第13話 清水みどりの事情
「それで、話って何ですか?」
「えっと、清水は何か部活とか入ってる?」
「いえ、何も」
まぁそりゃそうだな。
そうじゃなきゃ、わざわざ先生が清水を選ぶわけないしな。
「その、急で申し訳ないんだけど、生徒会に入ってみないか?」
「生徒会、ですか?」
「あぁ。これから文化祭の準備とかでいろいろ忙しくなるから、人手が足りなくて。それで、副会長をもう一人入れてもいいってことになったんだけど、そこで清水にどうかなって」
「どうして私なんですか?」
「俺も詳しいことはよくわからないんだけど、白石先生が清水に、って」
「そうなんですか。でも、私が生徒会の副会長なんて荷が重すぎます。 実は私、生まれつき体が弱くて、先週も2日しか学校に行ってないんです。今日はなんだか調子が良かったので学校に来たんですけど、多分今週もすべて出席するのは難しそうです。なので、私なんかが生徒会なんて入っても、お手伝いするどころか迷惑ばかりかけて、皆さんの足を引っ張るだけだとと思います」
これだけ深刻な事情があると、無理に誘うのは、申し訳ない気がする。
てか、なんで白石先生は清水を生徒会に入れようとしてるんだ。
まぁなんにせよ、白石先生も嫌がらせで清水を生徒会に入れようとしてる訳じゃないはず、多分、きっと、、、
「そうか。でも、生徒会って言っても、適当に楽しくやってるだけだからな。部活と掛け持ちしてて、週に1,2回しか来てないやつもいるし。 まぁ事情が事情だから無理にとは言わないけど、せっかくだから一回元気な時に行ってみたらどうだ?」
「そうですね。ハル先輩の話聞いたら、一回行ってみたくなりました。 今日はちょっと行けませんけど、また今度、行ってみてもいいですか?」
「あぁ、いつでも来ていいぞ。 そう言えば、学校に来てる時は、いつもここで昼食食べてるのか?」
「そうですよ」
まぁ人それぞれ事情があるし、踏み込んじゃいけないラインとかあるし、詳しくは聞かないでおこう。
「そうだ。私が今度学校来た時もう一度ここで一緒にお昼食べませんか?」
こっちがぶしつけなお願いをしてるんだから、それくらいやってもいいか。
「わかった」
「ホントですか?ありがとうございます。 じゃあ、この鍵はハル先輩に貸してあげます」
そう言って清水は、屋上の鍵を俺に差し出した。
「いいのか?これがないと清水がここに入れないだろ」
「そうですね。なので、私が学校に来ている時は、必ず昼休みにここの鍵を開けておいてください。もし私がここに来た時、鍵が開いていなかったら、私、生徒会には入りませんから」
「なんか、かなり理不尽だな」
「こんなにか弱い病気がちの女の子を生徒会に入れるんですから、それくらいしてくれないと困ります」
「まぁそうゆうもんか。じゃあこれは預かっとくわ」
「はい。よろしくお願いします。 …そろそろ教室戻りましょうか」
「そうだな」
そう言って、俺たちは屋上を出て鍵を閉めた。
「今日は楽しかったです。ありがとうございました」
「いや、こっちこそありがとう」
「それじゃあ、また屋上で」
「あぁ」
そう言って、三階の階段で別れて、俺はクラスに戻った。
生徒会のメンバーには、清水は少し訳ありなので、生徒会に入れるかわからないみたいけど、今度、一回顔を出すと言っておいた。
生徒会では、白石先生の言っていた通り、すごい量の仕事にみんな悪戦苦闘して、佳月も部活後に生徒会に来て仕事を手伝ってくれた。
そんな中でも、休憩中に雑談をしたり、ふざけたりと、これはこれで楽しかった。
一方、清水は俺と昼食を一緒に食べてから2日は、屋上に来なかった。おそらくまた、学校を休んでいるのだろう。
それでも俺は、2日とも一人で屋上で昼食を食べた。
とはいっても、普段から一人で昼食を食べているので、眺めがよくなっただけで、他は特に変わったことはなかった。
* * * * * * * *
清水と昼食を食べてから3日目の昼放課、少し授業が長引いて速足で階段を上がると、そこには、3日ぶりに清水がいた。
「ハル先輩。 下級生の女の子を、、待たせるなんて、、最低ですね」
清水はなぜか、息切れしていた。
「いや、走ってここまで来ただろ。めっちゃ息切れしてるぞ」
「そ、そんなこと、、ないですよ」
「そうかい。まぁ待たせて悪かったな。ちょっと授業が長引いちまって」
そう言いながら、俺は鍵で屋上のトビラを開けた。
「しょうがないですね。じゃあ、この私の作ってきた弁当を食べてくれたら許してあげます」
そう言って清水は二つ持っていた弁当の大きい方の弁当箱を俺に差し出した。
「あのー、俺、弁当あるんですけど…」
「食べてください」
そう言って、清水は満面の笑みで俺に弁当箱を押し付けた。
どうやら、このために清水は急いで、屋上に来たみたいだ。
というか、女子の作ったお弁当を食べれるなんて、罰ゲームじゃなくて、ご褒美とかじゃないか、とも思ったが、弁当箱の大きさをもう一度見ると、やっぱりどっちかわからなくなった。
俺たちはこの前昼食を食べた場所と同じ場所で腰を下ろした。
「じゃあ、食べるか」
「はい」
清水の作ってくれたお弁当箱を開けると、中は色とりどりで、とても美味しそうだった。
「うまそうだな。これ、全部清水が作ったのか?」
「そうですよ」
一口食べてみると、予想以上に美味しかった。
「うん。これ、すごいうまいな」
「ホントですか?それならよかったです」
俺は、何とか両方の弁当を食べ切ったが、案の定、もうこれ以上何も入らないくらいお腹いっぱいになった。
でも、清水の作った弁当は本当にすごくおいしかった。
どうやら、これは罰ゲームではなく、ご褒美だったようだ。
「ハル先輩、大丈夫ですか?」
「あぁ、何とか」
「すみません。作ってたらだんだん楽しくなってきてしまって、つい作りすぎてしまいました」
「気にするな」
「ハル先輩って意外と優しいんですね」
「意外ってなんだよ。俺が普段優しくないみたいな言い方だな」
「ハル先輩って普段から優しいんですか?」
「当たり前だろ。なんせクラスでは雰囲気悪くしないように、できるだけ影薄くして、他の人に話しかけないようにしたり、視界に入らないようにしてるくらいだからな」
「それ、優しさのベクトルずれてますよね。それに、それってハル先輩が友達いないだけですよね」
「いや、友達がいるかいないかの議論をするなら、まず友達の定義づけをしてからにしようか」
「ハル先輩。それ、友達のいない人が言う言葉ですよ」
「まぁ否定はできないな。というかそもそも、友達がいないといけないっていう考え方がまずおかしいだろ」
「でも、友達と何かをするのって楽しくないですか?」
「それも、物によりけりだろ。好きなアニメとか、みんなで見るより一人で見た方が楽しいしな」
「それはハル先輩だけですよ。 でも、一人のほうが楽しかったら、いつ学校に来るかわからない私のために毎日こんなところ、来ないですよ。それとも、私はハル先輩にとって特別ですか?」
「そうだな。清水は特別だな」
「それってどうゆう意味ですか?」
「ここに来てるのは、清水を生徒会に入れるためだからな」
「なんだ。期待して損しました。」
清水は本当にがっかりした様子だった。
「…そう言えば、今日生徒会に行ってみたいんですけど、いいですか?」
清水はすぐに元の調子に戻ってそう言った。
「あぁ。今日なら全員いると思うしいいんじゃないか」
「だったら放課後、私の教室に来てくれませんか?」
「わかった」
「それじゃあ、もうそろそろ戻りましょうか」
「そうだな」
「じゃあ、また」
「はい、待ってます」
そう言って別れ、俺は教室へと戻った。