第32羽 蝶の契約士
ドルタワーの突進は確かに途轍もない威力であるが、避けられないスピードではない。
ライトの光魔法による投影分身で撹乱にも成功している。
だが一撃、一撃が致死性の攻撃。おまけに足場は攻撃の度に悪くなる一方だ。
何とか攻撃の手段を見つけなければ。フィニッシュは炸裂弓撃。と言うよりも有効打がそれしかないと言った方が正しいだろう。ドルタワーの外皮を見るととても矢を通すとは思えないほど強靭そうだ。
『ルリィどうだ?あの外皮は貫通出来そうか?』
『あん?ナメんなよ!あんなもん余裕で燃やし尽くしてやるよ!』
『頼もしいな。』
そうなると、どうやって決めるかだけだな。先の一撃で間違いなく警戒されている。簡単には当てることは出来ないだろう。
ライトも孤軍奮闘し、ドルタワーを撹乱してくれている。あれに乗っている間はエディルノも自由に闘えないようだ。
なら先ずは動きを止める。雷電魔法を矢に込め放つ。
「あの矢がくるぞ!」
「ドルァ!!」
「ちっ!」
ライトの攻撃に集中していたかと思われたが、どうやら先の一撃のインパクトが強かったようだ。しっかりオレも警戒されている。
矢が刺さった家屋からはスパークが走っている。
「また違う魔法か!一体あいつはどうなってるんだ!」
エディルノも大分イラついているようだ。そもそも矢を当てられなければ意味がないのがオレの魔法の弱点でもあるのだ。
「あれの動きを止めればいいの?」
「ルナ!もう動いて大丈夫なのか?」
「うん。治してもらってからずっと大丈夫だったけど、2人とも集中してたから……」
ごめん、声を掛けてあげれば良かったな。
『本当だぜ、放っときやがって!オレ様たちが本気ならあんなヤツら楽勝だ!』
『ふふふ、任せたぞ!ミツキ!』
『おう、任せとけ!』
「それでルナ。何となく検討は付いているがお前の魔法教えてもらえるか?」
「うん、強化魔法。身体能力を強化してるの。元々獣人族は身体能力は高いんだけど、ミツキの魔法で何倍にもなってる。」
「やはりそうだったか!女の子にしては動きが尋常じゃないと思ったよ。」
「それちょっと傷つくな。」
何はともあれ前衛のアタッカーが増えたのはありがたい。ライトはスピード重視で撹乱が得意なアタッカーだ。防御力の高い敵には火力不足が否めない。ルナが加われば、簡単には無視出来ない攻撃力だ。必ず隙ができる。
「頼むぞ、ルナ!ライト!」
「うん!」『おう!』
先ずはライトが投影分身で撹乱する。ドルタワーには有効打にはならないが、上に乗っているエディルノには十分だ!
「クソっ、さっきからこの鳥が!!鬱陶しいんだよ!」
エディルノがライトの攻撃にイラつき、ドルタワーは体を滅茶苦茶に振ってライトを振り払おうとする。しかし、今回は本体の姿はなく全て分身だ。ドルタワーの意識が上空に向く。
「上ばかり見てて良いの?」
2人の意識がライトに集中した瞬間、ルナが懐に潜り込み強化した拳でドルタワーをかち上げる。
「ドラァァ!」「うおっ!」
「すごいなあの質量を浮かせるのか!これなら…」
『行けるわね。』
先程、契約したラビスだ。弓矢の先端に極寒の魔力を込める。着地地点を見極め放つ。着地のタイミングにバッチリに合わせた。
永久凍土
矢の着弾地点から濃紺の魔力が溢れ出す。ドルタワーの着弾と同時に地に着いた部分から凍結が広がる。
「ドルァァア」
『おいおい、手脚固めて動き止めるだけの予定だったぞ?』
『今集中してるから話しかけないでくれる?』
『はい、すいません。』
ラビスさんはちょっと冷たい。
「隙あり!」
強化されたルナの拳がドルタワーの横腹に決まる。凍結していた部分が剥がれ落ちる。血は流れていないが、あの右の前後の脚はもう使い物にならないだろう。
『しっかり芯まで凍り付いているな。』
ドルタワーは元々の質量がかなり大きいため、脚2本では上手くバランスが保てないようだ。
「隙だらけだな。」
目の前に移動し、炸裂弓撃を放つ。今度は外さない。頭から一直線に貫通した矢はいつもの如く光の軌跡を描く。
「ドルァァア」
ドルタワーの断末魔の悲鳴が上がるが、矢が貫通した今となってはもう手遅れだ。頭から通った穴からは炎が噴き出し、燃やし尽くしていく。
「お疲れ様、ルナ!ライト!」
『へへ』
「うん、助けてくれてありがとうミヤビ!」
オレとルナは拳を突き合わせる。忘れるなよとライトもオレの腕に乗り鉤爪を合わせてくる。
誰か忘れてるような気が……
「おい、ドルタワー!早くヤツらを殺せ!」
「そう言えば、あいつ忘れていたな。どうする?」
「武器も壊れて、精霊も失った。もう私たちの敵じゃないと思うよ。」
『取り敢えずとっ捕まえて、縛っておこうぜ。』
周囲を囲っていた兵たちはエディルノとドルタワーが敗れたことをまだ受け止め切れてない様子だ。
「さて最後のもう一仕事を済ませるか。」
「うん、でもすぐ終わると思う。」
その後、ボニ村には黄金色のスパークが各地から迸り、兵たちの悲鳴が木霊した。
「これで最後だな。」
ヴァルザーグの第3兵団のエディルノ部隊はこれで壊滅した。全ての兵たちを縛り上げて1つの民家に投げ込んでおく。
「何者なんだお前らは!…………っ!!何だ!!その右腕の契約紋は…」
「オレか?オレはミヤビ!蝶の契約士だ!」
7色まで増えた契約紋が光を放っている。
さてと取り敢えずこれでひと段落ついたが…
ルナを連れて実家の小屋へと戻る。戦いに夢中で忘れていたが、改めて変わり果てた祖母と再開する。ルナは押し黙って、少し震えて必死に涙を我慢している。生まれた故郷と育ての親とを失ったのだ…
静かにルナの頭に手を置き頭を撫でる。押し殺していた感情が堰を切ったように溢れ出した。
その日、ボニ村が地図から消えた。聞いた話によると、捕まえたはずの兵たちはボーグからの兵団が駆けつけた時には既に消えていた。オレとルナの証言だけではヴァルザーグの侵攻を裏付けことは出来るなかった。多くの戦いの傷跡が残っていたが、生き延びた村人がルナ1人ということで真実は闇に隠されたままだ。




