21.驚きました。
目の前の三好さんは、漫画みたいなビックリ眼で固まっている。向かい合う私の時も止まってしまった。冷や汗がツツーっと背を伝って降りる。張り付く喉を叱咤して私は口を開こうとした。
「あの……」
ビクリ!と肩を震わせた三好さんがクルリと背を向けた。
「みよ……」
『しさん』と言い切る前に、彼女は何故か無言のまま一目散に走り去ってしまった。
?????―――え?何で?
今何が起こったのか。
全く理解が追い付かない。
逃げ出したいのはコッチだった。課長とウサギトークをしてニヨニヨ喜んでいるなんて、恥ずかし過ぎる。それについさっき三好さんが亀田課長を好きなのでは無いか……と改めて疑いを持ったばかりなのだ。三好さんがどういう意味で課長に好意を抱いているかは分からないけれども、そんな彼女の前で次の訪問の約束を受け入れていたなんて……悪い事をしている訳では無いのに何故だかほんのり罪悪感を抱いてしまう。
私は生粋の小心者なのだ。バリバリ男らしくキッパリ物を言える三好さんには好感を抱いていたが、面と向かって自分がバリバリ責められるのは嫌なのだ。
なのに、三好さんは飛び上がって逃げてしまった。
……そんな姿を見送りながら。
物音に驚いてケージに飛び込むウサギみたいだな。……なんて失礼にも思ってしまった。
課長と一緒に課に戻るのは避けたかったので、私もすぐにその場を後にした。課に戻って席に付きPCのキーボードに指を置きつつ三好さんを盗み見る。三好さんはこちらに背を向けて座っているので、通常であれば目が合うなんて事が無いのが当たり前なのだけれど―――何だか頑なにこちらを見ないようにしていると思えてしまうのは、きっと考え過ぎなんだろうなぁ。
私は三好さんの態度をどう咀嚼して良いか分からないまま―――溜息を吐いて作業を再開したのだった。
就業時間終了後、私は机の上を片付けPCの電源を落とした。席を立ち上がって、ロッカーから上着を出して羽織り鞄を手にした処で……カコンと隣で扉が空く音がした。三好さんだ。彼女はこちらを見ない。だけど何だか変だ―――三好さんが時間チョッキリに帰る事ってあんまりない。大抵残業をしているか、余裕があっても目黒さんと世間話をしたり冗談を言い合ったりしている。きっと帰宅準備はいつもゆっくり行っている筈。
ヒヤリとしたが気にしないようにして「お先に失礼します」と、皆に聞こえるくらいの、それでいてあまり目立たない程度の音量で挨拶を済ませ、廊下に出た。
その時三好さんは、チラリと私の方に視線を向けただけだった。
ニコリともしない。正直怖かった。
足早に課から離れ、エレベーターを待つ。ライトが灯って扉が開き、その場にいた人達と一緒にエレベーターに乗り込んだ。するとそこへ小走りに駆け込んできた女性が。その女性に視線を向けて、私はギクリとしてしまう。
何となく予感はしていた。
ギリギリにエレベーターに駆け込んできたその女性は……やはり、三好さんだった。




