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毒男とJK  作者: 山田太郎アットマーク
2/9

毒男とJK その2

大野は今日の仕事を終え、事務所を出て帰路についた。最後の残り1時間で

クレーマーに捕まり、最後の1時間は丸ごとクレームの対応に追われた。



『 あのクレームで1時間ロスだ 今日のノルマ達成出来なかったなぁ・・・ 』

怒りと焦りが綯交ぜになったドス黒い感情が、心の奥底から沸々と沸いてくる。

しかしそれも10分もすると

『 まぁしょうがないか 今日は色々と運が悪かった・・・ 』 と半ば諦めモード

に入るのだった。大野の仕事は、年金の納付案内のオペレーターだ。



業務内容は、年金の納付の電話だ。クレームは日常茶飯事の業務だ。神経を壊して、

止めるオペレーターも多い、最短では、研修一日目で辞めた人間もいた。大野は勤続2年目

だったが、これは仲間内では長い方だ。



何時もの帰宅ルートをいつもの通りに帰る。時間は21時を超え、周りには殆ど人は

いない。一杯飲んだサラリーマンやOLが2~3人いるだけだ。



今朝、少女が座ってコンビニのベンチを見る。ベンチに少女は座っていなかった。

『 家に無事に帰れたのかな? 』 ベンチを見まわしながら、そんな事を考えていると

コンビニが入っている雑居ビルの横の階段から人影が飛び出してきた。

夜なのでハッキリとは判らないが、シルエットから女性の様に見える。



コンビニの近くに立っている街燈の下にその人物が来ると正体が判った。

今朝のベンチに座っていた少女だ。


「 今朝は、ありがとうございました・・・ 」自分に駆け寄りながら、少女が

お礼を言ってきた。

今朝と比べれば、かなり元気になっていた。


「 まさか、あれからずーっと外にいたの? 」 

「 あ、いえ 言われた通りにあれからデパートの中で過ごしました でも19時で

  お店が閉まっちゃったんで出てきたんです 」

「 そうかぁー ここら辺で夜遅くまでやってる大型店は少ないからなぁ 

 ディスカウントショップとかは明け方までやってるんだけど 」しかしその

 ディスカウントショップも繁華街の中にあるので、夜はホスト、風俗嬢、

 チンピラで溢れかえり安全とは言えない。まだデパートの方が安全だ。



「 あれ? まさかお礼を言いにずーっと待ってたの? 」 間抜けな質問を少女に聞く。

 

「 あ、え? あ、はい・・・ お礼が言いたくて・・・ 朝は本当にすみませんでした

  お金を返さないといけないんですが、今持ち合わせがなくて 携帯も忘れちゃって・」

 少女は恥ずかしそうに答える


  少女は、本当に伝えたいことは別にある様だったが、取りあえず大野に対して

  お礼と謝罪を何回も繰り返した。

 

  大野は少女のお礼と謝罪を聞きながら、核心をつく言葉をストレートに少女に投げかける。


「 余計な事聞く様だけど、・・・・ 家出してきたの?」 

 少女は驚いた表情をみせた後に、頭を垂れて

「 ・・・・・・・・・はい」と力無さげに答える。さっきとは打って変って、

 いきなり元気がなくなってしまった。まさに意気消沈の状態だ。



『 嗚呼、地雷を踏んだ 』 大野は心の中で叫ぶ。 夏休み、制服、文無し

 条件が揃いすぎだ。余計な事を聞いてしまった。大野は自分の軽はずみな言動を

 後悔した。


「 ここら辺はそんなに物騒じゃあないけど、夜に女の子が一人は危ないよ・・・・」

「 交番があるけど・・・・ 一緒に行く?・・・」

 恐る恐る大野は少女に確認する



「 け、警察は嫌です!! 」 先程まで消沈していた姿とは一変して、少女は強く拒絶した。

 よほど警察が怖いのか、自宅に帰りたくないのか少女は強い拒絶反応を示す。


「 困ったなぁ・・・・ 」 


「 じゃあ、コレあげるから自分でネカフェか漫喫で・・・」 そう言って、なけなしの1万円を

サイフから出して、少女に渡すそうとした時に自分の愚かさに気づく。 


『 そうだよ身分証が必要じゃないか! 大体、制服で泊まれるわけがない!!』

自分の思慮のなさと馬鹿さにほとほと呆れる。二人で泊まり、大野だけ先に帰る事も

考えたが45歳の自分と制服姿の女の子が泊まれば、通報間違いなしだ。



「 ここら辺に友達の家とかはないの? 」 大野は少女に確認する。

「 私、地元じゃないので ここら辺で知ってる人はいません 」 



警察もだめ 満喫もネカフェもだめ 親元にも帰りたくない 知人もいない

でも見捨てる事も出来ない

何かいい打開策はないか、途方に暮れる大野を見ていた少女は、覚悟を

決めたように大野に言った。



「 あの・・・ お世話になりっぱなしで本当に申し訳ないんですが

  貴方の家に泊めてもらうことは・・・  出来ませんか?」

最悪の提案が少女から出された。大野が一番恐れていた言葉だ。



 大野は、少し深呼吸をしたあと、真面目な顔で少女に告げる


「 申し訳ないけど、君を泊める事は出来ない・・・ 君は多分未成年だろう?

  通報されて、警察に見つかれば俺は誘拐か略取で捕まる・・・」



そう少女に伝えた瞬間、少女は項垂れ、目から涙が零れた。鳴き声は挙げなかったが、

唇を噛み締め、手は強く握られている。次から次へと涙が少女の目から溢れる。

少女は涙を止めたいのか、涙を見られるのが嫌なのか手で一生懸命流れる涙を拭う

仕草を繰り返す。



何回も何回も手の平で、甲で流れる涙を拭う。少女の目は涙のせいかこすったせいか

充血して、目の周りは少し赤くなってきていた。それでも鳴き声だけは出すまいと

懸命に耐えていた。



大野は、静かに少女を見つめる。手には緊張のせいか、暑さのせいなのか汗がジワリと

滲む。女性に目の前で泣かれたのは人生初の体験だ。声の掛け方が判らない。大人で

あれば黙って、警察に引き渡すのが普通だろう。この選択が一番正しいし、最終的には

この娘の為にもなるはずだ。



少しはゴチャゴチャと警察に聞かれるかもしれないが、自分が一番傷つかない方法だ。

良識ある成人であれば、この選択肢しかないはずだ。



色々な思いが駆け巡る。もし泊めて捕まれば職を失うだろう。大々的に報道されて、

家族や親戚にも迷惑をかける。前科がつくだろうし、再就職する事さえ困難になるだろう。

この娘を泊める事はリスクが大き過ぎる。絶対にダメだ。



少女が涙を流して始めてから、1~2分も経った頃、少女を見つめていた大野は、深く

大きなため息とも深呼吸ともいえぬ息した。そして次の瞬間、大野は自分では思っても

いなかった言葉を少女にかける。



「 家に来ていいよ・・・・」

 大野は、覚悟を決めた表情で少女伝える。頭の中が熱病に侵された様に熱くなって、

いくのを感じた。何故自分からこんな言葉が出たのか、大野自身が驚き、戸惑っていた。

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