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外宇宙の卵

作者: RAMネコ
掲載日:2017/08/23

 卵がある。

 割る勇気はまだない。

 最大直径は親指と中指の輪くらい。

 色は青白い。

 普通の鶏卵に見える。

 だが見ているのは青白い卵の殻だけである。

 あたりまえだが、『中身』は見えない。


──そう、わからなく、見えないのだ。


 この卵の殻を割ったのならば、中身を知ることもできるであろう。

 卵の中身は何であろうか?

 

 鶏。


 亀。


 鳩。


 鰐。


 鷲。


 生き物ではないかもしれない。もしかしたら、手品のハンカチかもしれない。だがそれも、この卵を割って、中身を見なければわからない。

 割ってみないことには不確定の謎のままだ。

 未知である。

 踏み込む勇気が必要だ。

 わたしにはまだ、その勇気をもてないでいた。

 で、あるというのにだ。

 この卵を割って中身を確かめたいと考える、そんなわたしもいるにはいた。

 未知への恐怖。

 

──同時。


 未知への好奇心。

 奇妙なことにも、この二つの感情は相反していなかった。

 卵に対してわたしは、恐怖と好奇心が共存していたのである。


 チクタク。

 

 チクタク。

 

 チクタク。


 時計の秒針が動き、長針が動き、短針が動いていた。ふりこは左右に、ゆらり、ゆらりと揺れていた。

 意は決した。

 わたしはスプーンを右手につかむ。

 この卵の殻を割って、その内に秘める未知の真実を白昼をするためにだ。

 大きくふりかぶった。

 そして、スプーンをふりおろす。

 だがしかし。

 卵の殻は割れなかった

 カルシウムの塊のような殻に、異様なまでの硬度があったわけではない。

 わたしの銀のスプーンは、卵の殻にあたる瞬間、完全にその運動を停止していたのだ。

 卵を割ることが、できなかった。

 ためららわせたのは。

 手が止まったのは。

 

──不安。


 卵は一見、何の変哲もないかのように、確かに見えた。

 普通に考えれば、ゆで卵になっていて、割った殻を取り除けば白身が固まっていて、白身をすくえば固まった黄身がある、はずだ。

 そのはずだ。

 スーパーで八個入り二百円で買った卵のパックの鶏卵。

 朝のとれたて鶏卵であるという表記を信じれば、そういうことになるはずだ。

 だが……だが、である。 

 わたしは、静かにスプーンをわきに置く。

 先ほどの繰り返しとなるが、卵の中身というのは、割ってみなければわからないのだ。

 もし卵の殻の中に隠されている神秘が、有精卵で成長しきったヒナの蒸し焼きであったら、どうする?

 怖い。

 まったくありえない可能性ではないだ。

 突拍子のない発想であれば、ビッグアイバグとか、宇宙の深淵の神とか、木星の猫の卵であったりするかもなのだ。

 なんの卵であっても不思議ではない。

 問題はなんの卵であるか知るためには、卵の殻を絶対に割る必要があることだ。

 ゆで卵であれば良い。

 怪物であったら、どうする?

 ぎょろりとした目玉がにらみつけてきながら、卵の大きさに不相応な体があふれてくる……。

 怪物であれば、たかだか水の沸点

100℃程度生き残れるはずだ。

 わたしは生まれたばかりで腹をすかせる怪物の、ファストフードかもだ。

 食べるはずだった卵に食べられる。

 ならば食べられる前に喰ってやろう。

 少しだが勇気がでてきたぞ。


「よし!」


 今一度の勇気が心に宿る。

 金属のスプーンが、卵の、カルシウムの殻へあたった。

 ピシリ、の音とともにヒビがはしる。

 中身は──


「うん、おいしい」


──ただの、普通の、ゆで卵だ。

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