守りたい②
授業が終わると私は真っ先に教室を飛び出し、保健室へ向かった。
ガラガラガラ
「失礼しまーす」
・・・
あれ?
保健室に入ってみると電気はついておらず、人がいる気配もなかった。もう一度外に出て保健室のドアを見ると、『職員室に行っています』の札が。
おっ?!これはチャンス
できるだけ音を立てないように気を付けながらあやちゃんの眠っている部屋の扉を開けた。電気をつけていないので携帯の明かりを頼りにゆっくりとベッドに近づく。ベッドの横で膝をつき、あやちゃんをのぞきこむとスヤスヤと眠っているのがわかった。だんだんと暗闇に目も慣れてきた。あやちゃんの寝顔はとびきり可愛くて、ベッドに肘をついてしばらく眺めていた。
ふと、布団からでているあやちゃんの手に気づき、眠ってるしいいかなとその手を握ってみた。するとあやちゃんの手は赤ちゃんみたいにキュッと私の手を握り返してくれて、思わず頬がゆるんだ。でもすぐに、気づいた。
熱い・・・!!
やっぱり結構熱あるんだ。
熱に苦しんでいるあやちゃんに対して浮かれていた自分をちょっと反省した。
「あやちゃん」
小声で読んでみるも反応はない。あやちゃんの手を握っていない方の手であやちゃんのおでこに手を置いた。すごく熱い。
その時、あやちゃんが気怠げに瞼を開けた。
「藍ちゃん・・・」
「あやちゃん大丈夫?」
「うんまだ少し頭痛いけど。来てくれたんだね、ありがとう」
「ううん」
こんな時にまできちんとお礼を言ってくれるあやちゃんになんだかジーンとした。
あやちゃんは状況を把握するように少し辺りを見まわして、
「藍ちゃん、手、握ってくれてたの」
って少し顔を赤らめながらいうから、
「えっ・・・あ、うん」
私まで照れてしまって、慌てて手を引っこめた。
落ち着け自分・・・
「あやちゃんすごく熱かったよ何か飲む?」
とても早口になってしまった。
「あーうん。喉かわいたかも」
「だよね、ちょっと待ってて」
「うん。ありがとう」
私は部屋を出て保健室をキョロキョロと見回し、冷蔵庫を発見した。勝手に開けていいかなと躊躇したけれど先生は今いないんだから仕方ないと自分を納得させ、中から冷えたお茶を出した。ついでにタオルも水に浸してしぼり、あやちゃんのところへ持って行った。
「あやちゃん、はい」
そういって濡らしたタオルをおでこに乗せてあげる。
「あ~気持ちいい」
心底気持ちよさそうにあやちゃんが目を閉じた。あやちゃんに少し元気が出たようで私まで嬉しくなる。
「お茶も持ってきたよ!」
「嬉しい」
「あ!」
「どうした?」
「コップ忘れたw」
「もうさすがあやちゃんw」
あやちゃんが明るく笑ってくれて、だんだんといつもの調子が出てくる。
「取ってくるからもうちょっと待ってて♪」
「はいはーい」
小走りでコップを取ってくる。
「はやっ!ww」
またしてもあやちゃんに笑われた。
お茶をコップに注ぎ、いざあやちゃんに渡そうとして気づく。
「あ、あやちゃん起きれる?」
「そうだね」
あやちゃんは、よいしょっと体を起こそうとして途中で
「・・・ん!」
と目をギュッと閉じて固まった。
「大丈夫?」
「やっぱ体起こすと頭痛いや」
「そっか。無理しないで」
少しイタズラ心が働いた。
「口移ししてあげようか?w」
「・・・は!なにいってんの」
「いいじゃん、ほら」
私はそう言ってコップのお茶を口に含んでみせた。もちろん冗談で。
そんな私を見てあやちゃんが、
「やだよ~w」
「んー」
お茶が入ってるから話せないので声で抗議する。あやちゃんが私の顔を見て笑ってるから、顔をどんどん近づけていった。
「きゃーもうやだぁあやちゃんww」
あやちゃんにつられて私も笑いそうになって、思わず口のお茶をごっくんした。それをみてさらにあやちゃんが笑い、二人して爆笑になった。
少し落ち着いて、あやちゃんが
「あーでもやっぱり喉かわいた。藍ちゃん飲ませて!」
「!!!・・・えっ?!」
「もう~さっき自分からやろうとしたくせに」
「そうだけど・・・え?」
「いいから早く!私喉かわいた。もうカラカラだよ、干からびそう」
喉がかわいているのは本当のようで、あやちゃんは有無を言わさない感じの言い方だった。だから
「わかったよ」
そう言って私はもう一度お茶を口に含み、あやちゃんに向き直った。
「ん」
あやちゃんは早くというように口を開けている。
自分の心臓の音が聞こえる。
バクバクバクバクバク・・・
本当にしていいの?これってあやちゃんとキスってことになるよね。でもあやちゃん切実に喉かわいてるみたいだし、仕方ないよね。
ていうかすっごくラッキー・・・
「藍ちゃん?」
一人で考えにふけっているとあやちゃんに訝し気げに見られてしまった。その少しサディスティックなあやちゃんの横目にドキっとした私は息をのんだ。同時にお茶も。
「あっ」
「もう藍ちゃん、いつまで待たす気?なに、恥ずかしいの?」
「えっごめん!大丈夫」
と言いつつ私の顔は真っ赤なのでしょう。
「別に女の子同士なんだから普通でしょ」
あやちゃんがボソっというから、そうかそうだよなと、妙に納得して、冷静になった。次こそはとお茶を含んであやちゃんの顔の上まで近づいた。なるべく何も考えないように、何も感じないように、気を付けながら。
あやちゃんがやっと来たかという表情で軽く口を開けた。私はあやちゃんの開かれた口をジッとみて、ただただそこにお茶を運ぶことだけを考えて、的を外さないようにゆっくり近づく。角度をつけて鼻が当たらないように。
唇が触れる瞬間、今までにないくらい心臓がドックンと脈打って何も考えられなくなった。ただただ柔らかくて気持ちよくて、私からあやちゃんに注がれたお茶をあやちゃんはゴクンゴクンと飲み干してくれて、その行為がとてつもなく愛おしかった。
そのあと、どうやって唇を離したのかまるで覚えていない。気づくと私は元の体勢で、
「はぁ~美味しかった!生き返った」
と満足そうにつぶやくあやちゃんを見つめていた。そしてあやちゃんは私の方を向いて、
「ありがとうね」
とニッコリして、すぐに
「だから藍ちゃん照れすぎだからw」
私の顔を見てそういうから思わず顔を手で覆い、
「うーそりゃ恥ずかしいよっ」
「そんな顔されたらこっちまで恥ずかしくなるでしょっ」
そう言って目をそらすあやちゃん。
かわいい・・・
その後すぐ保健室の先生が戻ってきて、またもや私は強制的に次の授業へと送り返された。その授業の間にあやちゃんはお母さんに迎えに来てもらって帰ったみたいだったけれど、ちゃんとメールで教えてくれた。
▷藍ちゃん今日は心配かけてごめんね。
お母さんに迎えに来てもらって今から帰るね。
だいぶマシになってるから土日で治すよ。
お茶、ありがとね。
最後の一文にまた顔が赤くなって、授業中だったからあわてて手で頬を覆った。
次の日の土曜日、私も家で熱をだし二日間しっかりと寝込んだことはあやちゃんには内緒。