第43話 生き残り
「ライト次は右の通路から2体だ。」
『おうよ!』
現在17階層。ルナが消耗で気絶してから2時間程経った。起きる様子はないが、ダンジョン内で準備もなく一泊過ごすわけにもいかず、おんぶして帰っているところだ。
階層を降りるごとに敵は弱くなっていくのだが、何分ライトだけでは攻略に時間がかかる。だが、ここまでルナに頼りっぱなしだったのでキツいが何とか2人で突破して楽をさせてやりたい。ライトも同じ気持ちだった。
「頑張れライト次の通りを左に曲がれば階段だ。」
結構一杯一杯だ。元々3人でやっと登ってきた道のりだ。ルナをおぶっているオレもほとんど闘えないので戦闘はほぼライト1人で賄っている。
あいつもとんでもないな……
だが、やはり厳しい様で17階層で既にギリギリだ。ルナを起こして闘うか…いやそれではダメだと首を横に振る。
戦闘が少ないルートを選択して進めば良い。16階層に到着し、少し遠回りをしながらでも敵のいない道を選んで進む。この間にライトも少し回復出来るだろう。
『自分から言っておいて何だが…これ滅茶苦茶キツいぞ…嬢ちゃんよく1人でここまで突破したものだ!』
「ううん、あれミヤビ?ここは?」
「おはようルナ、グランドレオの討伐お疲れさま。今は16階層。帰っている最中さ。」
「わわっ、ごめん運んでくれたの?もう大丈夫!ルナも闘えるよ!」
ルナはオレの肩を叩き、降ろすように訴えた。
「大丈夫だ。行きに頑張って貰った分、帰りは2人で何とかする。オレたちは仲間だ。ルナに頼ってばかりじゃダメだろ?」
腕に力を込めて、ルナを引き寄せる。
「でも…」
「本当にヤバくなったら、助けて貰うから今は休んでくれ。オレたちのことも信用してくれよ。」
「うん!ありがと。」
ルナ肩に掛かる腕に力を入れ、背中に顔を押し付けた。尻尾がピクピクと動いてオレの指をくすぐる。
「しっかり掴まってろよ!」
「…うん」
その後、無事にテラムス遺跡からの帰還に成功。ルナはオレの背中でもうひと眠りしていた。すっかり回復したのか血色の良い顔色で頬が少し赤らんでいた。
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「3人ともお疲れさまでした!これでBランク冒険者への昇格決定です!」
フィーナさんにクエスト達成の報告をした。
「ボーグでもBランクの冒険者は片手で数える程度です。それをたったの5日で到達するなんてとんでもない事ですよ!!ルナさんに至っては僅か3日!恐らく過去最速の記録です。」
今さら目立つ目立たないはもう忘れよう。最悪アオイさんがなんとかしてくれる。彼女には不思議とそう思わせるだけの力がある。そもそもボーグ駐在中はオレたちに手出し出来る者など実力的にはほぼいないのだ。
「ミヤビくん、おめでとう!こんなに早くBランクまで到達するとは予想もしていなかったよ。」
マクスタット支部長が裏から出て来て握手を求めてきた。
「ありがとうございます。オレと言うよりはルナの実力が大きい所ですけどね。」
「ああ、ルナくんもおめでとう。昇格についての話をゆっくり話したい所なんだが、この間のボニ村の件で話をしたい。」
マクスタット支部長から笑顔が消え、顔が強張る。目線は真っ直ぐ全く逸らす様子もない。
「分かりました。ここでは人目に付きすぎるので部屋を準備して貰えますか?」
「ああ、既に準備してある。」
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オレたちは支部長室に通された。そこには如何にも冒険者といった出で立ちの男が1人既にソファに座ってコーヒーのようなものを飲んでいた。
「待たせたねスラット。彼がボニ村の報告をしてくれた冒険者のミヤビくん、そしてボニ村出身のルナくんだ。」
「スラットだ。よろしく。」
「ミヤビです。こっちはルナ。2人とも一昨日のボニ村の事件の生き残りです。」
「スラットはボーグで最も腕の立つ冒険者で、よくギルドの調査依頼をお願いしているんだ。特に今回のように危険な事件のね。」
「自己紹介はそれくらいにして報告良いか?」
スラットは腕組みをし、マクスタットに厳しい視線を送る。
「ああ、すまない。頼んだよ。」
「お前達の報告を受け、昨日ボーグを発った。そこには目を疑う様な光景が広がっていた。何があった?」
「?一昨日の報告通りヴァルザーグ軍が村を襲い、火を放った。兵士を縛り付けておいた筈だが?」
「オレが着いた時には兵士の姿はおろか住民の姿もなかった。あるのは焼け焦げた住居と激しい戦闘の跡。特に1つの民家は一面が血の海だった。」
は?オレ達がボニ村を出発する前に確かに兵士を全員縛り付けて出てきた。時間がなくてルナのおばあちゃんしか埋葬出来なかったので他の住民の遺体もそのままにしてきた。誰の姿もないのは明らかにおかしい。
「兵士は全員を民家に縛り付けておきました。途中倒してしまった兵士はそのままにしておきましたが、ヴァルザーグ兵の居た跡が何も残っていない筈ありません!住民の方の遺体が残っていないのもおかしいです!」
「だが、実際にヴァルザーグの侵攻を裏付ける証拠は上がらなかった以上この問題を公にすることは出来ない。住民を前にして言いづらい事ではあるが、この事件は無かった事にしようと考えている。」
「そんな!彼女は家族をヴァルザーグ軍に殺されているんですよ!これでお咎めなしなら誰が国民を守ってくれるんですか!」
机に両手を叩きつけ、スラットに食って掛かる。
「国を相手取るには一冒険者、一住民の証言だけでは足りない。それに状況的に今、一番疑わしいのはヴァルザーグ軍ではなく、お前達だ。随分と早くBランクまで昇格したものだな。それだけの力があれば、あの村の惨状も皆納得するだろうよ。」
「は?オレたちを疑っているのか?」
あまりの事に怒りで頭がおかしくなりそうだ。
「これはお前達の為の提案でもあるんだ。今、この事件が公になっても疑われるのはお前達だ。マクスタットは否定したが、お前達を知らないオレからすればおまえ達以外は考えられない。まだこれを知っているのはこの部屋にいる者と受付のフィーナだけだ。」
「でも!」
「冷静になれ!自分とその子を守るのに何が最善かを考えろ!」
スラットはオレの襟元を掴み、声を張り上げた。力が籠った腕が震えているのがわかる。
「ミヤビ」
ルナがオレの服の裾を引っ張り見上げている。手は震えているが真っ直ぐな瞳だ。
「あの日は何も無かった。ミヤビとルナがあった日に、たまたま山火事が起きた。それに村が巻き込まれた。それだけのことだよ。」
「ルナ?」
「おばあちゃんは火事に巻き込まれて死んじゃったの。でもルナ達は何とか逃げ延びて今生きている。それだけじゃダメかな?」
一番辛いはずなのに、それでもオレに迷惑を掛けないように…
「スラットさん、あの日、ルナはミヤビと出会って一緒に旅に出ました。村で何が有ったのかは知りません。」
「あぁ、オレもたまたま調査をした際にボニ村が焼けた跡を発見した。村の住民で生き残っていた者は居なかった。燃えた民家は倒壊の危険があるので、村への立ち入りを全面的に禁止する。こんな所でどうだ、マクスタット?」
「ああ、私もそれで異議はないよ。ルナくん、辛い選択をさせてしまって申し訳ないね。」
「なんのこと?」
あっという間にボニ村の事件は山火事として処理されることが決定してしまった。オレに反論や介入の余地はなかった。ルナはその日いつもよりもオレにくっついてきた。
今日ばかりはミツキも大目に見てくれた様で同じ部屋で寝ることになり、一晩中側にいることが出来た。
ルナは背を向けて寝ると、静かな声で泣いていた。オレはただ頭を撫でて宥めることしか出来なかった。
強くなろう。どんなことがあってもルナを守れるように。新たな決意を胸に刻んだ。




