35.お出掛けします。
おじいちゃんの家は高尾山の近くなので、電車を乗り継げば一時間半から二時間で辿り着く。場所を告げると、なんと亀田課長はレンタカーを借りると申し出てくれた。
自分から誘っておいて移動手段を相手に預けるのはどうだろうか……と一瞬迷った。しかし乗り継ぎも無く時間短縮もできるのは大変有難い。その代わり日々の御礼も込めて食事代を持たせて貰う事を了承して貰い、ご厚意に乗らせていただく事にした。本当はガソリン代も負担したかったのだけれど、そこは亀田課長は譲ってくれなかった。でもカツカツで暮らしているから、本音を言うととても助かる。
日々のお土産の御礼に『招待する』なんて言っておいて、結局課長の負担はあまり減っていないような……いや!楽園への招待はおそらく亀田課長の精神的ストレスの軽減に大きく貢献する筈だ。だからこの企画を立ち上げて良かったんだ!……と自分一人胸の内で葛藤し、暫く悶々としてしまった。
思えば自分から男性を誘って出かけるなんて、私には初めての経験だ。常に受け身だった地味な私が―――どうしてこんな大胆な事をしているのでしょう?何か益々三好さんに言い訳できない状況に陥っているような……。
ま、いっか!ウダウダ考えるのは止めだ。今は亀田課長をもてなす事に集中しよう!
私はそうして思考を切り替える事にした。
土曜日の午前中、亀田課長は私のアパートの前まで迎えに来てくれた。スマホに到着の連絡が入ると同時に荷物を持って家を飛び出した。お誘いして置いてお待たせするのは忍びない。駐禁表示は無いものの、停車時間は短い方が良いだろう。
「うータンは留守番か?」
助手席に乗り込み、シートベルトを締めた私に亀田課長が尋ねた。
「はい、流石に一時間以上かかる移動は負担になりますからね。オヤツに人参も置いて来ました」
「そうか」
かなり多めにペレットを補充しておいた。無いとは思うけどトラブルで帰れなくなった時の事も考えて、二日分。水もボトルを二個設置して、新鮮な牧草をたっぷりと。それから保険としてオヤツに葉付き人参とセロリも丸のまま置いて来た。以前も一度この体制で一泊二日、お留守番して貰った経験があるから多分お腹を壊したりはしない筈。今日は元々日帰りの予定だから問題は無いと思うけど遠出をするときはやはりちょっぴり不安なので、出来得る限り悪い状況を想定して準備する事にしている。
亀田課長は拳を握って頷く私に、安心したように頷き返した。
「じゃあ、行くぞ」
「はい、お願いします」
こうして私は、ウサトモの亀田課長と『第一回 亀田を元気づけようプロジェクト』改め『八王子うさぎツアー』に出発する事となったのだった。




