第14話 清水みどりと生徒会
授業が終わり、清水の待つ教室に行こうとして教室の外へ出ると、そこに清水が立っていた。
「あ、ハル先輩!終礼が早く終わったので来ちゃいました」
「そうか。悪いな」
教室の中の皆がこっちをちらちら見てざわつき出したので、一刻も早くこの場を離れたかった。
「じゃ、じゃあ行くか」
「はい」
そう言って俺が歩き出すと、清水もそのすぐ後ろについて歩き出した。
「少し緊張します」
「皆いいやつだから大丈夫だよ」
「ハル先輩がそう言うなら安心ですね」
なんで俺がそんなに清水から信用されているのか分からないが、人に信用されるのは悪い感じはしないからまぁいいか。
そうやって話しているうちに、生徒会室に着いた。
「やっぱり緊張してきました」
「そりゃ、初対面の人と会うのは誰だって緊張するだろうけど、ここは気楽は場所だから気にしなくていいぞ。なんせ、俺でさえ馴染めた場所だからな」
「そうですね。クラスでさえ居場所のないハル先輩がそう言うんだったら大丈夫ですね」
清水は笑顔でそう言った。
「さらっとひどいこと言うの止めてもらえませんか?」
「いいじゃないですか。本当のことですよ」
「本当のことのほうが残酷ってこともあるんだぞ」
ホント、今まであった事実を並べていったら3個に1個は黒歴史なような気がする。
いや、2個に1個ぐらいか?もっとか?
そんなことを考えるのは止めておこう。
「ま、まぁ俺のことはさておき、入りますか」
「そ、そうですね」
やはり清水は少し緊張しているようだ。
まぁ無理もないか。
とりあえず、生徒会室のドアを開けると、すでに俺以外は全員揃っていた。
「あ、宮本。遅かったわね。って、そっち可愛い子は?」
青山がそう言うと、他の3人も清水のほうを見た。
当の清水は、いきなり3人に見つめられ、おろおろしている。
「ほら、自己紹介」
俺が言うと、ようやく我に返ったようにしゃべりだした。
「あ、そうでした。え、えっと1年3組の清水みどりです。今日は、生徒会の、、見学?体験?、に来ました」
「あー、あなたが清水さんね。私は2年1組で生徒会書記の青山涼香よ。よろしく」
「よろしくお願いします」
「そんな堅苦しくしなくていいわよ」
あれ、青山さん。俺のときと対応が違いすぎませんかね?
「私は2年3組で生徒会長の宇佐美結衣です。みどりちゃん、よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
「僕は1年1組の水無瀬佳月です。清水さん、1年生どうしよろしくね」
「よろしくお願いします」
「うん」
この二人が会話していることろを見るとなんか和むなぁ。
「せっかくですから、皆でそれぞれ呼び方決めませんか?」
「いいわよ」
結衣が提案すると、青山がすかさず賛成した。
そう言えば、清水と初めて会った時、おかしな呼び方をされたが、流石に今回は大丈夫だろう。
「宮本は清水さんのこと、どうやって呼んでるの?」
「俺は清水だけど」
「普通ね」
「いや、普通が一番だろ」
自分で言ってどっかで聞いたことあるフレーズだなぁと思って大きくなった引越社の人を思い浮かべたが、よく考えたら、それは真面目が一番だったな。
最近見ないからうっかりしていた。
「普通じゃない人が良くそんなこと言うわね」
「そう言われると、何とも言い難いな」
「そんなことより呼び方よね」
「何でもいいんですか?」
清水が質問したが、まさかまた変わった呼び方にするんじゃないだろうな。
「まぁ、その人だってわかれば何でもいいんじゃない」
「じゃあ、私決めました。青山先輩がお山先輩で、宇佐美先輩はうさぴょんで、佳月くんはつっきーでどうですか?」
一瞬、生徒会室が誰もいないかのように静まり返った。
やっぱり、そう来たか。
「………いや、そこまで言うなら、『あ』もつけなさいよ」
「じゃあ、名前からとってオカ先輩でもいいですよ」
「『りょ』抜いたら誰だかわかんないわよ」
「あのー、私はうさぴょんでもいいですよ。可愛いですし。私、うさぎ好きですし」
「ですよね。いいですよね」
この二人で会話をしてると、突っ込みがいなくてよくわからない会話になりそうだ。
てか、結衣は後輩に『うさぴょん』とか呼ばれていいのかよ。
「ぼくもつっきーでいいかな」
「ですよね」
なんと青山以外は了承された。
「まぁ、清水ってこうゆうやつだから」
とりあえずフォローしておく。
この後、少々長めの話し合いの結果、ようやくお互いの呼び方が決まった。
青山と清水は、青山の粘り勝ちで、お互いに『青山先輩』『みどり』と呼ぶことになった。
結衣と清水は、一応先輩後輩ということで『うさ先輩』『みどりちゃん』となった。
佳月と清水は、『つっきー』『清水さん』となった。
どうやら生徒会のメンバーは、人の呼び方に関しては常識を持っていたようだ。
名前で呼んでくれとか言ってるやつはちらほらいるけど。
ってそれは正確に言えばクロエさんだけか。
その後は、清水に仕事の内容を説明して、少し一緒にやったり、雑談をしたり、なぜか生徒会室にいつも置いてあるトランプをやったりして、楽しく過ごしていると、あっという間に6時近くになったので帰ることにした。
「今日はとても楽しかったです。ありがとうございました」
「よかったら副会長になるの、考えといてね。もしならなくても、いつでも遊びに来てくださいね」
「はい、考えておきます」
そう言うと、清水はなぜか俺のすぐ横まで来た。
「すみません。この後、少しお時間いいですか?」
清水は俺の耳元でつぶやいた。
俺は軽くうなずいた。
「悪いけど、戸締りは3人に頼んでいいか?なんか清水が用事あるみたいだから」
自分で言っておいて、相変わらず嘘が下手だなと思った。
というか、嘘ついたことになるのか?
「そうなの? まぁ、それくらいならいいわよ」
「悪いな。じゃあ行くか」
「はい。 皆さん今日は本当にありがとうございました」
「またね」
「また、来てくださいね」
「ばいばい」
そうして生徒会室を出ると、清水が屋上に行こうというので、一緒に屋上に行くことにした。
屋上に着き、鍵を取り出すと清水が「私が開けます」というので、鍵を清水に渡した。
清水が鍵を開け、トビラを開けると、外はちょうど太陽が沈んだ直後のように薄暗く、冷たい風が入ってきた。
清水は、いつかと同じように屋上に一歩足を踏み入れ、俺の方に振り返った。
「今日は本当に楽しかったです。私を生徒会に誘ってくれて、ありがとうございました」
そう言って清水は俺に向かって軽く頭を下げた。
「礼なら白石先生に言ってくれ。白石先生が清水を生徒会に入れるように言ったんだから」
「そうですね。ハル先輩にお礼なんかしても意味ないですね」
「その言い方ひどくないか」
「すみません」
そう言って風で髪をなびかせながら笑う清水、外がこの前より暗いせいか、この前と同じシチュエーションのはずなのに、以前より清水の笑顔にどこか物寂しさを感じる。