19.落ち着きません。
帰宅してミミの餌箱を覗くと、やはりほとんどペレットは減っていない。野菜も少し残していて、牧草にもあまり口を付けていないようだ。毛ヅヤや元気はそれほど変わらないみたいだが、草食動物は駆られない為にギリギリまで弱みを見せないものだそうだから……見た目じゃ分からないだろう。
そう言えば糞も小さい気がする。毛球症は毛で糞が繋がったりするらしいが……見た感じ、其処までじゃないな。
どうする?
悶々として落ち着かない。
今日は水曜日。昨日は土日まで待って、食欲が戻らなければ病院へ連れて行こうと思っていた。試しにパイナップルジュースを少量あげてみたら、スゴイ勢いで飲み始めた。うーん、この様子だけ見ていると元気なんだがなあ。
「病院は……この時間だと夜間緊急しかない、か」
PCで検索した画面を睨み、暫し考えてみる。……緊急病院に連れていくほどの症状では無いだろう。それは心配と言うフィルターで曇りまくった俺の目でも判断できる。
「明日有休取るか……?いや、明日は部課長会議だった……!」
休める訳が無い。
―――仕方無い。当初の予定通り土曜日に病院へ行くか若しくは金曜日に有休を取ろう。こうして、俺はその日病院へ行くのを諦めたのだった。
木曜日の朝、ミミの様子にそれほど変化は無い。やはり土曜日まで様子を見るべきかとも考えたが、これ以上悩むと何だか禿げそうな気がしてきたので素直に金曜の午前中に有休を取る事にした。結局仕事を出来る限り早く上げる事を決意し、帰り道に病院に行くためのケージを購入する事にした。
……しかし俺が有休を申請すると言った時の職場の奴等の顔を言ったら。
『驚愕』と言う単語がピッタリなくらい、皆一様に固まっていた。
失礼だな。俺だって、福利厚生制度を行使する権利はあるんだぞ!三十代後半の独身男が休みとっちゃ悪いか……!
次の日の朝、俺は嫌がるミミをケージに入れて俺は病院に向かった。しかし診察結果は「食欲不振では?暫く様子を見てください」との事。一応毛玉を解かす為のパパイヤ酵素を処方されたが―――何だか肩透かしを食ったような気分になった。
しかし何より驚いたのは診療代だ。
一応医療保険なるものが存在していて、申請すれば半額返って来る事になっているが―――たっか……!高すぎる……!!
結局高い勉強代を支払って、人間の医療保険制度の有難さを実感する事でその日の午前中は終わってしまったのだった。




