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マイ・シークレット・アイデンティティ  作者: アルディナ・ハサンバスリ
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14 奇妙かつ途方に暮れさせる状況

 朝早く新聞を取るためドアをわたしが開けたときに現れたのが誰か当ててみてくれる? ロジャーよ! 彼は方向を変えてわたしと一緒に学校へ行くため、朝早くわたしを迎えに来たのだ。わたしはドアを開けたときまだパジャマを着ていたのに! まあ、わたしが学校に行くとすればいつもほとんど遅刻よ。わたしの場合は、朝早く来ても無駄ね。授業が始まる前にわたしが学校に着くことはないのよ。

 校門に着くと、そこにみんながいるのにわたしは気づいた。ティシャとスーザン、レオン、そしてダルシーとメイアンがそこにいた。わたしが知っているみんながそこにいた。そして今わたしがロジャーと一緒に来て彼が自分のそばにいるというのは、間違いなく奇妙な感じだった。

「あら、ティシャちゃん」とわたしは言った。ティシャはわたしに返事した。幸いにも彼女は昨日のわたしの態度について尋ねることはなく、わたしに対していつもと変わらぬ普通の態度でいた。昨日わたしはひどく妄想的だったようだ。そのためみんなわたしを避けていると思う。

「あら、グラちゃん」と、スーザンとティシャが同時に言った。彼女らはわたしのそばにいるロジャーを見た。「あら、あなたは誰?」と、ティシャが尋ねた。

「僕はロジャー、グラディストの新しい恋人だ。君は彼女の親友だね?」と、ロジャーが言った。

 どうしてわたしの恋人だなんて言ったりしなきゃいけないのよ? ティシャに知られたくないのに。みんなが知ったら、危険(・・)だわ!

「新しい恋人? でもレオンとはどうなの? あちゃ、喋っちゃった!」スーザンはその口を閉じた。

 ありがとう、スーザン。とても感謝するわ。ロジャーはわたしを横目で見たあとレオンのほうを見た。鋭い視線で彼を見つめた。

「グラディスト、あんた新しい恋人がいるの?」と、メイアンとダルシーが言った。

 ああ…みんな知っているのよ。少しの間にまた学校のみんなが知ることになるということだ。だけどわたしはレオンが好きじゃない。わたしが好きなのはケンだ! とにかくケンだ!ケンだ!ケンだ! わたしは今ものすごくケンに会いたい。

「新しい恋人ができたのは誰だって?」と、レオンが訊いた。

 どうして彼がここにもいなければならないの?

「僕とグラディストがつい最近恋人になったんだよ」と、ロジャーが言った。彼は自分の手をわたしの肩に回した。まったく死にたい気がするわ!

「それはおめでとうな! だけど、おれの兄貴、ケンとはどうなるんだ」と、お喋り君が言った。今は殺してやりたいという気もする。

「ケン? それじゃあ、二人もいるのか?」と、ロジャーが尋ねた。

 今すぐわたしを殺して。誰でもいいから!

「ちょっと、もうベルの音がする!」わたしはまっしぐらに走って学校に入った。それは、生涯でわたしが体験したことがあるうちで最も恥ずかしいことだった。最も恥ずかしい!

 がつん! どうしてね、わたしは走れば必ず誰かにぶつかるの? どうしてわたしは問題から早く逃げようとすれば他の問題にぶつかってしまうのか。わたしは一人の子にぶつかったのだ。しかもその子は副校長の子供だ。

「ごめんなさい」とわたしは言い、落っこちた数々の本を拾い上げる彼女を手伝った。

「大丈夫よ」と、彼女は言った。そのしゃべり方からすると、彼女はいい人のようだ。彼女は眼鏡をかけていて、上品そうだ。誰だったか名前は忘れた。そうだ、とどまって制服を見ればいいじゃないか! 名前はジュリア・ネッツー…彼女の背中に書かれてある名前を読み取るのはすごく難しい。とにかく名前はジュリアだ。

「ねえ、わたしの名前はグラディストよ」と、わたしは言った。

「わたしの名前はジュリア。あなたと知り合えて嬉しいわ」ジュリアの恰好は少々ダサかった。そういう普通の教育を受けた人の子じゃないかしら?

「それじゃあ、また会いましょうね」と、わたしは言った。わたしは礼儀をわきまえた表現としてそう言った。殊更ではない。だが知らないうちに、ジュリアは真剣にわたしのことを考えていた。

「本当なの? あなたはまたわたしと会いたいの? 一緒にお昼ご飯を食べるのはどうかしら? もっとよくあなたとお友達づきあいするようになりたいわ。あなたどのクラスにいるの?」ベルの音がした。「ああ、授業に入っちゃった。それじゃあ、ちょうどお昼ご飯に会いましょうね!」彼女はわたしに手を振った。彼女はとてもいい人! ティシャだってそれほどいい人じゃない。わたしは新しい友達ができることになるようだわ。ヤッタア! 今週中に初めてわたしは幸せになる気がする。

 まだ問題がある! もちろん大した問題ではないけどね。でも、わたしはどちらにするかを決めなければならない。昼食をティシャと食べるか、それともジュリアと食べるか。人気のあるテーブルでレオンと一緒に(これは選択肢ではないわね)。ロジャーと一緒に(本当は億劫だ。これは、最初の恋人をやっと手に入れるときをわたしが空想していたこととは違う)。ジュリアと一緒に? 彼女はものすごく上品でキュートに見える。彼女と友達になるのは素敵みたいだわ。でもわたしの友人は一人? それじゃあ…

 信じられない! こんなことが本当に起こるなんて信じられない! 結局わたしが誰と座ったか当ててみる? わたしの脇にちゃんといたのはジュリアだ。でも、わたしの片側にはまだティシャがいた。ティシャの片側にはスーザンがいた。わたしの前に座っていたのはロジャーだ! ロジャーの脇にはレオンがいた。レオンの脇にはメイアンがいたのだ。そしてメイアンの脇にはダルシーがいた。次いでメイアンの人気ある仲間たちが加わり、わたしたちと一緒に一つのテーブルに座った。わたしはそのど真ん中にいた!

「それじゃあグラディスト、あなた自身のことを話して!」と、ジュリアが尋ねた。わたしはとっても話したいけど、わたしが話せば、ミンナガソレヲ聞クコトニナルノヨ!!!!

「そうだ、僕もグラディストから話を聞きたいよ」と、ロジャーが言った。

「『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』の本について話したらどうかな。いい話ができるとおれは思うよ」と、チーズネズミ君が言った。いいわよ、レオンにぴったりの名前を決めたわ。大口カエルね。

「そうなのグラちゃん、あなた『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』の本を読んだの?」

「まだ読んでないわ」と、わたしは言った。

「その本を読まないでね、グラちゃん。あなたには合わないわ」と、スーザンが言った。

「読まないでも、グラディストはその話が粗悪なことをもう知ってるんだ」と、大きい口をしたカエルが言った。

「どうやって分かるの? 本当にグラディストは本のカバーを見るだけで分かるの?」と、ダルシーが尋ねた。彼女はレオンを誘い込みたいようだ。

「ねえみんな、わたしは先にお手洗いに行きたい感じなの」と言ったわたしは、大急ぎでここから立ち去りたかった。本当に早く立ち去りたかった。

「わたしも一緒に。自分の眼鏡の位置を直したいから」と、ジュリアが言った。眼鏡の位置を直す? 奇妙なことを言うのね。

 結局このときは、心地よくてとってもわたしが馴染んでいる手洗いに到着した。ジュリアは気がつけば本当に彼女の眼鏡の位置を直していた。

「わたしの眼鏡はちゃんとなったかしら?」と、彼女は尋ねた。

「なったわ」と、わたしは言った。だけどわたしからすると、むしろさっきとの違いはない。

「あなた、どのくらいの近眼なの?」と、わたしは尋ねた。

「実はね、わたし近眼じゃないのよ」と、彼女は言った。

「それなら、どうしてあなたは眼鏡をかけるの?」

「それは…あなたがきっと、これがおかしいって考えるからよ。というのは、このわたしは賢い人のグループに入っていて、眼鏡をかけない学校の知的で几帳面な人の集団に属するからなの」

「だから何なの?」と、わたしは尋ねた。だけどこれはそれほど大したことではない。

「分からないけど、わたしにはたぶん自分に特有の問題があるのよ。自分の近くにいる人には誰でもわたしはついていくの。わたしはそういう人よ」

 うーん、自分に特有の問題? わたしの問題とほとんど同じだ。わたしの問題は、墓から起き上がった邪悪な人格氏の問題だとわたしは名づけている。

「人はみんな、変だとわたしのことを考えてる。実際にわたしの顔は、眼鏡をかけなかったら変なの」

「わたしは変だとは思わないわ。この世の人には、みんなそれぞれ変なところがあるものよ」と、わたしは言った。わたしは自分の言ったことが信じられなかった。わたしは、かつてレオン・コープに言われたことがあることを言ったのだ。状況は確かに間違いなく変わった。

「本当なの? あなたの変なところって言えば、何?」と、ジュリアは尋ねた。その反応も、レオンがわたしにその言葉を言ったときと同じだ。

「ええと、わたしの場合は…このわたしは人に動物の名前をつけて呼ぶのが好きなの。本当に失礼だけど、綽名(あだな)にするだけよ。それからわたしは、ほとんど普通の朝食を食べたことがないの。そしてわたしは、悪と他たくさんの二重人格をもっているの」

「本当なの? ありがとう、慰めてくれるわ。わたしにとって何と値打のある言葉を言ってくれたか、分からないでしょうね。あなたはわたしのことを変だと思わないって確信するわ」

「どうして? わたしが変だからなの?」

「違うわ。分からないけど。とにかくあなたにあるのは何か…ユニークなところよ。

「本当なの?」

「そうよ。わたしは『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』を読んだけど、あなたはその主人公にとってもよく似てるわ」

「本当なの?」わたしは本当に似ているの? 『ウェスト・カウボーイ・ストーリー』は父親を探す普通の女の子についての物語だ。その父親というのは、とても臆病だけど心根のいいカウボーイだ。だけど、その父親は彼女のことをまったく知らないから、彼女はその実の父親と新たに二人一組でカウボーイを探すコンテストに一緒に参加するのだ。反対に、彼女はまだ幼くて子供っぽい女の子だから…。話が間違いなく滑稽になるのよ。いったい何がわたし自身と同じなの?

「知らないでしょうけど、わたしは時々あなたがガルリーン・ヒスだったらって思うことがある。わたしは本当に彼女のヘビーなファンよ」

「本当なの? あなたはわたしの物語が好きなの? うわっ!」わたしが喋ってしまったなんて信じられない。信じられない! ジュリアはまばたきもせずにわたしを注視した。間違って喋ってしまった!

「それじゃあ、あなたがガルリーン・ヒス?」ジュリアは疑念を抱きながらわたしに近づく足を進めた。わたしは彼女が近づかないように後ずさりした。

「違う、そうじゃないわ。わたしが言ったのは、例えばわたしがガルリーン・ヒスだったらということよ」

「ああ、どうして? あなたはわたしに嘘を言うの?」

 ああ、わたしの後ろは壁だ。どこにも逃げることができない。ひょっとしてジュリアに知らせたら、彼女は何を言うだろうか? 何を? わたしは絶対に知る必要がある!

「それじゃあ、あなたが本当にガルリーン・ヒス?」と、また彼女は尋ねた。

 もう何も喋ることができなかった。わたしは追い詰められてしまった。

「これはつまり、どういうこと…」

 ジュリアは口を閉じ、眼はかっと見開いていた。このあとに何が起こるか、もうホントに分からなかった。

「ああああっ! 何てことなの! あなたがあの作者?」ジュリアはとても堅くわたしをハグした。わたしは息をすることができなかった。「あなたは、わたしの崇拝の的よ! あなたはわたしの最高の作家なの! それがわたし自身の友人だなんて信じられない…」

 素早く彼女の口をわたしは塞いだ。

「シーッ! これは秘密なの、いい?」

「ええ! いいわ、誰にも言わないって約束する。きゃあ、あなたとっても素敵!!! わたしはまだ信じられない!」

「わたしもよ」わたしの熱狂的なファンがジュリアだなんて、わたしは信じられない。でも少なくとも彼女は、レオンみたいに協定のしるしなどということは言わない。彼女は口を開けまいと、わたしは思う。

「あなたはわたしの本にサインしなきゃ! いま取り出すわね。あとでまた学校の帰りに会いましょう! いいわね?」

「ええ、いいわ」と、わたしは言った。熱狂的なファンをもつのはそれほど悪いことではない。わたしを崇拝する人はいるのだが…

 ジュリアはわたしの手を握った。そして電光ほどにも素早く立ち去っていった。それは本当に奇妙だった!

 わたしが女子トイレから出ると、同時にレオンが男子トイレから出てくるのをわたしは見た。その上着はずぶ濡れだった。

「何が起こったの?」と、わたしは尋ねた。

「いつものことさ。おまえが行ったあとお喋りしてたんだ」

「何を喋ってたの?」と、わたしは尋ねた。わたしが彼と喋ると、必ず簡略化して言葉がきつくなる。

「いろいろね。最初はガルリーン・ヒスとその本について、それからおまえについて、そのあとロジャーがおれに、もうおまえに近づかないようにって言ったんだ」

「何ですって?」

「それでおれはロジャーに、誰がロバみたいなおまえの女に近づきたがるかって言ったんだ。するとあいつは水をおれにぶっかけてきた。ダルシーはトマトソースをあいつにぶっかけた。ついにカフェテリアで食べ物合戦が起こったんだ」

「わあ、それを見れなくて残念だわ」すごく残念だわ! えっ、待てよ…

「本当にわたしの顔はロバに似てるの?」

「違うよ、だけどおまえが綺麗だっておれが言ったら、ロジャーはきっとおれを懲らしめるよ」何ですって? レオンがこのわたしを綺麗だと言うの? わたしの顔はダイレクトに赤くなった。

「ああ、そう言うとお前は自惚れ屋だなあ。おれは譬えを言っただけだ」と、レオンは言った。

「わたしは自惚れ屋じゃない!」

「嘘をつけ」

「嘘じゃない!」

「嘘だよ」

「違うわ」

「おまえの顔はさっきよりも赤いぞ」

「あなたってむかつくわ!!!!!!!!」

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