第6話 クロエの策略
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俺が目を開けると、そこは知らないところだった。
どうやら、このとてもふかふかのベットで寝ていたらしい。
顎と後頭部の痛みを抑えながら、一番新しい記憶を思い出す。
(俺は昨日、秘密の部屋でみんなとゲームをして、終わって帰ろうとしたら生徒会室のカギが開かなくなっていた。そのあと誰かが入ってきたから、とっさに秘密の部屋に隠れたが、そこがバレて、俺がそいつを倒そうとしたが、返り討ちにあった)
よし。だいたい昨日のことは、思い出した。が、それでも今の状況が理解できない。
侵入者に捕まってしまったのなら、こんな高級そうなベットに寝かせてくれるはずないし。
かといって、あの侵入者を相手に会長たちが勝てるとも到底思えない。
思考回路を巡らしていると、俺の隣でごそごそと何かが動いた。
「宮本く~ん。行かないで~」
「うわ~!ビックリしたー」
俺の隣に何故か会長がいた。
どうやら会長は寝ているようだ。
それにしても、こいつどんな夢見てるんだよ。
「あれ?、宮本君。起きてたんですね。おはようございます」
「お、おはようございます。って会長!この状況はどうなってるんすか?」
「私と宮本くんが一緒に寝てる?」
いや、それは見ればわかる。
「宮本くんは私と寝たくないのですか?」
いや、この人寝ぼけすぎでしょ!
「そうゆうわけではないですけど、この状況はちょっとマズいというか…」
「宮本くんは私のことが嫌いなのですか?」
そう言って、会長は体を俺とぴったりとくっつけるようにして、顔を俺の目の前に持ってきた。
「そ、そんなことないですよ。そ、それより会長!ちょっと近すぎですって!」
俺は、ほんのりとした甘い香りと会長の柔らかい肌の感触に加え、少し大きめのパジャマから覗く胸の谷間でどうにかなりそうだ。
「じゃあ、私のこと好きですか?」
会長は、さらに体を近づけてくる。
「え、いや、それは、そのですね…」
俺が返答に困っていると、急にドアがノックされ、執事服の女性が入ってきた。
「失礼します、お嬢様。 あら、お取込み中のようですね。これは失礼いたしました」
「いや誤解です!ていうか助けてください」
そう言って、俺はその人をなんとか呼び止め、こうなった経緯を説明した。
それにしても、この人どこかで見たことあるような……
「そうゆうことでしたか。それは、大変失礼しました」
「宮本くん、すみませんでした。寝ぼけていたからとはいえ、あのような、見苦しい姿をお見せしてしまって。もう死んでしまいたいぐらい恥ずかしいです」
会長が顔を真っ赤にしながな言った。
「別に全然気にしてないので」
そんな顔で言われたら、こっちまで恥ずかしくなるだろ。
「全く気にしてないというのは、それはそれでなんというか…」
会長が小声で何やらつぶやいている
「え?」
「な、何でもありません!」
会長の顔がさらに赤くなったような気がした。
学校の成績があまりにも悪いせいであまりわからなたっかが、会長は少し天然っぽいところがあるが、勉強以外のことなら、だいたいのことは器用にこなせるとういことが最近分かってきた。
ちなみに、運動はそこまで得意ではないらしい。
そう考えると、今回の会長の失態はなかなか珍しいことのように思えてくる。
あらためて見ると、この執事服の女性は、まだ20代前半といったところか、金髪のショートッカットでとてもきれいな人だ。
俺の視線に気づいたのだろうか?
執事服の女性は、こちらのほうを向いた。
「そういえば、自己紹介がまだでしたね。私は家令のクロエと申します」
「カレエのクロエさん?」
「家令とは簡単に言えば執事のようなものです」
「そうですか。クロエさんはハーフなんですか?」
「たぶんそうだと思います。昔、生まれたばかりの私が、この近くで捨てられていたのを旦那様が保護して育ててくださったと聞いておりますので、詳細はわかりませんが……ちなみにクロエという名前も旦那様がつけてくださいました」
「そうだったんですか。じゃあ、クロエさんは最初から執事として育てられたんですか?」
「いえ、中学生まではここの正式な娘として育てられてきました。高校に上がるときに、旦那様から本当のことを教えられました。それでも旦那様はこれまで通り、娘としてこの家にいても構わないとおっしゃってくださったのですが、さすがにそれは申し訳ないということで、これまでの恩返しもかねて、家令として働くことにしたのです」
「じゃあ昔は会長のお姉さんだったんですか?」
「はい。まぁお嬢様は、自分のことはお嬢様ではなく、結衣と呼んでほしいと言って聞かないので、今でも二人の時は結衣と呼んでいます」
「当たり前です。クロエはどんなことがあっても私の姉ですから」
「会長はクロエさんのこと、どう呼んでるんですか?」
「私はクロエと呼んでいます」
「いい機会ですので、宮本様もこれからはお嬢様ことを結衣と呼んでみては?」
「いや、それは流石に…なぁ」
「私は別に…その…どちらでもいいというか、どちらかというと名前で呼んでほしいというか…」
会長が顔を真っ赤にして俯きながら言った。
「ほら、お嬢様もこう言っていることですし、試しに呼んでみては?」
「わかりましたよ!じゃあ呼ぶぞ」
「は、はい」
「ゆ、ゆ、ゆ、ゆ……そ、そうだ。間を取って宇佐美さんとかでどうだ」
「宮本様、あなたヘタレですね」
「な! 分かりましたよ!呼べばいいんですよね!」
くそー! この執事め!
「ゆ、結衣」
「はい」
結衣は、さらに赤くなって、かろうじて聞こえるくらいの声で返事をした。
「後、宮本様」
「まだあるんですか?」
「同級生なら、タメ口でもいいんじゃないかと?」
確かにタメ口のほうがいいかなってちょうど思ってたところだし。
「まぁ、タメ口にするくらいならいいですけど、それなら会長…じゃなくて結衣も敬語だろ」
「お嬢様は、敬語のほうが将来何かと役に立ちますので」
「そうかい。じゃあこれからは、呼ぶときは結衣で、後、俺はタメ口ってことで言いな?」
そう言うと、クロエが何やら結衣に耳打ちをしている。
「はい!それでお願いします! は、春樹くん」
「お、おう!」
急に名前で呼ばれて、動揺してしまい、つい声が上ずってしまった。
それにしても、あのクロエとかいう人、なかなかの策士だな。
あの人には気を付けなければ!
そんなことよりも、俺は気になることがいくつかあった。
「まだ、状況が整理できていないんだけど、とりあえず、ここは会…結衣の家でいいのか?」
「そうですよ」
「後、昨日のことなんだが……」
そう言うと、結衣とクロエさんはくすくすと笑いだした。
「もうすぐ、朝食の時間ですので、その時に二人で話されてはいかがですか?宮本様の分もご用意してありますので」
「わざわざすみません。でも、その前にシャワーを浴びたいんだが」
「そうですね」
「では、私は先に着替えをして、食堂に行っていますね」
「おう、わかった」
「では、また後で」
そうして、俺はクロエさんの後について行った。