第1話 宮本春樹と生徒会
「失礼しまーす」
職員室に入り辺りを見回すと、俺をここへ呼び出した張本人と目が合った。
「お、宮本。こっちだ」
そう言ってその女教師は飲んでいた缶コーヒーを置いた。
今日はあの憂鬱な2学期の登校日からちょうど3日が経ってようやく憂鬱モードから少し立ち直ってきたところなのに、そんなタイミングで呼び出しとか何の陰謀だよ。
「まぁ座りたまえ」
とりあえず、言われた通り先生の向かい側に座った。
「呼び出された理由は分かるか?」
何かやらかしたのかと思い、最近あったことを思い返かえそうとしたが、思い返すことがないくらい何もなかった。
「いえ。特には」
「そうだろうな。君は基本、学校では何もしてないもんな」
この先生、意外と生徒のこと見てるんだなぁ、と感心した。
「そうですね」
「むしろ何もしなさ過ぎて他の生徒との会話もしてないぐらいだもんな」
先生はため息交じりに言った。
もいかして、この教師は俺への不満を言うためにわざわざ俺を職員室に呼んだのだろうか?
まぁ、もちろんそんなことないのは分かっているんだが、、
「先生も一応教師なんですから、生徒にはもっと温かい言葉で包み込んであげるべきじゃないんですか?」
「いつも王道が正しいとは限らないものだよ。覚えておくといいよ」
「はぁ」
まぁ確かに先生の言うこともわかる気がする。
現に俺は今の生活にそれなりに満足しているし、放課後もクラスに残ってはしゃいで盛り上がっているリア充どもが全員、今の生活に満足しているとは到底思えない。
だいたい気を使ったり、空気読んだりするのとか超疲れそるだろ。知らんけど
でも王道のラブコメや異世界物のアニメは基本おもしろいけどな。
「宮本、聞いているのか?」
我に返ると、先生が呆れたような表情をしていた。
「すみません。何でしたっけ?」
「君は部活動やボランティア活動はしていなかったよな、と聞いたんだ」
「特に何もしてないですね」
「じゃあ基本暇ということでいいんだな」
確かに先生の言う通り、基本暇だがここで暇だというと間違いなく何か面倒事を押し付けられそうだし、暇なやつからなら自由時間を奪っていいなんて考えはおかしい。
だいたい雑務ってのは、俺なんかよりもっと積極的で器用に何でもこなせるエリートに任せておけばいいじゃないか。
「そ、そうでもないですよ。学校が終わったら直行で帰って録画してあるアニメとか見ないといけないし。勉強もやらないといけないし。ほ、ほら俺んち妹と二人暮らしなんで家事とかもやらなきゃいけないし。俺も意外とやること多くて多変なんすよ」
まぁ、実際家事はほとんど妹任せなんだが、、
「要は仕事がしたくない、と」
くそ、バレてたか。
「ま、まぁ端的に言うとそうゆうことになりますかね」
「まぁその気持ちはわからんでもないがな。私もこの前上司に……あぁ思い出したら腹が立ってきた。宮本、一発いいか」
そう言うと、先生は俺に向かって拳を握りしめ、殴る構えをした。
てか、こんな訳の分からないとばっちりで殴られてたまるかよ。
「ちょっと先生!俺は先生の可愛い生徒ですよ。それに俺の顔をこれ以上崩したらそれこそ万年ぼっち確定ですよ」
「確かにそれは少し困るな。でも、今私が殴れば、未来永劫顔芸には困らないぞ」
そう言うと、先生は握った拳を下ろしてくれた。
「いや、先生。万年ぼっちになったら、顔芸なる相手がいないですよ。それとも何ですか、鏡に向かってやるんですか?」
「そうだったな、すまない」
それより、この教師はどうしてこう生徒の心をえぐるようなことばかり言うんだよ。
俺のガラスのメンタルじゃ、一瞬で破壊されちまうじゃねぇか。
「そうゆうわけだから付いて来たまえ」
「いや、どうゆうわけですか?」
てか、何の話してたんだっけ?殴るか殴らないかだっけ?
「つべこべ言わず付いて来たまえ」
先生は少し低めのヒールをカツカツと言わせながら、長い髪をまとって職員室の出入り口へと歩き出したので、しょうがなくついて行くことにした。
先生は職員室の近くにある階段を使って二階まで上がり、ちょうど職員室の真上ぐらいの位置に当たる生徒会室と書かれた場所で立ち止まった。
やはり、雑務か力仕事をやらせるらしい。
まぁここまで来たらしょうがないから、ちゃっちゃと済ませて帰るか。
先生は何の躊躇いもなく生徒会室のドアを開けた。
「あ、白石先生。どうしたんですか?」
中からふんわりとした柔らかい声がした。
「いや、ちょっとな」
そう言って、先生は生徒会室の中に無遠慮に入っていった。
「ほら、君も入りたまえ」
しょうがないので生徒会室に入ると、そこは普通の教室とほとんど同じくらいの広さがあり、真ん中に大きな机が置いてあった。
そして、その周りに3人の生徒がいた。
一人は少し驚いたような表情でこっちを見ている、清楚な感じの長い髪の美少女。どっかで見たことあるような気がするが、気のせいだろ。
一人は若干睨みつけるような威嚇するような目でこっちを見ているツインテールの美少女。どうやら、この人からすると俺は招かれざる客らしい。
一人は不思議そうな表情の美少年。男でいいんだよな。たぶん。可愛すぎて一瞬迷ったが、男子の制服着てるし間違いないだろ。たぶん。
どうやらこの空間は俺とか無縁のリア充空間らしい。
アニメなら完全に主人公ポジションだが、現実はそんな簡単じゃない。
とりあえず、一刻も早くここから脱出したい気分だ。
「こいつなんだが、今日からここで一緒に活動してもらう。ほら自己紹介したまえ」
先生はそう言って、俺の背中を押して、一歩前に出した。
いや、自己紹介って、俺の学校での嫌いな行事トップ3には確実に入るぐらいの、嫌いで苦手で緊張して、何喋ればいいかわからないやつですよね。
あの、コミュ障には苦痛でしかない、あの自己紹介のことですよね。
そもそも自己紹介ってあんなに大勢の前でする意味あんの?
だいたい、自分を分かってもらおうなんて思わないし、何ならちょっと喋っただけで相手のこと分かった気になって勝手に俺の人物像とか勘違いされたらたまったもんじゃない。
そうゆうわけだから、あまり誤解されないように自己紹介は最小限のほうがいいように決まっている。
それに無理にいろいろ喋ろうとすると、テンパって余計なことまで言っちゃいそうだしな。
ホントそれで、ただの人間に興味ありません。とか間違えて言ってみろ。
その瞬間、ぼっち確定+永久のトラウマになること間違いなしだろ。
「宮本春樹です………い、以上です」
そう言うと、斜め後ろでため息が聞こえた。
「君はもう少しまともな自己紹介が出来ないのか?一応、一緒に活動していく仲間なんだぞ」
ん?自己紹介に気を取られすぎていたが、先生、さっきこれから一緒に~とかなんとか言ってたよな。
「え?先生、状況が読み込めないんですけど」
「要するに、君が生徒会に入るということだ」
お前は何を聞いていたんだ、と言わんばかりの口調で言った。
「は?いや、そんなこと急に言われても困るんですけど」
「ちなみに君は副会長だな」
この教師、人の意見に耳を傾けるっていうことを知らな過ぎるんじゃないですかね。
「いや、俺の話聞いてくださいよ」
「何だ宮本、私に口答えするつもりか。ちなみに、私は昨日で13回連続の婚活パーティーでの成果なしで機嫌は最悪だからどうなっても知らんぞ。だいたい、どいつもこいつもクズばかりなんだよ。クソッ………はぁ……早く結婚したい」
最初は怒りのオーラが湧き出んばかりの勢いだったのに、最終的にはもう泣きそうじゃねえか。
そんな現実的で辛いこと言わなければいいのに。
こっちまで泣けてくるじゃねぇかよ。
他の3人も完全に同情の視線を先生に向けている。
不本意だけど、先生に同情して入ってやろうと思い口を開けようと思った瞬間、その発言を遮るかのように口を開いた人がいた。
「先生の縁のなさには同情しますけど、こんな何考えてるか分からないのと一緒にいると身の危険を感じるので、他の人にしてもらえませんか?」
おいおい、そこのツインテール。口調悪すぎだろ。
っていうか、こいつ初対面のくせに俺のこと嫌いすぎでしょ。
生徒会に入ってもこいつとは仲良くなれそうにないな。
「心配するな。こいつは、考え方は若干一般人よりズレてるけど、そこを除けば基本的に的確な判断力と洞察力を持っている」
流石、先生。とりあえず、これに乗じて反撃すべし。
「だいたいな、自分で言うのはあれだが、俺は基本的にはハイスペックなんだぞ。勉強だってそこそこできるし、顔だって中の上くらいだし、何なら家事だって基本的なことなら何でもできる。頭の回転だって他の人より優れてる」
よし、これで少しはおとなしくしておけよ。
「私、そうゆう口先だけの人が一番嫌いなの。わかったら、さっさと出てってもらえるかしら」
こいつ、超腹立つなー。
「まぁまぁ二人ともその辺にしないか。とりあえず、宮本の件はすでに決定事項なので異論は認めない。じゃあ、後は4人で頑張って」
そう言うと、先生はドアを閉めて行ってしまった。
俺はとりあえず目の前にあった椅子に座った。
「え、えっと。せっかくなのでみんなで自己紹介しませんか?」
ツインテールとは対照的に気が使えそうで優しそうな女子がそう言った。
てか、俺はさっきやったからやらなくていいんだよね。
「そうですね」
「しょうがないわね」
というわけで、またもや自己紹介の時間がやってまいりました。ホント憂鬱、、、
「じゃあ、私から。宇佐美結衣です。生徒会長をしてます。えっと、これからよろしくお願いします。はい次涼香ちゃん」
何組なんだろ?と、ふと思ったが、そんなことよりきれいな長い髪に目がいってしまった。いかんいかん。
「2年1組の青山涼香です。書記です。はい次」
相変わらずの態度で、一切こっちは見ずにさらっと終わらせた。
ホント、こいつの態度どうにかならんの?
「えっと、1年1組の水無瀬佳月です。卓球部に入っているので、あまり生徒会にはあまり来れないですけど、よろしくお願いします」
うんうん。佳月となら仲良くなれそうだ。
というか、こっちからお願いしたいぐらいだ。
みんなの自己紹介が終わったと思ったら、3人がこっちを見ていた。
どうやら、もう一度自己紹介をしないといけないらしい。
「え、えっと、2年3組の宮本春樹です。よろしくお願いします」
よし、完璧。余裕だな。
「それにしても、まさか宮本くんが生徒会に入るなんて思わなかったよ」
会長は、あかたも俺のことを知っているかのような口調でそう言った。
「え、えっと。会長は俺のこと知ってるんですか?」
自分よりカーストが上の人と話すと、どうしても敬語になってしまいがちだ。
ぼっちやオタクにはあるあるらしい。
まぁあのツインテールには敬語なんて使う気にもならないどころか、逆に敬語で話してほしいまである。
「宮本くん、私たち一緒のクラスですよ」
「え?あ、あー、言われてみればそうだったような気がするような」
そうだっけ?クラスのやつらとなんてほとんど話さないし、ぶっちゃけ興味なかったし、たまーに教室を眺めるくらいしかしてなかったから全然わかんねーや。
「クラスメイトの顔も覚えてないなんてありえないでしょ」
ホント、こいつうるさいやつだな。
「急にいろんなことが起こりすぎてちょっと混乱してただけだよ」
「どーだかねー」
これからこの中でやっていける気がしないんだけど、、、
とりあえず今日はもう帰っていいですかね。
俺の願いが届いたのか、この後ちょっと雑談してそれで解散となった。
なんか、生徒会って多忙なイメージ合ったけど、意外と緩そうで助かった。
てか、平日ほぼ毎日って行く意味あるのか?
それともまだ2学期の初めだから仕事が少ないだけとか。
まぁ何にせよ、仕事が少ないことを願うばかりだな。
なんてことを、ツインテールの何とかさんに押し付けられて生徒会室の鍵を閉め、階段を一人で下りながら思っていた。
鍵を返すため職員室に入ろうとした時、ちょうど白石先生が職員室から出てきた。
「おー、宮本。今日はもう終わったのかね」
「まぁそんな感じです」
「それで、どうだった?生徒会は」
「どうと言われても、どうと言うことはなかったですね。今日も特に何かしたわけじゃないですし。というか、先生は何で俺を無理矢理あんなところに入れたんですか?適任の人はもっと他にもいますよね」
「まぁいつかわかるさ。とりあえず、今日はお疲れ」
そう言うと先生は、俺が手に持っていた鍵を奪いまた職員室に戻ってしまった。
ホント、みんな何考えてるか訳わからん。
この世界ももうちょっとわかりやすく単純にしてくれればよかったのに、こんな複雑で難しい世の中にしたのは誰なんだよ。
まぁ、おそらく答えは俺を含めた全人類何だろうな。
これから、俺の高校生活はどうなるんだろう。