40.気にしませんか? <大谷>
プチ同窓会の後、翌々日の木曜日。寝そべって、ながあく伸びたうータンに寄り添いながらニヤニヤしつつその極上の毛並みを撫でていると、スマホにメールが届いた。
送信元を確認すると―――『水野君』。
何かあったのだろうか?と中身を確認すると『こんにちは(^_^)この間は楽しかったね。明日都合良かったら、飲みに行かない?』と短いメールが。
ああこの感じ、懐かしいな。と、思った。
余計な事はあまり書いていないメール。それでいて強引でもない気遣いを窺わせる文面に、顔文字が一つくらい。サークルとか人付き合いに慣れている『体育会系』って感じだなーって、その頃何となく思ったものだ。体育会系の人との付き合いはこのスキー部のOB会以外接点が無いから、実際皆がこんな感じなのか全く分からないんだけど。
ちょっと頻度が高くない?と思ったけれど、もしかして繁忙期とか閑散期がある仕事で今を逃すと飲み会行けないって場合があるかも、と思い直しちょっと考えて返信した。
『うーん、どうだろう?……吉竹さんに都合、聞いてみるね』
すると電話の着信が入った。画面にはたった今メールをやり取りしていたその人の名が。通話をオンにすると、スマホからは懐かしい音声が響いた。一瞬だけ時間が巻き戻ったような錯覚を覚える。
『二人で行かない?前は良く出掛けたよね』
んん?そっか、そう言えば水野君って女友達ともこういう距離感の人だったんだよね。それが元で経験値の少ない私が勘違いすると言う残念な結果に至っちゃったんだけど……。
でもなぁ……水野君は気にしないかもしれないけれど、私にはやっぱり違和感あるんだよな。相手が何とも思っていないって分かっていたとしても、彼氏じゃない人と二人切りで飲むって……なーんか、なーんか気になってしまう。
「ええと、二人で飲みに行くのは……ちょっと都合が悪いって言うか」
丈さんが彼氏だって言うのは暫く内緒にしようって話だったから、彼に断りなく関係を伝えるのはマズいかな?他社の人だから良いのだろうか、それとも他社の人の方が都合悪いのだろうか……?
うーん、全く判断できない。今度丈さんとこういう場合の対応方法を打ち合わせて置かないとなぁ。
「……じゃあ、明日のランチは?お昼食べるくらいなら、どうかな。勿論もし大谷さんの都合が……良ければだけど。ほら、OB会に参加していた奴等の話とかあまりしていなかっただろ?そう言う話とか吉竹さん、分からないと思うし」
あ!ちょっとシュンっとされちゃった気がする。
あーうー……相手が何とも気にしていないのが分っているのに、私ばかり意識して……気を使わせてしまった。久しぶりに会ったけどそう言えば吉竹さん中心で話していて、そう言う話、全く出来なかったよね。
「ランチなら……」
「ホント?やった!そうだ、何か食べたい物とかある?」
「水野君の食べたい物で良いよ。会社から近い方が助かるんだけど」
「そっか、じゃあ昼休みになったら一階ロビーに集合で良いかな?」
「あ、うん」
「楽しみにしてる、じゃあ明日……」
電話が切れた後、何となく首を傾げてしまう。
『楽しみにしてる』なんて、水野君に言われた事あったかな?『やった!』なんて大袈裟に喜んでくれたのは―――飲み会を断られた事に余程驚いたからだろうか。水野君に彼女がいるって知ってからは、予定が合わないと彼を避けてしまったけれど……それまでは私、いつも二つ返事ですんなり頷いていたからなぁ。基本的に休みの日のスケジュールはガラガラだったから、案外彼には誘う相手が全滅した後に連絡しても絶対断らない人間だと思われていたりして。そして再会しても変わらず地味だから……今でもどうせお独り様なんだろうって決めつけていたとか?
うーん、意地の悪い考え方だな、コレ。ちょっと嫌な思考回路だ……このあて推量、却下!そうだこう考えよう、彼は久しぶりに偶然会った昔疎遠になった友達と話したいと思ってくれたんだって。言葉通り、私と話すのを楽しみにしてくれるって。
そんな風に受け取った方が、ゼッタイ良い気がする。うん、そう言う事にしよう……!勝手にそう受け取るのは、個人の自由だもんね!




