28.働きます。 <大谷>
疑心暗鬼が一転、多少アクシデントはあったものの甘々な週末を送った私はウキウキしながら仕事をこなした。
資料ですね?ハイ!作りますよ~!
修正!ドンドンご指摘ください、直します!
打合せにお茶ですね?適温の美味しいお茶、お運びしますよ~!
まさに大車輪で働く私。
恋ってスゴイ。エネルギーが漲って、普段の二倍……とまでは行かないけど一.五倍くらいヤル気が湧いて、効率が上がっちゃう!付き合い始めはむしろソワソワしちゃって落ち着かなかった私なのだけれども……この週末丈さんに会って、彼の気持ちを実感する事で肝が据わったような気がする。何より突然現れたママに対して、きちんと筋を通して挨拶してくれた事が嬉しかった。
その直前まで『私って、うータンのおまけ?』なんて焦ったりもしたけれど……ママに対して正面からしっかり向き合ってくれた彼を見て思った。例え『うータン目当て』でもいいじゃない。だって私の大事なうータンを可愛がってくれない相手と付き合うなんて、そもそも論外なんだもの。
自分でも本当に現金だなって思うけれども、丈さんが私を大事に思ってくれるって事が伝わって来て……うータン目当てだからどうこうって悩むこと自体、彼に失礼かもしれないって思えるようになった。
そんな感じでノリに乗ってテキパキ仕事をこなしていたら、阿部さんにまた声を掛けられた。
「大谷さん、手空いてる?辻に書庫整理お願いしたんだけど、もし大丈夫だったら大谷さんサポートしてやってくれないかな」
「あ、はい!大丈夫です」
努力の成果が出て、最近丈さんからの指示で書類を作成する時ミスが減って来た。以前は彼の意図と違う物を作ってしまう事が多かったのだけど―――判断に迷う時は怖がらずに率直に尋ねるようになったし、彼の気にするポイントが理解できるようになったので手戻りが少なくなったと思う。
ふふふ……これが以心伝心ってヤツですかねっ!
なーんて一人ほくそ笑んでいるけれども、職場での彼は通常モードでニコリともしない。以前はそんな彼と私の温度差にちょっぴり落ち込んだりもしたけれど―――そんなピクリともしないコワモテの下で、私の事を少しでも気にかけて心配してくれていたんだって知った今、私の気持ちはドーンと穏やかになった。本当に私って単純だなって思う。
だから新しい仕事を依頼されても、対応できるんだ。丈さん以外の人にも仕事を頼まれると、微力ながらこの職場で頼りにして貰えるのかな?って思えて嬉しい。入ったばかりの私は表面上は従順な振りして、腹の中では文句ばっかり言っていた。でもこうして素直に仕事に取り組める自分になって―――本当に良かったと思う。
頷いて、サッと席を立った時。
隣の席でボソボソと呟く声、それに呼応するようにクスリと嗤う音がした。
辻さんの背を追おうとしていた所なので、何と言っているのかその時は考える事もしなかったのだけれど―――書庫の整理をしつつ、何だかふと気になってきて彼女達の台詞を丁寧に紐解くように思い返してしまったのだ。
『張り切っているわねぇ。正職でもないのに……。まあ彼女、他にアテも無さそうだし?』
『お仕事大好きなんでしょ?よっぽど更新必死なのね』
『私は適当な所で結婚しよっと』
『私も~!お局様は真っ平ゴメンだわ』
キラキラ女子達の台詞の塊を、よせばいいのにちゃんとした文字列に置き換えてしまった。
ズーン。ショック……。
目立たない私は、せめて嫌われないように彼女達に気を使って来た。私ばかり仕事をして彼女達が適当にサボっているのも気にせず、若い独身男性達との飲み会に誘われなかったと知った時も、何とか自分を励まして明るく付き合って来たと言うのに。
そういえば最近の私は、職場でも少しづつ地を出せるようになって来た。それは頑張っている正社員の丈さんや三好さん、阿部さんや辻さんを見ていて、私も頑張らなきゃって自然に想えるようになったからで。元々は彼女達の言うように更新目当てだったのだから、彼女達の言う通りと言えばその通りなんだけど……。
嫌々でも必死でやってたら、達成感とか感じるようになって仕事自体を楽しめるようになっていた。むしろキラキラ派遣女子の彼女達も、もっと一所懸命やればいいのに、そうすれば退屈そうにしている仕事の時間も変わるのにな、勿体無いなって思い始めていて。
口には出さなかったけれど、もしかしてそう言う感情が滲み出ていたのかな?
女子が仕事に一所懸命ってそんなに変かな?例え結婚で辞めるとしても、定年まで働けない派遣社員だとしても―――今関わっている事、些細な仕事でも集中して誰かの役に少しでも立ったって言う満足感は、とっても良いものだと思うのだけれど。
でも、そう言う価値観を持たない人には押し付けがましく見えてたのかもしれない。
あれか、教室の掃除をキチンとやる真面目女子と『やりたい奴がやれば~』なんて言ってサボる女子。ああいう構図か。大人になってもこういう型に嵌った役割を持たされてしまうのか。
気にしなければ良いのだけれど。
気にしないのが一番なんだけれど―――何だか浮かれ切っていた私は、空気の抜けた風船みたいにシューンと萎んでしまったのだった。




