第19話 憂鬱と唐突
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文化祭まで後2週間に迫り、放課後になるとどのクラスも文化祭の準備で騒がしくなってきた。
文化祭なんて所詮クラスの連中らが仲良しこよしの友達ごっこでよくわからない作品やら演劇やらを作り上げて、絆を深め合うふりをするための、リア充だけが楽しめるイベントに過ぎない。
ぼっちの俺からしてみれば、仕事が増えるだけのただの迷惑なイベントに過ぎない。
俺のクラスは演劇をやるということになったらしい。
俺は得意の木の役すら回って来ず、事前の準備を手伝ってくれればそれでいいということになった。
てか、このご時世に木の役とかホントにあるの?
もし親が見に来て、息子が気の役とかやってたら親100%泣くだろ。
俺とは対照的に結衣はみんなから散々お願いされ、ヒロイン役をゲットしたわけだが…
ホント人気者は大変だな
まぁ、あいつの断り切れない性格の良さをクラスの女子たちに上手く利用されただけだろうけど
そもそも誰もヒロインをやりたくないのに、どうして演劇なんかやろうとしたのかが疑問でしょうがない。
でもわからないでもない。
誰だって、責任の伴うことをやりたがらないのは当たり前のことだ。
そうやって、責任の枠の中から外れて、成功したときだけあたかも一緒に乗り越えてきたかのように枠の中に入っていき、失敗すれば責任をすべて押し付けて自分は安全なところから高みの見物をする。
所詮友達同士の絆なんて、そんなものに過ぎない。
その程度の薄っぺらい関係なら最初からなかった方がよっぽど気楽に生きれていいに決まっている。
でも、他人にその人の価値観を押し付けることが、どれだけ迷惑でイライラするかくらいは知っている。
だから俺は自分の価値観を他人に押し付けようとは思わないし、何を言われようと自分の価値観や意思を変えることはしない。
騒々しさをできるだけ耳に入れないように、どうでもいいことを考えて歩いていたが、余計に気分が悪くなるばかりだった。
この状況では生徒会室は唯一俺が落ち着ける場所だ。
生徒会室のドアを開けると、俺の予想外にも生徒会室には2人の人がいた。
一人は俺の予想通りの人物だったが、もう一人は初めて見る顔だった。
「あ、宮本。ちょうどよかった。何かこの子、相談があるんだって」
青山の横にはふわっとしたセミロングの可愛い感じの子がいた。
その子はこちらに気づくと、俺に向かってにっこりと微笑みかけた。
「初めまして。1年の菊地楓です」
こいつあれだな。今時の女子高性って感じ全開だな。
ちょっと気崩した制服にナチュラルメイクとかまさにそれだな。
「に、2年の宮本春樹だ。それで相談って言うのは何だ?」
「それがですねー。もうすぐ文化祭じゃないですかー」
「そうだな」
「私、文化祭の実行委員長なんですけどー」
え?こいつが?
そうゆうことやるやつには見えないけどな
まぁ人は見かけによらないって言うし、人を勝手に決めつけてかかるのはよくないな。うん。
「あ。今、この人向いてなさそーとか思いませんでした?」
「え、あ、そ、そんなことないんじゃないか?多分…」
明るい笑顔でまっすぐ見られて、動揺して言葉に詰まってしまった。
「実は私もやりたくなかったんですけど、なんか成り行きでなっちゃって~」
俺の苦手な口調だなー。
てかどうやったら、成り行きで実行委員長になるんだよ。
でも考えてみれば、俺もやりたくなかったけど成り行きで副会長やってるし、同じようなもんか。
「それで、手伝ってほしいことが二つほどあるんですけど~…」
二つもあるのかよ。
というか、それ以前の問題だろ。
「ちょっと待て。状況はなんとなくわかった。でも、ここは相談所でも何でも屋でもない。それに俺たちもこう見えて結構忙しいんだ」
俺がそう言うと、菊地は驚いたように肩をピクッとさせた。
「ちょっと宮本!わざわざ相談しに来てるのに、そんな言い方はないんじゃないか?」
確かに自分でも言った後で、言い過ぎたとは思った。
「悪い。少し言い過ぎた。でも何かと忙しいのは確かだ」
菊地はしょんぼりした顔になった。
こいつ、見かけの割に押しに弱いのか?
それなら、実行委員長にされたのも納得がいく。
こいつ男子には人気ありそうだけど、女子からは超嫌われそうだからな。
こいつのこと気に入らない女子が、嫌がらせで無理矢理やらせたんだろうな。
「で、でも、白石先生が…」
え?
予想外の名前を菊地が言ったので、流石にびっくりした。
まぁでも聞き間違いってこともあるし…
「ごめん。なんだって?」
どうか、聞き間違いであってくれ
「白石先生が、相談なら生徒会に行けば協力してくれるって言ったんで来たんですけど…」
菊地はさっきまでとは全く違った喋り方になった。
おそらくこっちが素の喋り方なんだろう。
ていうか、あの先生は何やってんだよ。
生徒会顧問なら今、どれくらい仕事が多いか知ってるだろ。
それに、白石先生を介してここに来たんじゃ断れないじゃないか。
青山もどうすればいいか分からなくなって、めっちゃこっち見てるし。
「ま、まぁそうゆうことなら、しょうがないから引き受けてやる」
そう言うと、菊地はさっきまでのが演技だったかのような笑顔でこっちを見る。
「ホントですか?ありがとうございます」
「それじゃあ、とりあえず具体的な依頼内容を教えてくれないか?」