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捕獲されました。[連載版]  作者: ねがえり太郎
新妻・卯月の仙台暮らし
244/288

寝不足です。 <亀田>

時間をかなり遡りますが、『結婚するまでのお話 <大谷視点>』「6.逃げました。」の後、本社で突然の仙台出張を命じられた亀田視点から始まります。


注!)この裏話では本筋ではありませんが話の流れ上、亀田の過去の女性関係に触れる部分があります。苦手な方は回避してください。おそらくこのエピソードを読まなくても、卯月視点の後日談の理解には、それほど影響はありません。

 入院した桂沢部長の穴埋めとして、仙台への長期出張が命ぜられた。もともと平日に部下の三好と一緒に東京を発つ予定を組んでいたのだが、急遽『引継ぎも兼ねて見舞いに来い』と何故か桂沢部長本人ではなく、俺の直属の上司でもない東常務からのお達しが入る。よりによってこんな時に……と上司の横暴を恨めしく思う。




 この長期出張の件で前日遊びに来ていた卯月と揉めてしまい、彼女がうータンを置いたまま父親のマンションに戻ってしまった。部屋を訪ねてもスマホで連絡を入れても返事がない。諦めて戻った所に、鬼東からの強引な指示。

 翌朝には家を出なければならない。しかし一旦出て行った卯月が戻って来るかもしれないと考えると、どうにも寝付けずウツラウツラと朝までやり過ごした。もういよいよ出なければならない、と言う時間になり、寝不足の頭を振りつつ仕方なく出張の準備を整えた。うータンの世話を簡単に済ませ移動用のケージに入ってもらい、卯月(うづき)が籠ってしまった大谷さんのマンションを再び訪れる。


 今度は直ぐに扉が開いた。対面した彼女の機嫌が直っていたことにホッとする。仕事では『コワモテ冷徹銀縁眼鏡』とまで言われ恐れられることの多い俺だが、情けない事に若い恋人の顔色一つでこのように一喜一憂してしまう人間になってしまった。

 一方で素直過ぎて直ぐに沸騰したり暴走したりする所がある彼女の方は、切り替えが早く翌日には意外とケロリとしていることが多い。引き摺ることが無いのは根が明るいからか、それとも若さ故なのか。すっきりした表情の卯月の中では、もう昨日の問題は解決したかのようだ。まるでこっちが右往左往して足踏みしている間に一歩も二歩も前に進んでしまったみたいに。

 この柔軟さはやはり若さ、なのかもな。アラフォーの俺は、必死で動揺を押し隠すのが精一杯だと言うのに。


 卯月が言うには、部下の三好が俺のことを好きなのだそうだ。しかしそれは正直、思い違いだと思う。


 三好は俺が卯月と親しくしているのを『セクハラ』だと言って糾弾した事がある。その後反省したらしい彼女から歩み寄りがあって謝罪を受け、蟠りは無くなった。が、そんな相手に彼女が男性として好意を抱くなどとは、考えにくい。

 確かに彼女が俺を上司として認めてくれていることは感じている(彼女の場合、前の上司がひどすぎた所為もあるだろう)、だからこそ俺が当時立場の弱い派遣社員だった卯月に対して、強引に距離を詰めていることに腹を立てたのだろう。が―――たぶん、それだけだ。

 俺の見立てでは、三好が職場で好意を寄せるとしたら別の男だ。彼女は同僚の目黒と、かなり親しくしている。アイツらが既に付き合っていたとしてもおかしくない。異動当初いがみ合っていた二人だが、飲み会の最後に連れ立って帰るのが、今では当たり前の光景になっている。まぁ、ただ単に気の置けない同僚である可能性もある。と言うか本音を言うと他人の恋愛事情など、俺には知ったこっちゃあない。仕事に悪い影響がなければ、好きにやってくれと思う。


 しかしもし万が一、卯月の見立てが確かで三好が俺の事を憎からず思っていたとしても―――俺には卯月が既にいるのだから、そもそも関係ないと思うのだが。


 こう言っては嫌味な奴、と取られてしまうかもしれないが、仕事ばかりで女性に振られ続けて来た俺だが、存外女性から好意を寄せられることは慣れているのだ。だがそれはこちらが取り合わなければ、どうなるものでもない。やがて相手は俺に対する興味を失うだろう。更に言うと付き合っても女扱いが下手過ぎて振られるのが常だしな。


 それにそもそも仕事相手に恋愛を意識する、などと言うのがたるんでいる証拠だと思う。真剣に仕事をしていれば男がどうの、女がどうのと考えない筈だ。

―――だから卯月との関係は、色んな意味で俺にとっては特例なのだ。つまり職場の女性について卯月がアレコレ心配するのは杞憂と言うものだ。結局俺にその気がないのだから、周りがどう思うおうと関係ないのだ。


 まぁ三好のことは十中八九、卯月の勘違いに間違いないと思うがな。しかし話を蒸し返すのもヤブヘビなので、この話題を今後、俺の方から持ち出すことはないだろう。

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