第8話 会長の部屋で勉強会
「それにしてもお前の家、すげぇ広いな」
食堂から結衣の部屋へと歩きながら俺は言った。
「外から見てみますか?」
「いいのか?」
「はい。こっちです」
玄関を出ると、まず目の前には、のどかな草原が広がっていた。
近くにこんな場所があるなんて全く知らなかった。
少し歩いて、後ろを振り返ると、そこには思っていたよりもはるかに大きな洋館があった。
「うわ! お前の家ってこんなに大きかったのか?」
「はい、この辺は田舎ですので土地代が安かったから、とお父様は言っていました」
「そ、そうか」
確かに土地代は安いかもしれないが、これはそうゆうレベルじゃないだろこれ。
てか、こんなところが近くにあったなんて全然知らなかった。
「もうそろそろいいですか?」
「ああ」
そう言って、俺たちはこの大きな洋館の中に戻った。
「そう言えば、青山と佳月は?」
俺は歩きながら聞いた。
「二人なら、クロエが来た後すぐに帰りましたよ」
「そうか」
「着きましたよ。ここです。と言っても、春樹君がさっきまで寝ていた場所ですけど」
そうゆうと、結衣はドアを開けた。
さっきは、他のことで頭がいっぱいであまり見ていなかったが、改めて見ると、きれいに整理された本棚に勉強机、それに真っ白な壁があり、横には大きなベット、真ん中には四角いテーブルがあった。
そして、部屋の隅には見慣れたカバンが置かれていた。
とてもきれいな部屋ではあるが、年頃の女の子の部屋とは思えないくらい必要最低限の物以外は何もない部屋だ。
「改めて見ると、なんかあれだな。すげぇきれいなんだけど、女の子の部屋っぽくないな」
「そうですか?」
「好きな有名人のポスター貼ったり、かわいいぬいぐるみがあったりとか、俺の想像する最近の女の子の部屋ってそんなもんかなって思ってたから。まぁ、女の子の部屋にあがるのは、これが初めてだけど」
まぁ俺基準の最近の女子高生の部屋なんてあてにならないだろうがな。
「やっぱりそうゆうものがあったほうがいいですか?」
「いや、俺はこうゆう部屋のほうが落ち着くし好きだな」
「そうですか。それならいいですけど」
「これ、俺のカバンだよな」
部屋の隅にあるカバンの取りながら言った。
「はい」
「じゃあ勉強するか」
「そうですね」
そう言うと、結衣は数学の宿題を広げ始めた。
「そう言えば、青山も一回ここに来たことあるって言ってたけど、その時も勉強を教えてもらってたのか?」
「はい。ちょうど一週間前のことです」
「へぇ~結構最近のことなんだな。」
「そう言えば、考えてみると、俺たちって4人とも9月になって初めて知り合ったってことになるのか」
「私は春樹くんのこと知ってましたけどね」
「そうだったな」
「春樹くんってもっと怖い人だと思ってました」
そりゃクラスであんだけずっと一人でいれば、そんな風に思うのも無理ないか。
「まぁ、クラスでの様子で判断したらそうなるわな」
「春樹くん、クラスではあんまりほかの人としゃべらないですもんね」
「まぁな」
ぼっちで悪かったな。
「どうして、他の人としゃべらないんですか? 春樹くんなら、すぐに友達作れそうなのに」
「まぁ、1年の時にちょっとな」
「そうなんですか。なんだか大変ですね」
「別に慣れれば、案外楽でいいぞ」
「そうでしょうか?」
「そんなことより、お前の勉強のことなんだけど、俺はこの前の成績しか知らないんだが、いつもあんななのか?」
「い、いえ。いつもはもう少しいいんです。これまでも成績見ますか?」
「いいのか?」
「はい」
そう言うと、結衣は立ち上がり、机の引き出しの中を探し始めた。
「これです。どうぞ」
そう言って結衣は、二枚の紙を俺に差し出した。
「おう」
一枚は1年の時の通知表で、もう一枚は二年の一学期中間テストの結果だった。
結果から言えば、結衣の言っていることは本当だった。
通知表も、中間テストもほとんどの教科は、60点を超えている。
ただ、数学はどちらも30前後だった。
「お前頭よかったんだな」
「いえ、そんなことは」
「でもなんで、この前のテストはあんなに悪かったんだ?」
「それはですね~…」
何か、言いたくないことでもあるのだろうか?
「あ、いや。別に言いたくないことなら、言わなくてもいいんだが」
「いえ、そうゆうわけではないんですけど……誰にも言ってないので、他の人には言わないでもらえますか?」
「わかった」
「実はですね。テストの日に風邪をひいてしまいまして…」
「…え?それだけか?」
「はい」
「いや何か超言いにくそうだったから、てっきりもっとすごいことかと…。てかそんなことなら皆に言えばいいんじゃないか?」
「風邪をひいたのは私の自己管理がしっかりしていなかったせいなので、そんなことは言い訳にしたくないんです」
「そうか。お前ってバカなのに結構真面目なんだな」
「だからバカじゃないです」
「そうだったな」
「ただ、数学だけはどうしてもできなくて」
「だな」
「なので、とりあえず宿題を手伝ってもらいたいのですが」
「わかった」
「では、まずこの問題なんですが」
こうして、勉強会が始まった。
「どれどれ、sin3x+sinx=0を解け、これならsin3xを公式を使うか、和と積の公式を使えば解けると思うぞ」
「和・積の公式と積・和の公式って紛らわしくて、なかなか覚えれなくて」
「それならその場で作ればいいんじゃないか? sin(x±y)やcos(x±y)の加法定理を足したり引いたり、すれば積・和の公式ができて、そこでx+y=A、x-y=Bとすれば、和・積の公式ができるぞ」
「ごめんなさい、もう一回お願いします」
「そうだな。とりあえず俺がやってみるから、見ててくれるか」
「はい。」
その後も、途中休憩をはさんだり、昼食を取ったりしながら、勉強会は続いた。
ちなみに、結衣が問題を解いているときは、俺も自分の宿題をやっていて、結衣がわからないところを教えるといった感じだった。
「この最後の問題がわかんないいんですけど」
「男子4人、女子2人が手をつないで輪を作るとき、女子2人が隣り会う確率を求めよ。
これはまず、6人が輪を作るときに何通りできるかを求めて、次に女子二人が隣り合うときに何通りになるか求めて、割り算すればできるんじゃないか?」
「ちょっとやってみますね」
「…できました! ふー。ようやく宿題終わりました」
見上げると、時計は4時半を指していた。
ちなみに俺はというと、3時間ほど前に宿題を終わらせて、来週出るであろう宿題がだいたい終わったところだった。
「もうだいぶ遅くなってしまいましたね。今日はこんな時間まで、付き合っていただいてありがとうございました」
結衣は、ちょこんと頭を下げた。
「気にすんな。俺も勉強できたし」
「それはよかったです」
「そうだ、夕食は食べていきますか?」
「いや流石に昨日も帰ってないし、今日もこれ以上遅くなると帰った後、妹が大変そうだからな」
今、自分で言って昨日から家に一切連絡を入れてないということに気が付いた。
昨日いろいろなことがありすぎて、すっかり忘れていた。
まぁ後で怒られる前に冗談半分で土下座でもすれば許してくれるか。
「春樹くん、妹さんがいるんですか?」
「いろいろ事情があって、今はほとんど妹と二人暮らしみたいな感じだ」
「そ、そうだったんですか! すみません、こんな遅くまで無理に付き合わせてしまって。 その…今度からは気を付けます」
「いいよ、別に。あいつ今、中3で受験勉強で忙しいだろうから、俺が家にいても邪魔なだけだと思うし」
「…そうですか」
口ではああ言ったが、内心は超焦っていた。
あいつは家事全般一通りできるので、その辺りは問題ないが、やはりいろいろと心配だった。
それに、自分の身も心配だった。
「でも急いで帰ったほうがよさそうですね。バス停まで案内します」
俺たちは少し速足でバス停まで向かった。