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毒男とJK  作者: 山田太郎アットマーク
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毒男とJK その1

エアコンの効いた部屋からドアを開けて出ると、むっわっとした

空気が頬を襲う。温度差もあるのだろうが尋常ではない暑さだ。



この部屋の住人である中年の男は、うんざりした表情でドアの鍵を

閉める。



『うわぁ・・ なんだこの暑さは・・・』心の中で一人毒ずくと、

エレベータの閉ボタンを押して1階を押す。中肉中背の頭髪が少し

薄くなった中年男の大野は、エレベーターの中で滲み出る汗を

ハンカチでこまめにに拭いた。



大野の住んでいるマンションを出ると、痛いと思えるほどの外気が

大野を襲った。



夏本番のジリジリとした常軌を逸した暑さである。肌を刺すといった

表現がまさに相応しい。45歳の初老の体には堪える。エアコンで冷や

されてた肌を夏の強い日差しが凄い早さで乾燥させていく。

今日は、何時もより2時間早く家を出た。勤務表のまとめと昨日の

残業務を行うためだ。



マンションの前の小道を抜け、大通りに出る。時間は午前9時、

朝の通勤ラッシュも終わり、人通りもまだらだ。いつものよく

利用するコンビニの前を通ると店の前に設置してあるベンチに

セーラ服の少女が座っていた。

それだけなら特に気にする事もないのだが、状態が尋常ではなかった



まるで魂を抜かれた様な状態で少女は座っていた。両腕はだらし

なく伸びて、手の甲がペタリとベンチにくっついている。

目は虚ろで、光が感じられなかった。



何時からそこに座っているのか、顔から汗が噴き出て、服は汗で

ベットリとくっついていた。

顔色も少し悪い様に見える。意識も少し朦朧としているのか頭が

小刻みにフラフラと揺れている。熱中症になる直前の症状の様だ。


『なんだ ワケありなのか?』関わり合いにはなりたくないと、

ベンチをワザと遠回りに迂回しながら大野は通り過ぎる。



少女が座っていたベンチを通り過ぎ、そこから25mほど歩いた頃、

大野は足を止め、振り返りもう一度少女を見た。

少女は先程と変わらずベンチに座ったまま頭をフラフラと振っている。



大野の心の中で葛藤が始まる。


『 このまま放っておくと、危険なんじゃないか? 』

『 面倒事は御免だ 今日は朝からやる事が沢山あるんだ 』

『 親切心で声を掛けても、変質者と思われて通報されるかも 』

『 でもこのまま放置して倒れたら? 』

『 最悪、死んでしまったら? 』 

『 死ぬ・・・ 』


死という言葉が頭を過った瞬間、大野は意を決し、来た道を急いで戻った。



大野は近くのスーパーに駆け込むと、スポーツ飲料数本と塩飴を

買い物かごに放り込み、急いで会計を終え、すぐさまスーパーを出る。


ベンチを見ると少女はまだ座っていた。先程より顔色が悪くなってる

様に見える。ありったけの勇気をふり絞り、大野は少女に話しかける。



「 あのう 大丈夫ですか? 」 何とも間の抜けた聞き方だが、

 今の大野にはこれが精一杯のセリフだった。


「 ・・・これ飲んで下さい 」買ってきたばかりの冷えたスポーツ

 飲料を少女に差し出す。



少女は事態を把握出来ていないのか、大野を顔を見て不思議そうな顔で

見つめ返す。やはり目に力はなく、顔は大量の汗をかいている。


「 ・・・これ飲んで下さい 」大野はもう一度少女に伝えるとスポーツ

飲料を強引に少女に渡す。


少女は困惑しているのか、少しの考えた後に、頭を軽く下げながら

ペットボトルを受けとった。ノロノロとした動作で蓋を開ける。


そしてゴクゴクとスポーツ飲料を飲み干す。500mlのペットボトルは

あっという間に空になった。


『 よっぽど喉が渇いていたんだな 』

「 まだあるからゆっくり飲んでいいからね 」そういうと大野は新しい

スポーツ飲料を少女に手渡す。少女が2本目のペットボトルを半分程空に

した時、顔色は先程よりよくなっていた。



「動ける?」と少女に聞くと、少女はコクンと頷く。少女を近くの路地の

木陰へと移す。その足取りは大野の予想に反してシッカリとしていた。

『 よかったそんなに重症じゃないようだ 』大野はほっと胸をなで下ろす。



周りの通行人も気に成りだしたのか 「 大丈夫? 」 老婆が声を掛けてきた。

老婆の声を聞くと少女は 「 大丈夫です・・・ 暑さで気分が悪くなって

今水分を採りましたから 」と老婆に返事をした。


流暢な返事が返ってきたので、老婆も安心したのか「 そう、気をつけてね 」と

優しい言葉を残しその場を後にする。



少女の喉がうるおったのを確認すると、大野は塩飴を渡す。少女はまた会釈をしながら、

塩飴を口に含んだ。そしてまた追加のスポーツ飲料を渡す。少女が木陰で休息している間に

大野はもう一回追加のスポーツ飲料を買いに再度スーパーを往復した。


そうこうしている内に1時間程が過ぎ少女の状態は、かなりよくなった様に見えた。



「 まだ気分が悪いようなら救急車を呼ぶけど・・ どうする?」と大野は少女に確認する。

 ここで初めて少女は大野に対して

「 大丈夫です すみませんでした 本当にご迷惑をお掛けしました 」とお礼の言葉を発した。

 小さな声ではあったが、ハッキリとした声だ。



「 判った でも体調が悪くなったらすぐに言ってね 救急車を呼ぶから 」大野は

 少女に無理をしないように忠告する。


 大野の言葉を聞いた少女は

「 本当にありがとうございます 」 と大野に再度お礼を言う。



「 この先のアケードを抜けると右手に大きなデパートがあるから、そこに行くといいよ

 冷房も効いてるし、6階には大きな書店もあるから・・・」と少女にアドバイスを行う。


大野はそれだけ伝えると、残りスポーツ飲料と塩飴が入った袋を少女に渡し

「 申し訳ないけど、今から仕事があるんで 本当に大丈夫だね?・・・ 」と念押しの確認を

少女に行った。



少女は「 大丈夫です 本当にすみませんでした・・・ 」 申し訳なさそうに何回も

大野に頭をさげる。



大野は何回か少女の方を振り返り、そのまま仕事場へと向かった。最終的に出社時間は

遅刻ギリギリになっていた。

少女のその後が気にはなったが、仕事がはじまり忙しくなった頃には、その思いは忙殺

されていった。

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