4.惑っています。 <亀田>
昼間から、と言うのはダメだろう。
そう思っていたのに、自分で作ったルールをアッサリ破ってしまった。
どうも最近の俺は堪え性が無い。これが病だと言うのなら、俺の症状はもう末期に当たるのだろう。職場とプライベートの区別も付けられないわ、プライベートはプライベートで欲望の赴くままに行動してしまうわなどと……孔子は四十を不惑と表現したそうだが、後一年とちょっとで何事にも惑わない人間になれるような気が、俺にはまるでしない。―――これでは完全に無理だろう。
珈琲とお茶請けに出したチーズケーキを食べた後、それほど広くない部屋を探検したいと言うので、冗談半分で洗面所やお風呂まで見せてやった。いたって普通のマンションなのだが、大谷はやけに感心した様子で歓声を上げていた。
「わぁトイレと浴室が別だ、羨ましい!」
確かに大谷の家のユニットバスよりは広いかもしれない。次に案内したのは書斎だ。二つある個室の内の一つを書斎にする事にして、作り付けの本棚を入居前のリフォームで設置した。壁一面天井から床まである本棚に何だかんだ買った本を並べているから、小さな図書館みたいになってしまっている。
「おおー、スゴイ。本ばっかり……」
しかし大谷のお好みの本は無かったようだ。基本実用書ばかりだからな。後は偶に歴史関係の本を読むくらい。大谷は漫画や小説をよく読むようなので本の趣味は全く被っていないようだ。
「あ!うさぎ本がこんなに……!」
ここ数年購入したウサギ関連の書籍は、ミミがお月様に帰った時に他のうさぎグッズと一緒に処分しようかと思いつつ、何となく段ボールに詰めてクローゼットの奥に仕舞い込んでしまい、処分しそびれていた。つい最近それらを、うータンと交流するようになってから本棚に復活させたのだった。
「『うさキモ』のバックナンバーだ!見て良いですか?」
「ああ」
大谷は大層嬉しそうに、うさぎ愛好家が好んで買う専門誌『うさぎのきもち』を一つ手に取り、開いた。大物歌手がうさぎを膝に乗せて笑っているページを見て、フフフと楽しそうに笑う。
「この雑誌見ると意外な有名人がうさぎを飼っていてビックリしますよね。この人が、こんな愛らしいうさぎを飼ってるなんて、意外過ぎる」
「CDのジャケットに飼いうさぎと映っているらしいな」
「ホントだ!この号買って無いから知らなかった。硬派な歌を歌っているイメージなのにうさぎ好きってギャップありますねぇ」
それから暫くの間、持っていないバックナンバーを眺めて楽しそうに声を上げる大谷と、うさぎ談義で盛り上がった。
ああ、何だかこんな穏やかな休日って良いな、なんて呑気に喜んでいたが、次に案内した寝室で少し理性を飛ばしてしまった。
ベッドに押し倒された大谷が、少し潤んだ瞳で俺を見上げているのを見てしまったら―――俺の頭がおかしかろうが、常識から少し外れていようが、自分のコントロールが出来ない状態であろうが……そんな事はどうでも良い些末な事に思えたのだ。
うん。やっぱ俺、末期だな。
でも不思議と、後悔は無かった。




