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マイ・シークレット・アイデンティティ  作者: アルディナ・ハサンバスリ
13/17

13 繰り返す時間

 窓をたたく音でわたしは悪夢から目覚めた。わたしは感謝しなければならないの? しなくていい! そういう目覚め方をしたから、わたしはまだ頭痛がする。実際わたしが眠ろうと思ったのは、頭痛をなくすためだった。誰が眠っているヒョウを起こす勇気をもつかしら?

 信じられない! レオンの顔が窓の外にある。わたしはまだ夢を見ているの? 窓を開けると本当にレオンの頭が窓の外にあった! 彼の体もだ。

「ここであなたは何をしてるの?」と、わたしは尋ねた。見ると彼はわたしの部屋まで届く梯子に登っているのだった。「あなた玄関を見つけることができないの?」

「いや、おれはドアを通って入るのが好きじゃないだけだ。けど窓からのほうが大変みたいだ」とレオンは言い、先にわたしの許しを求めることなく窓をのぼって入ってきた。

 礼儀のない奴!

「それにあなたはここで何をしてるの?」と、わたしは怒って言った。

「おい、そんなに怒るなよ。もちろんおまえの家に入るのは駄目だろ?」と、彼は尋ねた。馬鹿な問いだ。その答えは明らかに…

「駄目よ!」

「すごいケチだ。おまえの部屋も面白いな。可哀相なほど狭い。おれの部屋のほうが二倍も大きいぞ。いや、たぶん三倍だ」

 誰が構うものか。

「あなた何のためわたしの部屋に来たの? 好きになれないなら帰ってよ」と、わたしは言った。当然わたしは頭痛が増すところだが、その頭痛はなぜかむしろなくなったか?

「おれはここに大事な用事があるんだ。なあ、喉が渇いたね。飲み物を取ってくれよ!」

「欲しがらないで! あっちへ行って!」

「行かないぞ、おまえが先に飲み物を取ってくれるまでは」

 まったく雇用主のようなことを言ってくるけど、彼はわたしの雇用主じゃない! わたしが必要とするときの無二のわたし自身はどこだ? だけどやっては駄目よ。もしコントロールされないほうのわたし自身が現れていたら、レオンを窓の外へわたしは押し出したことだろう。それを想像するのも面白いわね。

 結局わたしは飲料水を取ってあげた。

「水だけ? おまえは本当にそんなにも貧乏なのか?」と、レオンは言った。

 結局わたしはオレンジジュースを取ってあげた。

「この寒い季節に、なんでオレンジジュースなんだ?」

 結局わたしは熱いお茶を作ってあげた。

「お茶だと? 本当はおまえからすると、このおれはどこかの爺さんか?」

 わたしの忍耐はほとんど限界に達した。結局リンゴジュースをわたしは作ってあげた。ぞっとするようなわたしの顔つきをレオンは見たので、もう何もコメントしなかった。とはいえ、実はわたしの作るジュースは甘すぎるので、わたしはいつも飲み物をまた作らなければならないのだ。本当にすごい日だ。

「それで、ここに来た理由は?」と、最後にわたしは尋ねた。レオンがジュースを飲み干すまで、わたしはもう五分間待たなければならなかった。

「実はちょっと尋ねたいだけなんだ」と、彼は言った。

 むかつくわ! 彼はわたしのベッドで横になっている。あとでシーツを替えなければならないわ!

「何について?」

「ところでおまえ、食い物はないかな? おれ、腹が減ってるんだ」

 グゥゥゥゥゥ。もしわたしが犬だとすれば、いまわたしが出した声がそれだ。わたしが熊なら、グワァァァァーッだ。わたしが鶏なら…うーん…分からないわ。怒っている鶏の声なんてわたしは知らない。

 結局、わたしがチーズネズミ君にふたの切れのお菓子と果物類をまかなったあと、彼はその問いかけを表明した。彼がすぐさま立ち去ってくれるよう、すかさずわたしは答えたい!

「どうしておまえ、さっき学校にいたんだ?」

「話せば長くなるわよ」

「おれも時間にはまだ余裕がある。いつだって帰ることができるさ。泊まっても話を聞くだけは聞きたいぞ」

「泊まるなんて駄目!」

「だったら話してくれよ!」

「いいわ…いいわよ」困ったわ、レオンにわたしの超深い秘密を表明することになるなんて信じられない。「このわたしには二つの人格があるの。そう、人が言うように、二重人格なの」

「それだけ?」彼はわたしの答えに満足していないようだった。

 実際彼はどういう答えを期待しているのか? わたしはさっき頭のない悪意ある幽霊に乗り移られたので無分別に行動するようになってしまったとでも言えばいいのか?

「おれが梯子を登ってこんなに小さい部屋に仕方なくいるのは、そういう大したことでもないことをおまえが喋るのを聞くためだったのか?」

「あなたは何が聞きたいの? 本当にそれだけよ!」

「嘘でも構わない。とにかくすごい話をしてくれよ。おまえは作家だよね。おれはここで自分の時間を無駄にしたくないんだ」

 本当は、あなたがここに来るよう命令したのは誰なの?

「幼稚園のとき、わたしはよく妬まれた。とにかくすごく嫌で、もうホントに我慢できなかった。グラディストは一人だけでも現れた。グラディストは最低で、我が身だけを信じ、すごいと思ってた」

「今のグラディストとは逆か?」と、レオンは嘲笑した。

 わたしは鋭い視線で彼を見つめた。

「いいよ、いいよ。おれは黙ってる。続けてくれ!」

 むかつく奴!

「時間の心理学者が言うには、2番目のグラディストが形成されたのはわたし自身が孤独だったからよ。わたしを妬んだ人にすごく仕返ししたかったから形成されたの」

「実際にその人らは何をしたんだ?」と、チョコレートまみれの顔でレオンは尋ねた。このお菓子で彼が食べるのは四つめだ。不思議だわ、彼はまだ太ってもいない。

「その人らはわたしのズボンにトカゲを入れ、わたしの弁当箱にミミズを置き、わたしの靴を盗んだわ。とにかくわたしは憎かった! まだ幼稚園のときに誰かがそんなことをしてくるなんて、あなた信じられる?」

「確かに」と、笑ったあとにレオンは言った。

 この人は絶対に感情をもっていないわ。

「おれはよくそういうことを、むしろ幼稚園に入る前のとき兄貴にやったなあ」

 心ももっていないのね。

「わたしを助けようとする人がいなかったのは、自分も妬まれる心配があったから。そしてわたしの二番目の人格が現れたとき…わたしは何が起こったのか覚えていないの。とにかくわたしが覚えている最後のことは、良いほうのわたしの人格に戻ったとき、彼らいじめっ子仲間の番長氏が転校し、わたしが停学になったことよ」

「あはは…おまえが停学になった? 幼稚園のときに? すごい重症だな!」そして彼は続けざまに笑ったのだ。

「これは笑うようなことじゃないわ! わたしは間違いなく悩みをかかえ、それ以来わたしに友達はいないの。ティシャは小学校のときの新入生だったから、わたしについての噂は知らない。だから彼女は進んでわたしの友達になりたがった。中学校になるともうみんな忘れていたけど、わたしは付き合う気になれなかった。たぶん怖かったの。みんながわたしについて話すことって、だいたいどんなことかしら?」

「いろいろだよ。おまえ自身についての情報をおれが探してるときにね…」

「あなたがわたし自身についての情報を探してる?」

「そのことだったら、あとで説明するよ。とにかくおれが情報を探してると、実はおまえと友達になりたがってる人が多いんだ。おまえに首ったけの人さえ多いよ」

「本当なの?」わあ、ということは、わたしって有名なのね!

「まあ、そういうことだ。だけどみんなおまえと喋る勇気がないんだ。おまえは人柄が荒々しくてむかつくし、しかも変人だそうだ」

 いやん。変人だなんてみんなはわたしのことを考えてる。

「あなたも変人だってわたしのことを考えてるとしたら?」

「そうじゃない。おまえの変人には…まあとにかく、そういう変人だ。人にはみんなそれぞれ変なところがある。おれたちは人間だからね。本当はそうあるのが当然だ」

 わあ、実はこの人はやっぱり賢いのね。どこからこういう言葉を手に入れるのかしら? まあまあ慰めてくれるわ。

「そうだとしたら、あなたの変なところって何?」

「おれ? おれはね、変なところがない」

「でも、あなたの言うことは?」

「そうそう、99% の人には変なところがある。おれは残りの1パーセントの中に入るんだ」

 もう、こ奴め! 完璧なふりをしてる。でも、笑けてくるわね。このレオンは滑稽でもある。えっ、何をわたしは考えてるのか! レオンは滑稽でもある? 違う、騙されてはいけない。このレオンは悪いネズミよ!

「グラディスト、あなた中にいるの?」

「ちょっと待って!」と、わたしは言った。

「レオン、早く隠れて!」わたしの衣装クローゼットにレオンをわたしは押し込めようとした。

「なんでだよ?」と、彼は尋ねた。

「自室の窓を通って入ってくる男友達を受け容れるなんて、ママがますますわたしのことを変だと考えるからよ」

 いいわ、レオンはクローゼットの中に入った。食べ物や飲み物もわたしは隠した。ドアを開ける用意ができた。「ママ、何か用があるの?」と、いつもの見せかけの微笑でわたしは尋ねた。

「あなたにお客さんよ、グラちゃん」と、ママが言った。そのあと彼女の後ろにロジャーが立っているのをわたしは見た。

 ああ…このようなときに、二人の男の人が今わたしの部屋にいるなんて考えられない。

「あら」と、わたしは言った。

「やあ」と、ロジャーが言った。

 非常に良くない状況だ。レオンがクローゼットの中で笑っているとわたしは思った。だからその扉をわたしは開け、彼が黙るようその中に上着ハンガーを投げ込んだ。

「それで、あなたはここに来たのは…」

「おお、僕がここに来たのは君の様子を見たかっただけだ。君は僕を覚えていないか? 君の通りすがりの友達だ。いや、友達じゃないね、でも僕は忘れ去られる君の通りすがりの一部だ」

「ああ、そういう人ね」どこの人なの? もしわたしが本当に忘れたと言ったら、彼が可哀相ね。わたしは礼儀をわきまえた態度を取るように努めた。でも、彼はどこの人なの?

「僕は君が覚えてることを知ってる。そして僕は謝りたいんだ」

「謝る? 何のために?」どうして彼はわたしに謝りたいのかしら?

「幼稚園のとき、僕が君を妬み続けたからさ。僕はそのことを心の底から謝りたい」

 はあ? それじゃあ、わたしを妬んだ仲間の番長って、この人? でも、どうしてわたしは怒る気持ちにならないの? 幸いにも二番目のわたしの人格は、今は現れない。

「大丈夫よ。わたしはそのことをすべて完全に忘れてるわ」まだ覚えているわよ。でもロジャーはすごく罪があると感じているみたいだ。それに彼は人柄が昔とは違うように見える。むしろ良くなったみたいだ。

「そうだわ、わたしは話で聞いたりしただけよ。あなたはわたしが好きだそうね。そう、わたしは聞いただけなんだけど。でも、それが本当なら…あなたはわたしの恋人になりたいの?」

 はあ? わたしが叫び声をあげたりしないことは分かってるけど、わたしの眼は大きく見見開いていると思う。

「僕はただ…僕はとても君に惹かれてるんだ。君にはどこかユニークなところがある。それに君は美人だ」

「そうねえ…オーケーかしら?」何デスッテ? どうしてわたしは返事をするの?

「本当かい? ありがとう! 君にはいつも良い態度を取ることを約束するよ!」この人はすごく嬉しそうだ。駄目だなんて敢えて言えないわ。いやん。これはどういうこと???

「ああ、もうこんな時間だわ。ごめんなさい、わたし、パパを手伝う約束があるの。明日の朝、一緒に学校へ行きましょうか!」

「うん」わたしは彼が立ち去るのを見守った。何てことをわたしはしてしまったの?

「おまえは彼みたいな奴が好きなのか?」ああ、ネズミ君が檻から出てきた。

「違うわ! わたしはただ…駄目だって言えなかったの! じゃあ、どうすればいいの?」

「それはおまえ自身の問題だ。おれはもう帰るよ」レオンはまた窓に登り、梯子を下りていった。もう彼が戻ってきませんように!

 頭痛がひどい! レオンがお菓子を食べたあとの皿を洗うのは今のほうがいいわ。次回また彼が来たら、紙の皿をわたしは用意しよう。

 気がつけばママが食卓のところに座っていた。妙なことに、彼女はじっとわたしを見つめていた。

「ママ、どうしてじっとわたしを見つめるの?」と、わたしは尋ねた。

 そのあとママはじかにわたしをハグした。「ああ! わたしの姫に初めて恋人ができたのね! 本当に嬉しいわ!」

「どうしてママに分かるの?」

「外からあなたたちの会話に聞き耳を立ててたのよ」と言ったママは、まだ微笑んでいた。このママは時々子供っぽいことをする。わたしみたいだ。それであなたは、あなたにアタックしてきた人を選ぶの? それともクローゼットの中にいた男のほう?

「どうしてママはレオンのことを知ってるの?」

「あなたの部屋に入ったとき、彼の耳が見えたのよ」

 レオンの奴め。

「ママ、わたしには男のことを考えるよりもっと大切な問題がたくさんあるのよ!」

「ああそうね、あなたの本の件かしら? いいわ、認めてあげる! もう無理強いしては駄目ね!」

 無理強いしたのは誰よ? ほら、彼女は子供みたいなことをするのよね。

「ママはわたしにどんな秘密を隠してるの?」と、わたしは尋ねた。ママの秘密を知るのも大変ね。

「わたしも本を作ったことがあるのよ」

「何ですって? どうしてそのことをわたしは知らないのかしら?」

「それはね、そのときわたしの本は出版されなかったからよ。というのは、わたしよりまだもっと素晴らしい本があったの。その本を出した人が嫌だった。それはわたしが自分自身の娘に負けたときだったから、それであなたに知らせなかったの。でも傲慢にならないでね。あなたの才能はわたしの一部よ」ママの顔は赤かった。

「じゃあそのことで、ママはわたしの本名を本に書くことをわたしに許さないの? ママが妬んでるから?」

「子供じみたことを言わないで。もちろん違うわ。あのペンネームを使いたがったのはあなたよ、グラディスト」

「何ですって?」

「考えてみなさい。ペンネームを使うのと本名を使うのとを自分で選ぶとすれば、あなたはどちらを選ぶの?」

 わたしは返答できなかった。途方に暮れてしまった。

「ほらね、わたしは全部分かってるのよ! あはは…」

 賢いふりをしている! でも、名前を秘密にしたがるのはわたし自身の願望って本当なの? まさかね?

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