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捕獲されました。[連載版]  作者: ねがえり太郎
捕まった後のお話
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15.心配です。 <亀田>



残業を光速で片付けて、大谷にメールを送った。うータンの世話を終えた大谷は、これから俺の部屋に向かってくれるらしい。


部屋はそれほど汚れていないから……何か惣菜でも買っておいた方が良いだろうか?大谷の好きなタイメイ軒のオムライスとか?外に出るのも良いが、今日は家でゆっくりしたい。聞きそびれたが大谷、泊まって行ってくれるよな?そう言う意味でうータンの世話もしたんだと……俺は受け取っているんだが。


これで「じゃあ、電車も無くなりますし帰りますね」なんて言われたら、逆に俺が大谷の家に付いて行くかも知らん。夜遅くに大谷一人で帰らせるのは、非常に心配だし……うータンにも会いたいしな、うん。あ、今日もし大谷が泊って行ってくれたら、明日送ってくついでにうータンの顔を見に行こうか。


そうだ、それが良い。


で、写真を撮らせて貰おう。俺のデータフォルダは今の所仕事関係のメモとしてしか使われていない。つまりお菓子だらけ。あ、見やすいようにフォルダも分けないとな。待受けには―――まだ貼り付ける勇気は無い。うっかり尋ねられても、説明に窮するし。大谷と……自分の部下である派遣社員と付き合っていると知られるのはあまり上手くない。なるべくきちんとした関係になるまで、おおやけにしない方が良いんだが。


きちんとした関係……か。


大谷がうちに泊まった翌日の朝、やけにベッドが広く感じた。楽しかった気配を部屋のあちこちに探してしまう自分に戸惑った。本心では帰したくなかった。……うータンがいるから、帰さないなんて選択肢はあり得ないのだが。


大谷がうータンと俺の家に引っ越してくればな。毎日三人……いや、二人と一匹で暮らせたら、どれほど幸せだろう。職場も近いし、大谷にとってもメリットはあるハズだ。しかし一緒に暮らすとしたら、スジは通さないといけないな。


『スジを通す』と言えば……『結婚』か?


いや、俺はやぶさかではないが……むしろこの年でまだ結婚していないって、遅い方と言えるのかもしれない。篠岡だってもう二歳の娘がいるのだ。同期の男どもを見渡すと、独身の奴は少なくなっている。

だけど大谷は―――まだ二十六歳だ。それこそこれから仕事も充実してくるだろうし、まだまだ社会をいろんな側面から体験したいと思っている時期なのではないだろうか。

それに付き合ってまだ二ヵ月も経っていない相手に『結婚』とか言い出されたら流石に引くよな……。しかし大谷の親御さんやじーさんの手前、同棲なんて不確かな関係に持ち込むのは如何なものか。うん、あり得ないな。そして大谷はどうやら男と付き合うのは初めてらしい……最初に付き合う相手と結婚とか……しかも二ヵ月未満で、そんな事はまず考えないだろう。俺だって過去に彼女はいたが、若い頃はそれこそ仕事中心にしか物事を考えられなくて、その時付き合っている相手と結婚したいとか一緒に暮らしたいとか―――そもそも考えた事すら無かった。


そうか……。


途端に不安が押し寄せて来る。


俺は大谷の最初の男になれて、嬉しかった。

でも最後の男になれるかどうかは―――分からないのだ。


大谷は俺にとって初めて、ずっと一緒にいたい、他人に取られたくない、結婚したい―――とまで思えた相手なのだが……大谷は俺の事をどう思っているのだろう。好意は感じている。だけど……うさぎ目当てで押しかけて来る男に絆されて、一時だけ付き合っていると言う認識なのではないか?

大谷は派遣社員だ。もし更新がなければ違う会社に雇われる立場で―――そこでもっと良い男と巡り合わないとも限らない。いや、余裕で出会うだろうな、俺以上の男なんか世の中にごまんといる。一旦職場が離れてしまえば彼女にとって俺と別れるのは簡単だ、仕事での関係が切れてしまえば気まずい事も無いのだし。


そこまで考えてフルリと頭を振る。


これは考え過ぎだ。少なくとも今、大谷は俺の家に遊びに来たいと言ってくれているのだから。大谷の好意を疑うのは今やるべき事ではない。


そう、先ずは喫緊の問題があったな。大谷の更新だ。

大谷は一所懸命に丁寧に仕事をしてくれる。だから付き合う付き合わないに限らず、俺は大谷に更新をお願いしたいと思っていた。しかし俺と大谷の関係で―――このまま同じ課の上司と部下のままでいるのは如何なものだろうか。俺は大谷のコトが気になってしょうがない。私情まみれでこの先ちゃんとやって行けるのか、周囲に付き合っている事がばれて大谷が何か言われないかとか―――のちのち心配事は増えるばかりだ。かと言って、真面目に働く大谷の更新は必須だ、会社にとっても利益になるに違いない。


「……篠岡に相談するか」


顔の広い篠岡は、人事にも詳しい。


今まで俺はそう言う事を視野に入れずに、ひたすら業績だけを追い掛けて来た。自分一人なら非難されようが、冷遇されようが全く問題が無いんだが―――こと俺は大谷の事になると、どうして良いか分からず不安だらけになってしまう。俺が大谷の負担になるなんて、あってはならない事だ。




要するに俺は大谷に嫌われたくないんだな、情けない事に。




……篠岡にまた生温かい目で見られ揶揄われる事は必至だが……致し方ない。


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