、万が一、その子の言葉が全て本当だとするならば、こんな道端で話を続けるのは得策ではないでしょう。魔族の王がこんな場所に一人でいるとなると、ただ事ではありません」


 彼女を発見した時に口走った言葉、奴らの一味か、だったか。

 この子が本当のことしか言っていないのなら、命を狙われている可能性すらある。


「あいにく魔王の名前や年齢、容姿は知りませんが、魔族の国の首都は確かにアイワムズですし、それに……」


 セリムはマリエールのふわふわの髪の毛をそっと持ち上げ、隠れていた耳を露わにした。


「のぁっ、無礼者ぉっ!」

「あっ、耳がとんがってる」


 魔族の外見は、基本的には人間と同一である。

 肌の色も瞳の色も大きな差異は無く、血の色も赤。

 一目で見分けられる特徴は、その長く尖った耳。


「少なくとも、この子が魔族だというのは真実ですね」

「止めろぉ、このれ者がっ!」


 何が恥ずかしかったのか、顔を赤くしながらセリムの手を払いのける。


「どうして照れるんですか、そこで。……とにかく宿に戻りましょう、話はそれからです」

「そうだね、あたしも頑張り過ぎて疲れちゃったし」

「ふむ、余を歓待すると申すか。殊勝な心掛けである」


 相も変わらず偉そうな魔王様と共に、二人は宿泊中の宿へと何事もなく帰還。

 道中で刺客に襲われたり、マリエールの従者と出会ったり、そんなイベントは全く起こらなかった。



「おばちゃん、今帰ったよ!」

「お帰り、お嬢ちゃんたち。なにか騒ぎが起きてたみたいだけど、どうしたんだい」


 玄関口を箒で掃いていた女将に、実家に帰ってきたかのように挨拶するソラ。

 宿泊客の口を通してか、今回の騒動は彼女の耳にも入っていたようだ。


「エマちゃんって知ってる? 小さな女の子なんだけど」

「あぁ、知ってるよ。可愛い娘さんだわね。あの子になにかあったのかい?」

「コロド山に一人で入っていっちゃったんだ。病気のお母さんを助けるために」

「そ、そりゃ一大事じゃないかい!」


 思わず箒を取り落とす女将に、ソラはニッコリ笑ってブイサインを見せる。


「にひひ。そしてあたしが山にいた25のヤツをやっつけて、無事に助け出したんだ」

「へ、やっつけた? ずっと山に居座ってたアイツをやっつけたのかい? お嬢ちゃん、凄いじゃないか!」

「でしょでしょ、凄いでしょ。もっと褒めていいんだよ」


 鼻高々のソラのほっぺをセリムは軽くつねった。


「いだだだだだ」

「あまり調子に乗らない。女将さん、この子に見覚えはありませんか」


 エマを知っているのなら、この町の子どもは大体知っているだろう。

 魔族という時点で望み薄だが、一応聞いてみる。


「うーん……。いや、見た事ないねぇ。この子、どうしたんだい」

「エマさんを探している時に、山で拾ったんです」

「余を物みたいに言うでない、無礼な女子おなごめ!」


 やはり女将もマリエールを知らない。

 これでこの少女がこの町の住民である可能性はほぼ消えた。


「この子も一緒に泊めてあげたいのですが、料金は——」

「あぁ、いいんだよ。山に居座ってたヤツを倒してくれたのなら、あんたたちは英雄だ! 二人分の料金もタダにしたいくらいさ」

「ありがとうございますっ」


 セリムは静かにお辞儀をすると、花のように可憐な笑みを浮かべる。

 その様子をマリエールは冷たい目で見つめていた。


「か弱い少女の化けの皮を被って、一体何を企んでおるのだ。この怪物女わゃもごごっ」

「——それではごきげんよう」


 マリエールの口元を押さえて小脇に抱えると、セリムは足早に奥へと入っていく。


「それじゃ、おばちゃん。今日も泊まってくね」

「ああ、いくらでも泊まっておいき」


 ソラもセリムの後を追いかけ、三人は宿泊部屋へ。

 念のために内カギを掛ける。


「さて、マリエールさん。まずはあなたが本当に魔王かどうか確認したいのですが、何か証拠となる物はお持ちですか?」


 備え付けの丸テーブルについたマリエールと、その向かいに座るセリム。

 ソラは鎧を放り出して、ベッドで足をプラプラさせている。


「証拠か、この身に流れる高貴な血こそが何よりの——」

「何か証拠の品はありませんか?」

「…………え、えっと」

「セリムぅ、怯えちゃってるよ」


 最悪な第一印象は未だ拭えない。

 そうでなくとも、セリムはどうも子どもの扱いが苦手だ。


「……ソラさん、バトンタッチです。どうも怖がられてしまっているようなので」

「ほい来た。あたしに任せといて」


 席を立ったセリムはベッドに腰掛け、ソラが向かいの席へ。

 入れ替わる形となり、心なしかマリエールの表情も和らぐ。

 わずかな表情の変化を感じ取り、セリムは軽くショックを受けた。


「私、そんなに怖いのでしょうか……」


 ソラは手始めに、やんわりとした質問を投げかける。


「マリちゃん、そのマントかっこいいね。どんなモノなの?」

「この外套マントか。お主、目の付けどころが良いな。これこそは魔王を襲名した者に代々受け継がれる至高の品」

「セリム、さっそくあったよ」

「早いですね!?」


 あっさりと聞き出してみせたソラが見事なのか、非常に運が良かったのか。

 ともあれ、そのマントに鑑定魔法を使えば真偽ははっきりする。


「それでは失礼して」

「ひっ! こ、今度は何をする気だ!」


 軽く近寄っただけで怖がられてしまった。

 この反応には、さすがのセリムも泣きそうになってしまう。


「大丈夫よ、そんなに怖がらなくても。セリムってホントは優しくて可愛いんだから」


 そこにすかさずソラのフォローが入る。

 ありがとうございますソラさん、とっても嬉しいです、大好きです。

 自らの心の中に過ぎった気持ちに、セリムは特に疑問を抱かず軽く流した。


「むぅ、お主が言うのであれば、接近を許す……」

「では、鑑定スキャニング!」


 魔力を軽く溜め、マリエールのマントに向けて鑑定魔法を使う。

 すると、その詳細が記された魔力ウインドウが空中に浮かび上がった。


  —————————————


   原罪の紅き外套


   レア度 ☆☆☆☆☆

   防御力 60

   品質  最高級

   特性  魔力増・20%


  —————————————


「出ましたけど、これは……」

「あたしにも見せてー。おわっ、何これ! 数字はよくわかんないけど凄そう!」


 横から覗きこんで来たソラが、感嘆の声を上げる。

 表示された情報の詳細がわからないソラもこの反応。

 セリムですら、未だかつてこのような性能の防具は見たことがない。

 紛れも無く伝説級、この世界で最高に近い性能だ。


「ようやく理解出来たと見える。余が偉大なる魔王であると!」

「この性能の装備を身につけているとなると、不本意ながらも認めざるを得ませんね」

「おぉ、マリちゃんホントに魔王なんだ!」

「ふっふっふっ、畏れるが良い、敬うが良い」


 ソラからの羨望の眼差しを受けて、魔王様は至極ご機嫌であらせられる。

 必死の主張を受け入れて貰えた事が、とても嬉しいようだ。


「ふむ、ところでお主、見慣れぬ魔法を使うな。先の戦場いくさばに於いても、アイテムを合成する術を使っておった。お主のクラスはなんと言うのだ」


 余裕が出て来たマリエールは、セリムに対しても物怖じせずに話しかける。

 あるいは好奇心が畏怖に勝ったのか。


「魔族の間でも知られてないんですね。せっかくですから自己紹介を。私の名前はセリム・ティッチマーシュ。アイテム調達業を営んでいます。クラスはアイテム使いです。……あと、出来れば仲よくしましょう?」


 最後の言葉は特に気持ちを込めて。

 何かするたびに怯えられるのは、かなり心に来る。


「アイテム使いか、やはり聞いたことも無いな」

「あたしも改めて自己紹介! あたしの名前はソレスティア・ライノウズ、ソラでいいよ! 世界最強の剣士になるのが夢で、今はアダマンタイトを探して旅を…………あ、マリちゃん、アダマンタイトってどこで採れるか知らない!?」


 魔族の王なら、もしかしたらアダマンタイトの産出地を知っているかもしれない。

 期待を込めてソラは質問を投げかける。


「むぅ、済まぬ。ソラよ、お主の力になりたいのは山々だが、余もアダマンタイトについては何も知らぬのだ」

「そっかー、残念」


 魔族領にアダマンタイトは存在しないようだ。

 やはり旅の目的地は王都アーカリア。

 ソラは個人的な理由から、あそこには戻りたくないのだが。


「ところでマリエールさん、魔王ともあろうお方が何故、あんな場所に一人でいたのですか?」

「それ、ほんとそれよ! あたしもすっごくすっごく気になってたの」


 さて、とうとう本題である。

 待ちかねたとばかりに、マリエールはつらつらと語り始めた。


「よくぞ聞いてくれた。そもそも事の発端は数ヶ月前に遡る。一族の至宝たる魔法の杖が、我が居城より盗まれたのだ」

「魔族の王家に伝わる至宝ですか」


 代々受け継がれて来た杖ともなれば、マントのように伝説級の性能を秘めているだろう。

 魔王城に忍び込んで盗み出すリスクに足るリターンは確かにあるかもしれない。


「そこで余は妹に魔王代理を任せ、数名の家臣と共に賊を追って旅に出た」

「魔王自ら旅に出たんだ。よく周囲が許してくれたね」

「当然だ、王が自ら手本とならずしてなんとしよう。それに余のカリスマを以てすれば、鶴の一声で皆が従う!」

「さすが魔王! やっぱり尊敬されてるんだね!」


 本当は追跡にかこつけて外の世界を見たかっただけである。

 そのためにかなり無理を聞いてもらい、妹に二、三枚ほどぱんつをプレゼントしたのだが、威厳に関わるため絶対に口外は出来ない。

 あの妹とメイドには、何度貞操の危機を感じたことか。


「部下たちは各地に散らばって情報を集め、余は側近たるメイドのアウスと共にこの町の周辺まで旅を続けた。そして今日の朝方、ついに犯人を見つけたのだ。余の杖を持った魔族の女、そして怪しげな風貌の男、奴らは堂々と余の前に姿を現した」

「おぉ! それでそれで?」

「杖を持った女が突然踵を返して逃げ出したのだ。余は奴を追っているうちに、いつの間にやらアウスとはぐれてしまった。そして敵の姿も山の中で見失ってしまったのだ」


 話を聞いている中で、セリムはある違和感を抱く。


「……その犯人ですが、コロド山に入って、右の登山道を走っていったのですか?」

「そうであるが、なにか心当たりでもあるのか?」

「いえ、気のせいならいいのですが……」


 あの登山道にあった真新しい足跡は、小さな少女の、つまりマリエールの物だけ。

 成人女性の靴跡など、影も形も無かったはずなのだ。


「じゃあさ、なんであんな場所に隠れてたの? 魔王ならあの山のモンスターくらい敵じゃないんじゃない?」

「杖が無いのだ。余の杖でなければ、余の絶大な魔力に耐えられずに砕け散ってしまう。強すぎるのも考え物だな」

「魔法を使うのに、杖って必要だっけ。素手でも普通に使えるよね、セリムも使ってるし」

「余のクラスは魔力コントロールが難しくてな。杖が無ければ暴発しかねん」

「……あの、それじゃあ犯人に追いついても返り討ちなのでは?」

「アウスが付いてきてくれていると思っておったのだ……」


 軽く身震いするマリエール。

 もし犯人が襲いかかってきたら、今頃亡きものにされていてもおかしくない。


「話は大体わかりました。アウスさんを見つけて、あなたをお届けすればいいんですね」


 アウスが無事ならば、今頃主君を必死に探しているはずだ。

 こちらからも探し回れば、見つけるのは困難ではないだろう。


「えー、杖を取り返すの手伝ってあげないの? マリちゃん困ってるのに、放っておくなんて……」

「ソラさん、気持ちはわかりますが、出会う問題全てに首を突っ込んでいては体がいくつあっても足りません。彼女の側近の方を探してあげるだけでも、十二分に助けになってます」


 困っている誰かを放っておけないのはソラの美徳だが、この問題は山に迷い込んだ子供の捜索とは訳が違う。

 国中に散らばった魔王の部下が情報を集めているのだ、いくらなんでも規模が大きすぎる。


「旅の目的はあくまでアダマンタイト。忘れないように」

「はーい……」

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