第26話 非難と同情
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今日も実行委員の仕事で会議室に行く前に、生徒会室に顔を出すと、昨日と同じ顔触れがすでに揃っていて、同じように俺が来たことを確認すると、青山が会議室に行くために席を立った。
「いや、今日は会議がメインだし俺一人で行くわ」
今日の実行委員は役員全員の招集がかかっていて、現状の進捗状況やこれからの役割分担などの決めなおしを行うらしいので、生徒会からはせいぜい一人だていれば十分だろう。
なんなら、俺もいらないレベルかもしれないが、俺にもやることがあるからそうゆうわけにはいかない。
それにこうゆうことをやるのは、俺一人で十分だ。
「…そう。じゃあ頼んだわ」
俺の意図を察したのかどうかは分からないが、青山は再び席に座った。
というわけで、俺は一人で来た道を逆戻りして、階段を下りて会議室へと向かった。
会議室の中は昨日、一昨日とは比べ物にならない程にぎやかだった。
そりゃこんだけ人数が集まれば知っている奴も大勢いるだろう。
俺ですら、見たことある顔がいくつかあるくらいだ。
とは言っても、まともに話したことあるのは、一番前に座っている教師と実行委員長だけなんだが…
てか何でこうゆう時に限って白石先生いるの?
何?俺の作戦食い止めに来たの?
まぁでも、あの先生はそうゆうことは黙ってみてるタイプの人だから大丈夫だろう…たぶん。
ドアの近くの空いている席に座り、羊を数えていると、眠る前に会議が始まってしまった。
会議は菊地が主導で行うみたいだ。
詳細な進行度合いを確認したことはなかったが、やはりこのペースではあまり余裕はなさそうだ。
どうやらそのことは、ここにいる人たちも伝わったらしく、進捗状況の説明をし出した辺りからが少し重い感じの空気になった。
進捗状況の説明が終わり、本来なら次にこれからの役割の再振り分けに入るところだが、できればここで一言二言三言ぐらい喋っておきたい。
菊地も俺を紹介するタイミングをうかがっていたのか、ちょうど目が合ったので、皆には見えないように手を挙げた。
「えっと、仕事の割り振りに移る前に、これから生徒会にも協力してもらうので、生徒会の方から一言もらいたいと思います」
そう言って、菊地は俺にマイクを渡してきたので、それを受け取って一番前に移動し振り返る。
こんな大勢の前で何かやるのとか何年ぶりだよ。
ぼっちにはこの上なくつらい場だな。
ちらほらと拍手が起こった。
拍手が止んで、5秒ほど沈黙を作り、できるだけ多くの意識を集める。
注意することは、噛まない、裏声にならない、なめられない、少し上から目線で、声はいつもより低めで。
少し息を吸ってから喋り出した。
「今回の進行の遅れの件ですが、端的に言えば役員の出席率が悪いことが原因です。」
ここまで言うと、少しざわつき始める。
それもそうだ。自分たちのことを悪く言われたら、群がりたくなるのがこいつらの習性なのだ。
ここで少し声のボリュームを上げる。
「しかし、大抵こうゆう場合において、一番の原因は彼らをまとめる人に帰着する。今回の場合も例外じゃない。何か問題が起きた時に自分で考えようともせず、すぐに俺たち生徒会を頼ろうとして、ミスコンの宣伝もせずポスターすら作ろうともせずにミスコンのメンバーが集まらないとか言って相談に来るやつに人をまとめるなんてできるはずがないだろ。そのくせ自分はあたかも仕事してますとでも言うように、遅くまで残って」
菊地の方を見ると、俯いて表情こそわからなかったが、少し肩が揺れているように見えた。
「…まぁ俺から言いたいことは以上だ。手伝いはするのでよろしく」
俺は、菊地の前にマイクを置き、元いた位置に座った。
会議室は、一瞬静寂に包まれてその後、少しざわつき出した。
菊地がマイクを持って、フラフラと席を立つのと同時に、白石先生がもう一つのマイクを持って喋り出した。
「明日からの割り振りのことだが、基本はこれまで通りで、生徒会の人たちには遅れているところをーーー」
さすが先生。ナイスタイミング。
白石先生が話し始めると、菊地はフラフラと席に着いた。
会議はこの後30分ほど、白石先生によって進んでいった。
正直、どんなことを話していたのかは、さっぱり耳には入ってこなかった。
白石先生の話が終わり、今日の実行委員がお開きになると、菊地のことを知っているであろう人たちが、菊地の周りに集まり出し、俯いたままの菊地を一生懸命、慰めている。
「全然気にすることないよ。楓は悪くないよ」
「てか、あいつ何様?超上から目線だったよね」
「ホント最低」
俺に軽蔑の視線が向けられる。
俺は荷物をまとめて会議室を出た。
勿論、こうなることは大方予想がついていた。
俺に軽蔑の視線が向けられて、菊地に同情する人が出ることも。
きっとこれで菊地が持ってきた問題の解消にはなるだろう。
あの場合、仕事に来ていないやつらを責めたところで、あいつらは反抗して一層来なくなる可能性が高かった。
だから、わざわざ仕事をしっかりとこなしていた菊地を責めた。
他のやつらは、少なくとも菊地がしっかり仕事をこなしていたのを知っているから、菊地に同情して、俺を非難する。
さらに、この役は俺にはうってつけだった。
仮に文武両道爽やかイケメンの城山和人が俺の代わりをやったらどうなっていただろうか?
きっと、賛成半分、反対半分でこれまで以上に最悪の状態になっていただろう。
つまり、俺は憎まれ役には最適の人材だったのだ。
菊地には申し訳ないと思うが、少なくとも文化祭が終わるまでは、菊地は皆からたくさんサポートしてもらい、励まされることになるだろう。
そして文化祭が成功したら、きっと実行委員の人たちは菊地のおかげだと言うだろう。
仮に、何かトラブルがあってもおそらく責任は俺に回ってくるのだろう。
きっと菊地もすぐ立ち直るだろう。
自分の中では完璧なシナリオだった。
なのに、今までにないほどに自分に腹が立った。
一切罪のない人を傷つけて、いい気分でいられるわけがない。
こんなことしか思いつかなかった自分が憎らしい。
「宮本」
後ろから声をかけられたが、相手が誰だか分かったので返事をする代わりに歩幅を緩めた。




