03 家でゆっくり
土曜日曜の休日は普通、わたしとティシャは新しい場所に行く。それまでまだ訪れたことのない場所に。先週はシーフードのレストランに行ったり、釣りをしに行ったりした。またその前の週は崖を登りに行った。とにかくいろいろ、それまでわたしたちがまだやったことがないことを試してみようとするのだ。それは、わたしが若者向けのある本で読んだことがあることに起因する。その雑誌によると、若者は週ごとに異なることをするよう突き動かされるそうだ。そのようにすると、確かに皆さんの生活は、それほどつまらなくはならない。信じてよね。
残念ながら、この日曜はティシャの姉が訪ねて来ていたので、一緒に行く時間がなかった。でも、予定ではウォーターワールドでイルカを見るつもりだった。そこではイルカをつかむことが許されているし、ペンギンもいるのよね。
土曜は予定がなかったので、もう昼近くになってから起きた。だけど今回は、実はわざとそうしたのだ。
「あらまあ、グラディスト。さっき起きたばかりなの?」と、ママが食卓で言った。本当にさっき起きたばかりなのは誰かしら? ママはわたしより5分違いで起きただけだ。いちばん朝早く起きたのはパパだ。
「でも、ママもさっき起きたばかりよ」と、わたしは言い返した。
「それは違うわ」と、ママはのんびりと言った。何が違うのよ?「ママは昨日の夜に帰ってきたから当然なのよ。おまけに今日ママは休みなのよね」
「でも昨日はわたしも学校だったわ!」
「あら、代数でBの成績を取るのに勉強したぐらいで、ぐったり疲れて当然だというのね」と、ママはわたしを皮肉った。
「少なくとも昨日のCよりはアップするわ」と、わたしは言った。ママは、わたしの成績がごく標準でしかないことを認識していないのか。悪すぎることもなく良すぎることもないということを。ごく標準なのだ。ティシャだったら、すごく優秀な科目が一部ある。また、わたしのような標準の、まずまずのものも一部ある。そして彼女は、その成績のうち順位が最後のものはもう気にしていない。Fを取ることも、たとえそれが大嫌いな科目だとしても、彼女は問題にしていない。
ママはそれから座り、わたしの眼をじっと見つめるた。ああ、普通はこうなるとママの口から長々と説教が始まる。でなければ、わたしが何かを解決してママが首尾よくそれを悟るということを意味する。だけど、ここ最近のわたしは何も解決していないような気がする。解決できたのは、せいぜい自分の学校のことに関してだ。
「グラディスト、あなたは学校のことではもうホント真剣にならなきゃ」とママは言った。ちぇっ、本当なのよね。「優秀な大学に入りたいのなら熱心に勉強しなきゃ。おまえの授業料のためにお金をたくさんもう用意してあるわよ」
「ママ、どうして大学の授業のことを言うの? わたしはまだ合格もしてないのよ」
「でも、少なくとも用意だけはあなたにあるの。ママも高校1年生のときから それを用意したわ」わあ、ママの若いときの生活について、また説教だ。分かっているのは、パパの学校時代の話だったら聞こうとはしないということだ。わたしは、パパの仕事部屋に忍び込んで昔の成績表をいくつか開いたことがある。その成績はわたしよりひどかった。赤点まであった。だから、「グラディスト、ママの話を聞きなさい」とパパが言ったら、わたしは喜んで「パパだったらどうする?もちろん模範生よね?」と返事するだろう。パパはそのまま黙るだけだ。だけどあいにく、ママを黙らせるにはどうすればいいのか、わたしはまだ知らない。それがあれば、こんなときはすごく役立つだろうに。
「それで、あなたは分かったのかしら、グラディスト?」と、ママは鋭くわたしを見つめ、満足できる返事を期待した。わたしのもの思いは雲散霧消した。「明確に分かったわ、ママ!」とわたしは言った。
「すばらしいわ」と言ったママは喜んでいるようだった。「あなたは分かったの? この近くの大学をいくつか見て回りにあなたを誘いたいのよ。それとも、遠くの大学へ行きたいから、もうわたしの言うことを聞く必要はないの? あなたはいつもわたしの言うことを聞かないみたいだからよ。グラディスト? グラディスト?」
「そうよ、ママ。わたしは本当に分かったわ」とわたしは言った。レオンとわたしが同じ大学に入ることになるかどうかを夢想しているところではあるけど。ママは怒り出し、ダイニングルームに一人わたしを残して行った。「本当はさっき、ママは何を言ったのかしら?」
わたしは朝食のあと自分の部屋に入った。することがあるわけではない。つまらない! つまらない! つまらない! 自分の本が出版されたらわたしの生活も変わるだろうと夢想していた。わたしは学校で人気者になるだろうと。わたしにインタビューしようとする記者が多いだろうと。ところが、ガルリーン・ヒスが本当は誰なのか彼らは知らないから、その夢は実現されないのだ。あああ… 一体いつ頃ママは、この唯一のわたしの秘密を明かすことを許してくれるのだろうか? どうしてママは、自分の名前を秘密にするようわたしに命じるのか? ママについて、わたしはもっと多く知ろうと試みなければならない。ママの若いときの恥ずかしい出来事について探し出すことも。
わたしは、本当にティシャからEメールをもらうことを待ち望んでいた。他に誰がEメールをわたしに送るだろうか。正直なところね。わたしは、ティシャのほかにはもう親友はいない。可哀相なわたし! そのため、わたしは学校ではいちばん知られていない。だから、Eメールを送ってほしいとわたしが期待する人はティシャだけなの。レオンだって、明日自分のEメールを彼に届ける時間があるとすれば、わたしは待っていることになるけど。
「新着メールが3つあります」とパソコンの画面に表示された。
三つ? 全部ティシャから? 普通ティシャは、お姉さんの家でものすごく苛められているのでなければ、そんなにたくさんEメールを送ることはない。本当に可哀相。
開けてみると、ひとつはティシャから、ひとつはダルシー(これはまったく望んでいない)からで、もうひとつは誰からのものか分からない。「Hevilo@bookcycle.com.」わたしはまだそんなアドレスは聞いたことがない。
最初にダルシーからのものをわたしは開けた。変ね、彼女は何のためにEメールをわたしに送るのかしら。せいぜい彼女は、昨日おとといに学校で起こったことの顛末で、わたしを脅かすか嘲るかするだけだ。
「グラっち、こんにちは
知らせたいことがあるだけよ、ハイ。あと二週間後にわたしが催すパーティーにやっぱりあんたを招待したいの。あんたが来れることを期待しているわ。じゃあね!
ダルシー」
それだけ? ダルシーが自分のパーティーにわたしを誘う? きっと何か意図があるわね。
その次はティシャからのもの。
「グラちゃん、
危ない知らせよ! あなたもダルシーのパーティーに誘われたかしら? これは、これまでになかったことよ。これは罠かしら? あなたの意見では、わたしたちは行ったほうがいいかしら? 何をあなたが考えているか、わたしは知ってる。そのパーティーは、レオンを誘うのにいい機会だということ。だけど気をつけて、これはダルシーのパーティーよ! 彼女らはきっと、そこにいるあなたをとっちめようとするだけよ。だからわたし、できるだけ早くEメールしたのよ… できるだけ早く!
ティシャ」
それじゃあ、ティシャも誘われたの? ティシャとダルシーは、本当は敵対する理由なんかない。だけど、わたしがダルシーの敵でティシャがわたしの友達だから、みんな自ずと推測できるわよね?
普通はパーティーをすると言うのなら、ダルシーは決まった人たちを招くだけだ。わたしが知っているのは、彼女がいつもレオンを誘うということだ。彼女もきっとレオンに首ったけなのだ。そうでない人は誰かしら? ほとんどすべての女子生徒はレオンに心を寄せている。わたしと競争する人のことでとても気が重い。
実は、レオンを誘うなんて考えることは、まったくもってわたしには思いつかない。そんなことを考え出したなんて、ダルシーは本当にすごい。わたしはレオンを誘うほうがいいのか? ところで、わたしには二つの選択肢がある。ダルシーに誘われたのが決まった人たちだけだとしたら、彼女にはわたしを誘うのに決まった意図があるということになる。それだったら、わたしは行かないという可能性。だけど、誘われたのが高校2年生の子のみんなだとしたら、ダルシーの意思は実は、憎んでいる人たちも含めてすべての人を招待しているということになる。そうだとすれば、わたしは安泰だろう。そうよ…おそらくは。
だけど、これはレオンを誘う唯一の機会だ。行くようティシャを説き伏せるべく、わたしはやってみようね。とにかく2年生のみんなが招待されているのなら、わたしはレオンと一緒に行かなければならないわ!
ティシャのEメールに、いろいろ甘い言葉を発してパーティーに行きたくなるように口説く返事をしたあと、わたしは最後のEメールを開けた。不可解な一人物からのEメール。だけど開けてみると…何とあのハリーだった。
「やあ、グラディスト。僕だよ、ハリー。ブック・フェスティバルで会ったよね、覚えてる? 君は僕のことを忘れていないと思うよ。ポールから君のEメールを教えてもらったんだ。彼はガルリーン・ヒスの出版代理人だね。それで、君の近況はどうだ? ガルリーン・ヒスのEメールは分かったかい? もし分かったら、僕に知らせてくれるよね?! そういうことでね。それじゃ。ハリー・ブンチョン」
背高ノッポ氏ははっきりとわたしのことを覚えていた。わたしは彼のことを忘れたいのに。わたしのEメールアドレスを彼に知らせたなんて、ポールは最低だ。こんなことになったら、わたしはどうやって彼のことを忘れたらいいのか? パソコンをわたしが開けるたびに、彼のEメールがきっとやって来る。わたしは何と返事すればいいのか? 返事の来ないEメールがあれば、おそらくメールアドレスを変えたか、あるいはその持ち主はメールをたまにしか開けないということだろうと、人は言うだろう。おそらくわたしがハリーに返事をしなければ、わたしのEメールアドレスが変わったのだと彼は考えるだろう。それも悪くないわね。
「新着メールが1つあります」とパソコンの画面に表示された。
えっ、またEメールがある。誰かな? 開けてみるとポールだった。今日は最も歴史に残る日だ。わたしがEメールを最も多く受信した日だ。
「やあ、新しい物語を作ることは決まったかな? それともまだかな? ここではガルリーン・ヒスはお休みなのか? それでは君はどうなる? ポール」
うーん、わたしがまた小説を書きたいのははっきりしているわ。
「ポール、わたしは確かにまた小説を書くつもりよ。その構想がはっきりしたら、またEメールをあなたに送るわ。ガルリーン・ヒスはここでも休まないわよ。ペンネームを用いた作家として、本当はわたし自身が誰であるかと人々にあれこれ質問させたいわ。そしてその人がわたしであることを知る人はいないでしょう。えへへ…。ええ、それだけよ。グラディスト」
わたしの新しい物語の題名は、だいたい何というものにしようか? こんなことでわたしはますます書くことが熟達していく。ガルリーン・ヒスはますます高名になり、人はあれこれ尋ねようとする。だけど、だいたい彼らはそのガルリーン・ヒスがわたしだと知ることになるのだろうか? 今や、多くの人は自分たちが読む小説の中で作者のペンネームを心に留めている。有名人たちはやはりそんなものだ。だけど、彼らに起こることは何だろうか? 大部分は、彼らに本名がばれてしまうことだろう。わたしに起こるのは何だろうか? その作家の生活は、実際にはどんなものかしらね? 自分の生活が変わるとはまったく思わない。本当に変わらないほうがいいのか?
わたしは決定をした。ガルリーン・ヒスの新しいEメールアドレスは、「Galeryxxx@yahoo.com」にし終えたところだ。「galereenahith@yahoo.com 」だったら長すぎるからだ。ファンたちに愛されるしるしとして「xxx」をわたしは加えるのだ。できるだけホームページも作ったほうがいい。
わたしの新しいEメールアドレスを扱うようになって一時間後、Eメールをわたしに送ってくる人はまったくいない! さっきより千倍もつまらないと感じる。決定したあとわたしの新しいEメールアドレスをポールに知らせたので、彼はそれをそこここで待ちわびているわたしのファンたちに知らせることができる。
よし、いいわ! ハリーにメールをしよう。まあ、ガルリーン・ヒスにEメールを送る人がいないよりはいい。彼がガルリーン・ヒスに話をしたいことが何か、わたしは知りたい。わたしの小説が本当にすごいと言ってわたしをおだてあげようとしているだけかも。わあ、わたしはまた空想にふけるのね。
「こんにちは、ハリー。しばらく会っていないわね。もちろんわたしはまだあなたのことを覚えているわ。どうすればあなた(とあんなに背の高いあなたの体)を忘れることができるかしら。ガルリーン・ヒスのEメールアドレスを入手したわ。「Galeryxxx@yahoo.com」よ。それだけ。わたしは学校の課題でとても忙しいの。それじゃあね…グラディスト」
そのあとしばらくしてから…
「ガルリーン・ヒスのEメールアドレスを教えてくれてありがとう。僕たち、いい友達になれたらいいね。奇妙だね、ガルリーン・ヒスのEメールアドレスは。どうしてYahooを使っているのかな? 彼女の出版社からEメールをもらっていないのかな? そのXXXは何のつもりだろうね? 僕の場合、Heaven と Vilo を意味する Hevilo は、僕の本の中の主人公だ。君の場合はどうなの? ハリー」
奇妙って何よ! すごくむかつくわ。どうしてEメールごときでハリー・ブンチョンの罠にかからなきゃいけないの? なぜハリー・ポッターじゃないの? これほどつまらない出来事はおそらくないわね。ヴォルデモートがいきなり窓のところにやって来て、わたしをカエルに変えるのなら別だけど。だけど考えてみれば、それも残酷だわね。
そのあとしばらくしてから、わたしはハリーからまたEメールをもらった。だけどこれはガルリーン宛のものだ。
「こんにちは、ガルリーン・ヒス。はじめまして、僕は『ファイティング・トゥー・ヘブン』という本の作者のハリー・ブンチョンです。僕たち、いい友達になれたらと思います。グラディスト・スウィングという人から、あなたのEメールを入手しました。彼女は、あなたの本に意見を出すコンテストで勝者となった人です。僕はあなたの本を読んでいるところです。僕たち、お互いに意見を交換できたらと思います。それだけです… あなたと知り合うことができて嬉しいです… ハリー・ブンチョン」
すごいフォーマルだわ! どうしてわたしにEメールをするときに、こういう言葉を使わないのかしら? むかつくわ!!!




