毒男とJK その9
他人同士が暮らすという事は大変なことだと、大野は改めて実感する。
同世代や気心が知れた友人ならいざ知らず、相手は家出してきた少女だ。
今のところ素性すらほとんど判ってはいない。
ただ結衣を世間でいうところの不良少女とは大野は考えてはいなかった。
大野からみれば結衣は普通の少女である。言葉遣いが悪いわけでもなく、
素行が悪いようにも思えない。
逆に言えば、何故そんな少女が家出をしたのか。 家族との衝突、交友関係、
学校内での揉め事、異性関係、勉強・進学の事 考えられる要因は一杯ある。
ただ真面目な結衣が、自ら家を出てきたという事は、それなりの深い事情が
あるように大野は思えた。
今後の生活に一抹の不安と夏夜の寝苦しさを感じながら、大野は眠りについた。
朝、起きた二人は寝具を片付け朝食をとった。大野は今日は仕事である。
大野は仕事に行く準備を終えると結衣を玄関まで呼んだ。大野は結衣に
朝食の時に説明した留守番のルールを結衣に再確認する。
●訪問者が来てもドアを開けない事。
●家を出る時は鍵を閉める事。
●ガスコンロを使った後は、元栓を閉めること
この三つだ。
結衣は元気に「 はい 」と返事をする。
「 家の鍵とお昼代、少ないけど大事に使ってね 」 と鍵と1000円を渡す。もし
一ヶ月続けば3万円だ。薄給の大野にすればかなり痛い出費だ。しかし15歳の身元不明の
少女が働けるわけもなく、食事を取らせないわけにもいかない。
「 泊めて頂いてるのに貰えません 」 結衣は1000円を大野に返そうとするが、
大野はそれを遮る。
「 いや、食事はちゃん取らないと駄目だ 足りなかったら冷蔵庫の中にあるものや
棚の中のお菓子とかも食べていいからね 」
「 エアコンもTVも好きに使っていいから 」
「 じゃあ行ってくるから ドアは閉めておいてね 」
ドアを閉める大野を見送りながら結衣は
「 行ってらっしゃい 」 と手を振った。
大野は、マンションを出て会社の向かう途中で留守番の結衣の事を考えた。
『 一人で大丈夫だろうか?。それより、通帳とか印鑑、保険証も全部置いてきてしまった。
盗られる可能性だって0ではないだろうに…』。
自分の迂闊さを責めながら
『 まぁ僅かな貯金だ 盗まれても自分のせいだろ 』と半ば悟りの境地に入る。
それに万が一盗まれても、あの娘の役に立つならそれでもいいんじゃないかとさえ大野は思った。
会社につくと自分のロッカーに荷物を詰め込み、出社してきた仲間に挨拶をする。大体自分と
より高齢の人が多い。年金納付案内という仕事の性質上、高齢の方がこの仕事にはむいているようだ。
年齢的に感情的になりにくく、社会的経験も豊富なため、話がしやすいのだろう。
朝礼が始まり、今日の勤務がはじまる。この日は特に大したトラブルもなく一日が終わった。
大野は、仲間に挨拶を終えるとそそくさと事務所を出る。大野は家で留守番をしている結衣の
事が気になって仕方がなかった。帰りの途中でスーパーで何時もの如く弁当を買って帰る。