第7羽 門兵に絡まれてみた
ミヤビが空間魔法に薬草を収納し終えた頃、少し離れたところでこの様子を見ている者がいた。
その人物は鹿であろうか?真っ白な動物に横掛けに腰を掛けている。ミヤビはもちろんマリンすらも全く気付かない。何か魔法的な仕掛けがあるようだ。
「ふーん、精霊との契約に、あれは空間魔法かな!?どこの誰かは知らないけど、要注意人物ね。ただあの素人くさい動き…上手く使えば、役に立つかも!少し接触してみようかしら?」
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薬草持ち切れない問題は解決した。
しかし、いい加減そろそろ街に着きたい。もう出発してから1時間半程が過ぎた。幸運にもまだモンスターに会っていないが、体力的にはオレは瀕死だ。早くベッドで横になりたい。
それから5分ほど歩いた頃にマリンが声を上げる。
『見えてきましたよ!あれがフラン地方都市ボーグです。』
ボーグはフラン国内の南東に位置し、獣国レイナードとの国境の町でもある。地方都市と言うだけあって冒険者ギルドもかなり大きく活動も活発なようだ。街並みは中世の欧州のような外見の家が、2階建の家がほとんどだ。
『私ども精霊は姿を見せようとした者にしか見えませんので、ここから先はむやみに話しかけないようにして下さいね。』
入場待ちをしている間、マリンから街に入る前の注意を聞く。
門兵にまで目前になったところで新たな問題が発生した。
「入場希望者は身分証の提示をするように」
門兵のこの言葉を聞き、オレは戦慄した。そうだ、この世界に来たばかりのオレには身分証などある筈がない。身分証がなければ街に入れないとは聞いていないぞ。
まあ、街へ入ることが出来ないならば、街の外で狩猟でもしながら生きていくか、それも悪くないな。あらぬ疑いをかけられる前に列から離れようとした、その時…
「よし、次のもの身分証を出し、門の前まで来い!!」
いつの間にかオレの順番になっていたようだ。ここはなるべく怪しまれないように…
「あのー、身分証が見つからなくて、もしかしたら紛失してしまったのかも知れません。再発行を行いたいのですが…」
その言葉を聞いた途端、門兵の顔が険しくなる。
「残念ながらそれは出来ない相談だ。ここは獣国“レイナード”との国境の最前線。怪しいものの入場を許す訳にはいかん。それにお前はそんな軽装で、1人の様ではないか?ここらで見る顔でもないし、お前は一体何者だ?」
何だか雲行きが怪しくなって来た。それにしても身分証1つないだけでまるで犯罪者のような扱いだな。
『この世界では種族間での争いが絶えませんからね。敵対する種族を簡単に入国させる訳にはいきません。国を守る意味でも身分証の存在は重要なんですよ。』
「マリンさん、そう言う大事なことは門に着く前に言って欲しかったよ。」
「何を一人で話している。このまま身分の証明が出来なければお前を拘束させてもらう。手を上げて投降しろ。」
門兵はそう言って持っていた槍をオレに向かって突きつける。
ダメだ。もうどうにもならない。こんな所でオレの異世界生活はもう終わりか…と両手を挙げ、投降しようと心に決めた。
その時、オレの後ろから声が聞こえる。
「そこ!ちょっと待ちなさい。」
振り返るとそこには妙齢の女性が立っていた。