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マイ・シークレット・アイデンティティ  作者: アルディナ・ハサンバスリ
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17 新しい発見

 とてもひどい病気になりそうな気がする。これはすべてロジャーのせいだ! わたしはちらちらと彼を見た! このままだと気が狂いそうだ! 眠る前でさえ、彼は家の窓から「おやすみ」という言葉を発する。わたしは歯を磨いているというのに。(どうしてシャワールームで歯を磨かないのか尋ねないでね)!

 もしわたしがカーテンを閉めたら、ロジャーはきっと電話かSMSでそれを開けるようわたしに指示してくる。開けないと言うための理由が思いつかない。加えて彼は、わたしの登校と下校のたびにいつもいた。学校にいるときはね、わたし逃げることができるから大丈夫。彼はわたしの親でもないのに。どうしてこんなに過保護なの? 彼は必ず、わたしが御飯を食べたかとか、昨夜はぐっすり眠れたかそうでないかとか尋ねてくる。それが善意だと分かっているけど、これはね、むしろわたしを怒らせる。わたしはすぐさま彼を遮断しなければならない。恋愛をした経験を積んでいないとこうなのよ。そうだ、ところで彼は明日の夜にデートしようと誘ってくる。ああ!

 今日わたしはジャレッドと彼のアトリエで会うことになっている。異常だ! まだ若いのにもう自分でアトリエをもっている。どうしてね、わたしが知っている人はみんなお金持ちなの? わたしはずいぶん卑しいと思うようになったのではないか。

「君はどこへ行くつもりなんだ、グラディスト?」ちょうど車庫から自転車を出したところへ、親鳥さんが現れた。彼を親鳥さんとわたしが呼ぶのは、彼が非常に過保護で、その子供をわたしが卑しめるためなのだ。

「ちょっと散歩に」と、わたしは言った。どうしてわたしの恋人になった人が別個にわたしの隣人なの? 彼は町の外に住んだらどうかしら。わたしがどこへ行こうと、彼が知ることはできないだろう。

「それなら僕もついて行くよ」と、ロジャーが言った。むちゃくちゃ嫌だわ!

「必要ないわ。あとで忙しくなりそう」

「ならないよ」

「ついて来ないで。実はわたし、ティシャの家に行くの。そしてわたしたち、秘密の…問題をお喋りするの」嘘をついている最中だったら、このわたしはとっても馬鹿になることがある。

「君が秘密にしてることって何だ? 僕のことか?」ロジャーは疑念を抱いたようだ。

「違うわ。女の悩みよ。わたしたち女性クラブを作ったから、男性が参加してはいけないの」ははは…今度は上手くいったようだ。

「ああ、それなら構わないよ」と言ったロジャーはがっかりしたようだ。

 わたしはついにロジャーにバイバイをし、ジャレッドの家に行こうとした。

「おや、ティシャの家はこっちのほうじゃないのか、グラディスト?」

「わたし…短い散歩をしたいの」

「でも、そっちへ歩いて行くと、どんどん遠くなるよ」と、ロジャーが言った。

 どうして彼はこんなに注意深くしなきゃいけないのよ? わたしは微笑みながら向きを変えた。彼も満足した。でもこんな回り道をしていると、ジャレッドの家への道のりはとっても遠くなりそう。可哀相なわたし! いやん!

  *

 やっと着いた! やっと着いた! やっとわたしはジャレッドのアトリエに着いた。彼のアトリエはすごく広いというわけではないけど、そこで絵を描くには充分だ。わたしはさっさと入った。自分は礼儀を知らないのじゃないかという感じだ。ジャレッドが電話でわたしに言った。やって来たらそのまま入るようにと。彼が言いたかったのは、真剣に、ものすごく真剣に絵を描いているから、わたしのために扉を開けるつもりはないということだ。

「こんにちは」と、中でジャレッドを見たときにわたしは言った。

 彼は少しの間わたしを見つめ、それから返事してわたしに挨拶した。「こんにちは、ええと…グラティン」

「グラディストよ!」彼はわたしの名前を覚えようとしたことがない。きのうは電話でわたしはアルディストと呼ばれた。

「絵は後ろにあるよ。いちばん大きいやつだ。自分で見てくれ」と彼は言って、そのあとまた絵を描き続けた。彼は絵を描くことにおいてはものすごく真剣だ。どうしてなの? 絵描きはみんなこんなに真剣なの? ケニーは違うわ。つまり少々頭がおかしいのはジャレッドのほうなんだ。頭がおかしいアインシュタイン野郎め!

 わたしは自分で見回してみた。ジャレッドは気にせず、わたしがいないものと考えているみたいだ。それでわたしはアトリエの奥のほうに入ってみた。うわあ! すごくたくさんの絵がある! ここには本当に何十とある! 絵に蓋をしないための壁がない。まるで校長室のようだ。

 それで、どこなの? いちばん大きい絵? これは…違う…そこのは…違う…あれは…えっ、あれなの? 他のとは別にしてあっていちばん大きい絵だ。わたしははっきりとそれを見た。近くから、しばらくの間わたしは眺めた。わたしは心の底からそれだと認めたくはなかった。でも…、すごく素敵! 何故その絵はこんなに素晴らしくなきゃいけないのか? 何故? これはますます厄介になる!

 確かに間違いなく素敵だわ。大森林の中に湖がひとつある絵だ。主題はありふれているけど、色の使い方と技法が本当に素晴らしい。このような絵をわたしはまだ見たことがない。これほどすごい絵はもちろん展示されて当然だ。でもケニーと比べてどうだろう? わたしは選ばなければならない、友情かそれとも…。他にやり方がないかしら?

「見たわよ!」と、ジャレッドのいるところにまた戻った。彼はまだ絵を描いていたのだ。彼は休むことがないのかしら?

「それで?」と、彼は尋ねてきた。

 わたしは認めたくないけど、これこそ本当のことだ。新しいグラディストは公平な態度を取らなければならない。

「いいわ、確かにあなたの絵はとってもすごいわ」

「君がそう言うだろうと思っていたよ」

 とっても傲慢ね!

「でもあなた、永久に辞退したらどうかしら? 他の人に機会を与えるの。そうすれば、あなたの絵はもっとすごい国際的な展覧会で展示されることができるわ」

「あのニューヨークの展覧会は実に国際的な展覧会だ。それにもうひとつ、ブラッディ、おれの絵を見たら立ち去るって君は約束したぞ。問題なのは君がまだここにいることだ! 君はおれの集中の妨げになってるからね!」

「わたしの名前はグラディスト! どうしてね、わたしの名前を覚えるそんなに難しいの?」

「ごめん、おれが覚えるのは重要なことだけなんだ」

「あなたってすごく無神経ね! どうして他の人のことをそんなにも考えないの?」

「それに、おれにとって何の得がある? おれが展覧会でおれの場所をケニーに与えたときに、おれにとって何の得がある?」と、彼は尋ねた。

「ええと…あなたは新しい友達を手に入れて嬉しい気分になるわ!」と、わたしは返事した。

  *

 これは信じられない! ジャレッドはアトリエの外にわたしを追い出した! いや、本当に追い出したのじゃなく、追い払ったのだ。いやだわ! それで家に戻ったのよ。いま自分が行なわなければならないことは何か? 彼にメールを送るのはどうか。彼のメール受信箱を満杯にすれば、彼は激しく怒る。しかも彼をやめさせる方法が一つだけある。彼の辞退とともにね。このわたしは天才だ!

 あら、ハリーからのEメールがある。ガルリーン・ヒス宛てだ。何がしたいの?


「どうも、ガルリーン様。いかがお過ごしですか? 僕はこれから起こるだろうことすべてについて、心の底から謝ります。おそらくあなたはまだ何のことか分からないでしょうけど、あなたのプライバシーを台無しにすることになれば、僕は心の底から謝ります。それを行なうつもりなのは僕ではないからです。実は、あなたについての情報を探して新聞にそれを持ち込んだ人がいます。本当に僕はとても不愉快だと思う。だけど、僕が行なうのに可能なことはありません。もう一度ごめんなさい。ハリー」


 はあ、何が起こるの? 誰が…ああ、きっとファルゼンだ。彼が知ってしまったの? 彼が知ってしまったとしたらどうしよう? だけど、彼はわたしを告発したいのじゃないのか? そうだ、わたしはパニックかごく平静か、どちらでいるべきか? 問題なのは、先に駄目になってしまいそうなわたしの感性の神経だ。それで、今はどうしよう? とても退屈だ。彼と会うのはどうだろう。

  *

「それで今、わたしはもうどうするべきか分からないの。たぶんわたしは間違いなく新しいグラディストに変わったわ。パニックになりにくい冷えた頭をもつグラディストにね」わたしとケンは一緒に公園を散歩した。嬉しいわ!

「君は本当には気がついていないと僕は思うよ」と、ケンは言った。

「うーん? 何に気がつけって?」だけど、最近いっつも理解していないのはグラディストだ。

「僕にそれを言ったのはレオンだ。君の意見では、どうしてみんな、実はガルリーン・ヒスが誰なのか知りたがるんだ?」

「それは…そうね、ファルゼンの場合は、彼がわたしを告発したいから、それでわたしについて知ろうと一生懸命探したんだわ」

「だけど君からすると、これはとても奇妙じゃないのか」

「何で?」

「ファルゼンが君を告発したいのなら、君の出版代理人に直接告発するのが当然だ。ガルリーン・ヒスについていろいろなことを探す必要まではない。彼が君についていろいろな情報を探しているとすれば、彼にはきっと他の目的があるんだ」

「はあ? するとわたしについて知ろうと探してる他の人は何故?」

「君の友達のティシャの場合は、何故だか分からない。でも他の人の場合は、とてもはっきりしてる。みんなものすごく君の小説が好きなんだ!」

「何ですって?」わたしには全然思いつかなかった。ティシャがわたしを批判して以来、もう自分の本のことを考えなくなっていたような気がする。これがすべてなのに、わたしの本のことだからそうだったのかしら。

「あなたは、わたしの本が好きな人が多いって確信してるの? どこから知ったの?」と、わたしは尋ねた。わたしの知るかぎりでは、わたしの本が好きなのはジュリア一人だけだ。わたしが自分の本の売れ行きについてポールに尋ねることはめったにない。でも彼は、わたしの本がよく売れると言うことがある。わたしの本は間違いなく素晴らしいということか?

「これは…」ケンはカバンから新聞を取り出した。

 これは前にわたしが読んだ、ガルリーン・ヒスが高校生だと明らかにした新聞じゃないのか?


「あなたは『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』という本をもう読みましたか? それを書いた人がマディソン高校に在学する16歳の少女だということを知りませんか? ガルリーン・ヒスが偽名に過ぎないことはつい最近知られるようになりました。その作者氏の本名はまだ知られていませんが、…」


 実はその続きをわたしは読んでいなかった。


「そのように素晴らしい作品を書いた人が、実は遠く離れた町にいる少女だとは信じ難いことです」


 はあ? ということは…ということは…。

「みんなわたしが好きなんだ!」わたしはとても大きな叫び声をあげ、ケンを抱きしめた。すぐさま解きほどいたけど。「ごめんなさい! 今わたし…」

「何でもないよ。君は本当にとっても喜んでる」

「ああ、何てこと!」自分が狂人のように踊り回ったのが信じられない。でもわたしは本当にシアワセだ! シ・ア・ワ・セ!!! 何故だか分からないけど、とにかく嬉しい、嬉しい、嬉しい! これほど嬉しく感じたことはまだない。自分の悩みがすべてなくなったような気がした。作家になったらとわたしが切望していたことはこれか? 他の人からの評価だからよけいに嬉しく思う。得られた名声や裕福さゆえのものではない。たぶんわたしが本名を隠すのはそれゆえなのだ。今わたしは理解した! モノスゴク嬉シイ!!!!

 そのようにして家に帰り、すぐさまママとパパをわたしはハグした。

「えっ…さっきのあれは何のためだ?」と、パパは尋ねた。

「パパとママは世界で最も素晴らしい両親だということを思い起こすためよ」と、わたしは言った。しかも昔のグラディストになろうとわたしは決めたんだ。昔のグラディストとは本当のグラディストだ。わたしはもうそれを変えるつもりはない。

「いいわ。分かった! あなたきっと何かを頼みたいのね? それとも何かを解決したの?」と、ママは尋ねた。

「わたしは何も解決していないし、何も頼むつもりはないわ。わたしはただ二人がいつもわたしの世界の中にいるように願うだけよ。それだけ。グッバイ。わたし先に部屋に行くわね、世界で最も素晴らしいママとパパ!」そしてわたしは自分の部屋に走っていき、口をポカンと開けたママとパパをあとに残した。二人はまだ途方に暮れているとわたしは思う。

 部屋に着くとベッドに我が身を横たえた。気がつけば、どうしてわたしたちがベッドに我が身を横たえるか、もう一つ理由があった。つまりわたしたちがとても幸せなときだ。わたしは、何日か前になくしたものを見つけたように思った。

 翌日の朝、わたしはやはりまだ幸せな気分の中だった。ママはわたしが病気かどうかチェックし、ひょっとしてわたしが本当に病気だったらとパパは朝食を作った。二人はまだわたしが本当に何も求めていないことが信じられなかった。

「グラディスト? ここ最近起こったいろんなことで、おまえ狂ったか?」と、パパが尋ねた。

「もちろん狂ってないわ。わたしはとても幸せなだけよ」

「ずっと微笑んでるほどお前は幸せなのか?」

「そうよ」

「グラディスト!」と、ママが叫ぶのをわたしは聞いた。

「何か問題ある?」と、わたしは尋ねた。ママは「おまえは問題の只中にいる」と言いたげな表情をして台所に入ってきた。わたしはまた昔のグラディストになったのだから、自分が行なうべきことは何か、と途方に暮れて考える必要がない。ドウカシタノ?とわたしは言った。

「あなたはこれを見るべきだと思うわ」と、ママは言って今朝の新聞を渡してきた。どうしてわたしが問題の只中にいる気がするの? 第一面に、とても大きく「ガルリーン・ヒスの正体暴かれる。14面を見よ」と書いてある。何ですって? そして今回わたしは、このあと自分がどうなるに違いないか、心の底から確信した。パニックだ! ぎゃあああああああああああ!

 どうしてそんなことがあるの? うわああぁ… 何故わたしが自分の正体を秘密にするのかという理由を見つけたにもかかわらず。なのに何故いまになって暴かれたの? うわあああぁ!

 わたしのママは急いで14面を開けた。


「実はガルリーン・ヒスは…」


 うぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁ!!!!!!!!

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