毒男とJK その8
大野は感慨にふけり一瞬箸をとめたが、食事中だった事を思い出し、再び箸を動かした。
大野と結衣は、ほとんど会話もなく弁当を食べ続ける。大野自身は、結衣に聞きたい事や
確認したい事が沢山あるのだが、互いにまだ緊張しているせいなのか、会話が続かない。
しかも相手は15歳の少女だ。何を話せばいいのか皆目見当もつかない。
二人が食事を終えてTVを見ながら寛いでいると、結衣が思い出した様に大野に声をかける。
「 大野さん これ今日の買い物のお釣りとレシートです ありがとうございました 」
結衣は小さなビニール袋に入ったお金とレシートを大野に手渡した。
お釣りが返ってくるなど想定していなかった大野は、驚ろき戸惑う。しかし少し
考えた後に、優しい口調で結衣につげる。
「 ありがとう でも何かモノ入りの時にお金がなかったら困るでしょう? お釣りは
とっておきなよ 」
大野は自分が思った事をそのまま結衣に伝えた。
「 でも、寝るところや食事までお世話になってるのに! 」結衣は食い下がり
譲らない。
「 元々大野さんのお金ですから 」さらに言葉を付け加え、強引にお釣りを渡そうとする。
結衣は申し訳なさそう目で大野をじーっとみつめる。大野はまた少し考えると
「 ちょっと待ってて 」そう言うとリビングに結衣を残し、隣の部屋に移動した。
『 しまった 怒らせてしまった 』 結衣は自分の言動を反省する。衣食住を世話になってる
身だ。大野が出て行けと言えば、自分はすぐにこの部屋を退去しなくてはならない。
知人もなく宛もお金もない身で一人放り出されれば、明日の食事さえおぼつかない状況だ。
大野に部屋を出て行けと言われるのではないか? 結衣は、恐怖を感じながら大野が部屋から
出てくるのを待った。待つ間が凄く長い時間に感じられる。何を言われるのか? 嫌な
想像ばかりが頭の中を駆け巡る。
「 あった あった 」 大野は、大きな空き缶の様なものを手に取りながらリビングに
戻ってきた。その大きな空き缶をテーブルに置いて、結衣の目を見ながら喋り始める。
結衣は、何を告げられるのか判らぬ恐怖を感じたまま、体が少し硬くなっているのを
感じていた。
「 結衣ちゃん、じゃあこのお金は二人の共同貯金って事にしよう 」大野から突然の提案が
なされた。
「 受け取り難いなら、二人の共同貯金って事にしない? 俺も困った時には使うし
勿論結衣ちゃんが困った時に使ってもいい それならいいだろう? 」
大野は、貯金箱の蓋をあけて、お釣りを催促するようなポーズを見せる。
大野から、妥協案を提示された結衣は自分の不安が杞憂だった事を安堵すると同時に
嬉しい様な困ったような複雑な表情をみせる。結衣は少し考えたあとに
「 わかりました ありがとうございます じゃあ入れておきますね 」 そう言うと、
買い物のお釣りを貯金箱に収めた。これ以上は迷惑がかかるし、大野の行為を無碍には
したくない。なによりこれ以上の争いは両方にとって損だと考えたからだ。
22時をすぎた頃、二人は寝床にはいる。昨日と同じように結衣はリビング、大野は奥の部屋で
就寝した。
大野は、新品の羽毛布団の香りに包まれながら、結衣の事や今後に事について考えていた。
結衣は大野からすれば、自分の子供に当たる年齢である。親子程の年の差があれば、ジェネ
レーションギャップから、ちょっとした事で衝突・争いが何時始まってもおかしくは
ない。今日はなんとか収まったが、今後色々な事が起こるかもしれない。さっきまで
楽観視していた自分を恥ずかしく思った。