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第38羽 ステーキ

ルナの目の前にはモーセの海割り然りの様に道が拓けている。


「えーっとルナさん?何やったの?」

「ミツキが今のルナなら拳飛ばせるって言ったからやってみたの!」

『正確には衝撃波だな。オレ様の強化魔法を使えば正拳突きですら必殺技になるんだぜ。』



ますますルナが人間離れしていく。獣人を人間の型にはめるのはどうかと思うが、今は置いておこう。




「よし!2回目行っくよー」



その掛け声と共にモンスターたちは一目散に部屋の隅へと逃げて行く。モーセの道がさらに広がった。



「待ったルナ。これ以上は必要なさそうだぞ。」


モンスターとは言えこれだけ怯えきっている相手を一方的に倒すのもどうかと思う。無駄な殺生は控えよう。今日の目的はあくまでランクアップ。狙いはレイドパンサーだ。



とは言いつつも倒してしまったものは仕方ないので討伐部位だけは回収しておく。原型留めずに倒しても討伐部位だけは残っているのはどう言った仕組みなのだろうか?




モンスターハウスは平然と道の真ん中を通過した。討伐部位を拾っている隙だらけの状態でも誰も寄って来ない。モンスターにも理性的な一面はあるようだ……



『お前何気に失礼なこと考えてないか?』



ライトは賢いのは知っている。カラスだしな。その後、何事もなく5階層に辿り着き、大した盛り上がりもなくルナの一撃の元にレイドパンサーは倒れた……




結局各所を周りクエストの実施報告や昇格手続きなどで時間も使ったので、この日はCランクで終わってしまった。明日はもっと上層に向かおう。



「まさか本当にCランクまで上げるとは思ってなかったです…事務手続きも大変なんですからね!!」




今日1日フィーナさんは本当によく働いてくれた。オレたちが出発した時点で嫌な予感がしていたらしく、次のクエストの準備、ダンジョンへの入場の許可申請などを戻って来たら直ぐに出来るようにしてくれていたようだ。少しはオレたちのペースに慣れてくれたらしい。



「前例がない訳ではありませんが、1日でここまで上げる人はボーグでは初の快挙です。そもそもCランクの冒険者はそれほど多くありませんからね!私も誇らしいです!」




フィーナさんがすごい勢いで褒めて来るが、何も実感が湧かないのは何故だろう。


ひとしきり褒められた後、今日の報酬もきっちり支払われた。












合計267300ロンド








ん?





んんんん??







桁が1つ多い気がする。確かにかなり順調にクエストを消化したし、モンスターハウスで一撃の元に大量のモンスターを倒した。だが、あれだけ苦労して倒したスカイクロウの時のおよそ5倍の報酬だと!!!


「フィーナさん、これ間違ってないか?」


「いえ、計算に間違いはありません。ダンジョンに潜ってDランクのモンスターを結構倒したみたいですし、妥当だと思いますよ?」




確かにDランクのアームドベア1体で5200ロンドだった。モンスターハウスでルナが放った一撃だけでも20体は行っていたしな。






ただ今日オレ全く手出してないし、これで27万もの収入を得てしまって良いのだろうか?これではどちらが養われてるか分からない…




「ルナ美味しいもの食べて帰ろうか。」

「うん!ルナ美味しいお肉が良い!!」





かなりの額を稼げたので少しぐらいの贅沢は許されるだろう。それと…



「フィーナさんも一緒にどう?」

「さんせー、フィーナちゃんも一緒に行こうよ!」




今日一日オレたちの無茶な要求に最大限応えてくれたお礼をしたい気持ちは2人とも同じだ。



「えっ!?でも私、普通に仕事してただけで…」

「良いじゃん!お仕事お疲れ様でしたの会しようよー」

「いつも以上に厄介ごとを押し付けてしまったしな、ギルド職員が冒険者と私的な交友を持ってはいけない決まりでもなければ…だがな。」


「そう言った決まりはありませんが…本当に良いんですか?」



「もう今日の仕事も終わりだろ?そこで待ってるから早く着替えて準備して来い。」


「はい!ありがとうございます!」





そう言うとフィーナさんは直ぐにバックヤードに消えていった。数分後出てきたフィーナさんはギルド職員の制服から真っ白なワンピースにデニム?に着替えていた。ヒョコッと出た黒い猫耳と尻尾がアクセントになっている。



いつものあたふたしているイメージはなく、1人の年頃の女の子。ゆるふわ系の美女だ。改めて見るとフィーナさんはかなり可愛い。


「どうかしました?」

「何でもない、それよりこの辺りで美味しい肉料理のお店を知らないか?」



少し赤らんでしまった頬を隠すように、顔を逸らし話題を変える。


「肉料理ならブッチャー・ステーキですね。」



うん。完全に精肉店直営のステーキハウスだな。そして肉はおそらく…



「最高級のブカウ肉を使ったステーキは絶品なんです。お肉屋さん直営だから新鮮で品質の良いお肉を使っているんです。一般に流通しているブカウ肉はほとんどが赤身肉ですが、ブッチャーさんのお店は脂の乗った霜降りのブカウ肉を使用。柔らかさも脂の甘みも最高です。一度だけマクスタット支部長に連れて行って貰ったことがあるんです!」




要するに和牛のステーキだな。ご馳走すると言ったが、中々図々しいなコイツ……




ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ブッチャー・ステーキ




「はい、お待ちどう!」



噂に違わぬ高級肉だ。目の前で切り分けられた霜降り肉からは触れてもいないのに肉汁のジュースが溢れ出ている。肉汁は常温で気化し、肉の上に煌めく星空を作る。


これは本当にこの世の食べ物なのだろうか?

目の前で焼かれ、皿に盛り付けられたステーキの香りが鼻腔を刺激する。早く食せと胃袋がドラムを演奏する。



「すっ、すごいね!早く!!早く食べよう!」

「まっ、待てルナこう言う高級そうな料理が出てきた時にはまず写真を撮ってだな……」

「何を訳の分からないことを言ってるんですか!冷めたりしたら食べ物に失礼でしょう!2人とも早く食べて下さい!私も手を出せないじゃないですか!」



フィーナさんもかなり気持ちが昂ぶっているようだ。カメラなんて概念この世界にはないのであろう。もちろん気にした様子もなく料理を食べることに集中したいようだ。


何はともあれとにかく食すとしよう。霜降りステーキにナイフを通すが、全く手応えがない。切り口からは銀河が誕生している。我慢しきれずに口の中に押し込む。



「」





「」






「」





人は本当に美味しい物を食べた時、あまりの感動に何も発せなくなるようだ。先程まで騒がしかった3人だが、今は静寂の中ただ食器の鳴る音が聞こえる。





正気があったのはほんの一瞬。一心不乱に食べ続けた3人はいつの間にか食事を終えていた。後に残ったのは絶大な満足感と多幸感。口の中には肉の旨味がまだ余韻を残す。


「「「また来よう」」」。3人の意思が完全に一致した瞬間であった。その後ライトにもお土産を買っていったが、一息に完食してしまった。その余りの食事の手際の良さに自分たちの姿を重ねて、若干引いてしまったのは内緒だ。



お代は想像にお任せする。



ルナさんに感謝をし、食事を終えた。フィーナさんも大変喜んでくれたようで明日からも精一杯の接客をしてくれると約束してくれた。現金なヤツだと思ったのも内緒だ。






その後は宿に戻るも昨日の一件もあり、ミツキがルナを部屋から出さないと言い張り作戦会議が出来なかった。未分配のステータスもあり困ってしまう。早急に解決しなければならない問題だ。



冒険者ランクアップから食事まで本当に怒涛の1日が終わった。明日は免税期間最終日。Bランク昇格。Aランクも検討に入れ、ダンジョンへ挑むとしよう。

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