3.連れ帰りました。
気が付くと俺は、大きな荷物を抱えて自宅に辿り着いていた。
取りあえずケージを居間の隅に置き、店員に勧められた水入れに水を入れ中にセットする。ボトルタイプの物で下に飲み口が付いており、水の出口は丸いボール状の物で塞がれていた。そこをウサギが舐めればボールが持ち上がって水が飲めるようになると言う仕組みらしい。
ケージに付いた引き出し式トレイにペットシーツ敷いて戻す。餌箱にウサギ用の餌(ペレットと言うらしい)を適当に入れてみる。
さて、最低限の準備は整った。
後は―――いよいよ、ウサギをこのケージに移せば良い。
まるでケーキを買って来たかのような紙の箱の中に、あの黒いウサギは収まっている筈だ。突然暗い場所に閉じ込められタクシーに揺られて、怖い想いをしているかもしれない。しかし全く鳴き声がしないのは流石だな。イヌやネコならこうは行かないだろう。
俺は恐る恐る、箱の入口を開いた。
黒い小さな毛皮の塊が、確かにそこにあった。あんまり静かで、それまで本当にそこに入っているのか、ショックで息絶えてないか不安になるくらいだったのだ。
掌を出してみるが、箱の奥に体を押し付けたまま出て来る気配はない。
思い付いて人差し指を差し出してみる。
すると案の定、ヒクヒクと鼻を近づけて来た。恐怖より好奇心が勝ったと言う事か。臆病なんだか大胆なんだか分からない生き物だな。
少し焦れて、首を伸ばして姿勢を低くしている黒いウサギを箱に手を突っ込んで引き出した。
うわ……ふわふわだ……。
体温を発する極上の毛皮。そして両掌に収まるコンパクトさ。成長途中と店員は言っていたが、随分と小さい。冗談みたいな小ささだ。まるでぬいぐるみが魔法で命を吹き返したばかり、と言うように現実感の無い小ささに感動する。
何故だろう。
胸がワクワクと沸き立ってしょうがない。
俺はこの子と目が合った瞬間に、既に心を奪われていたのだと気が付いた。
あまりに可愛らしい。
そして、触れてしまえばもう手放せる気が全くしない。
運命だとさえ思った。
今までの孤独も、失敗も、この子に会うための布石だったのでは無いか?
そう思えるくらい―――俺はその日、彼女に心を鷲掴みにされてしまったのだった。




